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44シルフィでは6

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 リビングでリリィが通達を受け取ったのは、朝食の後、リビングでお茶を飲んでいる時だった。母は近くでゆったりと、父は何やらイライラして、何をするわけでもなく、3人でこの部屋に居る。これはほとんどいつもの光景だ。

 そうして、適当な時間になったら、出かけたり散歩をしたりするのだ。この家族は、本当に何もしていないのだ。学院を卒業したリリィもこの時間に加わるようになってからは3人でダラダラする時間だ。

 リリィはセオドアの予想通り泣くわけもなく、ヒステリックに叫んだ。
 「何でよ!昨日、話を通しておくって言ったじゃないの!」
 「どうしたの、リリィ?」
 「セオが婚約を無効にするって言ってきたの!」
 「そんな……!いったいどうして?」
 「わからないわ。私、行って聞いてくる!」

 「やめなさい!」
 リリィと母のやり取りに割って入ったアシュリー侯爵代理は部屋を出ようとしたリリィにこう言う。
 「王太子とリリィの婚約は無理だ。これで良かったんだ。諦めなさい。」
 「なっ……どうして!?」
 「どうしましたのあなた。」

 「金がないんだ。」
 「それは、割当金が入らなくなったとは聞きましたけど、それとリリィの婚約はどう関係しますの?」
 「婚費も出ないんだ。」
 「婚約をすれば出るのでしょう?」
 「違う。このままだといずれ撤廃される。」
 「このままって……。」
 「割当金はメラニア個人に支払われていた。そしてそのうちの大部分で国庫を満たしていたんだ。そこから婚費も支払われていた。つまり、メラニアが消えた今、国全体で金がないんだ。王太子妃になどなったら、婚費を受け取るどころか、こちらが払わなければならなくなる。持参金も大量に必要になる。リリィが生きている間ずっと品格を維持する金を出さなければならなくなる。」
 「婚姻したら王家の一員になるのですから、予算をつけてもらえるのではないのですか?」
 「金のある間はそうだったが、ないんだ。だから、妃の経費は実家が出すことになる。つまり私だ。私にそんな金はない。」
 
 「なんてこと……!」
 「メラニアひとりで、この国を支えていたと言うの……?」
 怒りなのか悔しさなのか、湧き起こる憎悪にワナワナと体を震わせるリリィを横目に、侯爵代理は
 「そうなるな。あいつは多分知っていたんだ。だから、譲渡を迫っても、遺産などないといつも……!」
 と、憎しみをあらわにした。
 「なんて陰険な子なの……!」
 母もまた、怒りを見せた。

 憎悪は瘴気を生み、瘴気は土地を汚す。
 土地の汚染は加速してゆく。

 「ともかく、枝だ。枝を集めて、足りなければ切ってでも数を揃えろと陛下は仰せだ。お前達も手伝え。」
 「そんなこと、使用人に任せたら良いではありませんか。」
 「間違って幹から切ってしまったらどうするんだ。監督はしなければならん。交代で監督するからお前達も覚えるんだ。」

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