聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。

彩柚月

文字の大きさ
上 下
42 / 52

39 シルフィでは5( 3 )

しおりを挟む

 「要件はなんだ。」
 王はセドリックの方を見ることなく、そう言った。なので、セオドアも挨拶を省いて
 「リリィとの婚約を進めてください。でないと王太子妃教育を始められません。」
 と言った。
 そうしてやっと王はセオドアだと分かったらしい。
 「ああ、セオドアか。婚約……婚約な……婚約か。」
 そこではじめて、王はセオドアを見た。それから、横に立っている補佐官に
 「セオドアの婚約解消の書類はどうした?ゴタゴタしていてまだ印を押していなかったのだはなかったか?あれに私が認可を出さなければ解消はされないのではないか?」
 「何を言うのですか!?」
 セオドアは王が何を言っているのかわからなかった。
 「うーん……どうでしょう。本人達の意思確認がされサインが済み、陛下自らが、婚約者の変更をすると発言してしまっています。今更認可の印を押さなかったからと言って、無効にはならないと思いますが。外交においては有効かもしれませんから言ってみますか?」
 「ダメか……。」
 と、項垂れる王を見て、セオドアは焦りを感じた。
 「今更、メラニアと再婚約なんて考えていませんよね?」
 「考えているが、それがどうした。」
 「何故ですか?わざわざ、やっと、あの辛気臭いメラニアと解消をしたのに。リリィは同じアシュリーだから構わないと仰ったではありませんか。」
 「お前は、何も事情を知らんのか?」
 セオドアは改めて父を見た。疲れて悲壮感すら漂っているような顔をしていた。こんな顔をしているのを見るのは生まれて初めてだ。いつも優しく自信に溢れた表情をしている父上しか知らない。
 「教えて、ください。」

 そして、メラニアの婚約解消により、全てが狂ったことを知った。

 「そんな、それじゃあ詐欺じゃないですか!それを知っていて黙っていたメラニアをすぐに捕まえて神聖国に話をつけさせるべきです!」
 「その為に神官が神聖国に事情を聞きに行っておる。」

 「だから力を譲らなかったのか。聖女とは名ばかりの悪女ですね。」
 「連れ戻るようにも言ったから、戻ってきたらすぐに囲って何処にも行かせないようにしなくてはならん。今は流行病なども広がり問題は山積みなのだ。婚約で金が戻るのなら安いものだろう。」
 
 「そうですね……そうなるとリリィは……。」
 「そっちを無効とする。」
 「力をリリィに継承させれば、メラニアを捨てても構いませんか?」
 「できるのならな。なにせあの娘は、厳重な牢から痕跡なく消えたのだぞ。我々の知らないことがあるのだ。」
 「そういえば、牢に入れたのでしたね。あれからどうしたのかと思っていましたが、消えた?」
 「なぜお前は何も知らないのだ!」
 激昂する王を前に、セオドアは驚いてしまう。怒鳴られるなど、これもまた初めてだからだ。

 硬直していると、補佐官が助け舟を出してくれた。
 「仕方のないことかもしれません。事態が動いてすぐに予算の再配分をして、人員配置の見直しをしましたから、王太子殿下に付いている人間は1人も居りませんので。情報を伝えるラインが切れたのでしょう。」
 「ああ、そうか。仕方ないのだな。」
 「はい。上からスライドをした分、最下層の平民は職に溢れて浮浪者が増えております。金の問題は早急に解決しなくてはなりません。」

 そう言ってから、補佐官はセオドアを見て、
 「だからリリィ様と婚約できないのものです。」
 
 「あ、ああ……わかった。」
 セオドアはそう答えるしかなかった。
 リリィに婚約できないと伝えなくてはいけないことは、メラニアに解消をすると伝えた時よりも何倍も気が重いと、セオドアは思った。

 「そうだ。もう、通達として、紙で伝えよう。」
 その通達文書も、誰も作ってくれないので、自分で書くしかない。
 「泣くだろうな。見なくて済んで良かったと思おう。」

 その日のうちに、通達書を書いて、送るよう手配した。そして、リリィを王宮に入れないよう、周知させた。

 管理部には
 「確かにこれはここの管轄ですが、余計な仕事を増やさないでくださいという意味が通じませんでしたか?」
 と嫌味を言われた。これも全てメラニアが我儘を言って消えたせいだ。
 「あの女、戻ってきたらムチで打ってやる。」
 憎しみが沸々と湧いてきた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

隠密スキルでコレクター道まっしぐら

たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。 その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。 しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。 奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。 これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

騎士団長のお抱え薬師

衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。 聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。 後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。 なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。 そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。 場所は隣国。 しかもハノンの隣。 迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。 大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。 イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく
ファンタジー
 私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。  目覚めると 「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。 ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!     しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?  頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?   これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。 ♪♪   注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。 ♪♪ 小説初投稿です。 この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。 至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。 完結目指して頑張って参ります

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

処理中です...