聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。

彩柚月

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39 シルフィでは5( 3 )

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 「要件はなんだ。」
 王はセドリックの方を見ることなく、そう言った。なので、セオドアも挨拶を省いて
 「リリィとの婚約を進めてください。でないと王太子妃教育を始められません。」
 と言った。
 そうしてやっと王はセオドアだと分かったらしい。
 「ああ、セオドアか。婚約……婚約な……婚約か。」
 そこではじめて、王はセオドアを見た。それから、横に立っている補佐官に
 「セオドアの婚約解消の書類はどうした?ゴタゴタしていてまだ印を押していなかったのだはなかったか?あれに私が認可を出さなければ解消はされないのではないか?」
 「何を言うのですか!?」
 セオドアは王が何を言っているのかわからなかった。
 「うーん……どうでしょう。本人達の意思確認がされサインが済み、陛下自らが、婚約者の変更をすると発言してしまっています。今更認可の印を押さなかったからと言って、無効にはならないと思いますが。外交においては有効かもしれませんから言ってみますか?」
 「ダメか……。」
 と、項垂れる王を見て、セオドアは焦りを感じた。
 「今更、メラニアと再婚約なんて考えていませんよね?」
 「考えているが、それがどうした。」
 「何故ですか?わざわざ、やっと、あの辛気臭いメラニアと解消をしたのに。リリィは同じアシュリーだから構わないと仰ったではありませんか。」
 「お前は、何も事情を知らんのか?」
 セオドアは改めて父を見た。疲れて悲壮感すら漂っているような顔をしていた。こんな顔をしているのを見るのは生まれて初めてだ。いつも優しく自信に溢れた表情をしている父上しか知らない。
 「教えて、ください。」

 そして、メラニアの婚約解消により、全てが狂ったことを知った。

 「そんな、それじゃあ詐欺じゃないですか!それを知っていて黙っていたメラニアをすぐに捕まえて神聖国に話をつけさせるべきです!」
 「その為に神官が神聖国に事情を聞きに行っておる。」

 「だから力を譲らなかったのか。聖女とは名ばかりの悪女ですね。」
 「連れ戻るようにも言ったから、戻ってきたらすぐに囲って何処にも行かせないようにしなくてはならん。今は流行病なども広がり問題は山積みなのだ。婚約で金が戻るのなら安いものだろう。」
 
 「そうですね……そうなるとリリィは……。」
 「そっちを無効とする。」
 「力をリリィに継承させれば、メラニアを捨てても構いませんか?」
 「できるのならな。なにせあの娘は、厳重な牢から痕跡なく消えたのだぞ。我々の知らないことがあるのだ。」
 「そういえば、牢に入れたのでしたね。あれからどうしたのかと思っていましたが、消えた?」
 「なぜお前は何も知らないのだ!」
 激昂する王を前に、セオドアは驚いてしまう。怒鳴られるなど、これもまた初めてだからだ。

 硬直していると、補佐官が助け舟を出してくれた。
 「仕方のないことかもしれません。事態が動いてすぐに予算の再配分をして、人員配置の見直しをしましたから、王太子殿下に付いている人間は1人も居りませんので。情報を伝えるラインが切れたのでしょう。」
 「ああ、そうか。仕方ないのだな。」
 「はい。上からスライドをした分、最下層の平民は職に溢れて浮浪者が増えております。金の問題は早急に解決しなくてはなりません。」

 そう言ってから、補佐官はセオドアを見て、
 「だからリリィ様と婚約できないのものです。」
 
 「あ、ああ……わかった。」
 セオドアはそう答えるしかなかった。
 リリィに婚約できないと伝えなくてはいけないことは、メラニアに解消をすると伝えた時よりも何倍も気が重いと、セオドアは思った。

 「そうだ。もう、通達として、紙で伝えよう。」
 その通達文書も、誰も作ってくれないので、自分で書くしかない。
 「泣くだろうな。見なくて済んで良かったと思おう。」

 その日のうちに、通達書を書いて、送るよう手配した。そして、リリィを王宮に入れないよう、周知させた。

 管理部には
 「確かにこれはここの管轄ですが、余計な仕事を増やさないでくださいという意味が通じませんでしたか?」
 と嫌味を言われた。これも全てメラニアが我儘を言って消えたせいだ。
 「あの女、戻ってきたらムチで打ってやる。」
 憎しみが沸々と湧いてきた。

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