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「トマス神官は、聖人のことを学ばなかったのかね?再度聞くが、聖人に秘密を聞いてはならんと知らなかったのかね?」
「もちろん知っています。聞いてはいけない、妨げてはいけない、です。しかし、それには理由を知る必要があります。そうでなければ守れません。聖人である間は話せないのなら、譲ってしまえば話すこともできるでしょう?どういう風にどんな条件で譲渡が成るのかも知らなければなりません。私は神官として国内の聖人を守らねばなりません。力が大切なのであって、器は力を守る者というこでしょう。学んだからこそ、これが最善だと思うのです。」
今、おそらく、ここに居る3人共、トマス神官のことを不思議な生き物を見ている気分になっていると思う。何だろう。一見正論に聞こえるのだ。確かにそうかも……と思ってしまった。
「……それは、トマス神官が国のために聖人のことをより深く理解したいと言っているようにも聞こえるが、」
「その通りです。」
「……聞こえるが、単に知りたいだけではないのかね?」
「それはもちろん、私個人としても興味のあるところですから。」
「力が失われても良いと言ったのかね?」
「それは……。私は、力の継承について推論がありまして、例え一時的に聖女がいなくなっても、またその血筋から生まれるのではないかと思っておりましたので……。」
「だから、それを試そうと?」
「はい。……いえ、はい。」
「それを強欲と言わんかね?その君の我儘で聖女を不幸にしても良いと?それが神官として正しいことかね?」
「強欲ではありません。聖女を王家に嫁がせるよう提案したのは私です。聖女に支払われる割り当て金、これは無駄と言わざるを得ません。王太子妃になれば、予算が纏められ、金が浮きます。それだけの金があれば、どれほどの孤児が助かるとお思いですか?」
「ならば、聖女がいなくなって良かったのではないのかね?」
「それは……聖女に対して神聖国から金が支払われているとは知らなかったので……。でも。聖女が王家に入れば、その金はすべて国庫に入るでしょう。メラニアが婚約者でなくなった事は残念ですが、新しい王太子妃に聖女の力を移せば同じ事でしょう。献身の心を持って、力を王家に捧げるべきです。」
「くそくらえだな。」
ふいに、ベルが言葉を発した。
悦に入って演説をしていたらしいトマス神官は、この言葉で我に返ったようだった。
「何だと?」
「国なのため人のためにやりましたって言ってるけどさ。その人の中に聖女様は入らないの?この子まだ15歳の子供だよ?ひとりを犠牲にして全体が平和であればそれで良いの?そもそも聖人がひとり消えたら人間の住める場所がその分減るって言われんのに、なんでそんなリスキーなことできんの?」
「それは、だから、譲渡すれば……って、従者ごときが口を挟むな!」
「従者じゃないけど、まあ良いよ。譲渡で力が消えたら、どう責任取るの?」
「だから、そうならないように、説明を求めているんだ。」
「話せば失われてしまう力だと習わなかったか?」
再びおじいちゃんが言う。
「トマス神官に、それなりの信念があって行動をした事はわかった。だが、根本的に聖人の理解を間違えておる。気持ちがあるならもう一度習ってから帰るが良い。そんなことより、何も話が進んでおらん。結局、汝は何をしにここへ来たのじゃ?」
そうだった。実は何も聞けていない。たくさん話したから何だかわからなくなっていた。
「もちろん、聖女の所在確認です。」
「ではもう目的は達成したの。面会は終わりじゃ。」
「待ってください。まだ帰国の返事を聞いていません。」
「帰りません。」
メラニアはやっと発言できた。あんなに予習したのに、ここに座っているだけになっていて、面会の意味がわからなくなりそうになっていたところだった。
「バカなことを言うな。一刻も早く帰国するんだ。すぐに準備しなさい。」
「だから、帰りません。トマス神官が恐ろしいです。王家の方々も恐ろしいし、アシュリーに居座っている伯父一家も恐ろしいわ。だから帰りません。」
「王家に不敬だろう。アシュリーも新しい王太子の婚約者とその家族だ。それに君の家族でもあるだろう?」
「だから伯父様が私を殺そうとしたんです。」
「何か誤解があるんだ。良いから帰るんだ。宮内庁も君の行方を探している。」
「まあ、問い合わせたからの。どうせ金の心配じゃろう?」
おじいちゃんはちょいちょい突っ込みを入れてトマス神官の言葉を切ったり訂正したりする。
「その通りですが、一体どういうことなのです。聖女が家出したくらいで国への支援を止めるなど。」
「国に支援をしたことなど一度もない。聖人に渡るべき金を国が搾取していただけじゃ。」
「え?」
「初代アシュリーとの盟約でな。本来は聖人に直接渡るべき金をシルフィ国経由で支払っていただけだ。それを搾取していたと、明言するのかね?」
「……それは。私の知ることのできる範疇ではありません。」
「では、この話も終わりじゃな。聖女はここに居る。帰らないと言っている。金の話はそもそも神官には関係ない。面会の用件は全て済んだ。これで終了とする。後、聖女からは何か言うことはあるかね?」
「はい。私を殺して聖女の力を奪おうとする国には絶対に戻りません。私は元々神聖国の人間だと知ったので、シルフィの国籍はもう要りません。爵位も好きにしてください。」
「……聖人のことをもう一度学んでから帰ります。」
「うむ。それではの、トマス神官。さて、ベルは聖女を部屋に送ってくれるかの。」
「はい。」
おじいちゃんに言われたベルが私に手を差し出したので、素直にその手を取って部屋を出た。
部屋を出る瞬間に振り返って見たトマス神官は、俯いて手を固く握り込んでいた。
「もちろん知っています。聞いてはいけない、妨げてはいけない、です。しかし、それには理由を知る必要があります。そうでなければ守れません。聖人である間は話せないのなら、譲ってしまえば話すこともできるでしょう?どういう風にどんな条件で譲渡が成るのかも知らなければなりません。私は神官として国内の聖人を守らねばなりません。力が大切なのであって、器は力を守る者というこでしょう。学んだからこそ、これが最善だと思うのです。」
今、おそらく、ここに居る3人共、トマス神官のことを不思議な生き物を見ている気分になっていると思う。何だろう。一見正論に聞こえるのだ。確かにそうかも……と思ってしまった。
「……それは、トマス神官が国のために聖人のことをより深く理解したいと言っているようにも聞こえるが、」
「その通りです。」
「……聞こえるが、単に知りたいだけではないのかね?」
「それはもちろん、私個人としても興味のあるところですから。」
「力が失われても良いと言ったのかね?」
「それは……。私は、力の継承について推論がありまして、例え一時的に聖女がいなくなっても、またその血筋から生まれるのではないかと思っておりましたので……。」
「だから、それを試そうと?」
「はい。……いえ、はい。」
「それを強欲と言わんかね?その君の我儘で聖女を不幸にしても良いと?それが神官として正しいことかね?」
「強欲ではありません。聖女を王家に嫁がせるよう提案したのは私です。聖女に支払われる割り当て金、これは無駄と言わざるを得ません。王太子妃になれば、予算が纏められ、金が浮きます。それだけの金があれば、どれほどの孤児が助かるとお思いですか?」
「ならば、聖女がいなくなって良かったのではないのかね?」
「それは……聖女に対して神聖国から金が支払われているとは知らなかったので……。でも。聖女が王家に入れば、その金はすべて国庫に入るでしょう。メラニアが婚約者でなくなった事は残念ですが、新しい王太子妃に聖女の力を移せば同じ事でしょう。献身の心を持って、力を王家に捧げるべきです。」
「くそくらえだな。」
ふいに、ベルが言葉を発した。
悦に入って演説をしていたらしいトマス神官は、この言葉で我に返ったようだった。
「何だと?」
「国なのため人のためにやりましたって言ってるけどさ。その人の中に聖女様は入らないの?この子まだ15歳の子供だよ?ひとりを犠牲にして全体が平和であればそれで良いの?そもそも聖人がひとり消えたら人間の住める場所がその分減るって言われんのに、なんでそんなリスキーなことできんの?」
「それは、だから、譲渡すれば……って、従者ごときが口を挟むな!」
「従者じゃないけど、まあ良いよ。譲渡で力が消えたら、どう責任取るの?」
「だから、そうならないように、説明を求めているんだ。」
「話せば失われてしまう力だと習わなかったか?」
再びおじいちゃんが言う。
「トマス神官に、それなりの信念があって行動をした事はわかった。だが、根本的に聖人の理解を間違えておる。気持ちがあるならもう一度習ってから帰るが良い。そんなことより、何も話が進んでおらん。結局、汝は何をしにここへ来たのじゃ?」
そうだった。実は何も聞けていない。たくさん話したから何だかわからなくなっていた。
「もちろん、聖女の所在確認です。」
「ではもう目的は達成したの。面会は終わりじゃ。」
「待ってください。まだ帰国の返事を聞いていません。」
「帰りません。」
メラニアはやっと発言できた。あんなに予習したのに、ここに座っているだけになっていて、面会の意味がわからなくなりそうになっていたところだった。
「バカなことを言うな。一刻も早く帰国するんだ。すぐに準備しなさい。」
「だから、帰りません。トマス神官が恐ろしいです。王家の方々も恐ろしいし、アシュリーに居座っている伯父一家も恐ろしいわ。だから帰りません。」
「王家に不敬だろう。アシュリーも新しい王太子の婚約者とその家族だ。それに君の家族でもあるだろう?」
「だから伯父様が私を殺そうとしたんです。」
「何か誤解があるんだ。良いから帰るんだ。宮内庁も君の行方を探している。」
「まあ、問い合わせたからの。どうせ金の心配じゃろう?」
おじいちゃんはちょいちょい突っ込みを入れてトマス神官の言葉を切ったり訂正したりする。
「その通りですが、一体どういうことなのです。聖女が家出したくらいで国への支援を止めるなど。」
「国に支援をしたことなど一度もない。聖人に渡るべき金を国が搾取していただけじゃ。」
「え?」
「初代アシュリーとの盟約でな。本来は聖人に直接渡るべき金をシルフィ国経由で支払っていただけだ。それを搾取していたと、明言するのかね?」
「……それは。私の知ることのできる範疇ではありません。」
「では、この話も終わりじゃな。聖女はここに居る。帰らないと言っている。金の話はそもそも神官には関係ない。面会の用件は全て済んだ。これで終了とする。後、聖女からは何か言うことはあるかね?」
「はい。私を殺して聖女の力を奪おうとする国には絶対に戻りません。私は元々神聖国の人間だと知ったので、シルフィの国籍はもう要りません。爵位も好きにしてください。」
「……聖人のことをもう一度学んでから帰ります。」
「うむ。それではの、トマス神官。さて、ベルは聖女を部屋に送ってくれるかの。」
「はい。」
おじいちゃんに言われたベルが私に手を差し出したので、素直にその手を取って部屋を出た。
部屋を出る瞬間に振り返って見たトマス神官は、俯いて手を固く握り込んでいた。
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