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25 シルフィの神官
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神聖国は、国というだけあって、非常に広い。何重もの壁が国の中心に向かって設置されており、おおまかに、外側から労働区、生活区、そして神聖区となっていて、外側の労働区にはトネリコの木も群生している。
労働とはいうものの、農作物などは育てておらず、もっぱら、トネリコの木から取れる繊維で紙や布を作っている。この紙は申請な契約に使われ、布は丈夫で軽やか、広く普及しているが、いかんせん、その製法を含め、ここでしか作ることができないので、そこそこの高級品である。
この労働区ですら、外の人間はなかなか入ることが許されない。大抵は外周の待機場で長く待つことになる。
神聖国に着いたトマス神官は、入国の申請を出して待機していた。神聖国認可の証を見せればすぐに中心まで入れるはずなのに、何故かいくつ目かの門で止められた。そして、外周にある待機場で待たされている。何故これほどまで待たされるのか。ここの信徒である証拠を出し、師の名前やバッジを見せても、入れてもらえない。
メラニアの所在の確認をしたいのだと改めて申請を出したが、受付の人間は、怪訝な顔をした後、冷たく「好きなだけお待ちください。待てないなら帰っても構いません。」と言う。
ここまで来て帰れるか!メラニアを連れて帰らなければならないのだ!
数日待った後、呼び出しがあり、やっと入れるのかと思ったら、上級者神官がやってきており、応接室で話があると言う。
「聖女メラニアの所在を確認したいとのことだが、確認してどうするのです?」
「行方不明なので、捜索しています。こちらに居るのですか?」
「連れ帰るつもりではないのなら確認しますが。」
「はい?いえ、はい。見つけたら、もちろん連れ帰るつもりです。」
「……そうですか。では、ここには居りません。お帰りください。」
「は……え?」
「聖女の意思を妨げてはならないと学びませんでしたか?聖女が帰ることを望むなら帰るでしょう。」
「いや、それはそうだが、誤解があったんだ。戻ってもらわねば国が困るんだ。」
「誤解を与えた方に問題があるのでは?というか、そんなこともどうでも良いのです。聖女の意思が最優先ですから。まあ、一応、あなたが聖女の所在を確認したいということと、話しをしたいと言っていることは、報告として上げておきますよ。」
「それでは間に合わない。会わせてくれ!」
「聖女がここに居て、その報告を聞いて、会っても良いと思うなら会えるでしょうね。ではまた。」
「待ってくれ!離せ!」
出て行く上級神官を追いかけようとするトマス神官は、警備の男たちに押さえつけられ、彼等が完全に居なくなった後で、部屋から待合所に戻された。
「なんだ?聖女とはそんなに大事なものだったのか?」
平和なシルフィでの聖女の扱いは軽いものだった。単なる象徴にすぎず、大した仕事もしていなかった。それなのに内外から崇められ、予算までついているアシュリー家という存在は、トマス神官の目には非常に異質に見えた。だから、その権威を集中させるために、王家との縁組みを提案したのだ。集中させれば国庫からの無駄な出費も減る。
「何も間違っていない。国の為に最善を選んだはずだ。」
どれほど正当性を訴えても、この神聖国では何も通じず、じりじりと待つしかなかった。
労働とはいうものの、農作物などは育てておらず、もっぱら、トネリコの木から取れる繊維で紙や布を作っている。この紙は申請な契約に使われ、布は丈夫で軽やか、広く普及しているが、いかんせん、その製法を含め、ここでしか作ることができないので、そこそこの高級品である。
この労働区ですら、外の人間はなかなか入ることが許されない。大抵は外周の待機場で長く待つことになる。
神聖国に着いたトマス神官は、入国の申請を出して待機していた。神聖国認可の証を見せればすぐに中心まで入れるはずなのに、何故かいくつ目かの門で止められた。そして、外周にある待機場で待たされている。何故これほどまで待たされるのか。ここの信徒である証拠を出し、師の名前やバッジを見せても、入れてもらえない。
メラニアの所在の確認をしたいのだと改めて申請を出したが、受付の人間は、怪訝な顔をした後、冷たく「好きなだけお待ちください。待てないなら帰っても構いません。」と言う。
ここまで来て帰れるか!メラニアを連れて帰らなければならないのだ!
数日待った後、呼び出しがあり、やっと入れるのかと思ったら、上級者神官がやってきており、応接室で話があると言う。
「聖女メラニアの所在を確認したいとのことだが、確認してどうするのです?」
「行方不明なので、捜索しています。こちらに居るのですか?」
「連れ帰るつもりではないのなら確認しますが。」
「はい?いえ、はい。見つけたら、もちろん連れ帰るつもりです。」
「……そうですか。では、ここには居りません。お帰りください。」
「は……え?」
「聖女の意思を妨げてはならないと学びませんでしたか?聖女が帰ることを望むなら帰るでしょう。」
「いや、それはそうだが、誤解があったんだ。戻ってもらわねば国が困るんだ。」
「誤解を与えた方に問題があるのでは?というか、そんなこともどうでも良いのです。聖女の意思が最優先ですから。まあ、一応、あなたが聖女の所在を確認したいということと、話しをしたいと言っていることは、報告として上げておきますよ。」
「それでは間に合わない。会わせてくれ!」
「聖女がここに居て、その報告を聞いて、会っても良いと思うなら会えるでしょうね。ではまた。」
「待ってくれ!離せ!」
出て行く上級神官を追いかけようとするトマス神官は、警備の男たちに押さえつけられ、彼等が完全に居なくなった後で、部屋から待合所に戻された。
「なんだ?聖女とはそんなに大事なものだったのか?」
平和なシルフィでの聖女の扱いは軽いものだった。単なる象徴にすぎず、大した仕事もしていなかった。それなのに内外から崇められ、予算までついているアシュリー家という存在は、トマス神官の目には非常に異質に見えた。だから、その権威を集中させるために、王家との縁組みを提案したのだ。集中させれば国庫からの無駄な出費も減る。
「何も間違っていない。国の為に最善を選んだはずだ。」
どれほど正当性を訴えても、この神聖国では何も通じず、じりじりと待つしかなかった。
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