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26 火の国イグニスのエイダン
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イグニスという国は、火の国と冠してはいるが、決して乾いているわけではない。気候的には暑くも寒くもなく、水も豊富にある。
それでも砂漠化は進み、人の病死率が他の国よりも圧倒的に多かった。
その理由は、国内に魔瘴の森があり、土地が汚されるからだ。大昔にはこの森には魔物がいたらしい。今の時代、もう確認されることはないが、遠い昔、確かに魔物という存在はあったようだ。
魔物の属性は火とされており、魔物がよく出没する国だから、火の国なのだ。
年に数回、貯水池の水を浄化してもらっているが、国民全てに綺麗な水を供給するには、到底足りなかった。国民の多くは汚れた水で命を繋ぎ、汚れた土で育った作物を食べる。病気にならないわけがないし、平均寿命も長いとは言えなかった。
エイダンはイグニスの第一王子だった。幼少の頃から帝王学を学び、民を助け導くことが自分の役目だとよく理解し、また、その務めを果たす為によく学んだ。自分の魔力を最大限に利用する為に、魔法の練習にも励み、歴代の王になる前の王子がそうしてきたように、代々国の悲願である、不純物を取り除く研究も引き継いだ。そのために神聖国へ来て、浄化の魔法に触れさせてもらっている。
自分の名前、エイダンとはかがり火の意味であり、自分がイグニスのかがり火になるのだと、強い使命感を持って生きてきた。
そんなエイダンにとって、居るだけで周囲を浄化するという聖人は、眩い希望のように見えていた。
アシュリーの聖人の家系が、シルフィにあるらしい。アシュリーの聖人はその昔、瘴気で苦しむ国を丸ごと救ったという。そして、半ば伝説と化している、居るだけで周囲を浄化する聖女が数代続けて生まれているのだと。
その聖女を呼びましょうと、何度も父上に訴えたが、それはしてはいけないと首を振る。あくまでも聖女の意思が優先されるのであって、その意思を誘導するようなことはしてはいけないのだと言う。何故だ。シルフィは穏やかで正常な国だ。強い聖性を持つ聖人は、イグニスにこそ必要だ。
自分が王になった時、そのアシュリーの聖女をイグニスに召喚する。聖女は慈悲深い人のはずだ。現状を伝えれば喜んで来るに違いない。聖女は、私の意思をよく理解して、国を助けてくれるだろう。人を助けることが聖女の務めなのだから、そうするべきだと、よく知っている高潔な人格の持ち主のはずだ。必要なら、私の妻にしても良い。私は後ろ盾となり、聖女の務めを果たせるように協力しよう。聖女はイグニスの民を助けることを喜びに思うはずだ。
本気でそう思っていた。
それなのに。
まさかここで聖女に会えるとは思っていなかった。彼女を助け、立場を確保して信頼を勝ち得たら、イグニスのことを話す。そうすれば是非、行かせて欲しいと聖女の方から頼んでくるはずだ。そう思っていたのに。
実際の聖女は、ただの浅はかな小娘だった。だから、彼女のすべきことを教えてあげたのに、言うに事欠いて、イグニスには絶対行かないと言い放った。なんて無責任な小娘なのだ。しかも自分の責任と向き合うことなく、走って逃げた。
逃げるなど。女にありがちな追いかけてきて欲しい的なあれか?追いかけて優しい言葉のひとつでもかければ満足するのか?
こんなのが聖女?
意思を尊重する意味はあるか?
そうは言っても、自分で望んで聖女についたのだ。面倒でも探すしかないだろう。
どうせその辺に居るはずだ。
しかし居なかった。何処を探しても居なかった。神聖国はそこそこ広い。1人で国中の全てを探すのは無理だ。
どこまで人に迷惑をかければ気が済むんだ。
仕方ないと報告する。
聖女メラニアが消えた。
この事実は、すぐに皆に周知された。
周知はされたが、特になにも騒ぎになることもなく、いつも通りの時間が過ぎた。このことに、エイダンは疑問を感じずには居られなかった。
仮にも聖女が居なくなったのに、皆平然としている。
良いのか?これで。
夕食の時間が終わる頃、大神官に呼び出されることになった。
それでも砂漠化は進み、人の病死率が他の国よりも圧倒的に多かった。
その理由は、国内に魔瘴の森があり、土地が汚されるからだ。大昔にはこの森には魔物がいたらしい。今の時代、もう確認されることはないが、遠い昔、確かに魔物という存在はあったようだ。
魔物の属性は火とされており、魔物がよく出没する国だから、火の国なのだ。
年に数回、貯水池の水を浄化してもらっているが、国民全てに綺麗な水を供給するには、到底足りなかった。国民の多くは汚れた水で命を繋ぎ、汚れた土で育った作物を食べる。病気にならないわけがないし、平均寿命も長いとは言えなかった。
エイダンはイグニスの第一王子だった。幼少の頃から帝王学を学び、民を助け導くことが自分の役目だとよく理解し、また、その務めを果たす為によく学んだ。自分の魔力を最大限に利用する為に、魔法の練習にも励み、歴代の王になる前の王子がそうしてきたように、代々国の悲願である、不純物を取り除く研究も引き継いだ。そのために神聖国へ来て、浄化の魔法に触れさせてもらっている。
自分の名前、エイダンとはかがり火の意味であり、自分がイグニスのかがり火になるのだと、強い使命感を持って生きてきた。
そんなエイダンにとって、居るだけで周囲を浄化するという聖人は、眩い希望のように見えていた。
アシュリーの聖人の家系が、シルフィにあるらしい。アシュリーの聖人はその昔、瘴気で苦しむ国を丸ごと救ったという。そして、半ば伝説と化している、居るだけで周囲を浄化する聖女が数代続けて生まれているのだと。
その聖女を呼びましょうと、何度も父上に訴えたが、それはしてはいけないと首を振る。あくまでも聖女の意思が優先されるのであって、その意思を誘導するようなことはしてはいけないのだと言う。何故だ。シルフィは穏やかで正常な国だ。強い聖性を持つ聖人は、イグニスにこそ必要だ。
自分が王になった時、そのアシュリーの聖女をイグニスに召喚する。聖女は慈悲深い人のはずだ。現状を伝えれば喜んで来るに違いない。聖女は、私の意思をよく理解して、国を助けてくれるだろう。人を助けることが聖女の務めなのだから、そうするべきだと、よく知っている高潔な人格の持ち主のはずだ。必要なら、私の妻にしても良い。私は後ろ盾となり、聖女の務めを果たせるように協力しよう。聖女はイグニスの民を助けることを喜びに思うはずだ。
本気でそう思っていた。
それなのに。
まさかここで聖女に会えるとは思っていなかった。彼女を助け、立場を確保して信頼を勝ち得たら、イグニスのことを話す。そうすれば是非、行かせて欲しいと聖女の方から頼んでくるはずだ。そう思っていたのに。
実際の聖女は、ただの浅はかな小娘だった。だから、彼女のすべきことを教えてあげたのに、言うに事欠いて、イグニスには絶対行かないと言い放った。なんて無責任な小娘なのだ。しかも自分の責任と向き合うことなく、走って逃げた。
逃げるなど。女にありがちな追いかけてきて欲しい的なあれか?追いかけて優しい言葉のひとつでもかければ満足するのか?
こんなのが聖女?
意思を尊重する意味はあるか?
そうは言っても、自分で望んで聖女についたのだ。面倒でも探すしかないだろう。
どうせその辺に居るはずだ。
しかし居なかった。何処を探しても居なかった。神聖国はそこそこ広い。1人で国中の全てを探すのは無理だ。
どこまで人に迷惑をかければ気が済むんだ。
仕方ないと報告する。
聖女メラニアが消えた。
この事実は、すぐに皆に周知された。
周知はされたが、特になにも騒ぎになることもなく、いつも通りの時間が過ぎた。このことに、エイダンは疑問を感じずには居られなかった。
仮にも聖女が居なくなったのに、皆平然としている。
良いのか?これで。
夕食の時間が終わる頃、大神官に呼び出されることになった。
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