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21 シルフィでは2

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 トマス神官はまだ神聖国に着いてもいないはずだが、それよりも先に通告書が届いた。

 ——アシュリーの聖人は神聖国で保護した。それに伴い、契約に基づき、聖人に関わる資金の支払いを本来の方法に戻すため、貴国への支払いは止めることとする。——

 つまり、金が止まった。
 止まったとわかった以上、国庫が尽きるのを待っているわけにはいかない。今まで通りの使い方をしていては、来月から直ちに破綻することになる。

 急遽、予算の見直しが行われた。宮内庁が計算提出してきた予算に合わせるため、削れるところは徹底的に削り、配置換えも行う。給料は半分以下になり、多くの不満が出たが、払えないのだから仕方がない。それでも予算内に収まらないので、自主退職を促した。

 食事やお茶などの飲食に関わるものから、普段使う文房具まで、全ての消耗品のレベルを下げても、まだまだ足りなかった。王族に支払われていた品格維持費など、生きるのに最低限の額にまで下げられた。

 王太子に侍従や側近を何人もつけていてる場合ではない。

 金の問題解決に管理部はてんやわんやだったが、宮内庁は、もう一つの事案にも懸念を抱いていた。

 シルフィでは、良い風が吹くので、瘴気は吹き飛び、病気などは流行らないと言われていた。

 良い風のおかげで、作物はよく実り、水は濁らず。人が住みやすい環境が整っている。
 
 だがそれは……全て、アシュリーの聖人が居てこそだ。数百年前に、突如、吹き始めたこの風は、地形的に吹き溜まりとなるシルフィを直撃する。風は、周囲から中心、つまり王城のある中央へ集積する。その際、良いものだけでなく、悪いものも、集めるのだ。

 数百年前の荒廃の原因、それは地震により各地で隆起した丘のせいで、瘴気の吹き溜まりになってしまったからだった。地形が変わったのだ。

 国中の地形を人の力で修正するなど、不可能だ。むしろ変化した地形を利用して生きるのが人だろう。

 聖人がいなくなってしまったら、また荒廃の時代が来るのではないか。

 備える為にもやはり金は必要だ。
 無駄遣いをしている場合ではない。

 宮内庁長官は、かつてアシュリーの初代をこの土地に引き留めた娘の生家だった。今となってはもう、系図は遠く離れてしまって付き合いもしていないが、聖人の存在価値は代々言い伝えられてきた。

 あれほど聖人の存在は大切だと言ってきたのに、王族教育にも組み込まれていたはずなのに、全く理解していなかった。

 
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