22 / 50
21 シルフィでは2
しおりを挟むトマス神官はまだ神聖国に着いてもいないはずだが、それよりも先に通告書が届いた。
——アシュリーの聖人は神聖国で保護した。それに伴い、契約に基づき、聖人に関わる資金の支払いを本来の方法に戻すため、貴国への支払いは止めることとする。——
つまり、金が止まった。
止まったとわかった以上、国庫が尽きるのを待っているわけにはいかない。今まで通りの使い方をしていては、来月から直ちに破綻することになる。
急遽、予算の見直しが行われた。宮内庁が計算提出してきた予算に合わせるため、削れるところは徹底的に削り、配置換えも行う。給料は半分以下になり、多くの不満が出たが、払えないのだから仕方がない。それでも予算内に収まらないので、自主退職を促した。
食事やお茶などの飲食に関わるものから、普段使う文房具まで、全ての消耗品のレベルを下げても、まだまだ足りなかった。王族に支払われていた品格維持費など、生きるのに最低限の額にまで下げられた。
王太子に侍従や側近を何人もつけていてる場合ではない。
金の問題解決に管理部はてんやわんやだったが、宮内庁は、もう一つの事案にも懸念を抱いていた。
シルフィでは、良い風が吹くので、瘴気は吹き飛び、病気などは流行らないと言われていた。
良い風のおかげで、作物はよく実り、水は濁らず。人が住みやすい環境が整っている。
だがそれは……全て、アシュリーの聖人が居てこそだ。数百年前に、突如、吹き始めたこの風は、地形的に吹き溜まりとなるシルフィを直撃する。風は、周囲から中心、つまり王城のある中央へ集積する。その際、良いものだけでなく、悪いものも、集めるのだ。
数百年前の荒廃の原因、それは地震により各地で隆起した丘のせいで、瘴気の吹き溜まりになってしまったからだった。地形が変わったのだ。
国中の地形を人の力で修正するなど、不可能だ。むしろ変化した地形を利用して生きるのが人だろう。
聖人がいなくなってしまったら、また荒廃の時代が来るのではないか。
備える為にもやはり金は必要だ。
無駄遣いをしている場合ではない。
宮内庁長官は、かつてアシュリーの初代をこの土地に引き留めた娘の生家だった。今となってはもう、系図は遠く離れてしまって付き合いもしていないが、聖人の存在価値は代々言い伝えられてきた。
あれほど聖人の存在は大切だと言ってきたのに、王族教育にも組み込まれていたはずなのに、全く理解していなかった。
28
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説
異世界召喚に巻き込まれたエステティシャンはスキル【手】と【種】でスローライフを満喫します
白雪の雫
ファンタジー
以前に投稿した話をベースにしたもので主人公の名前と年齢が変わっています。
エステティックで働いている霧沢 奈緒美(24)は、擦れ違った数人の女子高生と共に何の前触れもなく異世界に召喚された。
そんな奈緒美に付与されたスキルは【手】と【種】
異世界人と言えば全属性の魔法が使えるとか、どんな傷をも治せるといったスキルが付与されるのが当然なので「使えねぇスキル」と国のトップ達から判断された奈緒美は宮殿から追い出されてしまう。
だが、この【手】と【種】というスキル、使いようによっては非常にチートなものだった。
設定はガバガバ+矛盾がある+ご都合主義+深く考えたら負けである事だけは先に言っておきます。
婚約破棄され森に捨てられました。探さないで下さい。
拓海のり
ファンタジー
属性魔法が使えず、役に立たない『自然魔法』だとバカにされていたステラは、婚約者の王太子から婚約破棄された。そして身に覚えのない罪で断罪され、修道院に行く途中で襲われる。他サイトにも投稿しています。
噂の醜女とは私の事です〜蔑まれた令嬢は、その身に秘められた規格外の魔力で呪われた運命を打ち砕く〜
秘密 (秘翠ミツキ)
ファンタジー
*『ねぇ、姉さん。姉さんの心臓を僕に頂戴』
◆◆◆
*『お姉様って、本当に醜いわ』
幼い頃、妹を庇い代わりに呪いを受けたフィオナだがその妹にすら蔑まれて……。
◆◆◆
侯爵令嬢であるフィオナは、幼い頃妹を庇い魔女の呪いなるものをその身に受けた。美しかった顔は、その半分以上を覆う程のアザが出来て醜い顔に変わった。家族や周囲から醜女と呼ばれ、庇った妹にすら「お姉様って、本当に醜いわね」と嘲笑われ、母からはみっともないからと仮面をつける様に言われる。
こんな顔じゃ結婚は望めないと、フィオナは一人で生きれる様にひたすらに勉学に励む。白塗りで赤く塗られた唇が一際目立つ仮面を被り、白い目を向けられながらも学院に通う日々。
そんな中、ある青年と知り合い恋に落ちて婚約まで結ぶが……フィオナの素顔を見た彼は「ごめん、やっぱり無理だ……」そう言って婚約破棄をし去って行った。
それから社交界ではフィオナの素顔で話題は持ちきりになり、仮面の下を見たいが為だけに次から次へと婚約を申し込む者達が後を経たない。そして仮面の下を見た男達は直ぐに婚約破棄をし去って行く。それが今社交界での流行りであり、暇な貴族達の遊びだった……。
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが
天色茜
ファンタジー
普通の女子高校生、朝野明莉沙(あさのありさ)は、ある日突然異世界召喚され、勇者として戦ってくれといわれる。
だが、同じく異世界召喚された他の二人との差別的な扱いに怒りを覚える。その上冤罪にされ、魔物に襲われた際にも誰も手を差し伸べてくれず、崖から転落してしまう。
その後、自分の異常な体質に気づき...!?
使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。
とある中年男性の転生冒険記
うしのまるやき
ファンタジー
中年男性である郡元康(こおりもとやす)は、目が覚めたら見慣れない景色だったことに驚いていたところに、アマデウスと名乗る神が現れ、原因不明で死んでしまったと告げられたが、本人はあっさりと受け入れる。アマデウスの管理する世界はいわゆる定番のファンタジーあふれる世界だった。ひそかに持っていた厨二病の心をくすぐってしまい本人は転生に乗り気に。彼はその世界を楽しもうと期待に胸を膨らませていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる