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25シルフィでは3

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 王太子セオドアは、近頃の王宮内での生活が不便になってきたことに苛つきを隠せないでいた。

 まず、人が居ないのだ。侍従が消えた。あれは私の側近だったはずなのだが。事務方の人手が足りないとかで、移動となってしまった。その他の側近候補達も来なくなった。それぞれ適当な部署に振り分けられているらしい。

 朝起きた時に、顔を洗う湯を持ってくるのが遅い。身支度を手伝う使用人もなかなか来ない。お茶の味も落ちた気がする。

 何かを持って来させるためにベルを鳴らしても、すぐに来ないのだ。イライラして何度も何度も鳴らすが、半刻は待たされる。半刻だぞ?執務中のインクが切れて1時間も待たされては、仕事ができないではないか。

 掃除も行き届かない。誇りが目立つようになってきたのだ。なんだこれは。どうなっている。王宮内の使用人の入れ替えでもあったのか?

 「清掃をしておけと言っただろう!」
 その辺に居た使用人に怒鳴る。返ってくる返事は、もちろん、
 「すぐに致します。」
 だが、そのとはいつなのだ。前に命じたのは数日前だぞ。

 食事の質も落ちた。質だけではない。品数も随分減った。今までは食堂のテーブルに所狭しと置かれていた皿だが、今では隙間の方が多い。質素になったと言えば良いのか。

 リリィは相変わらず可愛いが、聖女を継承していないせいで、特に仕事はないらしい。しかし毎日来るのは、王太子妃教育を受けに来ているのだと思っていたので、
 「王太子妃教育はどうだ?辛くはないか?」
 「なぁに?それ。」

 ん?
 「メラニアの時にも派遣されていただろう。リリィは毎日ここに来ているから、派遣ではなく、教育を受けに通っているのだと思ったのだが。」
 「知らないわよ?そんなの。何も言われていないもの。」
 「確認する。王太子妃教育は受けなくてはならない。受けていない者とは婚姻できないからな。」
 「え、それは大変だわ。」

 管理部へ行って確認を求める。なんで私がこんな雑事をしなくてはならないのだ。侍従がいないせいで。くそ。その上、わざわざ足を運んだというのに、「ここではわかりかねます。」と言う。
 「わからないって何だ。ここでわからなければ何処でわかるというんだ。管理部の仕事だろう!」
 「それはその……何しろ急に人手がなくなってしまいましたので。しかし、王族の教育のことならば、王妃殿下の管轄ですのでそちらへ聞かれてはいかがでしょう。」
 
 「そうか。そうだったな。母上に聞くとしよう。」

 母上の宮殿へ行って取り次ぎを頼むと、王宮の王妃執務室に居るという。

 「母上が執務を?」
 「はい。執務の割り当てが増えたそうで、こちらには夜までお戻りになりません。」

 母上が執務?今までそんなことあったか?いつも、誰かが作った台本を覚えるだけだった母上が執務?疑問に思いながらも今度は執務室に向かう。

 「何なのこれ。どうしたら良いのかわからないわ!」
 「しかし、王妃様以外にはもう、出来る人が居ないのです。」
 「こんなの学んだのは随分前なのにできるわけないでしょう。そうだ、メラニアならできるんじゃないの?王太子妃教育を受けているでしょう?」
 「聖女様は、既に純王族から抹消されておりますので……」
 「じゃあ新しい子はどうしたのよ!」
 「その教育プログラムを組んでいたたがないと。」
 「組めば良いじゃないの。」
 「出来る人が王妃様しか居ないのです。」
 「いったい、今までどうしていたの!?」
 「人材が減りましたので。王室内の予算の配分やイベントの采配の権限は、元々王妃様のお手にあるものです。これからは代理はどの部署にも居りません。王妃様の仕事は王妃様にしていただかなくてはなりません。」
 
 ドア越しに聞こえるこの会話を聞いて、セオドアは焦燥感に駆られた。なんだ?何が起こっている?ともかく、リリィに早急に教育を施さないといけないことだけはわかった。

 部屋に入り、泣きそうな顔でヒステリーを起こしている母上に、
 「リリィの教育係を手配してください。」
 と言った。
 「手配?今までメラニアを教えていた人に引き続き教えて貰えば良いじゃない?」
 「その人はどこに居るんですか?」
 「知らないわ。」
 「母上の管轄なのでしょう?探してください。」
 「私は忙しいのよ!見てわからないの?それより婚約者を手伝いに寄越しなさい。」
 「その為にリリィを教育しなくてはいけないんでしょう?私も手伝ってもらうつもりですから、早急に教育してくださらないと。」
 「ああーもうーどうしたら良いの。こんなことになるのなら、メラニアを手離すんじゃなかったわ。」

 「どういうことですか?」
 「知らないわよ。とにかく、メラニアが居なくなったせいでお金がないんだそうよ!」

 なんだそれは。意味がわからない。
 
 だが、セオドアはまだ、本当の意味でそのことがわかっていなかった。

 
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