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しおりを挟むどうりで、嫌な人なはずだわ。私が知っているのは、伯父夫婦とその娘、それに婚約者の王太子と王家の人々だけだ。その中の誰も良い人と思える人は居ない。
最初は親切な人だと思ったのに。私を牢に入れた王家の人と同じ立ち位置の王子様だった。私に嫌味とお叱りしか与えない王太子と同じ。
「……イグニスという名前は覚えておくわ。」
「そうですか!良かった。いつ来てくださいますか?なるべく早い方が良いです。」
「行かない。」
「は?」
「その国だけは絶対に行かないために覚えおくの。」
「なんだと!?」
涙が出てきた。感情も沸騰した。なんなのだこの人は。私が聖女の仕事をすることが当然だとでも言うのだろうか。何も与えず、ただ搾取する、この人も伯父達と同じだ。
「なんで、そんなことを言われて行くと思うのよ!私は自分を守るためにここへ来たの。やっと逃げてきたのに、どうして嫌な思いをしに行かなきゃならないの?絶対に行かない!イグニスだけじゃなくて、何処にも行かない!」
「供出を止めるぞ!?お前の生活費が何処から出ていると、」
「知らないわよそんなこと!知っていたことなんて一度もないわ!私はもらったことないもの!勝手にすれば!?」
「お前のその態度で、この神聖国全ての神官が困っても良いのか!?」
「良いわ!私を見て拘束したような人達だもの。だいたい、良いと言われるまでここから出るなと言ったのはおじい……大神官だわ!出ていけっていうなら出て行くだけよ!そしてもう二度と戻らないわ!」
「大神官様がそう言ったのなら、せめて祈りぐらい捧げたらどうなんだ!?多くの人が苦しんでいるのに、助けようと思わないのか!お前に与えられた力を使えば皆が助かるんだぞ!?なのにお前は何もせず、その苦しんでる民から搾取するだけなのか!?それでも聖女か!?慈悲の心を持つのが聖女だろう!」
「搾取してるのはそっちでしょう!私からこれ以上何を奪うと言うの?何も残ってない。望んで聖女になったわけでもなければ、私を殺す者達を助ける義理なんてない!」
「なんてことを……!責任感というものがないのか!自分の務めを果たさず、ごろごろしているだけの、こんな女が聖女だとは。神は人選をお間違えになった!」
「ならそう申告すれば?降ろしてもらって結構よ!」
もう耐えられない。こんな人に何かをわかってもらおうとも思わない。私は走って部屋を出た。後ろから、「逃げるのか!」という声が追いかけてきたが、構わず走った。祈りの部屋へ。そして大樹の元へ行った。
「もう、ここから出ないわ。」
アシュリーの部屋に入って、簡易ベッドで横たわり、感情のままに泣いてから、気絶するように眠りについた。
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