聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。

彩柚月

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 「やりたいこと、かあ。」
 午後、昼食後の自由時間。ここへ来てから、午後はほとんど自由時間。好きなことをして良いとのことなので、メラニアはその時間のほとんどを読書に費やした。

 知識が足りないことを、ここへ来て初めて恥じることになり、今更ながらに勉強を試みているのだ。

 できていない勉強がしたい。それはには入らないのかしら?

 こういう時に、相談できる相手がいない。
 知っていた。けれど、そういう相手がいないことで困ったこともなければ、不満を持ったこともなかった。そういうことを考える必要を感じたことがなかったのかもしれない。ならば、今は余裕があるということか。

 「私って、友達が居ないんだわ。」
 「そうなんですか?」

 間髪入れずに返ってきた返事に顔をあげると、エイダンがティーセットを並べていた。

 「もうそんな時間かしら。今日は早くない?」
 「いいえ?少し遅れたくらいですよ。」
 
 この人は、何処かこうやって、いちいち嫌味なことを言わないと気が済まないのか。と思いながら、
 「そう。夢中になっていたから時間が早く過ぎたのね。」
 と、お茶の準備されたテーブルにつく。

 「それで、友達、居ないんですか?」
 「ダンには関係ない話だよ。」

 「引きこもって学校にも行っていないんじゃ、友人ができなくても当然ですね。少しは外に出て仕事をなさってはどうですか?」
 「できることを探しているのよ。」

 「毎日、本を読んでいるだけですよね?」
 「今はそれしかできないもの。」

 「それは怠け者と言うんですよ。」
 「ああそうなの。どうでも良いわ。」

 「そうですか。」
 「……。」

 今日は、エイダンの嫌味に付き合う気分じゃない。私は私のことを考えなくてはいけない。

 おじいちゃんは、ここに居たいなら居ていいと言ったけれど、本当は外にに出た方が良いと思っていることは知っている。

 でも、私にはまだ心の準備が足りていない。何も知らないことが不安でしょうがないのだ。学校に通わせないと言われた時は、そこまで不安にも思わなかった。ただ、そうか。と思っただけだった。今になってこんなに不安になるとは思わなかった。

 知識だけじゃない。人付き合いの方法も知らない。両親が生きていれば、同じ年頃の知り合いもできたのだろうが、伯父達はそんな機会を与えくれず、学校にも行っていないので、他の人を知らないのだ。

 これが普通なのだろうか。外の人は皆こんなに意地悪なのかと思ってしまうほど、ダンとの会話は厳しい。

 だから、今は知識が欲しい。いろんなことを教えてくれる先生が欲しい。それがやりたいことだと、明日、おじいちゃんに言おう。

 「何か、難しいことをお考えですか?」
 「お茶係を、エイダン様以外の人に代えてもらおうかと思って。」
 「何故ですか?」
 
 「意地悪だから。」
 「ものすごく親切にしてますけど。」

 「そっか。ごめんね。でも、もう明日から来なくて良いよ。」
 「なら、私のお願いを聞いてください。」
 「何故そうなるの?」
 「良いから。私の国へ来て、浄化をしてください。」
 「お国、何処なの?」
 「イグニスです。」
 「イグニス……って、何処?」

 「……あなたは。聖女として自覚が足りないのではありませんか?」
 「なんの話?」
 
 「だから、あなたは聖女でしょう。世界を浄化して人々を助けるのが義務であり務めであるはずです。なのに、周辺の国すら知らずにこの神聖国に引きこもり、その力を無駄にしている。時間を惜しんで務めに走り回るぺきなのに、毎日毎日、ボケっと本を読んで飲み食いするばかり。そんな聖女のために、周辺の国がいくら支払っているとお思いですか?皆が必死に働いて稼いだ金銭を巻き上げて、何もせずそれを享受するだけなんて、恥ずかしいと思わないのですか?」

 「……何故、エイダン様にそんなことを言われなくちゃいけないの?」
 「私がイグニスの王子だからです。あなたのために供出している金銭が、どれほど大切な物なのかを知っているからです。」

 「王子様なの!?」
 「そうですよ。遊んでばかりの令嬢とは違うのです。」
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