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 「心身ともに清らかであること。それを維持することはとても難しい。だから聖人は年々減ってゆく。当然、ここに辿り着ける者も減る。増えることを願っておるが、なかなか難しいことじゃ。これは、ユグドラシルから我々への試練でもあるな。」
 
 試練。最初の5人に連なる者たちの中で、少しでも多くの種に力を与えること。また、長く聖性を保てる人間を見出すこと。という認識で良いだろうか。

 「3代続いた種は、ここ数百年出ておらぬ。5代続いた種は数千年じゃ。少なくとも神聖国では確認しておらん。ラニアは、居るだけで、そこを中心として清浄な地を作る。だから、なるべく多くの土地を旅して、多くの土地を浄化するのが、ラニアの使命と言えよう。」

 「神聖国に居ては、いけないのですか?」
 「ここに居たければ居ても良い。何処に行っても良い。5人の役目は、を浄化することじゃから、ここに居ることがラニアの意思なら、それで良い。時が来たらというのは、ラニアが行きたい場所ができたら、ということじゃよ。」

 「行きたい場所できたら……。」
 「できなければ、それも良い。世界を清めるのが我等の役目ではあるから、外に出なくてはその力に意味はないが、清める意味がないと思うならそれもラニアの意思だからそれで良い。また、旅立ち、何処かに根付いたなら、そこが新たな聖地となる。数代前のアシュリーが根付いたシルフィが聖地であったようにな。」

 「それは、アシュリーの初代のことですね。」
 「シルフィのアシュリーの初代じゃ。アシュリーの初代は、最初の5人だからの。」

 「何だかややこしいですね。」
 「何処かに、ラニアの遠い親戚は居るはず、ということだ。残念ながらアシュリーで聖性を保っているのはラニアだけだがね。そういうふうに、他の最初の人にも、何処かに血筋は残っていると、良いのだがね。とは言っても、もはや、神聖国と繋がりがあることが伝わっていないのかもしれぬ。」

 「そういえば、私の家にお金をくださっているのは神聖国なのですよね。」
 「うむ。あまり知られてはいないことが残念だが、最初の5人に連なる聖人は、皆等しく神聖国の所属なのだよ。」

 「えっと、じゃあつまり、アシュリー家は、神聖国の所属で、シルフィの侯爵ということですか?なんだか、ますますややこしいですね。」

 「少し違う。アシュリー家の聖人が神聖国の所属なのだ。何度も言ったが、5人から出る聖人は生きているだけで意味がある。1代目の種であっても、育てているのだからな。仕事をしているのと同じだから、それに見合った金銭を支払うのも当然だ。俗物的ではあるが、聖性を保つ為にも、不自由を感じさせる危険は冒せぬ。何、資金源は心配要らぬよ。その為に、ルチアはここに根付いて居るのだからの。」

 だが、と、おじいちゃんは続ける。

 「直接聖人に渡るようにしたい金だが、国というのは面倒なしがらみが多くての。シルフィは、確か宮内庁を通して支払っていたのではなかったかな。おそらく、ラニアに渡るまでに、相当額が抜かれていような。しかし、それも仕方のないことだ。重要な聖人の家系を丸ごと受け入れてくれた国に払っている礼金とでもするしかなくての。

 事実、そのようなことをシルフィと約定を結んでおる。聞けば領地もあったらしいの?その収入も少しはあると言うので、ならば4つに分けたひとつは確実にアシュリーの聖人に渡すことを約束させて、人数分の金を送り続けておった。」

 「あれで4分の1だったんですか。」
 
 だって、今は私だけしかアシュリーの聖人は居ない。でも仕送られるお金で、伯父家族と私と使用人達の給与のほとんどを賄えていた。

 聖人1人につき、それだけの額を払っていたということは、祖母、両親が揃っていた頃は、3人分?私も入れて4人分?

 「いや。抜かれることを想定して、変わらず3人分を仕送っておったよ。金額を変動させた時の弊害を恐れたのでな。しかし、どちらにせよラニアの手元に渡っていなかったとはの……。」

 それは、伯父達が欲しがるはずだわ。とメラニアは思った。

 「そして、今、ラニアはここに居る。聖人に渡されるべき金は、シルフィを通す必要がなくなった。神聖国が保証となって口座を作る準備をしてある。これからはそこに金を送ることになるからの。午後にでも管理部に行くようにの。」

 「はい。ありがとう、おじいちゃん。」

 フォフォと笑って、今日はここまで、と言われて、祈りの部屋に戻った。

 いつものように、取り巻きの神官達は、そこに待っており、おじいちゃんは「管理部に行くことを忘れんようにな。」とメラニアに言い残して、彼等と一緒にさっさと去って行った。

 あれほどのお金を産む出す為に、どれほどの労働を必要とするのだろうか。本当はとても忙しい人なのかもしれない。
 
 メラニアはおじいちゃんに感謝を忘れないようにしなければ、と思った。
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