21 / 52
20—2
しおりを挟む「心身ともに清らかであること。それを維持することはとても難しい。だから聖人は年々減ってゆく。当然、ここに辿り着ける者も減る。増えることを願っておるが、なかなか難しいことじゃ。これは、ユグドラシルから我々への試練でもあるな。」
試練。最初の5人に連なる者たちの中で、少しでも多くの種に力を与えること。また、長く聖性を保てる人間を見出すこと。という認識で良いだろうか。
「3代続いた種は、ここ数百年出ておらぬ。5代続いた種は数千年じゃ。少なくとも神聖国では確認しておらん。ラニアは、居るだけで、そこを中心として清浄な地を作る。だから、なるべく多くの土地を旅して、多くの土地を浄化するのが、ラニアの使命と言えよう。」
「神聖国に居ては、いけないのですか?」
「ここに居たければ居ても良い。何処に行っても良い。5人の役目は、思う場所を浄化することじゃから、ここに居ることがラニアの意思なら、それで良い。時が来たらというのは、ラニアが行きたい場所ができたら、ということじゃよ。」
「行きたい場所できたら……。」
「できなければ、それも良い。世界を清めるのが我等の役目ではあるから、外に出なくてはその力に意味はないが、清める意味がないと思うならそれもラニアの意思だからそれで良い。また、旅立ち、何処かに根付いたなら、そこが新たな聖地となる。数代前のアシュリーが根付いたシルフィが聖地であったようにな。」
「それは、アシュリーの初代のことですね。」
「シルフィのアシュリーの初代じゃ。アシュリーの初代は、最初の5人だからの。」
「何だかややこしいですね。」
「何処かに、ラニアの遠い親戚は居るはず、ということだ。残念ながらアシュリーで聖性を保っているのはラニアだけだがね。そういうふうに、他の最初の人にも、何処かに血筋は残っていると、良いのだがね。とは言っても、もはや、神聖国と繋がりがあることが伝わっていないのかもしれぬ。」
「そういえば、私の家にお金をくださっているのは神聖国なのですよね。」
「うむ。あまり知られてはいないことが残念だが、最初の5人に連なる聖人は、皆等しく神聖国の所属なのだよ。」
「えっと、じゃあつまり、アシュリー家は、神聖国の所属で、シルフィの侯爵ということですか?なんだか、ますますややこしいですね。」
「少し違う。アシュリー家の聖人が神聖国の所属なのだ。何度も言ったが、5人から出る聖人は生きているだけで意味がある。1代目の種であっても、育てているのだからな。仕事をしているのと同じだから、それに見合った金銭を支払うのも当然だ。俗物的ではあるが、聖性を保つ為にも、不自由を感じさせる危険は冒せぬ。何、資金源は心配要らぬよ。その為に、ルチアはここに根付いて居るのだからの。」
だが、と、おじいちゃんは続ける。
「直接聖人に渡るようにしたい金だが、国というのは面倒なしがらみが多くての。シルフィは、確か宮内庁を通して支払っていたのではなかったかな。おそらく、ラニアに渡るまでに、相当額が抜かれていような。しかし、それも仕方のないことだ。重要な聖人の家系を丸ごと受け入れてくれた国に払っている礼金とでもするしかなくての。
事実、そのようなことをシルフィと約定を結んでおる。聞けば領地もあったらしいの?その収入も少しはあると言うので、ならば4つに分けたひとつは確実にアシュリーの聖人に渡すことを約束させて、人数分の金を送り続けておった。」
「あれで4分の1だったんですか。」
だって、今は私だけしかアシュリーの聖人は居ない。でも仕送られるお金で、伯父家族と私と使用人達の給与のほとんどを賄えていた。
聖人1人につき、それだけの額を払っていたということは、祖母、両親が揃っていた頃は、3人分?私も入れて4人分?
「いや。抜かれることを想定して、変わらず3人分を仕送っておったよ。金額を変動させた時の弊害を恐れたのでな。しかし、どちらにせよラニアの手元に渡っていなかったとはの……。」
それは、伯父達が欲しがるはずだわ。とメラニアは思った。
「そして、今、ラニアはここに居る。聖人に渡されるべき金は、シルフィを通す必要がなくなった。神聖国が保証となって口座を作る準備をしてある。これからはそこに金を送ることになるからの。午後にでも管理部に行くようにの。」
「はい。ありがとう、おじいちゃん。」
フォフォと笑って、今日はここまで、と言われて、祈りの部屋に戻った。
いつものように、取り巻きの神官達は、そこに待っており、おじいちゃんは「管理部に行くことを忘れんようにな。」とメラニアに言い残して、彼等と一緒にさっさと去って行った。
あれほどのお金を産む出す為に、どれほどの労働を必要とするのだろうか。本当はとても忙しい人なのかもしれない。
メラニアはおじいちゃんに感謝を忘れないようにしなければ、と思った。
31
お気に入りに追加
89
あなたにおすすめの小説
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
ファンタジー
圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?
それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。
自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。
※小説家になろうさんで投稿始めました
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!
カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!!
祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。
「よし、とりあえず叩いてみよう!!」
ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。
※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!
【完結】断罪後の悪役令嬢は、精霊たちと生きていきます!
らんか
恋愛
あれ?
何で私が悪役令嬢に転生してるの?
えっ!
しかも、断罪後に思い出したって、私の人生、すでに終わってるじゃん!
国外追放かぁ。
娼館送りや、公開処刑とかじゃなくて良かったけど、これからどうしよう……。
そう思ってた私の前に精霊達が現れて……。
愛し子って、私が!?
普通はヒロインの役目じゃないの!?
〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?
藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。
目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。
前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。
前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない!
そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
義母様から「あなたは婚約相手として相応しくない」と言われたので、家出してあげました。
新野乃花(大舟)
恋愛
婚約関係にあったカーテル伯爵とアリスは、相思相愛の理想的な関係にあった。しかし、それを快く思わない伯爵の母が、アリスの事を執拗に口で攻撃する…。その行いがしばらく繰り返されたのち、アリスは自らその姿を消してしまうこととなる。それを知った伯爵は自らの母に対して怒りをあらわにし…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる