聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。

彩柚月

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 最近は、勉強も進み、魔法を教えてもらっている。簡単な生活魔法からだが、魔法を使えるのは、心が浮き立つように、楽しい。

 「聖人というのは魔力量は多いものだが、聖女は特別に多いのだ。だから聖女は別格視される。その中でもラニアは飛び抜けて多いの。6代目という付加価付いているのやもしれぬな。」
 
 ここでも勘違いがあった。女だから聖女と呼ばれているだけだと思っていた。どの分野でもそうだが、聖人も基本男性が多い。女性が純潔であり続けるのは難しいのだと、おじいちゃんはいう。

 「女性を見下しているのではない。それほどに、女性の立場が弱いということじゃ。いつの時代も大方、閉じ込められ虐げられ奪われるのは女性の方じゃろう?そんな環境で強く清らかな心を持ち続けるなど、到底難しくて当然のことじゃの。だからこそ、そんな環境でも強く清らかで在れる女性は、男性よりも強い聖性を持って当然とも言える。」
 
 女性だから強い力を持つ聖人になりやすい、ということか。

 「それにな。もうひとつ。これは、是非、覚えておいて欲しい。」
 「始まりは同じでも、継ぐのは同性でなくてはならぬ。」
 
 ちょっと意味がわからなかった。わからなくて、反応できずに、おじいちゃんを見つめた。

 「最初の聖人は種を与えれれば良い。が、その種は同性に継がなくてはならないのだ。」
 「あっ……だから、お父様ではなくお母様に継がれたのですね。」
 「ん?ラニアの母君は嫁入りではなかったか?」
 「はい。そうです。あれ?」
 「うむ……。それはちょっと調べておくことにするかの。母君のことは何か、資料が残っておらぬか?」
 「……わかりません。」
 「うむ。良い。こちらで、できる限り調べてみよう。わかったことは知らせる。さて。魔法の続きをしようかの。」
 「はい。」

 基本的には、魔力があるなら、誰でも練習次第で四属性全ての魔法が使えるそうだ。得意不得意は本人の資質——というか、好き嫌いによる。それからそれぞれの魔法の魔力の操作方法を、使ので、師にもよるだろう。

 新しく魔法を編み出すには暴走の危険が伴うので、そういう場所を確保できない人には難しい。つまり、ここだ。大樹の元でならいくらでも試すことができる。全ての魔法は、最初の5人が創ったということ。

 ということは、師が、教えないと決めた魔法は、伝えられないので失われていく。

 おじいちゃんは、自分の知っている魔法はすべて教えてくれると言っているので、大魔法使いになれるかもと思うと、とても嬉しい。

 「魔法は想像力が大切じゃ。いくつか魔法を覚えたら、自然に魔力操作を覚えていくじゃろうて。そうすれば、魔力の多いラニアに、できないことはないかもしれぬよ。」

 それから、トネリコの苗を育て始めた。おじいちゃんが言うには、トネリコは大元のユグドラシルの大樹からもらった苗を、この空間で育てなければ育たない。丈夫な木になってはじめて、外部に持ち出して植え付けができるのだそうだ。つまり、シルフィの生家にあるトネリコをいくら増やそうとしても増やせるわけがなかったのだ。

 「苗を育てることができるのは、これも女性の聖人だけでな。2代目以降の聖女でなくては育てられん。神聖国に来た継承聖女には、苗を育てて1本以上を寄贈してもらうことになっておる。聖女はそういう意味でも特別なのじゃよ。」

 トネリコの木を植えることができれば、植えた場所は大樹と繋がり、周囲に浄化の力を発揮する。聖人の魔力を糧として木は育ち生きる。

 「じゃあ、シルフィの木はどうなるの?」
 「やがて枯れる。」
 「そんな……。」
 「良いんじゃ。あれは初代が植えた木だから、むしろ今までよく保たせてくれた。」
 「それは木の命が終わるってことじゃないの?」
 「還るんじゃ。命は大樹に還り、巡る。そしてまた再び何処かで生まれる。そこでずっと生き続ける方が不自然なんじゃよ。」
 「あ、それ、お父さまとお母さまも言ってた。私もいつか大樹に還るって。」
 「うむ。大樹に創られた物は皆大樹に還る。」
 「他の人達も?」
 「この世界にある生物は、全て、大樹の息吹から生まれたのじゃよ。我々も同じだ。」
 「皆、ここへ還るのね。」
 うむ、と頷いて、おじいちゃんはお茶を飲んだ。それから、

 「この苗が木になれば、神聖国を出ても良い。その頃には大樹と基本的な魔法の学びは終わりそうだから丁度良いの。何かやりたいことは見つかったかの?」

 と、聞いた。
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