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17枝の使い方

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 神聖国きて2日目の朝。
 目覚めて顔を洗って朝食をいただいた後、特にすることもないのでぼんやり窓から外を眺める。

 本当は祈りの時間とかあるのかもしれないけれど、何も言われないのを良いことに、何もしない。

 昨日最初に通された部屋よりも高い階にあるからか、ここの窓からは遠くまでよく見える。こうして見ると、トネリコの木がたくさん生えているのがわかる。こんなに生えているなんて、やはりここは清浄な土地なのだと実感していると、午前のお茶をどうかと、大神官から声がかかったと、ダンが伝えに来た。
 
 どうか、と聞いているが、大神官と話さなくては何も進まないのだから、これは強制だろう。

 「すぐに行きます。」
 そう答えて、エイダンの誘導に従った。

 連れて行かれたのは比較的大きなトネリコの木の根元。小さなガゼボが作られており、既に大神官は席に着いていた。

 取り巻きの神官達もすぐ側に立っている。

 「いらっしゃい。聖女メラニア。」
 「こんににわ。おじ……大神官様。」

 危ない。おじいちゃんと呼びそうになってしまう。この風貌がそうさせるのだ。言い間違えそうになったことには気も止めず、
 「まあ座りなさい。良く休めたかね?」
 と、聞いてくれる。
 「はい。気持ちよく眠れました。」
 と答えた。
 ダンもメラニアの後ろに立った。

 「さて。昨日の続きだがね。」
 「はい。」
 
 「聖女メラニアは、本当にアシュリーなのかね?」
 きた。聞かれると思った。昨日から、これを気にされている感じがすごくしていたから。

 「はい。しかし、それをどう証明すれば良いのかわかりません。」
 「この神聖国に来た経緯は説明できるかね?」
 「はい。あ、いいえ。えっと、」
 「ん?」
 「話してはならない内容が含まれます。」
 「ではそこを抜けば話せるかね?」
 「うーん……」

 「ふむ。」

 大神官は考え込む素振りを見せ、後ろに立っている神官の人達のひとりが、質問を投げかけてきた。

 「聞かれたことに答えなさい。」
 「やめなさい。聞いてはならん。聖女も答えてはならん。」
 すかさず大神官は止めに入り、
 「祈りの部屋について来てくれるかね。」
 と、メラニアに言った。

 このおじいちゃんは、話してはならないことを理解していると悟ったメラニアは、
 「はい。」
 と、素直に従ってついていく。

 聖堂の脇にある扉から伸びる長い廊下の先にその部屋はあった。それは、聖堂と比べると、本当に小さな小部屋だった。天井はドーム型になっており、部屋の中央には、小さなトネリコの木が植っている。

 「さあ。ここは大樹の元と同じ空間だ。何でも話して良い。」

 「そんなことるあるんですか?」
 「聖女メラニアが確かにアシュリーならば、いずれ部屋の作り方を教えよう。だから、真実を話してもらわなければならない。」
 「はい……でも……。」
 「疑うのは良いことだがね。では、大樹の元に行けば話せるかね?」
 
 口に出してはいけないのに!
 何も言えずにいると、おじいちゃんは自分の枝を出して、
 「自分で来られるね?」
 と言って消えてしまった。
 
 え、何も見えなかったけれど、大樹への扉を開いたのかしら。外から見るとこう見えるの?じゃあ、自分の開く扉は、自分にしか見えないってことなのかしら。

 見廻すと、神官達は慣れているようで平然としている。エイダンだけが、目を見開いていた。
 
 神官は
 「さあ。アシュリーなら行けるでしょう?どうぞ追いかけてください。」
 と、意地悪そうに言ってくる。
 だからつい、意地悪を言ってしまった。
 「貴方達は行かないんですか?」
 
 「……私達には資格がありませんから。」
 悔しそうに言う神官に、ほんの少し満足して、トネリコの木に向いた。

 とは言うものの、どうしたらいいんだろう。メラニアはアシュリーの聖木からしか行ったことがない。いつもと同じ方法で行けるのかどうか自信がない。

 でも、行かなければ、立場を守れないではないかと恐ろしい。

 チラと神官を見ると、やっぱりニヤニヤと意地悪そうな顔をしている。まるで、「お前にできるわけがない」と、言われているようだ。

 とりあえず、やるしかない。心を決めて、呟いた。
 「ᛟᛈᛖᚾ ᛏᚺᛖ ᚱᛟᚪᛞ」
 
 ……何も起こらない?どうしよう。神官達の視線が気になる。怖い。

 両手を胸の前で組むと、枝の存在を思い出した。そういえば、おじいちゃんは枝を出していた。牢から出た時も、この枝のおかげだった。

 もしかして、と、枝を取り出して手に取ってみる。そうして、もう一度呟く。
 「ᛟᛈᛖᚾ ᛏᚺᛖ ᚱᛟᚪᛞ」

 いつもの見慣れた扉が開く。
 メラニアはまっすぐ光の入り口に入った。
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