聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。

彩柚月

文字の大きさ
上 下
17 / 52

17枝の使い方

しおりを挟む

 神聖国きて2日目の朝。
 目覚めて顔を洗って朝食をいただいた後、特にすることもないのでぼんやり窓から外を眺める。

 本当は祈りの時間とかあるのかもしれないけれど、何も言われないのを良いことに、何もしない。

 昨日最初に通された部屋よりも高い階にあるからか、ここの窓からは遠くまでよく見える。こうして見ると、トネリコの木がたくさん生えているのがわかる。こんなに生えているなんて、やはりここは清浄な土地なのだと実感していると、午前のお茶をどうかと、大神官から声がかかったと、ダンが伝えに来た。
 
 どうか、と聞いているが、大神官と話さなくては何も進まないのだから、これは強制だろう。

 「すぐに行きます。」
 そう答えて、エイダンの誘導に従った。

 連れて行かれたのは比較的大きなトネリコの木の根元。小さなガゼボが作られており、既に大神官は席に着いていた。

 取り巻きの神官達もすぐ側に立っている。

 「いらっしゃい。聖女メラニア。」
 「こんににわ。おじ……大神官様。」

 危ない。おじいちゃんと呼びそうになってしまう。この風貌がそうさせるのだ。言い間違えそうになったことには気も止めず、
 「まあ座りなさい。良く休めたかね?」
 と、聞いてくれる。
 「はい。気持ちよく眠れました。」
 と答えた。
 ダンもメラニアの後ろに立った。

 「さて。昨日の続きだがね。」
 「はい。」
 
 「聖女メラニアは、本当にアシュリーなのかね?」
 きた。聞かれると思った。昨日から、これを気にされている感じがすごくしていたから。

 「はい。しかし、それをどう証明すれば良いのかわかりません。」
 「この神聖国に来た経緯は説明できるかね?」
 「はい。あ、いいえ。えっと、」
 「ん?」
 「話してはならない内容が含まれます。」
 「ではそこを抜けば話せるかね?」
 「うーん……」

 「ふむ。」

 大神官は考え込む素振りを見せ、後ろに立っている神官の人達のひとりが、質問を投げかけてきた。

 「聞かれたことに答えなさい。」
 「やめなさい。聞いてはならん。聖女も答えてはならん。」
 すかさず大神官は止めに入り、
 「祈りの部屋について来てくれるかね。」
 と、メラニアに言った。

 このおじいちゃんは、話してはならないことを理解していると悟ったメラニアは、
 「はい。」
 と、素直に従ってついていく。

 聖堂の脇にある扉から伸びる長い廊下の先にその部屋はあった。それは、聖堂と比べると、本当に小さな小部屋だった。天井はドーム型になっており、部屋の中央には、小さなトネリコの木が植っている。

 「さあ。ここは大樹の元と同じ空間だ。何でも話して良い。」

 「そんなことるあるんですか?」
 「聖女メラニアが確かにアシュリーならば、いずれ部屋の作り方を教えよう。だから、真実を話してもらわなければならない。」
 「はい……でも……。」
 「疑うのは良いことだがね。では、大樹の元に行けば話せるかね?」
 
 口に出してはいけないのに!
 何も言えずにいると、おじいちゃんは自分の枝を出して、
 「自分で来られるね?」
 と言って消えてしまった。
 
 え、何も見えなかったけれど、大樹への扉を開いたのかしら。外から見るとこう見えるの?じゃあ、自分の開く扉は、自分にしか見えないってことなのかしら。

 見廻すと、神官達は慣れているようで平然としている。エイダンだけが、目を見開いていた。
 
 神官は
 「さあ。アシュリーなら行けるでしょう?どうぞ追いかけてください。」
 と、意地悪そうに言ってくる。
 だからつい、意地悪を言ってしまった。
 「貴方達は行かないんですか?」
 
 「……私達には資格がありませんから。」
 悔しそうに言う神官に、ほんの少し満足して、トネリコの木に向いた。

 とは言うものの、どうしたらいいんだろう。メラニアはアシュリーの聖木からしか行ったことがない。いつもと同じ方法で行けるのかどうか自信がない。

 でも、行かなければ、立場を守れないではないかと恐ろしい。

 チラと神官を見ると、やっぱりニヤニヤと意地悪そうな顔をしている。まるで、「お前にできるわけがない」と、言われているようだ。

 とりあえず、やるしかない。心を決めて、呟いた。
 「ᛟᛈᛖᚾ ᛏᚺᛖ ᚱᛟᚪᛞ」
 
 ……何も起こらない?どうしよう。神官達の視線が気になる。怖い。

 両手を胸の前で組むと、枝の存在を思い出した。そういえば、おじいちゃんは枝を出していた。牢から出た時も、この枝のおかげだった。

 もしかして、と、枝を取り出して手に取ってみる。そうして、もう一度呟く。
 「ᛟᛈᛖᚾ ᛏᚺᛖ ᚱᛟᚪᛞ」

 いつもの見慣れた扉が開く。
 メラニアはまっすぐ光の入り口に入った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

モブで可哀相? いえ、幸せです!

みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。 “あんたはモブで可哀相”。 お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月

りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。 1話だいたい1500字くらいを想定してます。 1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。 更新は不定期。 完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。 恋愛とファンタジーの中間のような話です。 主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

遺棄令嬢いけしゃあしゃあと幸せになる☆婚約破棄されたけど私は悪くないので侯爵さまに嫁ぎます!

天田れおぽん
ファンタジー
婚約破棄されましたが私は悪くないので反省しません。いけしゃあしゃあと侯爵家に嫁いで幸せになっちゃいます。  魔法省に勤めるトレーシー・ダウジャン伯爵令嬢は、婿養子の父と義母、義妹と暮らしていたが婚約者を義妹に取られた上に家から追い出されてしまう。  でも優秀な彼女は王城に住み、個性的な人たちに囲まれて楽しく仕事に取り組む。  一方、ダウジャン伯爵家にはトレーシーの親戚が乗り込み、父たち家族は追い出されてしまう。  トレーシーは先輩であるアルバス・メイデン侯爵令息と王族から依頼された仕事をしながら仲を深める。  互いの気持ちに気付いた二人は、幸せを手に入れていく。 。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.。oOo。.:♥:.  他サイトにも連載中 2023/09/06 少し修正したバージョンと入れ替えながら更新を再開します。  よろしくお願いいたします。m(_ _)m

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシャリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

放置された公爵令嬢が幸せになるまで

こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。

騎士団長のお抱え薬師

衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。 聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。 後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。 なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。 そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。 場所は隣国。 しかもハノンの隣。 迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。 大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。 イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。

処理中です...