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一通り、身体を洗って、もう一度お湯に浸かった。やっぱりウトウトしついると、ノックがされて、神官の声がした。
「聖女様、ずいぶん長いですが大丈夫ですか?」
入って来られては大変なので、
「はい、すみません。もう出ます。」
と、答えて、気持ちの良いお湯と決別して、準備されているタオルやローブを使った。
ここの人達が着ているローブによく似ている、白を基調としたローブ。ドレスよりもゆったりしていて、今のメラニアにはとても着心地が良かった。
ちょっと着方が怪しいけれど、とにかく体を包んで、部屋に戻ると、冷たい果実水を勧められて、ここは天国かと思うほどにリラックスした。
「聖女様、さっき少し摘んだばかりですが、そろそろ夕食の時間です。食べられそうですか?」
と、聞かれ、もう、良いかな。このまま寝たいと思ったが、
「食べられそうなら食事をここに持って来させます。もし、良ければ、私も一緒にここでいただいてもよろしいでしょうか?」
と、言われ、
「あ、はい。是非、一緒にお願いします。」
と、答えてしまった。
食事が運ばれ、テーブルを挟んで向かい合って座る。部屋に備え付けのテーブルはサイズが大きくない。
ものすごく近い距離で、改めて神官の顔を見ることになった。
綺麗な顔をしている。と、まず思った。思っていたより、ずっと若いかもしれない。精悍、というのだろうか。はっきりした目鼻立ちをしている。マジマジと見つめていると、
「穴が空いてしまいます。」
と、笑われた。
「あ、すみません!神官様は、なんだか、私の知っている神官様とは感じが違うな、と思ってしまって。」
「あ、私は神官ではありませんよ。」
「え?」
「そうですね。そういうことも、できれば話したいと思いますが、とりあえずいただきましょう?」
「あ、はい。いただきます。」
黙って食事をした。食器の鳴る音だけが響く。食事は黙ってするものだから当然と言えば当然なのだが、それでも、ひとりではない食事をするのは何年振りだろうと思った。
食べ終わり、食後のお茶を淹れてもらってから、神官……ではなかった、その人が、
「神官長とも話したのですが、女性の世話係がみつかるまでは、私が側におりますので。」
と、言った。
「そうですか。ありがとうございます。それで、あの、何とお呼びすれば?」
「そうですね……。私の名はエイダンと申します。。」
「わかりました。エイダンさん。」
「はい。」
そして、少しだけ話をした。
この神聖国は、大きく分けて、神官と、神官を目指すものと、神学を学びたい者が居るらしい。
神官は言うまでもなく、大神官をはじめとして、聖力を扱える人が居り、階級の真ん中より上の人達は、聖力が使えなくとも聖性を持っている人ばかりなのだという。次に准官。神官を目指し、聖性を身につけるべく修行中で、学びを求めて滞在している人達は信徒と呼ばれているらしい。
そして、このエイダンは信徒なのだそうだ。つまり、神聖国の人間ではない。この人に付かれるということは、私は信用されていないのかと嫌な気分になったが、それにしては色々と融通が効くような行動を取っている。
どういうことなのかと、思い切って聞いてみると、そもそも、ここの住人には誰でもなれるわけではなく、信徒といえど、厳しい審査をされている。この国の特性上、信徒というのは、貴賓に近いのだそうだ。
ダンは、国のために、魔法を学びたくてここに来ているらしい。魔法ならここではないのでは、と聞くと、自然を利用する4属性の魔法ではなく、不純物を取り除く魔法はここでしか学べないのだという。
浄化は聖人にしか使えないが、完全とは言えないまでも、不純物を取り除くことは、練習をすれば魔力持ちならできるはず、なのだそうだ。
確かにできる。良くないものを聖力で打ち消してしまう浄化と違い、良くないものを取り出すことには聖力は使わない。
だが、浄化を使える者にしか、そのイメージができない。だから浄化を使える者に学ぶのだそうだ。
今のダンは、例えば水から不純物を取り除こうとすると、水ごと消してしまうのだそう。
「なるほど……。水そのものがどういうものかを覚えないとできなさそうですね。それ以外を取り除くイメージ。」
「はい。それがなかなか難しいんです。まだ、存在のはっきりわかる不純物なら良いんです。砂とか塵とか。それならまだ、魔法を使った時にも感触がわかる。でも、それらを取り除くのなら、細かいフィルターをかけたほうが早いでしょう。それよりも、瘴気のような物質でないもの、これが難しいんです。でも、私は、どうしてもこれを身につけたいと思っています。」
「それはどうして?」
「私の国は、汚れた土や水で、国民が苦しんでいる。どうにかして突破口を見つけなくては、国が疲弊するばかりです。」
「浄化を頼んでは?」
「もちろん、定期的に神聖国に頼んでいます。ですが、そもそも聖人様の人数が少ないでしょう。瘴気の発生源が近いせいで、浄化していただいた側から次々に汚れてしまう。範囲も広すぎていろいろ足りていないのです。聖人様を必要としているのは我が国だけではありませんし。他の方法も試して導入できれば、と思うのです。」
なるほど。立派な方だ。
「さあ、もうお疲れでしょう。明日は大神官様がお話をと仰っておられました。おやすみください。」
「あ、長い時間、引き留めてしまってごめんなさい。おやすみなさい。」
メラニアは久しぶりのベッドで、いいえ、実家で使っていた物よりも、広くフカフカのベッドで、気持ちよく眠った。
「聖女様、ずいぶん長いですが大丈夫ですか?」
入って来られては大変なので、
「はい、すみません。もう出ます。」
と、答えて、気持ちの良いお湯と決別して、準備されているタオルやローブを使った。
ここの人達が着ているローブによく似ている、白を基調としたローブ。ドレスよりもゆったりしていて、今のメラニアにはとても着心地が良かった。
ちょっと着方が怪しいけれど、とにかく体を包んで、部屋に戻ると、冷たい果実水を勧められて、ここは天国かと思うほどにリラックスした。
「聖女様、さっき少し摘んだばかりですが、そろそろ夕食の時間です。食べられそうですか?」
と、聞かれ、もう、良いかな。このまま寝たいと思ったが、
「食べられそうなら食事をここに持って来させます。もし、良ければ、私も一緒にここでいただいてもよろしいでしょうか?」
と、言われ、
「あ、はい。是非、一緒にお願いします。」
と、答えてしまった。
食事が運ばれ、テーブルを挟んで向かい合って座る。部屋に備え付けのテーブルはサイズが大きくない。
ものすごく近い距離で、改めて神官の顔を見ることになった。
綺麗な顔をしている。と、まず思った。思っていたより、ずっと若いかもしれない。精悍、というのだろうか。はっきりした目鼻立ちをしている。マジマジと見つめていると、
「穴が空いてしまいます。」
と、笑われた。
「あ、すみません!神官様は、なんだか、私の知っている神官様とは感じが違うな、と思ってしまって。」
「あ、私は神官ではありませんよ。」
「え?」
「そうですね。そういうことも、できれば話したいと思いますが、とりあえずいただきましょう?」
「あ、はい。いただきます。」
黙って食事をした。食器の鳴る音だけが響く。食事は黙ってするものだから当然と言えば当然なのだが、それでも、ひとりではない食事をするのは何年振りだろうと思った。
食べ終わり、食後のお茶を淹れてもらってから、神官……ではなかった、その人が、
「神官長とも話したのですが、女性の世話係がみつかるまでは、私が側におりますので。」
と、言った。
「そうですか。ありがとうございます。それで、あの、何とお呼びすれば?」
「そうですね……。私の名はエイダンと申します。。」
「わかりました。エイダンさん。」
「はい。」
そして、少しだけ話をした。
この神聖国は、大きく分けて、神官と、神官を目指すものと、神学を学びたい者が居るらしい。
神官は言うまでもなく、大神官をはじめとして、聖力を扱える人が居り、階級の真ん中より上の人達は、聖力が使えなくとも聖性を持っている人ばかりなのだという。次に准官。神官を目指し、聖性を身につけるべく修行中で、学びを求めて滞在している人達は信徒と呼ばれているらしい。
そして、このエイダンは信徒なのだそうだ。つまり、神聖国の人間ではない。この人に付かれるということは、私は信用されていないのかと嫌な気分になったが、それにしては色々と融通が効くような行動を取っている。
どういうことなのかと、思い切って聞いてみると、そもそも、ここの住人には誰でもなれるわけではなく、信徒といえど、厳しい審査をされている。この国の特性上、信徒というのは、貴賓に近いのだそうだ。
ダンは、国のために、魔法を学びたくてここに来ているらしい。魔法ならここではないのでは、と聞くと、自然を利用する4属性の魔法ではなく、不純物を取り除く魔法はここでしか学べないのだという。
浄化は聖人にしか使えないが、完全とは言えないまでも、不純物を取り除くことは、練習をすれば魔力持ちならできるはず、なのだそうだ。
確かにできる。良くないものを聖力で打ち消してしまう浄化と違い、良くないものを取り出すことには聖力は使わない。
だが、浄化を使える者にしか、そのイメージができない。だから浄化を使える者に学ぶのだそうだ。
今のダンは、例えば水から不純物を取り除こうとすると、水ごと消してしまうのだそう。
「なるほど……。水そのものがどういうものかを覚えないとできなさそうですね。それ以外を取り除くイメージ。」
「はい。それがなかなか難しいんです。まだ、存在のはっきりわかる不純物なら良いんです。砂とか塵とか。それならまだ、魔法を使った時にも感触がわかる。でも、それらを取り除くのなら、細かいフィルターをかけたほうが早いでしょう。それよりも、瘴気のような物質でないもの、これが難しいんです。でも、私は、どうしてもこれを身につけたいと思っています。」
「それはどうして?」
「私の国は、汚れた土や水で、国民が苦しんでいる。どうにかして突破口を見つけなくては、国が疲弊するばかりです。」
「浄化を頼んでは?」
「もちろん、定期的に神聖国に頼んでいます。ですが、そもそも聖人様の人数が少ないでしょう。瘴気の発生源が近いせいで、浄化していただいた側から次々に汚れてしまう。範囲も広すぎていろいろ足りていないのです。聖人様を必要としているのは我が国だけではありませんし。他の方法も試して導入できれば、と思うのです。」
なるほど。立派な方だ。
「さあ、もうお疲れでしょう。明日は大神官様がお話をと仰っておられました。おやすみください。」
「あ、長い時間、引き留めてしまってごめんなさい。おやすみなさい。」
メラニアは久しぶりのベッドで、いいえ、実家で使っていた物よりも、広くフカフカのベッドで、気持ちよく眠った。
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