15 / 52
15
しおりを挟む
一通り、身体を洗って、もう一度お湯に浸かった。やっぱりウトウトしついると、ノックがされて、神官の声がした。
「聖女様、ずいぶん長いですが大丈夫ですか?」
入って来られては大変なので、
「はい、すみません。もう出ます。」
と、答えて、気持ちの良いお湯と決別して、準備されているタオルやローブを使った。
ここの人達が着ているローブによく似ている、白を基調としたローブ。ドレスよりもゆったりしていて、今のメラニアにはとても着心地が良かった。
ちょっと着方が怪しいけれど、とにかく体を包んで、部屋に戻ると、冷たい果実水を勧められて、ここは天国かと思うほどにリラックスした。
「聖女様、さっき少し摘んだばかりですが、そろそろ夕食の時間です。食べられそうですか?」
と、聞かれ、もう、良いかな。このまま寝たいと思ったが、
「食べられそうなら食事をここに持って来させます。もし、良ければ、私も一緒にここでいただいてもよろしいでしょうか?」
と、言われ、
「あ、はい。是非、一緒にお願いします。」
と、答えてしまった。
食事が運ばれ、テーブルを挟んで向かい合って座る。部屋に備え付けのテーブルはサイズが大きくない。
ものすごく近い距離で、改めて神官の顔を見ることになった。
綺麗な顔をしている。と、まず思った。思っていたより、ずっと若いかもしれない。精悍、というのだろうか。はっきりした目鼻立ちをしている。マジマジと見つめていると、
「穴が空いてしまいます。」
と、笑われた。
「あ、すみません!神官様は、なんだか、私の知っている神官様とは感じが違うな、と思ってしまって。」
「あ、私は神官ではありませんよ。」
「え?」
「そうですね。そういうことも、できれば話したいと思いますが、とりあえずいただきましょう?」
「あ、はい。いただきます。」
黙って食事をした。食器の鳴る音だけが響く。食事は黙ってするものだから当然と言えば当然なのだが、それでも、ひとりではない食事をするのは何年振りだろうと思った。
食べ終わり、食後のお茶を淹れてもらってから、神官……ではなかった、その人が、
「神官長とも話したのですが、女性の世話係がみつかるまでは、私が側におりますので。」
と、言った。
「そうですか。ありがとうございます。それで、あの、何とお呼びすれば?」
「そうですね……。私の名はエイダンと申します。。」
「わかりました。エイダンさん。」
「はい。」
そして、少しだけ話をした。
この神聖国は、大きく分けて、神官と、神官を目指すものと、神学を学びたい者が居るらしい。
神官は言うまでもなく、大神官をはじめとして、聖力を扱える人が居り、階級の真ん中より上の人達は、聖力が使えなくとも聖性を持っている人ばかりなのだという。次に准官。神官を目指し、聖性を身につけるべく修行中で、学びを求めて滞在している人達は信徒と呼ばれているらしい。
そして、このエイダンは信徒なのだそうだ。つまり、神聖国の人間ではない。この人に付かれるということは、私は信用されていないのかと嫌な気分になったが、それにしては色々と融通が効くような行動を取っている。
どういうことなのかと、思い切って聞いてみると、そもそも、ここの住人には誰でもなれるわけではなく、信徒といえど、厳しい審査をされている。この国の特性上、信徒というのは、貴賓に近いのだそうだ。
ダンは、国のために、魔法を学びたくてここに来ているらしい。魔法ならここではないのでは、と聞くと、自然を利用する4属性の魔法ではなく、不純物を取り除く魔法はここでしか学べないのだという。
浄化は聖人にしか使えないが、完全とは言えないまでも、不純物を取り除くことは、練習をすれば魔力持ちならできるはず、なのだそうだ。
確かにできる。良くないものを聖力で打ち消してしまう浄化と違い、良くないものを取り出すことには聖力は使わない。
だが、浄化を使える者にしか、そのイメージができない。だから浄化を使える者に学ぶのだそうだ。
今のダンは、例えば水から不純物を取り除こうとすると、水ごと消してしまうのだそう。
「なるほど……。水そのものがどういうものかを覚えないとできなさそうですね。それ以外を取り除くイメージ。」
「はい。それがなかなか難しいんです。まだ、存在のはっきりわかる不純物なら良いんです。砂とか塵とか。それならまだ、魔法を使った時にも感触がわかる。でも、それらを取り除くのなら、細かいフィルターをかけたほうが早いでしょう。それよりも、瘴気のような物質でないもの、これが難しいんです。でも、私は、どうしてもこれを身につけたいと思っています。」
「それはどうして?」
「私の国は、汚れた土や水で、国民が苦しんでいる。どうにかして突破口を見つけなくては、国が疲弊するばかりです。」
「浄化を頼んでは?」
「もちろん、定期的に神聖国に頼んでいます。ですが、そもそも聖人様の人数が少ないでしょう。瘴気の発生源が近いせいで、浄化していただいた側から次々に汚れてしまう。範囲も広すぎていろいろ足りていないのです。聖人様を必要としているのは我が国だけではありませんし。他の方法も試して導入できれば、と思うのです。」
なるほど。立派な方だ。
「さあ、もうお疲れでしょう。明日は大神官様がお話をと仰っておられました。おやすみください。」
「あ、長い時間、引き留めてしまってごめんなさい。おやすみなさい。」
メラニアは久しぶりのベッドで、いいえ、実家で使っていた物よりも、広くフカフカのベッドで、気持ちよく眠った。
「聖女様、ずいぶん長いですが大丈夫ですか?」
入って来られては大変なので、
「はい、すみません。もう出ます。」
と、答えて、気持ちの良いお湯と決別して、準備されているタオルやローブを使った。
ここの人達が着ているローブによく似ている、白を基調としたローブ。ドレスよりもゆったりしていて、今のメラニアにはとても着心地が良かった。
ちょっと着方が怪しいけれど、とにかく体を包んで、部屋に戻ると、冷たい果実水を勧められて、ここは天国かと思うほどにリラックスした。
「聖女様、さっき少し摘んだばかりですが、そろそろ夕食の時間です。食べられそうですか?」
と、聞かれ、もう、良いかな。このまま寝たいと思ったが、
「食べられそうなら食事をここに持って来させます。もし、良ければ、私も一緒にここでいただいてもよろしいでしょうか?」
と、言われ、
「あ、はい。是非、一緒にお願いします。」
と、答えてしまった。
食事が運ばれ、テーブルを挟んで向かい合って座る。部屋に備え付けのテーブルはサイズが大きくない。
ものすごく近い距離で、改めて神官の顔を見ることになった。
綺麗な顔をしている。と、まず思った。思っていたより、ずっと若いかもしれない。精悍、というのだろうか。はっきりした目鼻立ちをしている。マジマジと見つめていると、
「穴が空いてしまいます。」
と、笑われた。
「あ、すみません!神官様は、なんだか、私の知っている神官様とは感じが違うな、と思ってしまって。」
「あ、私は神官ではありませんよ。」
「え?」
「そうですね。そういうことも、できれば話したいと思いますが、とりあえずいただきましょう?」
「あ、はい。いただきます。」
黙って食事をした。食器の鳴る音だけが響く。食事は黙ってするものだから当然と言えば当然なのだが、それでも、ひとりではない食事をするのは何年振りだろうと思った。
食べ終わり、食後のお茶を淹れてもらってから、神官……ではなかった、その人が、
「神官長とも話したのですが、女性の世話係がみつかるまでは、私が側におりますので。」
と、言った。
「そうですか。ありがとうございます。それで、あの、何とお呼びすれば?」
「そうですね……。私の名はエイダンと申します。。」
「わかりました。エイダンさん。」
「はい。」
そして、少しだけ話をした。
この神聖国は、大きく分けて、神官と、神官を目指すものと、神学を学びたい者が居るらしい。
神官は言うまでもなく、大神官をはじめとして、聖力を扱える人が居り、階級の真ん中より上の人達は、聖力が使えなくとも聖性を持っている人ばかりなのだという。次に准官。神官を目指し、聖性を身につけるべく修行中で、学びを求めて滞在している人達は信徒と呼ばれているらしい。
そして、このエイダンは信徒なのだそうだ。つまり、神聖国の人間ではない。この人に付かれるということは、私は信用されていないのかと嫌な気分になったが、それにしては色々と融通が効くような行動を取っている。
どういうことなのかと、思い切って聞いてみると、そもそも、ここの住人には誰でもなれるわけではなく、信徒といえど、厳しい審査をされている。この国の特性上、信徒というのは、貴賓に近いのだそうだ。
ダンは、国のために、魔法を学びたくてここに来ているらしい。魔法ならここではないのでは、と聞くと、自然を利用する4属性の魔法ではなく、不純物を取り除く魔法はここでしか学べないのだという。
浄化は聖人にしか使えないが、完全とは言えないまでも、不純物を取り除くことは、練習をすれば魔力持ちならできるはず、なのだそうだ。
確かにできる。良くないものを聖力で打ち消してしまう浄化と違い、良くないものを取り出すことには聖力は使わない。
だが、浄化を使える者にしか、そのイメージができない。だから浄化を使える者に学ぶのだそうだ。
今のダンは、例えば水から不純物を取り除こうとすると、水ごと消してしまうのだそう。
「なるほど……。水そのものがどういうものかを覚えないとできなさそうですね。それ以外を取り除くイメージ。」
「はい。それがなかなか難しいんです。まだ、存在のはっきりわかる不純物なら良いんです。砂とか塵とか。それならまだ、魔法を使った時にも感触がわかる。でも、それらを取り除くのなら、細かいフィルターをかけたほうが早いでしょう。それよりも、瘴気のような物質でないもの、これが難しいんです。でも、私は、どうしてもこれを身につけたいと思っています。」
「それはどうして?」
「私の国は、汚れた土や水で、国民が苦しんでいる。どうにかして突破口を見つけなくては、国が疲弊するばかりです。」
「浄化を頼んでは?」
「もちろん、定期的に神聖国に頼んでいます。ですが、そもそも聖人様の人数が少ないでしょう。瘴気の発生源が近いせいで、浄化していただいた側から次々に汚れてしまう。範囲も広すぎていろいろ足りていないのです。聖人様を必要としているのは我が国だけではありませんし。他の方法も試して導入できれば、と思うのです。」
なるほど。立派な方だ。
「さあ、もうお疲れでしょう。明日は大神官様がお話をと仰っておられました。おやすみください。」
「あ、長い時間、引き留めてしまってごめんなさい。おやすみなさい。」
メラニアは久しぶりのベッドで、いいえ、実家で使っていた物よりも、広くフカフカのベッドで、気持ちよく眠った。
28
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月
りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。
1話だいたい1500字くらいを想定してます。
1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。
更新は不定期。
完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。
恋愛とファンタジーの中間のような話です。
主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

ハイエルフの幼女に転生しました。
レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは
神様に転生させてもらって新しい世界で
たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく
死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。
ゆっくり書いて行きます。
感想も待っています。
はげみになります。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる