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メラニアは大聖堂で、大神官に謁見していた。
あの後、若い神官は丁寧にエスコートをして、ここまで連れて来てくれた。既に連絡がされていたようで、聖堂に着くなり大神官が出迎えてくれた。
「神官達が手荒な真似をしたようで申し訳なかったね。」
「あ……えっと……」
たっぷり髭を蓄えた、人の良さそうなおじいちゃんという感じのこの人が、大神官様のようだ。
謝ってもらえても、何と答えれば良いのかわからずに、言葉を濁してしまう。平気ではなかったので、「はい」とも「大丈夫」とも言えない。だからと言って、「本当に迷惑でした」とも言えない。許すことができるのかといえば、それも無理そうなので「いいえ」とも言えない。
こういう時に、一括して全てを含む適切な言葉があれば良いのに、と、自分の教養のなさを嘆いたが、わからないものはわからない。
「それで、アシュリー家の者だと言うのは証明できるかね?」
とおじいちゃ……大神官様が問うてきたが、そんな方法、知るわけがない。
「どうすれば証明できるのかわかりません。」
と、素直に答えた。おじい……大神官様は、ふむ、とお髭を撫でてから、
「その懐に何を持っているのかね?」
と聞いた。
懐?と、自らのみぞおち辺りに手を当てると、隠し持っていた枝を入れていたことを思い出したので、胸の隙間から手を突っ込んで、枝の入った巾着を取り出して見せた。
神官達が不快そうな顔をして見せたのがわかったが、身を証明するために必要だと言うのなら取り出すしかない。
「こちらへ。」
近くにいた神官が枝を受け取ろうと折敷というのだったと思う台をこちらへ向けてきた。
(え?渡すの?)
何か手放すことに嫌な感じがして、折敷を持った神官と、大神官様を見比べると、
「不安なら私がそちらへ見に行こう。」
と、言って立ち上がってくれた。
「なりません!大神官ともあろうお方が下に降りてはいけません!」
と、周りが制止するのを、
「これが本物なら、君達のしていることは、大変な不敬だが良いのかね?」
と、言って、来てくれた。
その姿を見て、近くに寄ることを許してもらってから、こちらから行くというかべきだったと思った。杖を使っておられる。
今からでも遅くない。少しでも歩かせないように、側の神官の横をすり抜けて、おじいちゃんの側に寄った。
「どうぞ、座って見てください。」
枝を両手に乗せて差し出すと、
「お嬢さんは優しい娘さんだの。」
と、言ってから、神官が持って来た椅子に座り、手には触れずに、私の手の上に顔を近づけて、枝をマジマジと見た。
「本物に見えるがね。」
そう言って、大神官様は懐から何かを取り出した。メラニアの持っている物とよく似た枝だった。
「これが、何か知っているかね?」
と問われ、
「いいえ。ついこの間、その、偉大なる存在に頂いたばかりなのです。」
周囲が騒つくのがわかった。
(偉大なるってなんだ……?)
(大樹とか?)
(まさか)
(こんな娘が?)
ヒソヒソと噂されるのが聞こえる。
恥ずかしい。怖い。こんな風に注目さらると、何か悪いことをしているような気分になる。
「ふむ。まあ、説明は後にしようか。これの真偽を確かめるには、ここは騒がしい。とりあえずお嬢さんの力を確かめさせてもらいたいが良いかね?」
「何、を、すれば、良いのです、か。」答えた
震える声で、やっと答えたメラニアに、大神官様は、神官に指示をして、何かを持って来させた。
「これは、瘴気に蝕まれたトネリコの苗なのだがね。」
「トネリコが瘴気に蝕まれるなんてことがあるのですか!?」
思わず大きな声を出してしまったメラニアに、大神官様はフォフォと笑ってから、
「ここに居る聖人達が、毎日聖力を注いで、かろうじて苗のカタチを保っておる。そうでなければとっくに枯れておるな。」
と、教えてくれた。そして、
「これを浄化できるかね?」
と、確かめるように聞かれたので、
「やってみます。」
と、答えた。
手に聖力を集めて、苗木を囲うように両手を添えて、両手の範囲を円に見立てて聖力で満たして……。
「今、ここでやるのかの?」
良い感じに始めていたのに、大神官が声をかけてきた。
「そういう意味かと思ったのですが。」
「いや。身を清めたり、心を落ち着かせたり、そういう準備は要らんのかの?」
「はい。大丈夫だと思います。というか、そういうことをしたことはありませんので、方法もわかりません。」
「ほう……?」
不思議そうに見つめられる。やっぱり見られると言うことは、何か恐ろしい。人と話す時は目を合わせろと良く言われるが、実際、目を合わせるのは難しいことだと、改めて思った。
「止めて悪かった。やってみせておくれ。」
「はい。」
もう一度、両手を添えて聖力を集める。範囲内を聖力で満たしたら、その濃度を保ちながら、ゆっくりと中心の苗に与えるように、聖力を動かす。
これは、手強い。いつもならこれで浄化が完了するのに、ほんの少しも瘴気が剥がれ落ちる気がしない。瘴気が中まで侵食しているのかもしない。
ならば、溶かし出す方が良いかもしれないと、両手の内の聖力をグルグルと循環させた。
良かった。溶けている。
少しずつ苗の瘴気が失われていく。
およそ5分程だろうか。
瘴気に侵された苗は、普通のトネリコの苗に戻っていた。
「なるほど。これでお嬢さんが特級の聖女であることは証明された。」
またも周囲が騒ついている。
思わず俯いてしまう。
「名は何と言うのかね?」
「メラニア……メラニア=アシュリー、です。」
「そうかアシュリーの……。これより、メラニア=アシュリーを特級聖女として扱う。敬意を持って接するように。」
そう宣言してから、
「部屋を準備させるから、今日は休むが良い。明日、枝の話をしようかの。肌身から離さないように。」
と、立ち上がって、ゾロゾロと取り巻きを連れて行ってしまった。
「どうぞこちらへ。」
ここへエスコート付きで案内してくれた神官が、手を差し出して再び誘導してくれようとするのに、素直に手を差し出してついていった。
あの後、若い神官は丁寧にエスコートをして、ここまで連れて来てくれた。既に連絡がされていたようで、聖堂に着くなり大神官が出迎えてくれた。
「神官達が手荒な真似をしたようで申し訳なかったね。」
「あ……えっと……」
たっぷり髭を蓄えた、人の良さそうなおじいちゃんという感じのこの人が、大神官様のようだ。
謝ってもらえても、何と答えれば良いのかわからずに、言葉を濁してしまう。平気ではなかったので、「はい」とも「大丈夫」とも言えない。だからと言って、「本当に迷惑でした」とも言えない。許すことができるのかといえば、それも無理そうなので「いいえ」とも言えない。
こういう時に、一括して全てを含む適切な言葉があれば良いのに、と、自分の教養のなさを嘆いたが、わからないものはわからない。
「それで、アシュリー家の者だと言うのは証明できるかね?」
とおじいちゃ……大神官様が問うてきたが、そんな方法、知るわけがない。
「どうすれば証明できるのかわかりません。」
と、素直に答えた。おじい……大神官様は、ふむ、とお髭を撫でてから、
「その懐に何を持っているのかね?」
と聞いた。
懐?と、自らのみぞおち辺りに手を当てると、隠し持っていた枝を入れていたことを思い出したので、胸の隙間から手を突っ込んで、枝の入った巾着を取り出して見せた。
神官達が不快そうな顔をして見せたのがわかったが、身を証明するために必要だと言うのなら取り出すしかない。
「こちらへ。」
近くにいた神官が枝を受け取ろうと折敷というのだったと思う台をこちらへ向けてきた。
(え?渡すの?)
何か手放すことに嫌な感じがして、折敷を持った神官と、大神官様を見比べると、
「不安なら私がそちらへ見に行こう。」
と、言って立ち上がってくれた。
「なりません!大神官ともあろうお方が下に降りてはいけません!」
と、周りが制止するのを、
「これが本物なら、君達のしていることは、大変な不敬だが良いのかね?」
と、言って、来てくれた。
その姿を見て、近くに寄ることを許してもらってから、こちらから行くというかべきだったと思った。杖を使っておられる。
今からでも遅くない。少しでも歩かせないように、側の神官の横をすり抜けて、おじいちゃんの側に寄った。
「どうぞ、座って見てください。」
枝を両手に乗せて差し出すと、
「お嬢さんは優しい娘さんだの。」
と、言ってから、神官が持って来た椅子に座り、手には触れずに、私の手の上に顔を近づけて、枝をマジマジと見た。
「本物に見えるがね。」
そう言って、大神官様は懐から何かを取り出した。メラニアの持っている物とよく似た枝だった。
「これが、何か知っているかね?」
と問われ、
「いいえ。ついこの間、その、偉大なる存在に頂いたばかりなのです。」
周囲が騒つくのがわかった。
(偉大なるってなんだ……?)
(大樹とか?)
(まさか)
(こんな娘が?)
ヒソヒソと噂されるのが聞こえる。
恥ずかしい。怖い。こんな風に注目さらると、何か悪いことをしているような気分になる。
「ふむ。まあ、説明は後にしようか。これの真偽を確かめるには、ここは騒がしい。とりあえずお嬢さんの力を確かめさせてもらいたいが良いかね?」
「何、を、すれば、良いのです、か。」答えた
震える声で、やっと答えたメラニアに、大神官様は、神官に指示をして、何かを持って来させた。
「これは、瘴気に蝕まれたトネリコの苗なのだがね。」
「トネリコが瘴気に蝕まれるなんてことがあるのですか!?」
思わず大きな声を出してしまったメラニアに、大神官様はフォフォと笑ってから、
「ここに居る聖人達が、毎日聖力を注いで、かろうじて苗のカタチを保っておる。そうでなければとっくに枯れておるな。」
と、教えてくれた。そして、
「これを浄化できるかね?」
と、確かめるように聞かれたので、
「やってみます。」
と、答えた。
手に聖力を集めて、苗木を囲うように両手を添えて、両手の範囲を円に見立てて聖力で満たして……。
「今、ここでやるのかの?」
良い感じに始めていたのに、大神官が声をかけてきた。
「そういう意味かと思ったのですが。」
「いや。身を清めたり、心を落ち着かせたり、そういう準備は要らんのかの?」
「はい。大丈夫だと思います。というか、そういうことをしたことはありませんので、方法もわかりません。」
「ほう……?」
不思議そうに見つめられる。やっぱり見られると言うことは、何か恐ろしい。人と話す時は目を合わせろと良く言われるが、実際、目を合わせるのは難しいことだと、改めて思った。
「止めて悪かった。やってみせておくれ。」
「はい。」
もう一度、両手を添えて聖力を集める。範囲内を聖力で満たしたら、その濃度を保ちながら、ゆっくりと中心の苗に与えるように、聖力を動かす。
これは、手強い。いつもならこれで浄化が完了するのに、ほんの少しも瘴気が剥がれ落ちる気がしない。瘴気が中まで侵食しているのかもしない。
ならば、溶かし出す方が良いかもしれないと、両手の内の聖力をグルグルと循環させた。
良かった。溶けている。
少しずつ苗の瘴気が失われていく。
およそ5分程だろうか。
瘴気に侵された苗は、普通のトネリコの苗に戻っていた。
「なるほど。これでお嬢さんが特級の聖女であることは証明された。」
またも周囲が騒ついている。
思わず俯いてしまう。
「名は何と言うのかね?」
「メラニア……メラニア=アシュリー、です。」
「そうかアシュリーの……。これより、メラニア=アシュリーを特級聖女として扱う。敬意を持って接するように。」
そう宣言してから、
「部屋を準備させるから、今日は休むが良い。明日、枝の話をしようかの。肌身から離さないように。」
と、立ち上がって、ゾロゾロと取り巻きを連れて行ってしまった。
「どうぞこちらへ。」
ここへエスコート付きで案内してくれた神官が、手を差し出して再び誘導してくれようとするのに、素直に手を差し出してついていった。
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