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 目覚めた時、今がいつ頃なのかわからなかった。時計を持って来れていないのだから同然と言えば当然だが。

 「お腹、すいた。」

 そういえば、婚約解消の話をした時から、何も食べていない。喉も渇いた。体感では1日くらい経っている感じがするが、本当のところはどうだろう。

 ここの小屋に簡単なお茶道具は置いてある。いつか、父と母が持ち込んだものだ。

 「魔法が使えたらお茶くらい飲めるのに。」 

 メラニアは浄化以外の魔法の使い方を知らないので、水も出せなければ火も出せない。

 「これから、どうしたらいいかな。」

 シルフィの屋敷には戻れないだろう。もしも、牢から居なくなっているのがバレていたら、見つかり次第捕まってしまう。今度は身体検査もされて、枝を取り上げられたら、もう脱出は不可能だろう。この幸運を上手く使って逃げなくては、と思った。

 「ああ、お腹が空いて、喉も渇いて、何も考えられない。」

 せめて、寝てしまう前に考えておくんだった。と後悔しても遅い。

 唯一思い当たったのは、私の生活費を出してくれている場所。神聖国。

その名前だけだった。

 神聖国。それはこの世界の全ての宗教のただ一つの聖地である。国や土地によってそれぞれ崇める神は違うものの、その全ての神は、この神聖国の崇める、最高神ビマシュラスが従える四神から派生したもので、唯一、最高神ビマシュラスを崇めることが許された国だ。

 何故なのかはわからないが、他の土地で、この最高神を崇めても、何の祝福も得られない。

 この聖地には清浄な土と水と空気があり、トネリコの木が群生していると聞く。聖人聖女はここで育まれ、派遣されたりするらしい。もしかしたら、アシュリー家の初代もここの出身なのかもしれない。

 祖母も父も、
 「何かあったら神聖国を尋ねなさい」
 と、生前に何度も言っていた。

 きっと、今が、行くべき時なのだろう。そうメラニアは結論づけた。本当はいつでも行けたはずなのだ。父が母が儚くなった時に向かうこともできた。特にシルフィに居る必要はない。

 ただ、勇気がなくて。知らない場所に行くのが怖くて。両親と暮らした家を離れるのが寂しくて。思い出も愛情も捨てることになるような気がして。だからここに居続けた。

 だがそのことが、メラニアを良いように扱われることまでならばともかく、メラニア自身を害することになるなら、無理に居続ける必要はないと思った。

 持って行けない物なら、忘れないで覚えていれば良い。家も思い出も、メラニアが不幸せなことは望まないのだから。
 
 メラニアは神聖国への道を開いた。


 
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