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 メラニアは牢に入れられた。
 
 あの後、黙っていた王妃陛下が
 「遺伝ではないならやはり譲渡、いえ、アシュリー家のものに限っては継承というべきかしら?であることは間違いなさそうだわ。王家以外に渡されてはやっかいということなら、閉じ込めておくしかないわね?」

 それに王が賛同して、
 「そうだな。致し方あるまい。部屋を用意させる。」
 と言った後は、伯父が、
 「それなら、反省を促すために、牢に入れてやってください。」
 と、言ったあと、セオドアとリリィが
 「そうよね。王命に逆らったんだもの。少しは罰を与えないと。」
 「父上、力を独り占めしたい欲に眩んだヤツには少し思い知らせるべきです。」

 と、あれよあれよと、牢行きが決まった。

 今、牢の前には伯父夫妻と神官。
 「素直に言うことを聞けばいいものを。」
 「可愛くないのよねえこの子。」
 伯父と伯母はそう言いながら、牢の中でへたり込むメラニアを見下ろしている。その伯父に神官が質問する。
 「あなたは前アシュリー侯爵の弟でしょう。力について何か知らないのですか?」

 「面目ない……ですが、私の母は、兄が婚約した後で、兄嫁に証を譲ると言っていたので、譲ることができないということはないはずです。」
 「ふむ……。前侯爵は聖人ではなかったのですか?」
 「聖人でしたよ。でも、譲られた力ではないと言っていました。種がどうとか。口惜しいですが、私にはどうも魔力が乏しくて、その辺りのことは教えてもらわなかったのです。」
 
 「魔力があることが前提ということでしょうかね。ふむ……。幸い、リリィ嬢はそこそこ魔力量はありますね。そういうことも、やはりリリィ嬢に継承を試してみるのは都合がいい。」
 
 神官はそう言ったあと、メラニアを見て、
 「君は真実を知っているのだろう?全て話してくれたら、実験のようなこともしなくて済む。大切なことだよ。話しなさい。」

 「無理、です。」

 「聖性は、本来、崇め奉られても良い力だ。神の力を独り占めすることは、神の意志に逆らうとは思うわないのかね?」
 
 「言えま、せん。」

 「では、気が変わるまでメラニア嬢にはここに居てもらいましょうか。話す気になったら出してあげるからね。できるだけ早くその気になった方が君のためだよ。」

 そう言い残して伯父夫妻と神官は去って行った。

 たかだか15歳の娘には、何処まで話して良いのかわからず、駆け引きなどできようはずもなく、ただ、沈黙を守ることしか思いつかなかった。

 恐ろしくて悲しくて、涙に濡れていると、再び伯父が憤慨してやってきた。

 「お前!馬車に何をした!」

 あ、そうだった。魔法鍵をかけたんだったわ。ほんの少し溜飲が下りて、笑いが込み上げてきた。

 「ふ、ふふ」
 
 それが特に勘に触ったのだろう。
 
 「もういい!お前はリリィに力を譲ると言うまで、食事も水も与えないからな!」

 ここは王城なのに、この人にそんな権限があるのかと不思議に思ったが、その次の言葉で息を呑んだ。

 「お前、私が本当に何も知らないと思っているのか?自然死したら種が遺るだろう?それを飲めば力が継承される。そのぐらいは知っているんだぞ!」

 ヒュッと息を呑んだことを悟られてしまった。思考が停止してしまったメラニアの様子を見て、伯父は意地悪く面白そうに、
 
 「やはりな。お前、死んでも良いぞ。」

 その言葉に衝撃を受けて、心臓が跳ねる。

 「ははは、いい気味だ。お前のことは兄の娘ってだけで気に入らなかったんだ。」
 
 そう言い残して、去っていく伯父を、ただ見送るだけしかできなかった。

 
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