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8 王城からの呼び出し

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 「遅い!すぐに登城するように伝えてあっただろう!」
 「申し訳ありません。伯父様が私の馬車を乗って行ってしまったので、門を通るのに時間がかかったのですわ。」
 「言い訳なぞできる立場だと思っているのか!?」

 予想通り顔を見るなり伯父に怒鳴られたが、そんなことより、謁見室に並んでいる顔ぶれに不信を抱く方に意識が向いた。

 王と王妃、王太子にリリィ、伯父母、ここまではわかるとして、神官?

 何故、神官がここに?

 それを不思議に思うのも一瞬、王が言葉を発したので、皆黙る。

 「さて。聖女メラニア。この度は、愚息の勝手な行動で迷惑をかける。」
 「いえ……。」
 「で。だ。非常に、言いにくいことではあるが、この度、王太子セオドアの婚約者を、このリリィ・アシュリーに変更することにする。そのことに異存はあるかね?」
 「いいえ。ありません。」
 
 「では、そなたの聖人の証を、新たな婚約者リリィに譲り渡すことについては?」
 「それは無理な話でございます。」
 「ふむ……。まあ、そうであろうな。」

 「リリィに譲ってしまえば、この力は消えてしまうでしょう。」
 「それは、純潔を失うから、ということか?」
 「そうでございます。」

 「それが良く分からない。だいたい、それなら、メラニアが嫁いでいても結果は同じではないのか?残念ながら、我が国では聖人の出番があまり必要ではないので、そこのところを詳しく記した記録がない。重要視していなかったことは遺憾ではあるが、嘆いても致し方あるまい。知らないならば知るまでだ。そのために神官に来てもらっている。どうだ?」

 「確かに、この300年、聖人はアシュリー家からの派生でしか生まれておりません。アシュリー家の聖人からの譲渡、または遺伝です。アシュリー家の聖性はアシュリー家がこの地に根を張ってからずっと遺伝しております。いえ、遺伝だと推察されてきました。アシュリー家の直系に、何かしら秘密があるのか、それともアシュリー家で受け継がれている力が特別なのかの、2つにひとつです。」

 「して、どちらだと?」
 「後者かと思われます。何故なら、前聖女……つまり、現聖女の母上は、嫁入りでアシュリー家に入っております。そして、今、メラニア嬢の帯びている力は、それを受け継いだ物、もしくは遺伝したものでしょう。となると、その力は純潔を失っても消えないものと推察されます。」

 「ふむ。噛み砕いて説明せよ。」
 「前聖女に力を譲り渡した、つまり、前々聖女は、嫁に譲り渡したということです。既に息子を産んでいるのに、力を失っていなかったことになりますから。そして、アシュリーではなかった嫁に譲り渡していることから、条件は血ではないと推察されます。」

 「なるほど。」
 
 「しかし推察です。実際、教会でもよくわからない力です。アシュリー家以外の聖人は、一時的に聖性を持つだけになることがほとんどです。稀に聖性を失う前に譲渡できた例もありますが、その発揮される力は、アシュリー家のものとは大きく差があります。もしかしたら、アシュリー家の血が必要なのかもしれません。」

 「ふむ。」

 「今回のこの婚約は、その特殊な力を王家に集中させる目的でもありました。象徴が王家外にあることは、何かと面倒事の原因にもなりますから。王家がこの象徴的な力を手に入れられれば、後の憂いが減るでしょう。」

 「そうだな。」

 「万が一を考えて、メラニア嬢には側室に上がって貰うのが良いとは思いますが、幸いリリィ嬢もアシュリーです。血に問題があるのなら、その問題はクリアできます。メラニア嬢の母君のことだけが謎として残りますが……。力の譲渡を試すのに、リリィ嬢以上に適任は居ないでしょう。」

 「して、もしも力が失われたらどうする?」
 
 「何とも言えません。ですが、現状、このシルフィ国で浄化の力はそれほど必要ではないので、ただなくなるだけ、なのではありませんか?力が王家に移ったという事実があれば、国民の信頼は得られますし。何にせよ、決めるのは王陛下かと。」

 「そうだな。」

 神官の言葉を聞いて考え込む王陛下を見てメラニアは落胆した。ダメだ。わかっていない。でも、ここで説明したら、秘密が漏れる上に、伯父家族を逆上させるかもしれない。

 この秘密を自分だけが知っているのかもしれないということに、とてつもない不安を感じて、どうしたら良いかと考えた。

 最初に考えたように譲渡した振りをして種を渡す?いや、でも、それは……。

 「ではメラニア。力を譲渡しなさい。なに、その後のそなたの処遇については悪いようにはしない。」
 
 とうとう、王命がくだされてしまった。

 「……無理です。」
 「まだ言うか!この!王命に逆らうとは何事か!」
 伯父が喚いているが、無理なものは無理だ。何を、どこまで口にして良いのかもわからなくなった。ただ、はっきりしているのは、自分の内にある種だけは、リリィには譲れない。
 
 「渡せません。これは、渡せるものではないのです。」
 「ほぉ?では、やはり、遺伝するということか?ならばメラニアに子を作らせなければならないということか?」
 
 「遺伝するようなものでもないのです。」
 「説明せよ。」

 「無理、です。」

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