聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。

彩柚月

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 ずいぶん眠ってしまっていたようだ。
 大樹の元では、時間がわからない。時計を持ってこなかったことに後悔しつつ、次に持ってくるべきなのは時計だと、心に決めて、立ち上がると、足元に小振りの枝が落ちていることに気付いた。

 いつも頂いている枝よりもずいぶん小さい。色も濃いように思う。手の平に収まるサイズで、これなら隠しポケットに入れておける。

 少し考えて、御守りにしようと思った。部屋に戻ったら、良い感じの布袋を探そうと。

 その枝と、念の為の種を一粒を持って屋敷に戻ると、既に日が高くなっていた。思った以上に大樹の元に居たようだ。

 部屋に戻るとほぼ同時に使用人が呼びにきた。
 「王城でお呼び出しのようです。支度を整えてすぐに向かうようにとのことです。」
 「わかった。支度をするわ。」
 
 「急いで登城するようにとのことですので、早急に支度をしてくださいね。」
 
 そう言うと、さっさと戻っていく使用人。急げと言うなら、ポーズだけでも、手伝うと言わない辺りが、彼等も内心、メラニアのことを下に見ているのだとわかる。

 ともかく、謁見時のドレスコードに合わせたドレス……なんてものは持っていないので、ワンピースにレースブランケットでそれらしく見せておく。お守りの枝はちょうど良い巾着を見つけたので、それに入れて胸に忍ばせた。

 「どうせ、ちゃんとしたドレスは1人では着られないしね。」

 玄関で馬車を頼むと、メラニアのために両親が作ってくれた紋章入りの馬車は、既に伯父家族が乗って行ってしまったので、伯父の馬車を準備したと言う。

 「あれは、私の馬車なのに……。」
 
 ない物は仕方がない。伯父の馬車に乗って王宮にむかった。なるほど。伯父の馬車はメラニアの物より乗り心地が悪い。私の馬車は、今後、他の人に使われないよう、魔法鍵をかけておこう、と思った。

 

 王宮の敷地は広い。大きく分けて三重の壁に囲われていて、外門は敷地をぐるっと囲っている外塀についていて、普通はここで入場の受付をする。次に中門、これ以上中になると、それなりに地位のある者や呼ばれた者しか入れない。各省庁の建物はこの辺りにあることが多い。外宮と言われることも。そして、内門。この中には王家の住居や、特に大切なお客さまの為の客室など、王との謁見室もここにある。

 壁の中にも建物ごとに門が設けられているので、一言で王宮からの呼び出しと言っても、何度も門を通ることになる。

 メラニアの馬車は、王宮出入りが許される登録紋を入れてあるので直通で内門まで入れることになっているが、伯父の馬車だとそういうわけにはいかない。いちいち止められるので、とんでもなく時間がかかる。

 このペースだと、顔を見るなり怒られるのだろうな、と思ったら、腹が立ってきた。断りもなく人の物を勝手に使っておいて、メラニアには遅いとか言って叱りつけるのだろう。

 王宮についたメラニアは、いつもは建物の玄関まで馬車で入るところを、わざと内門で案内人を頼んだ。案内人が来るのも、時間がかかる。その間に車庫に行った。

 腹立ち紛れに、イタズラ心が沸いてしまったので、自分の馬車に魔法鍵をかけた。これでメラニアにしか開けられないし、壊されることもない。彼等は帰りに泡をふくことになるだろう。

 さまぁ見たら良いのよ。と悪い心を隠して、門に行って案内人と合流、やっと呼び出された場所にたどり着くことができた。

 婚約解消の説明を受けたり求められたりするのかと思っていたので、応接室に連れて行かれるものだとばかり思っていたが、案内されたのは謁見室だった。

 臣下の礼を取り、許しが出て姿勢を直す。

 どうやら、居るのは少人数のようだ。


 

 
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