5 / 52
5
しおりを挟む猛烈に嫌な予感がした。あの口ぶりでは、象徴にすぎないと言いながら、そのブランドは重視している。閉じ込められる、と直感が告げていた。力づくで聖女の譲渡をさせられるかもしれないと思った。
本当に大切な物や聖人に関することは、既に大樹の元に運んであったが、自由を奪われた時の準備をしなければと思った。
今でも、必要以上に外出はできないので、自由とは言い難いが、それでもまだ、屋敷の敷地内は歩けるし、手足も拘束されていない。
考えすぎかもしれないが、そうなるかもしれない予感がした。少しでも逃げる準備をしておいた方が良いと思った。
部屋に戻ったメラニアは、あるだけの鞄を出して、動きやすい服や日常的に使う道具を片っ端から詰めて、大樹の小屋に持って行った。
ふと思いついて、食器や調理器具もあった方が良いかもと、調理室へ行こうとしたところで、伯父の使いに捕まった。
「ご主人様がお呼びです。」
「え、ええ。わかったわ。すぐに行くと伝えてちょうだい。」
「このままお連れするようにと、言いつかっております。」
仕方なくついて行った。
「婚約を解消すると書類が届いているが?」
案の定、この話だった。仕事なんてないはずなのに、執務室という名の部屋で、メラニアは立たされている。
それにしても仕事が早いのね。その話をされて真っ直ぐ帰ってきたのに。
「はい。今日、言い渡されました。」
「何を冷静に言ってるんだ!毎月支給される金がなくなるではないか!申し訳ないとは思わないのか!?」
「何故ですか?それは、私に支給されているお金ですよね。伯父様には関係ないと思います。」
使い込んでいることは知っているが、チクッと嫌味を言ってしまった。
「お前は……!あれは、お前の身だしなみを整えるために使うよう支給されているんだ!私達がお前の身の周りを整えているんだから、私達がその金を使うのは当然だろう!」
どういう理屈だろう。だいたい、この人達だって、子爵なのだから、自分達の収入はきちんとあるはずなのに。
「でも、これからは、気にせず使えるんじゃありませんか?だって、」
「お父様ー」
と、ノックもせずに入ってくるのはリリィと伯母。
「あら、いたの。」
リリィは勝ち誇ったようにメラニアを見遣ってから伯父に嬉しそうに言う。
「私、王太子の婚約者になるわ。」
リリィのすぐ横で、伯母もニコニコと嬉しそうだ。この人は、普段から、メラニアのことを存在ごと無視する。今も伯母の目にはメラニアは入っていないような素振りで、リリィと共にソファに座る。
「どういうことだ?」
と、伯父もリリィ達の向かいに座る。
メラニアは立たされたままだ。
「セオがね。メラニアと婚約の解消をして、私と婚約するって言ってくれたの。」
「確かにリリィとの解消書類は届いているが。」
「本当?セオったら早く私と婚約したいのね。仕事が早いわ。」
「ふむ。だが、リリィとの婚約の書類は届いていないのだが、」
「それはあなた。婚約は解消が通らなくては新しく結べませんもの。私のリリィはやっぱり可愛いわ。王太子が見初めるのも当然ね。」
「なるほど、それもそうか。」
「ならさっさとサインしてしまおう。おい!」
やっと声がかかった。立たされたままで居ることにそろそろ疲れていたので助かった。ガサゴソと書類を改めてから、メラニアにサインを促す。
「ここと、ここだ。そう。これでお前と王太子の婚約はなくなる。」
部屋を出て行こうとしたメラニアに、
「ああ、それから、これからは王室からの支給金はお前宛てではなくなるから、服や道具はもう買わんからな。」
「それがなくなっても、宮内庁から支払われている私の生活費があるはずでは?」
「あれは、お前の食い扶持だけでなくなる。この屋敷を維持するのにも金がかかるからな。残りは後見をしている私への報酬だ。」
——ほとんど報酬として抜いているんでしょうに。
心の中でそう思いながら、部屋を後にした。
12
お気に入りに追加
90
あなたにおすすめの小説

『忘れられた公爵家』の令嬢がその美貌を存分に発揮した3ヶ月
りょう。
ファンタジー
貴族達の中で『忘れられた公爵家』と言われるハイトランデ公爵家の娘セスティーナは、とんでもない美貌の持ち主だった。
1話だいたい1500字くらいを想定してます。
1話ごとにスポットが当たる場面が変わります。
更新は不定期。
完成後に完全修正した内容を小説家になろうに投稿予定です。
恋愛とファンタジーの中間のような話です。
主人公ががっつり恋愛をする話ではありませんのでご注意ください。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。

ハイエルフの幼女に転生しました。
レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは
神様に転生させてもらって新しい世界で
たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく
死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。
ゆっくり書いて行きます。
感想も待っています。
はげみになります。

妹が聖女の再来と呼ばれているようです
田尾風香
ファンタジー
ダンジョンのある辺境の地で回復術士として働いていたけど、父に呼び戻されてモンテリーノ学校に入学した。そこには、私の婚約者であるファルター殿下と、腹違いの妹であるピーアがいたんだけど。
「マレン・メクレンブルク! 貴様とは婚約破棄する!」
どうやらファルター殿下は、"低能"と呼ばれている私じゃなく、"聖女の再来"とまで呼ばれるくらいに成績の良い妹と婚約したいらしい。
それは別に構わない。国王陛下の裁定で無事に婚約破棄が成った直後、私に婚約を申し込んできたのは、辺境の地で一緒だったハインリヒ様だった。
戸惑う日々を送る私を余所に、事件が起こる。――学校に、ダンジョンが出現したのだった。
更新は不定期です。

私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシャリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった
今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。
しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。
それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。
一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。
しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。
加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。
レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる