上 下
4 / 52

4 婚約解消

しおりを挟む

 「婚約はこのリリィとするよ。君とは婚約の解消をする。」

 婚約者との定例の交流に訪れたメラニアは、何故かリリィを伴いやってきて、座るなりそう言った王太子のセオドアの言葉に面食らった。

 「何のお話ですか。」
 「だから。このリリィと婚約するんだ。」

 「ごめんなさいねえ。だって、メラニアったら学校に来ないんだもの。その間に気を使って王子様と仲良くしてたら、愛してしまったの。」
 「私もリリィを愛しているよ。」
 「そういうわけだから、潔く身を引いてくれるわよねメラニア?」

 王太子に特別な感情を持ってるわけではなかった。でも、こんなふうに切り捨てられるような立場ではなかったはずだ。

 「婚約の解消に同意はできません。」
 「あらやだ。みっともなく縋り付くの?愛されていないのに惨めよ?」
 「そんなんじゃありません。この婚約は、王家とアシュリーの聖人を結ぶものであったはずです。」

 「別に良いじゃない。私もアシュリーだもの。」
 「リリィは聖女ではないわ。」
 「そんなの。メラニアが私に譲れば良いだけじゃない。」
 「リリィには無理よ。」
 「またそうやって。セオ聞いた?こうやっていつも私をバカにして虐めるのよ。」

 ——「セオ」と愛称で呼んでいる。私の知らない間にどれほど親密になっているのかしら。もしかして、もう体の関係も持っていたりして?——

 「ああ。話に聞いただけでは、まさかと思ったが。メラニアは聖女とは程遠い意地の悪いヤツだったんだな。」
 「なんてことを言うのですか。リリィには無理だから無理と言っているだけです。」
 「譲渡制なのだから、譲れば良いだけだろう?」
 「譲っても、力は消えてしまいます。」
 
 「そんなのやってみなくちゃわからないじゃない。」
 「いや。消えるんだよ。リリィ。」
 「え?セオまで私をバカにするの?」
 「違うよ。私が君を愛しているからだよ。」

 2人は体を密着させながら、メラニアなど居ないように話している。メラニアがリリィを虐めているようにセオドアに話していたのね。

 「聖女は純潔が条件だからね。君を純潔のままでいさせるなんて、私にできると思うかい?」
 「もう、やだ。セオったら。」

 イチャイチャと。だんだん腹が立ってきた。

 「でも、そうね。純潔を失ったら聖女でなくなるのなら、このままメラニアに聖女で居させれば良いってことね。セオったら頭良い。」

 「だろ?どうせ、メラニアと婚姻したところで、初夜を終えたら力はなくなってしまうんだから、しない方が良いと思っていたんだ。まあ、遺伝するみたいだけど、子供ができるまで聖人不在というのもな。」

 「あら。じゃあ、私は都合よくそこに居た女ってわけ?」
 「まさか。君を愛さずにはいられないよ。」

 何を見せられているのだろう。とメラニアは思った。王太子の婚約者という立場がメラニアを守っていたのは確かで、その立場を失うのは痛い。どうすれば引き止められる?立場を守るにはどうしたら。

 「私がいなくなったら次代の聖人は生まれません。」
 「まあメラニアったら。別にメラニアが譲渡しなくても、いずれ何処かで自然発生するのよ。」
 「そのことだけどね。」
 と、セオドアが持論を展開する。

 「確かに、たかだか象徴的な存在とはいえ、聖人は極端に生まれる確率が低い。アシュリー家に遺伝されている聖人の血を失って、新たな聖人を捜索する労力を考えると、非常に面倒なんだ。リリィからまた聖人が生まれるかもしれないが、不確定なことを期待するわけにもいかない。だから、メラニアには私の側室として居てもらうよ。」
 
 「ええー?愛しているのは私だけじゃなくちゃ嫌よ?」
 とリリィが言う。
 「うん。どうせ純潔を失えば聖女ではなくなる。だから、もちろん処女のままでね。幸い君達は家族だし、正妃の座をリリィに託して聖女の任に専念するとでもメラニアの口から言えば丸く収まる。メラニアも王家の庇護下にいれば、手を出される危険もなくなって聖女を続けられるのだから皆幸せだろう?」

 「やっぱり、セオって頭良い!」
 「だろ?良い考えだよな。そして、私とリリィの子供にメラニアが聖女を継承すれば、何もかも上手くいく。」
 
 何故、上手くいくと考えるのかがわからないが、王家の人間までもが、聖人のことについて理解していないとは思わなかった。王家全体でこの認識なのだろうか?まさか、神殿も?

 「良いわよねメラニア。そうしましょ。」
 
 リリアの声で我に返ったメラニアは、

 「お断りします。でも婚約解消のことは承りました。」
 とだけ言って、席を立った。

 後ろから
 「待て!」
 「王太子の命令に逆らうのか!」
 「お父様とお母様に言いつけるわよ!」

 とか聞こえてきたけど、それどころではない。国家にも聖女のことが誤解されているなら、大変な事態だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

人見知り転生させられて魔法薬作りはじめました…

雪見だいふく
ファンタジー
 私は大学からの帰り道に突然意識を失ってしまったらしい。  目覚めると 「異世界に行って楽しんできて!」と言われ訳も分からないまま強制的に転生させられる。 ちょっと待って下さい。私重度の人見知りですよ?あだ名失神姫だったんですよ??そんな奴には無理です!!     しかし神様は人でなし…もう戻れないそうです…私これからどうなるんでしょう?  頑張って生きていこうと思ったのに…色んなことに巻き込まれるんですが…新手の呪いかなにかですか?   これは3歩進んで4歩下がりたい主人公が騒動に巻き込まれ、時には自ら首を突っ込んでいく3歩進んで2歩下がる物語。 ♪♪   注意!最初は主人公に対して憤りを感じられるかもしれませんが、主人公がそうなってしまっている理由も、投稿で明らかになっていきますので、是非ご覧下さいませ。 ♪♪ 小説初投稿です。 この小説を見つけて下さり、本当にありがとうございます。 至らないところだらけですが、楽しんで頂けると嬉しいです。 完結目指して頑張って参ります

薬屋の少女と迷子の精霊〜私にだけ見える精霊は最強のパートナーです〜

蒼井美紗
ファンタジー
孤児院で代わり映えのない毎日を過ごしていたレイラの下に、突如飛び込んできたのが精霊であるフェリスだった。人間は精霊を見ることも話すこともできないのに、レイラには何故かフェリスのことが見え、二人はすぐに意気投合して仲良くなる。 レイラが働く薬屋の店主、ヴァレリアにもフェリスのことは秘密にしていたが、レイラの危機にフェリスが力を行使したことでその存在がバレてしまい…… 精霊が見えるという特殊能力を持った少女と、そんなレイラのことが大好きなちょっと訳あり迷子の精霊が送る、薬屋での異世界お仕事ファンタジーです。 ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

王女の夢見た世界への旅路

ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。 無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。 王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。 これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。 ※小説家になろう様にも投稿しています。

種から始める生産チート~なんでも実る世界樹を手に入れたけど、ホントに何でも実ったんですが!?(旧題:世界樹の王)

十一屋 翠
ファンタジー
とある冒険で大怪我を負った冒険者セイルは、パーティ引退を強制されてしまう。 そんな彼に残されたのは、ダンジョンで見つけたたった一つの木の実だけ。 だがこれこそが、ありとあらゆるものを生み出す世界樹の種だったのだ。 世界樹から現れた幼き聖霊はセイルを自らの主と認めると、この世のあらゆるものを実らせ、彼に様々な恩恵を与えるのだった。 お腹が空けばお肉を実らせ、生活の為にと家具を生み、更に敵が襲ってきたら大量の仲間まで!? これは世界樹に愛された男が、文字通り全てを手に入れる幸せな物語。 この作品は小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

処理中です...