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4 婚約解消
しおりを挟む「婚約はこのリリィとするよ。君とは婚約の解消をする。」
婚約者との定例の交流に訪れたメラニアは、何故かリリィを伴いやってきて、座るなりそう言った王太子のセオドアの言葉に面食らった。
「何のお話ですか。」
「だから。このリリィと婚約するんだ。」
「ごめんなさいねえ。だって、メラニアったら学校に来ないんだもの。その間に気を使って王子様と仲良くしてたら、愛してしまったの。」
「私もリリィを愛しているよ。」
「そういうわけだから、潔く身を引いてくれるわよねメラニア?」
王太子に特別な感情を持ってるわけではなかった。でも、こんなふうに切り捨てられるような立場ではなかったはずだ。
「婚約の解消に同意はできません。」
「あらやだ。みっともなく縋り付くの?愛されていないのに惨めよ?」
「そんなんじゃありません。この婚約は、王家とアシュリーの聖人を結ぶものであったはずです。」
「別に良いじゃない。私もアシュリーだもの。」
「リリィは聖女ではないわ。」
「そんなの。メラニアが私に譲れば良いだけじゃない。」
「リリィには無理よ。」
「またそうやって。セオ聞いた?こうやっていつも私をバカにして虐めるのよ。」
——「セオ」と愛称で呼んでいる。私の知らない間にどれほど親密になっているのかしら。もしかして、もう体の関係も持っていたりして?——
「ああ。話に聞いただけでは、まさかと思ったが。メラニアは聖女とは程遠い意地の悪いヤツだったんだな。」
「なんてことを言うのですか。リリィには無理だから無理と言っているだけです。」
「譲渡制なのだから、譲れば良いだけだろう?」
「譲っても、力は消えてしまいます。」
「そんなのやってみなくちゃわからないじゃない。」
「いや。消えるんだよ。リリィ。」
「え?セオまで私をバカにするの?」
「違うよ。私が君を愛しているからだよ。」
2人は体を密着させながら、メラニアなど居ないように話している。メラニアがリリィを虐めているようにセオドアに話していたのね。
「聖女は純潔が条件だからね。君を純潔のままでいさせるなんて、私にできると思うかい?」
「もう、やだ。セオったら。」
イチャイチャと。だんだん腹が立ってきた。
「でも、そうね。純潔を失ったら聖女でなくなるのなら、このままメラニアに聖女で居させれば良いってことね。セオったら頭良い。」
「だろ?どうせ、メラニアと婚姻したところで、初夜を終えたら力はなくなってしまうんだから、しない方が良いと思っていたんだ。まあ、遺伝するみたいだけど、子供ができるまで聖人不在というのもな。」
「あら。じゃあ、私は都合よくそこに居た女ってわけ?」
「まさか。君を愛さずにはいられないよ。」
何を見せられているのだろう。とメラニアは思った。王太子の婚約者という立場がメラニアを守っていたのは確かで、その立場を失うのは痛い。どうすれば引き止められる?立場を守るにはどうしたら。
「私がいなくなったら次代の聖人は生まれません。」
「まあメラニアったら。別にメラニアが譲渡しなくても、いずれ何処かで自然発生するのよ。」
「そのことだけどね。」
と、セオドアが持論を展開する。
「確かに、たかだか象徴的な存在とはいえ、聖人は極端に生まれる確率が低い。アシュリー家に遺伝されている聖人の血を失って、新たな聖人を捜索する労力を考えると、非常に面倒なんだ。リリィからまた聖人が生まれるかもしれないが、不確定なことを期待するわけにもいかない。だから、メラニアには私の側室として居てもらうよ。」
「ええー?愛しているのは私だけじゃなくちゃ嫌よ?」
とリリィが言う。
「うん。どうせ純潔を失えば聖女ではなくなる。だから、もちろん処女のままでね。幸い君達は家族だし、正妃の座をリリィに託して聖女の任に専念するとでもメラニアの口から言えば丸く収まる。メラニアも王家の庇護下にいれば、手を出される危険もなくなって聖女を続けられるのだから皆幸せだろう?」
「やっぱり、セオって頭良い!」
「だろ?良い考えだよな。そして、私とリリィの子供にメラニアが聖女を継承すれば、何もかも上手くいく。」
何故、上手くいくと考えるのかがわからないが、王家の人間までもが、聖人のことについて理解していないとは思わなかった。王家全体でこの認識なのだろうか?まさか、神殿も?
「良いわよねメラニア。そうしましょ。」
リリアの声で我に返ったメラニアは、
「お断りします。でも婚約解消のことは承りました。」
とだけ言って、席を立った。
後ろから
「待て!」
「王太子の命令に逆らうのか!」
「お父様とお母様に言いつけるわよ!」
とか聞こえてきたけど、それどころではない。国家にも聖女のことが誤解されているなら、大変な事態だ。
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