34 / 42
◆狂弟 -きょうだい-
しおりを挟む性格が歪んだ不良兄受け
柚野 百千(ゆずの ももち)
優等生弟攻め
柚野 億一(ゆずの おくいち)
◇◇◇
俺は、あいつよりも劣っている。
それは十分に自覚しているつもりだ。
俺には持っていないものをあいつは持っている。誰からでも愛されているあいつ。全部持っているくせに何が不満なんだ。
親も友人も恋人も、全部あいつに奪われた。心の底から憎い。俺のことが嫌いなら放っておけよ。こっちだって、昔から何もかも愛されている弟が嫌いだ。
みんな、あんな奴のどこがいいんだ。仮面をかぶった優等生の顔。俺は知っている。お前がとてつもなく性格が最悪なことを。
小さい頃の話。
『ももちにいちゃん、大好き』
『俺はお前なんか嫌いだ』
そう言ったら、すぐ泣く弟。
『また、百千は億ちゃんを泣かせて!』
と親に怒られる。そうだ、いつも俺が悪者扱い。本当のことを言っただけなのに。だって、俺がせっかくできた友達の大切なおもちゃをこいつは壊して俺のせいにした。そりゃあ嫌いにもなる。誰も俺の話なんか聞かない。弟の言ったことを信じる。親に怒られている俺を見て、奴は泣いているフリをしながら、俺を見てニヤリと笑っていた。
それを見た時、心底嫌いになった。
そして高校生になった現在でも続いている。
「おはよう、ももち」
「・・・」
一番見たくない顔を朝起きた時に見るなんて最悪だ。わざわざ起こしに来るな。ドアの鍵をかけて寝たはずなのに、なぜいつも平然な顔して当たり前のように入ってくるんだ。
弟の名前は億一。俺の名前は百千。名前の数でも負けている。そこも気に食わない。
歳は俺が1コ上。昔は『ももちにいちゃん』なんて呼ばれていたが、今は下に見えているのか呼び捨てだ。
「ももちのこのプラチナブロンドの髪色、綺麗でいいね。とても似合っている」
「きも。触んな」
人の髪をいじくりまわす億一の手を払う。こんなに嫌っているのに、近づいてくるので本当迷惑だ。それから俺は話しかけてくる弟を無視して、制服に着替えて部屋を出た。弟を俺についていくように、一緒に部屋出る。
「百千また髪色明るくなって!」
「うるせ、ババア」
「相変わらず、口が悪いわね。少しは億ちゃんを見習いなさい。まったく…なんでこうも違うのかしら」
俺を見て呆れた母親。
「母さん、ももちはね、こう見えてすっごく可愛いんだよ。パンツの柄がクマだった」
こいつッ!
全然フォローするつもりない。つか、さっき着替えている時に見やがったな。別に何をはいていようが勝手だろうが。
「億ちゃんは優しいわね。まぁ3年前に買ってあげたものを大事に使っているのはいいことだけど、母親に対する態度がなっていないのよね」
ここから早く出て行きたい。高校卒業したら絶対、この家から、この家族からおさらばするつもりだ。もう少しの辛抱だ。
優等生の弟。不良の兄。両親も弟には甘くなる。弟の億一は学校でも人気者だ。陰で俺は出来損ないの兄だと言われる。
中学で初めてできた彼女もこいつに奪われた。
『私、実は億一くんが好きなの』と一方的に振られた。言いたくないが弟はもっとレベルの高い学校に進学できたはずなのに残念ながら、よりにもよって俺と同じ学校に通いやがった。理由は『通学に便利だから』というものだった。
家でもあんな奴の顔見るのが嫌なのに学校でも見ないといけないとか最悪だ。俺は弟に奪われるのが怖かった。だから、もう一人でいる方がマシだと思い、学校では一匹狼。髪を派手に染め、誰も近づけないような雰囲気を出している。校則はとくに厳しくない学校なので大丈夫。ゆるい方だ。あと、こんな見た目だが授業は真面目に聞いている。なので、成績も悪くない。
「ももちいる?」
昼休み。女子が騒めき出した声が聞こえたと思ったら、一番見たくない顔がクラスに現れた。普通、兄の教室に来るか?頭がおかしい。最悪だ。バレないように早く逃げよう。俺はすぐに席を立ち、教室を出た。
だけど、秒殺で見つかった。
「あ、ももち待ってよ」
「ついてくんな」
「じゃあ、こっち向いて」
奴は俺の腕を掴んだ。
「触るな!」
嫌がっている俺をよそに億一はそれでもかってくらい力を込め離さない。涼しい顔してむかつく。
「はい、これ弁当。一緒に食べよう」
「いらねぇし、お前なんかと食いたくねぇ」
飯がまずくなる。
「本当つれないな。ツンツンしちゃって…まぁそこも可愛いけど」
「気持ち悪いこと言うな。あと、何度も言うが教室に来るな」
前から言っているのにいうことを聞かない。
「それは無理だよ。ももちが心配なんだから」
「それ迷惑だから。本当、お前なんか嫌いだ」
同じ空気を吸いたくない。
「なんで…そんなこと言うの。僕はももちしか見ていないのに酷いよ」
また俺が悪者扱い。
「お前のそういうとこ、マジ無理だから。離せよ」
手を振り払って、俺はそのまま歩き出した。
「こんなに優しくしているのに…、ももちを振り向かせるには優しくしなきゃ…いいの?」
後ろで俺を見つめる弟の目は歪んでいたとは知らない。
「…うっ!や、めろ」
なぜこうなる?弟は完全におかしくなった。ある日突然、俺を殴ったり、蹴ったりと暴力を振るうようになった。
「はは、やっとこっちを向いてくれた。最初からこうしていればよかったのかな?ふふ…ももちが悪いんだよ?あ、血が出ちゃったね」
「んんっ!」
口の端の血を拭うかのように、キスをしてきた。弟は狂っている。
「ももち、ももち、ももち。すっごく可愛い。大好き、大好きだよ」
そして、狂ったかのように俺の名前を呼びながら何度も犯された。
兄弟で男同士なのにこんなのおかしい。
弟から逃げたい。
【完】
32
お気に入りに追加
699
あなたにおすすめの小説
ヤンデレだらけの短編集
八
BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。
全8話。1日1話更新(20時)。
□ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡
□ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生
□アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫
□ラベンダー:希死念慮不良とおバカ
□デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち
ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。
普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。
山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。
お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。
サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
食欲と快楽に流される僕が毎夜幼馴染くんによしよし甘やかされる
八
BL
食べ物やインキュバスの誘惑に釣られるお馬鹿がなんやかんや学園の事件に巻き込まれながら結局優しい幼馴染によしよし甘やかされる話。
□食い意地お馬鹿主人公受け、溺愛甘やかし幼馴染攻め(メイン)
□一途健気不良受け、執着先輩攻め(脇カプ)
pixivにも投稿しています。
嫌われ者の僕
みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈学園イチの嫌われ者が総愛される話。嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。
※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。改行多めで読みにくいかもです。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる