嫌われ者の僕

みるきぃ

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もしもの話

天山神影×佐藤あおい ③

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【あおいside】




「何、俺の手をなれなれしく触ってんの」

神影からの言葉が重く突き刺さった。


「ご、ごめんなさい…」


僕は、嫌そうな神影の顔を見てすぐに手を離した。




「ちょっと、神影!それは正気なの?なんてことあおいちゃんに言うのよ!!」


「知らねぇもんは知れねぇし」


神影は光姫さんにそう言って僕を見てキツく睨んだ。僕は怖くなってすぐに視線を逸らした。…心が痛い。

もしかして、僕を覚えていない…?神影は強く頭を打ったと聞いていた。


後から話を聞くと、神影は僕だけ忘れていた。他は覚えているみたいだった。






「ごめんね、あおいちゃん…」


病室から出て光姫さんにそう言われた。


「し、仕方ないですよ。目を覚ましてくれただけで僕は…っ」


それだけでも十分なのに涙が溢れて止まらない。僕より、痛い思いをしたのは神影なのに。…だけど、大好きな人に覚えられていなくて想像以上に悲しかった。



「あおいちゃん…っ」

光姫さんは僕が泣き止むまでそばにいてくれた。







神影が目を覚まして一週間が経った。僕はあの日以来お見舞いに行けてない。怖かった。どんな顔して神影に会えばいいのかわからない。


なんでこんなに僕は弱虫なんだ。自分が傷つきたくないからって逃げてばかりだ。だけど、神影のこと諦めたくない。

そう思って花束を買ってまた神影のいる病室の前で来た。ごくりと息をのみ、病室をノックし意を決してドアを開けた。



「し、失礼します…」


本を読んでいる神影がいた。僕が入ってきたことに気付くと、


「…お前また来たのかよ」


と露骨に嫌そうな顔をして読んでいた本を閉じた。



「ご、ごめんね。でもどうしても神影に会いたくて…」



「会いたくてってお前ストーカーかよ。気持ち悪」



大好きな人からの言葉はまっすぐに胸にくる。これくらいで泣いちゃだめだ。


「はは…、ぼ、僕、神影に元気になってほしくて…、このお守り受け取ってほしい」


ポケットからお守りを出した。いっぱい他にもお守り買ったけど、一つだけ今日は持ってきた。願掛けだけど、こうやってまた話せることが嬉しいから。



「いらねーよ。知らない奴のなんか」


「そ、そうだけど、でも渡したい」


そっとテーブルの上にお守りを置いた。記憶のない神影からしたら迷惑だと思うけど、今までの思い出だけは忘れてほしくなかった。多分、それは僕のわがまま。


「す、捨てても全然構わないよ。あ、あとこれ花束」



本当は捨ててほしくなんかない。そしてさっき買ったばかりの花束を渡した。



すると神影は花束を見て、急に頭を抱えた。




「頭いてぇ…」

「み、神影?大丈夫?」


駆け寄るが、すぐに突き放された。僕はその反動で壁に背中を打った。




「お前出ていけよ。そういうのうざいんだよ!!」


僕がしていることによって、神影を苦しめている。



「お前の顔なんか二度と見たくねぇ」


「ご、ごめんなさい…。か、帰るね!」


…泣いちゃう。今帰らないと泣いちゃう。僕はそのまま走って病室から出た。


反省した。今、神影は重要な時期なのに。嫌な思いをさせちゃった。なにが神影を元気にしたいだよ。結局、僕の自己満足じゃないか…。




それから数週間が経ち、神影が退院したと聞いた。学校では神影の話でもちきりだった。


良かった…、退院できたんだ。少しほっとしている僕と反対に、寂しい気持ちにもなった。


神影は生徒会長で誰からも慕われる存在。遠くの存在。元から僕と住む世界が違う人間だった。神影ともう一度最初からでもやり直したいなんて欲張りなことを考えている自分に嫌気がした。


『お前の顔なんか二度と見たくねぇ』神影に言われたこの言葉が頭から離れず僕を縛った。学校でもばったり神影と遭遇しないように好きだった図書館には行かず教室にいることが多くなった。


この日、移動教室があり、僕は油断していた。




廊下を曲がる時に誰かとぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさい。前を見てなくて…」


「お前…」

「神影大丈夫~?」


顔を上げるとそこには神影と女の人がいた。女の人は神影の腕に手を回して密着していた。

それを見てまた胸が痛むが平然を装った。


「よ、良かった。た、退院できたんだね」


「え~、なに知り合い?」


「違う。俺のストーカー」


「ストーカー?神影、可哀想~」




「…っ」


だめだ。心がもたない。


僕は軽く頭を下げ、そこから逃げるように走った。







もう戻れないのかな…。




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