嫌われ者の僕

みるきぃ

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完璧な幼なじみ

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【あおいside】


カンッ!と音が鳴り、その強い衝撃で地面に横たわり、ゆうの額から血が流れた。




「ゆうっ…!!」


僕はただ見てることしかできなくて二人を止めることができなかった。

こんなの…こんなの…嫌だよ。ぽろぽろと涙が流れる。すぐさま持っていたハンカチをゆうの額に当てる。



「どうしよう、血が止まらない…っ」


ハンカチがすぐに赤く染まる。嫌だ、


「あおい…俺は大丈夫だよ」


うっすらと、ゆうは目を開けそう言った。僕は、涙しか出てこなかった。




「あおいこれで悪者がいなくなったぞ!」


横でパァッと笑顔を見せる花園くんだったがその声が届かないくらい僕はパニックになっていた。





真っ赤に染まるハンカチ。

額を必死に押さえ続ける。




あおい…と微かな声で言ったと思ったらゆっくりと、ゆうが目を閉じた。




「…ゆ、ゆう?」


嫌だ!僕はゆうに抱きつき泣き続けた。



「どうしてそんな奴のこと庇うの…。やっと邪魔者は消したのに!!!」


花園くんの叫び声とともにすぐに警備の人達がやってきた。



「俺は悪くないぞ!!離せよ!!」


花園くんが警備の人に押さえつけられ、ゆうはすぐに救急車で運ばれた。

…僕のせいだ。ゆうが怪我したのも全部。





──────
─────────
─────────────

……。




あれから何日経ったか覚えていない。夏休みというの時間はいつも短いと感じていたけど、とても長く感じる。


病院には毎日お見舞いに来たが面会できるような状況ではないと言われた。


お願い…ゆうをどうか助けて、と神頼みしか僕には何もできなかった。ゆうのお母さんにも何度も謝ったが『あおいくんのせいじゃないよ』と言ってくれた。


…僕はあの場にいながら何もできなかった。




数日経って、ゆうは意識が戻った。バイタルも安定し、無事に退院したと話を聞いた。


僕はゆうに申し訳なくて顔を見せれなかった。図々しいとか思われたらショックで死にそうだ…。僕は何ともなくてゆうは痛い目に合ったんだ。きっと僕の顔を見るとあの時のこと思い出して嫌な思いさせたくない。



「あおい?…ゆうくんが来てるわよ」


僕の部屋のドアの前でお母さんがそう言った。…怖い。今、ゆうに会うのが怖い。

ずっと、僕は家で自分の部屋に閉じこもり部屋の隅で体育座りをして体を丸くし頭から布団を被っていた。

僕はやっぱり周りを不幸にする。もう誰にも会いたくない。ゆうをあんな目に合わせてしまったのも僕。もう…消えたい。

涙は枯れるって聞くけど、全然、止まらないじゃないか。



すると、コンコンとドアがノックされガチャっと開いた。そして、誰か入ってくる足音がした。



「あおい…?」


優しい声、僕が大好きな声。





「そこにいるの?」


ゆうの声だ。





だんだん近づいてくる。…どうしよう、ゆうに合わせる顔がない。僕はぎゅっと布団を握りしめ隠れる。



「ごめんね勝手に入ってきちゃって」


布団を被って見えないが、気配でゆうが僕の前にいることがわかった。もっと上手く隠れていれば、良かったと後悔する。



「あおい…」



「…っ」



優しい声に甘えたくなる。

僕の悪いところ。








「心配させてごめんね」


ゆうはそう言って、布団の上から僕を抱きしめた。ビクッと驚いてしまう。



「そのまま、聞いて欲しい」


優しい声。そして、優しく僕を抱きしめる。



あぁ、…ダメだ、また、涙が出てくる。




「あおい、震えてる。…怖かったよね」


僕なんか放っておいてもいいのに、こうやって優しくしてくれる。怖かったのは、きっと僕よりもゆうの方が大きい。



「あおいがこうなってるの俺のせいだよね」

申し訳なさそうに言うゆう。…違う。ゆうのせいなんかじゃない。僕がゆうを傷つけたから悪いのに。そうゆうに伝えたいけど、臆病な僕は合わせる顔がなくてこうやって布団に閉じこもるしかない。…情けない。



「俺ね。あおいが隣にいなきゃ死にそうだよ」



「…っ」


それに僕なんかゆうの隣にいることすら相応しくないのにそう言ってくれる。


僕の方が、ゆうの隣にいなきゃ全然ダメダメな人間。さっきから涙が止まらない。



「っ…ヒク」


「泣いてるの?ごめんね。これあげるね」


ゆうはそう言って僕が被っている布団を上にあげた。光が差し、眩しくなる。目の前にはゆうの顔。僕はすぐに目をそらす。


ゆうには、嫌われたくない。こんな僕なんか見たらきっと嫌になるに決まってる。




「…こんなに目を赤くして、ごめんね」


僕の涙を拭う。なんで、ゆうが謝るの…?何も悪いことしてないのに。





「あおい。俺を見て」


両頬をゆうの手によって挟まれ、ゆっくりと言われた通りに見た。




「…良かった」


ホッとしたようにゆうが笑顔を見せた。






「…っ、ゆうっ」



たまらず、ゆうの名前を呼んだ。




「おいで」

ゆうは優しく微笑んで手を広げた。



今すぐにでも飛び付きたくなる。けどそんな資格、僕にはない。すると、躊躇う僕にゆうから抱きしめてくれた。



「…あおいは温かいね」


抱きしめながら安心するように僕の背中を摩る。


「覚えてる?小さい頃、ここで初めて会ったのこと」


懐かしいな…と言葉をもらす。

記憶は曖昧だけど、覚えてる。あの時は驚いた。眠って起きたら知らない男の子がいたから。



「あおいの部屋に入るたびに、あの時、クマのぬいぐるみを抱きしめて泣くのを我慢しているのを思い出すんだ」


そんなこともあったと恥ずかしくなってくる。



「出会った瞬間からあおいは俺の中でとても大切な存在なんだ」




「…っ」




「ずるいよね。こんな優しくて良い子を俺なんかが独り占めにするなんて」


だから、罰があたったのかもと笑いながら言う。



「…っ、違うよ」


罰があたったんじゃない。ゆうが怪我したのは僕のせいなんだ。僕なんか全然良い子じゃない。勇気のない弱虫。誰かの手を借りないと何もできないクズ。それにずるいのは僕の方だ。

何をやっても完璧なゆうに甘えて小さい頃から独占してきた。

僕が出来損ないだったからゆうに沢山迷惑かけたし…いっぱい遊んでくれてゆうの時間を使ってしまった。今更、そう思っても取り返しのつかないことだ。



「…ゆう、ごめんなさいっ、痛い思いさせてごめん…なさい」


周りを傷つけたくないのにいつも上手くいかない。だから、ゆうに会うのもこれで最後にしたい。僕はそう思った。



「どうして謝るの?あおいは何も悪くないよ」



「僕が…あの時花園くんといたから…ゆうが怪我して」



血が止まらなくなって怖かった。夢で何回もフラッシュバックし思い出していた。また、怖くなって体が震えてくる。そんな僕に、ゆうは先ほどよりも強く抱きしめた。



「あおいは全部自分のせいにしてしまうんだね。あおいの性格は誰よりも知ってたはずなのに怖い思いさせちゃってごめんね」


すぐに首を横に振る。ゆうに謝って欲しくない。



「あおい。沢山泣いていいよ」


耳元で優しく言う。…駄目だ、甘えちゃ。またゆうを傷つけるに決まってる。僕は立ってゆうから離れた。




「…あおい?」



「ぼ、僕ね」



ちゃんと、伝えるんだ。ゆうに。ゴクンと息を飲み込んで覚悟を決める。




「ゆうとは…ゆうとは、もう会わないって決めたんだ」


言っちゃった…。今、ゆうがどんな顔してるかわからない。けど、これでいいんだ。



「が、学園では話しかけないように努力するし、寮の部屋だって…また自分の部屋に戻る」


そんなの無理に決まってるけど大切な人をこれ以上不幸にさせたくない。



「りょ、料理だって下手くそだけど…ゆうから教えてもらったレシピがあるから大丈夫だよ!だからね…心配しなくていいよ」


涙を腕で拭いて、頑張って笑顔を見せる。





「……ウソツキ」



「え?」



「俺とずっと一緒にいたいって顔してる」



ゆうはゆっくりと立ち上がり、僕の顎をあげた。お互いの目が合い、ゆうが怒っているのがわかった。



「は、離して…」



「離さない。本当のこと言うまで」


ゆうの言った通り、本当はずっと一緒にいたい。唇を噛む。

一緒にいたい…っ、




「もう嫌だよ…っ、これ以上、周りを傷つけたくない」



「じゃあ、俺が誰も傷つけない場所を教えてあげる」



「え?」



「もうあおいだって、誰だって、苦しまないところ」



ゆうが軽く僕の頭を撫でた。そんな…ところあるの?半信半疑だ。



「俺は、あおいと離れたくない。あおいがいないと生きている意味なんてないんだ」



「ゆう、」



「だから、俺とずっとそばにいて欲しい」


ゆうの声は切なく、表情はとても辛そうだった。



「誰も傷つけない場所…、行きたいよ」



そして、僕もゆうのそばにいたい。さっき離れなくちゃいけないと思っていたがその行動がゆうをまた傷つけていたことになると申し訳なくなった。



「安心して。…一緒に行こう」


ゆうの手を取って頷いた。




「またゆうに、頼むなんてワガママにも程があるよね」



「そんなことない。前にも言ったけど、あおいはワガママなくらいが丁度いいんだよ」



「…っ」



嬉しくて、手を強く握り返した。






─────
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─────────────


……



数日後。お互いが落ち着いた頃だった。大荷物を持って家を出た。お母さんも元気なゆうと僕を見て安心していた。

そして、ゆうが言っていた誰も傷つかない場所へとやって来た。





「ここだよ」


目の前にはすごい大きな家があった。


この家って…確か僕たちが小さい頃からあったはず。とっても立派な屋敷だ。どうして、ゆうがこの場所に連れてきたのかわからず、首を傾けた。




「覚えてる?昔、あおいがこんな大きな家に住んでみたいって言っていたこと」



「えっ、と」


小さい頃…そんなこと言ってたんだ。ゆうには申し訳ないけど覚えていなかった。


「無理もないよ、小さい時の話だからね」



「ご、ごめんね、ゆう」


逆にゆうが覚えてていたことに嬉しさを感じる。


「大丈夫だよ。ちなみにね、あおいに楽しみにしててって言うのコレのことだったんだ」



「え?」



「びっくりさせたくて、夏休みの間にあおいに見せようと思ってね」





「でも、何でこんな大きな屋敷…」




「実は今まであおいには黙っていたけど俺の家なんだ」



「っ!」



こんな大きな屋敷が…ゆうの家?…てことは、家が二つあるってことになる。



「住みやすくセキュリティも整えて強化したんだ。実は俺も家が二つあるって最近知ってね」



「そうだったんだ…びっくりしちゃうよね」


僕自身も驚く。



「じゃあ、さっそく中に入ろうか」



ゆうの誘導で緊張に胸を驚かせながら入っていく。中ってこんなになっているんだ。思った通り以上の光景だった。外見も立派だったら中身も立派。僕の家とはまるで比べものにならない。家具など絶対高いと思う。床なんてピカピカで大理石でできている。天井には豪華なことにシャンデリアがあり、美しい光を放っている。異空間に来たみたいだった。



「あおい?早くおいで」


立ち止まる僕に手招きをする。



「い、今行く!」


こんな、豪華な場所僕には似合わないよ…。




─────
────────
─────────────


……




連れて来られたのはどこかの部屋。高級ホテルみたいな部屋だった。慣れない空間に戸惑う。



「あおい。ずっとここにいれば誰も傷つかない。だから一緒にいようね」


コクンと頷くが


「でも、こんな立派なとこだって知らなかった…。僕なんかにここはもったいないよ」



似合わな過ぎる。すると、ゆうは首を振った。


「そんなことないよ。遠慮しなくていい」



ゆうはそう言うが迷惑かけそうで内心落ち着かない状態だ。でも、ゆうがせっかく僕なんかのためにこうやってしてくれてるのだから今更断ることなんてできない。



「も、もし、ゆうが僕をいらなくなったらいつでも追い出してもいいからね」


そう言うとゆうはおかしなことを聞いたように笑った。




「それは一生ないよ。ありえない。俺にとってあおいは大切な存在なんだ」





「ゆう…」

顔が熱くなった。ずっと、ゆうと一緒にいたい。そんなわがままなことを思ってしまった。




────
───────
───────────

……


あれからどのくらい日が経ったかわからない。あれ以来、ゆうが僕のために作ってくれた部屋にいることが多くなった。

たまに、外に出て…外っていっても庭に行ったりして花に水をあげたりしていた。


部屋の中では僕でもできる掃除をしたり、たまにゆうが勉強を教えたりしてくれている。苦手なのが英語。


今度、ゆうが海外に行く予定があるみたいで僕も少し勉強してたほうがためになると言われ勉強中だけどなかなか難しい。




「あおい、ただいま」



「ゆう!お帰り!!」


僕はゆうが帰ってくるなり抱きついた。




「あおい、遅くなってごめんね」



「ううん!大丈夫だよ」




「実は、あおいに渡したいものがあって買いに行ってたんだ」




「へ、そうなの?」

渡したいものってなんだろ…。ゆうはソファに腰を下ろし、『こっちに来て欲しい』と言った。僕はそのまま言われた通りにゆうの隣に腰を下ろした。







「…あおい。聞いてくれる?」

名前を呼びながらゆうは僕の手を取る。僕は頷くが、ゆうの表情は少し強張っているようだった。





…ゆう?

一体どうしたのだろうと首を傾けると、ゆうは小さく深呼吸をして僕の手のひらに小さな紺色のケースが乗せられた。珍しく緊張したような面持ちで僕を見つめている。








「──好きだよ」


低く呟かれた言葉が一瞬頭に入ってこない。数秒遅れて理解し僕は目を見開いた。



え?理解すると自分でもわかるくらい顔に熱を帯びる。ゆうが僕を好き…?



「ずっと、子供の頃からあおいが好きだ。出会ったころはどうにかして笑わせようと、知恵を絞った。あおいの初めて満面の笑顔を見た日の夜は気分が舞い上がって眠れないくらいだった」



「…っ、」


その言葉を聞いてどうしようもなく、嬉しかった。




「あおいは俺のこと好き?俺といてドキドキする?」



今だって心臓がバクバクいっている。ドキドキする。小さい頃から、僕の隣にいたゆう。どんな時もゆうのことばかり考えていた。僕なんかがこんな感情持ったら駄目だってずっと思っていた。



「僕もゆうが好きだよ…恥ずかしい」



すぐに顔を下に向けた。




「良かった…」



ゆうの安心しきった声が聞こえた。そして、すぐに顔をあげて欲しいと言った。目が合った瞬間、真剣な顔だった。




「ねぇ、あおい。俺と結婚してください」

お願いしますと、頭をさげる。






結婚…

男同士でできるのと疑問に思う前に口が勝手に動いた。







「こ、こちらこそ」



震えながらそう言うとすぐに抱きしめられた。そして、手のひらに乗せられたケースを開きそこにはシンプルなリングが収まっていた。


ゆうはケースからリングを取り僕の手を取って、ゆっくりと左手の薬指に指輪をはめた。

はめられた指輪は僕の指に合っていた。




ねぇ、と僕の目を覗きながら手を伸ばす。ゆうの大きな手が僕の頬に触れた。


頬を撫でながらゆうは僕に顔を寄せてくる。



「んっ」


唇が重なる瞬間、どちらからともなく目を閉じた。…なにこれ。恥ずかしい。それ以上に気持ちいいと思った自分がいて恥ずかしくて逃げたくなった。そして、角度を変えながら何度か啄むようなキスをした後、お互いの額がぶつかった。







「…もう一回、駄目かな?」


「…っ」


いいよ。と、言葉に出して言うのも恥ずかしくてゆうの手を握った。ゆうは少し驚いた顔をした後、すぐに口元を綻ばせた。




「…っん、」


手を握ったままもう一度唇を合わせた。







───────
──────────

……




キスを終えた後、ゆっくりとゆうと目を合わせる。





「…僕だけこんな幸せでいいのかな」


「可愛いこと言うね。…もっとしたくなる」



「は、恥ずかしいよ」


僕の反応を見て面白そうに笑った。






「ふふ、俺の方が幸せ過ぎてバチが当たりそう」



「ゆうってば大袈裟だよ」

お互いの笑い声が響き渡る。



「じゃあ、今日はもう遅いし眠ろうか」



「そうだね」



窓の外を見ると、暗くなっていた。


こうやって笑って過ごせる日々がいつまでも続くといいな…。そして僕たちは、寝室のベッドに移動し横になった。





すると、

僕が眠る横でゆうは僕の頭を撫でながら



















「ねぇ…あおい。俺以外の選択肢は



























──バッドエンドだよ?」



と、微笑みながらそう呟いた。





嫌われ者の僕【完】




 
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