嫌われ者の僕

みるきぃ

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完璧な幼なじみ

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【あおいside】


「ねぇ、あおい。俺のダンスの相手になって?」


ゆうはそう言って柔らかく微笑んだ。状況を整理すると、会長さんからゆうへ代表が変わったみたいだった。ぼ、僕は一体、どうすれば…。



「おい、急に何を言ってんだ」


「言葉の通りだよ。…まぁ、あおいが無理だというのなら、仕方ないけど俺はこのダンスを辞退するよ」



「…じ、辞退?」



「俺はあおい以外の奴とは踊る気なんてないからね」


僕がこのパーティーのダンスをしなければ台無しになってしまうってこと…?




「クソッ。邪魔ばかりしやがって…」



会長さんはそう言葉を吐き捨てる。




「あぁ、そうだ。さっき理事長が探していたよ」



ゆうは思い出したかのように会長さんにそう言った。





「はぁ?」


「今すぐ来るようにだって。急用みたいだよ」



「チッ。こういう時に…ッ」



この学園の理事長さんは会長さんのお父さんであり、一番偉い人だ。





「…おい。あおい」




ビクッ

「は、はいっ」



会長さんに握られていた手に力が増した。




「…こ、今度、俺様が図書館の掃除をまた一緒に手伝ってやる。…じゃあな」



「へ、…」


僕の頭をひと撫でして会長さんは去って行った。あっという間な出来事だった。

と、図書館の掃除って前に会長さんが手伝ってくれたあの時のことだよね…。




それを覚えててくれていた嬉しさ反面、また手伝わさせるのは申し訳ないと思った。



それにもう理事長さんに呼ばれて行ってしまったけど、このドレスどうしよう…。会長さんに聞くのを忘れていた。




「あおい…。俺が無理にごめんね。あおいが本当に嫌なら無理にとは言わないよ」



申し訳ないなそうに謝るゆう。人の前に立つのは苦手だけど、ゆうを困らせたり、僕のせいでダンスが台無しになるのは嫌だ。




「い、嫌じゃない。けど…僕、ダンスできないし、人の前で立つのは緊張して、迷惑かけてしまうかもしれない…」



「あおいは優しいね…。大丈夫、俺が全部フォローするから」



「ゆう、ありがとう…」



「改めて見てもあおいは綺麗だね」



「そ、そんな僕は全然…このドレスのおかげで…、ゆうの方がスーツ似合ってて雰囲気がいつもと違って更にかっこいい」





「あおいに言われるとすごく嬉しいよ、照れるね」


そう言って照れたようにゆうは髪を触った。それからパーティーは終盤に入り、最後の砦であるダンスの時間がやってきた。




「ーーー…ええ、とうとうパーティーも最後となりました。毎年恒例のダンスで終わりたいと思います。我らが会長、天山神影と言いたいところですが成績優秀者である新條ゆうが帰ってきたということで、お願いします!」



ゆうの名前を聞いて会場が一気にざわめきだす。ゆうはこの学園でとても人気で誰にでも優しい…。そんな有名人で人気者の彼の隣にいることも許されないのに…ダンスまで踊るなんて…。気が重くなってくる。




「あおい…大丈夫?」


「だ、大丈夫だよ」




手が震えだす。今更できない、なんて言えない。すると、ゆうが僕の手を握った。



「俺がついてるから安心して…。怖くなったらすぐに俺に言って」


「…うん」



僕はゆうの手の温もりに少しだけ緊張が和らぎ、コクンと頷いた。




「じゃあ、行こっか」



ゆっくりと、ゆうは僕の手をそのまま取りながら舞台へと向かった。



僕はゆうの後ろに隠れる形で舞台に立つ。会場の視線が一気に僕たちに集まった。…怖い、恥ずかしい。




『新條様、素敵!』


『久しぶりに見た、帰ってきてたんだ!』


『後ろにいるのって誰?めちゃくちゃ綺麗』



会場の黄色い声がたくさん飛び交う。





「新條さん、後ろにいるの子の名前は?」






ビクッとなった。ど、どうしよう…まさかこんなすぐに…。会場が集中するようにざわめきがおさまる。




「名前ですか…。やっぱり気が変わりました。ごめんね、今日はダンスは踊らない。みんなにこの子見せたくないからね」



「へっ、ゆ、ゆう…?」




クルッと僕の方を振り返る。どうしたんだろ、と首を傾げると、



ちゅっと軽く唇に触れた。一瞬何が起きたかわからなかった。




「じゃあ、そういうことだから」


気づいたらお姫様抱っこされていた。会場は今までにないほどにざわめいた。




ぼ、ぼ、僕…今、ゆうに、キスされたの…?顔に熱を帯びていくのが自分でもわかる。どうしよう…。恥ずかしくてゆうの顔がみれない。僕はゆうの顔が見れなくて、ずっと顔を両手で隠してゆうに部屋まで抱っこされたままだった。




「あおい、ごめんねみんなの前で」


少し眉を曲げて申し訳なさそうに謝る。




「え、っと」


僕はお風呂に入り、ソファーでゆうが僕の髪をドライヤーで乾かしているとき、それを止めてそう言った。



「あおいを困らせたよね」


「そ、そんなことないよ!」



ゆうにこんな悲しい顔させたくない。





「ねぇ、あおい」


ゆうは、僕の頬に手を当てる。僕は触れられただけでドキッとする。



「な、なに?」



「…俺とのキス、その嫌だった?」



「え?」



ゆうとの…キス?花園くんたちにされた時とは何か違かった。とても緊張する感じで…




「嫌じゃなかったよ…。だけど、ゆうの方が僕と、その…キ、キスするの」



自然と声が震える。なぜか、嫌だって言われるのが怖い。



「俺は嫌じゃないよ。むしろ、もっとしたいくらい」



「へっ、」





「あおいは、俺にもったいないくらいの存在だよ」


そう言って僕の頭を撫でる。



「ぼ、僕なんてそんな!ゆうの方が僕にもったいないくらいの存在で、申し訳ないというか」



「ふふ、あおいは健気で可愛いね」



クスリと笑うゆう。なぜか、くすぐったい気持ちになった。すると、ゆうが深いため息を吐いた。




「ど、どうしたの?」


「うーん、実はあおいの可愛い姿をみんなに見せたの少し後悔しているんだ」


「え?」


残念そうに眉を少し曲げるゆう。




「もう俺以外の前で、あおいの全部を見せちゃだめだよ」


約束ね、とそう言ってお互いの小指が絡む。そうだよね。僕があんな格好したって似合わない。




「もちろんだよ。約束!もう周りに不快な思いさせたくないからね」


僕なんか目の毒だ。すると、ゆうは優しく微笑んで絡んでいた小指だったが気づいたらゆうに手を握られていて温かった。




「あ、そういえば、あのドレスは俺が返しておくから安心してね」


「いいの?」


会長さんに返すのを忘れていた。




「うん。同じクラスだから、ついでにね」


「ありがとう」




本当は僕が返さなきゃいけないけど、会長さんはきっと僕の顔なんか見たくないだろうし、簡単に会える人ではない。またゆうにわがままを聞いてもらってしまった。何かゆうにできることはないかを考えていたらあることを思い出した。




「そういえば、ゆう!僕ね、ハンバーグ作れるようになったんだよ。他の料理は全然美味しくできなかったけど、ハンバーグは美味しくできたんだ。…それで良かったらなんだけど、ゆうに食べて欲しくて 」


「そうなの?ふふ、あおいが作ったハンバーグ食べてみたいな」


「か、形は不恰好なんだけど、気にしないでね!今から作ってくる!」



ゆうを笑顔にさせたい。さっそく僕は、ハンバーグを作るのに取り掛かった。ゆうが学園から離れてかなりゆうに頼ってばかりだったと気づかされた日々。




学校が休みの日は料理を練習した。少しは僕も成長しなきゃと思い、やっと作れるようになったのがハンバーグ。

ゆうは色んな美味しい料理を僕に食べさせてくれたから僕も唯一作れるハンバーグをゆうに食べさせたかった。






…とは思ったものの。




「いただきます」


手を合わせるゆう。


「ゆ、ゆう…やっぱり無理に食べなくていいよ」




確かに味見はきちんとした。美味しかったと思う。もちろん食べられる範囲だ。しかし、見た目がハンバーグなのかわからない。そう、形が酷すぎなのだ。これじゃあ、食欲がわかない。




笑顔にさせたいのに、この見た目だ。フライパンの上では綺麗なハンバーグの形だった自信はある。どうしたら、こんな形になるのか僕が知りたいくらい。言い訳しても結果が出てる。気にしないでねとは言ったけど、……これは僕が気にすると後から気づいた。



すると、ゆうは僕が作ったハンバーグを口に入れて食べようとする。僕は慌てて、ゆうの腕を両手で掴む。




「ゆ、ゆう待って!もう一回作ってくるから食べるの待って!」



「ふふ、大丈夫だよ。これ、俺のために作ったって考えただけで嬉しいから」



「で、でも…ゆうにはもっといいのを食べて欲しくて…」



「あおいは、すごく俺のこと考えてくれているんだね。…すごい幸せ」


ゆうはそう言って、ハンバーグを食べた。食べちゃった…。僕はゴクリと息をのむ。ゆうの反応が気になってしょうがない。




「…あおい」



「は、はい!」




初めて手料理を人に食べさせた。緊張して、目をきゅっと閉じる。どんな言葉でも素直に受け止めよう。






「好きだよ」



すると、ゆうは僕の髪を耳にかけてそっと囁いた。



「へっ!?」


僕は慌てて耳を押さえる。絶対、全身真っ赤だ。好きだよって…ああ、味のことだよね。






「あ、ありがとう!」


今日は変だ。いつも以上にドキドキしている。




「愛情がこもってるね、このハンバーグ」


美味しそうに食べてくれている。…嬉しい。こんな形が歪なのに嫌な顔せず食べてくれている。



「美味しい」

そう言うゆうの表情は笑顔だった。嬉しすぎて泣きたくなった。今度はもっとうまく作ろうと心に決めた。




────
──────
────────


………。






「ねぇ、あおい」


ハンバーグも食べ終え、もう寝る準備もできてベッドに横になった時にゆうが僕を呼んだ。



「どうしたの?」


返事をすると、ゆうもベッドに横になった。




「そろそろ、夏休みだからあおいに見せたいものがあるんだ」



「見せたいもの?」



「そう。だから楽しみにしてて」


そう言って、眠ろうか、と電気を消した。見せたいものってなんだろ?





「ありがとう」

ゆうのおかげで楽しみが一つ増えた。





「おやすみ。…おいで」


ゆうは、そう言って布団の中に僕が入るくらいのスペースを作った。その言葉に甘えて、ゆうのそばに寄った。すると、ぎゅっと閉じ込められるかのように抱きしめられた。久々のゆうの温もり。それに安心して、僕はよく眠れた。






─────
────────
───────────

……。





今日から夏休み。ゆうが僕に見せたいものがあると言っていたので、楽しみで仕方なかった。

そして僕たちは、夏休みの期間中、学園から離れるので荷物をまとめた。



「じゃあ、あおい。少し許可をもらってくるからここで待っていられる?」


「うん、ありがとう!」


「じゃあすぐに戻ってくるね」




僕は荷物を抱きながら木陰のベンチでゆうを待った。学園から離れて家に帰るの久しぶり。


それにしても、いい天気だなぁ…。そんな呑気なことを考えていた時のことだった。




「……あおい!ここにいたのか」


「ひゃっ」



突然、肩に手が触れたので驚いた。後ろを振り向くと、そこには花園くんがいた。




「は、花園くん…?」



花園くんとはあれ以来だった。





「あおい…。こんなに荷物持ってどこ行くんだ?」


「え?」


僕の荷物を奪って、地面に置いた。




「あの時のこと怒ってる?ごめんな…。俺、我慢できなくて…っ」


抱きついたと思ったら一瞬だけ、唇を重ねてすぐに離れる。そして、腰を掴まれて、引き寄せられた。




「ちゃんと俺、あおいのこと大事にする。あおいは俺が守る」



「守る…?」



花園くんが言っていることがよく分からない。




「そうだ。早く逃げよう。ここにいたらあいつが来る!」


花園くんは突然、焦った表情になり僕の腕を掴んだ。




「ま、待って花園くんっ!ぼ、僕今ゆうを待ってて…」



「…あおいは何もわかってない!あいつはヤバイんだぞ!!」



顔を真っ青にする。花園くんは今までで見たことがないような表情をしていた。




「…あおい。一緒にここから逃げよう。もう二度と離さないぞ!」


「ちょ、待って」



僕の声は花園くんに届かなかった。花園くんは僕の荷物を肩にかけ、そのまま手を引きながら学園の門まで走った。門はもちろん閉じていたがそれを蹴って壊した。




「行くぞ!あおい」


花園くんは何事もなかったかのように門を出る。


 門が壊れるほどの力に僕は震えた。




「俺ん家、とってもお金持ちだからさ、あおいのこと一生、養ってやるからな」


楽しみだなぁ…と楽しそうに呟く。花園くんは、何を言っているの…?僕は怖くなって、足を止める。





「…あおい?どうしたんだ?」



「ぼ、僕は…その、花園くんと一緒には行けない」



「なんで…なんでそんなこと言うんだよ!」



花園くんは、僕の荷物を地面に投げ、僕の胸ぐらを掴んだ。表情はとても苦しそうだった。…ごめん、花園くん。



「…もしかして、あおい。俺のこと嫌いになった?そんなの嫌だ!!!!」



胸ぐらを掴んでいた手が緩み、優しく抱きしめる。花園くんの声は震えていて、泣きそうだった。



「嫌いじゃないよ!僕、夏休みの間、ゆうと家に帰るんだ。だから…」



「ダメだ!あおいは俺とずっと一緒にいるの!!アイツは恐ろしい奴なんだ!あんな奴とあおいが一緒にいちゃダメだ!」



「で、でも、」


花園くんは、耳を押さえて『嫌だ嫌だ!』と聞いてくれない。




「あ!そうだ!」


すると、花園くんは突然笑顔になった。



「俺、あおいの両親に会って挨拶する!」



「え?」



「あおいを俺にくれ!って頼むんだ!!そうしたらずっと一緒にいられる!俺ってば天才!!!あー緊張してきた!」



そうと決まれば、あおいの家に行くぞ!と続けて言って、僕の荷物をまた持って手を引いて歩き出した。




「は、花園くん!待って!!」



「ん?大丈夫だぞ!俺がついているから」




嬉しそうに笑う花園くん。…どうしよう、ゆうが待ってるのに。

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