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腹黒副会長
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しおりを挟むありえない…ありえない。か、完璧な私がこんな中学生相手に。
そんなことを考えているうちに鐘が鳴り、見学時間が終わりを告げた。
「あ、あの…!は、初めて会ったのに、僕なんかに優しく声をかけてくださり、嬉しかったです。お花とても綺麗でした」
と、お礼を言う。花が霞むくらいあなたの方が綺麗だったと自然と口から溢れそうになった。
「へ、い、いえ…別に私は大したことしていませんので」
時間の流れには抗えない。こんなにもあっという間に感じてしまうなんて。
「で、では…ぼ、僕そろそろ失礼しますね」
「えっ、も、もうですか?」
なぜか引き止めてしまう自分がいる。
「あ、会わないといけない人がいるので…」
その言葉に少し嫉妬さえしてしまった。彼が言っている会わないといけない人がまさか常に成績優秀な新條ゆうだと知るはまだ先の話。
「そ、そうですか…。ぜひ学園に入学してください」
これは自分のためじゃなく、学園のためにそう言ってるまでです。
「あ、ありがとうございます!親切にしてくださり助かりました!」
失礼します、と頭をさげ、私は手を振りながら、彼の背中が見えなくなるまで見送った。
『じゃ、じゃあ…、
本当の笑顔はもっと素敵なんですね』
『つ、作っていたとしても…本当の笑顔だとしてもどちらもあなただと思うので、ぼ、僕は素直に素敵だと思いました』
どちらも私…。もう何なんですか…アイツ。また思い出すあの言葉。あんなこと言うなんて恥ずかしい人です。
──で、でも
「…嬉しいと
思ってしまいました」
花のように綺麗で健気で触ると花びらが散るみたいに繊細で…。彼にまた会いたい。私は恋愛馬鹿の女みたいに胸を踊らせる。これが最後なんて…嫌です。また会いたいと、この時は心の底からそう思っていた。
そして、新しい新入生を迎え私は一つ学年があがり、生徒会副会長候補ではなくて本当の副会長になった。1-Zクラスに彼はいた。あの頃のまま、地味な姿だったためすぐに見つけた。この学園に入学してくれたと温かい気持ちになった。
「…あおい」
佐藤あおいという名前。新入生の名簿をみながら彼の名前が書かれた文字をなぞる。
私は彼に気づいてもらえるよう生徒会を頑張った。一番、最初に私に会いに来てくれると思った。…なのに。一週間経っても彼は私に会いに来ない。
もしかして…私のこと覚えてない?そのことが頭を過った。いやいや。いくらなんでもそれはありえない。私に一度会えば誰もが一生忘れない。まあ、今は緊張してなれない学園生活に戸惑ってそれで私に会いに来れないだけだろうとその時はそう思っていた。
ある日、珍しく生徒会の仕事が早く終わって寮に帰る途中、廊下を歩いていた。
っ!
「あ、れは…」
すると、たまたま廊下の窓から見える庭のベンチに彼の姿があった。一人でいて、何やら荷物を抱えていた。…どうしたのでしょうか。
これは久しぶりに彼と話せる機会だと思い、私は急いで彼がいるところに向かって走った。
普通ならあなたが私に会いに来るべきだけど仕方ありません。今回だけは特別です。大目に見てあげます。そう思いながら彼の元に着いた。
普通に声をかけるだけなのに最初なんて言おうか迷っていた。なんで、私が緊張して…。
拳に力を込める。
よし。
やっと、話しかける準備ができたところで
「あおい」
誰かがやって来た。
だ、誰かが来るなんて予想してなかったので私は反射的に茂みに隠れた。せっかく話せるチャンスだったのにと肩をガクリとおろす。
…でも。彼の名前を呼んだということは知り合い…?私は気になってこっそり茂みに隠れながら覗いた。
「あ、ゆう!」
「ごめん待った?」
「ううん!待ってないよ」
あれは、…確か同じクラスの新條ゆう?どうしてあの二人が一緒にいて…。突然のこと過ぎて私は理解できなかった。私は、驚きが隠せなかった。新條ゆうといったら有名人だ。Sクラスきっての優秀。何をやってもずば抜けてトップにいる。生徒会の候補と言われていたがそれを断り、今でも学年一位をキープ。独占状態。
そんな有名人と通称落ちこぼれクラスと呼ばれているZクラスの彼が…知り合いだった?
素顔はS以上の彼だけど今は地味な姿であるためZクラスなのはわかる。だけど、二人が知り合いとは…。そう言えば前に学園見学の際、うちの学園に知り合いがいると言っていたのを思い出す。あれは、新條ゆうのことだったんですね。
私は息をのんで、二人の会話を盗み聞きした。
「ねぇ、あおい。こんなに荷物どしたの?」
「じ、実はその、ぼ、僕…同室の人に迷惑かけてばかりで…。寮にいられなくなって…」
「もしかして追い出されたの?」
「え、い、いや…!えっと、僕がいるだけで迷惑かけるから…その…荷物をまとめて勝手に出て来ちゃったんだ…。そ、それでちょっとゆうにお願いがあって…」
「お願い?」
「少しの間だけ、ゆうの寮室にいさせてもらえないかな?頼る人ゆうしかいなくて…」
荷物をぎゅっと掴みながら申し訳なさそうに頼む。なぜ追い出されたのか変に思うはずなのに私は別のことを考えていた。
『頼る人ゆうしかいなくて…』
…は?その言葉に苛立った。私だっているじゃないですか。
…むかつく。
むかつく、むかつく。
何かが崩れた。
なぜこんなに腹が立つのか、なぜこんなに彼が頭の中に浮かんでくるのか、私はその意味を理解したくなかった。…自分に余裕がない自分は嫌いだ。
あーあ、もうどうでもよくなりました。
私だけがこんなに思って私だけが彼のことを覚えて全部…私だけが。
ナニソレ。ははっ…笑えます。あんな奴どうでもいいじゃないですか。もう考えるのは疲れました。考えるのをやめた。
別にこっちはあなたなんてどうでもいいのです。
それから、そう思うようになって彼と新條ゆうが一緒にいるところを目にすることが多くなった。心なしか、彼の表情は眼鏡越しでも明るいような感じがした。まだ目で追っている自分に吐き気がする。私の視界に勝手に入ってくるなと何度も思った。
「ねぇねぇ皆ー、一年にすげぇダサい奴いるの知ってる~?」
あれ見て超笑えたと、馬鹿にしたように生徒会の会計である來城祥がそう言ってきた。それは生徒会室で仕事をしている時のことだった。
…ダサい奴。まさか。すぐ思い浮かんだのは彼。
「もうねーすっごく笑えちゃうんだよね~。傑作だよあれは」
肩を揺らして笑いを吹き出す。
「…そんな奴がいるのか?」
ありえないと言ったように怪訝な顔をした会長である天山神影。その隣で書記の井上煌も興味を示した。
「本当だってー。貴之は知ってる?」
「え、わ、私ですか?」
急に話が振られて動揺してしまった。
「眼鏡が見たことないくらい地味で時代を感じるというか~」
「へ、へぇ…そうなんですか」
適当に返事をする。彼の話になると柄にもなくうまく反応できない。
「そこまで言うなら気になるな」
神影のその言葉に横で煌も頷く。ダメだ。皆が、彼のことを知ってしまう。私の中で何かが切れた。
「あの私に一つ提案があるのですが」
「ん~なに?」
「最近、仕事ばかりでストレス溜まっているのでその地味な一年生を皆でいじめのターゲットにしませんか?」
「えー!なにそれ面白そう~」
「いいなそれ」
「いい、と、思う」
皆、最近退屈だとか暇だとか言っていた。
「いい暇潰しになると思います」
「楽しそうだね~」
それから私以外の生徒会メンバーはただ関わってみたいという好奇心から始まった。
そして、彼をいじめた。
生徒に爆発的人気な私たち生徒会が彼をいじめるから学園全体で彼を嫌われ者にできた。
「あ、ゴミかと思いました」
「うわ~貴之容赦ないね~面白いけど」
彼が一人で歩いているところに会うたび酷いことをした。
「いつまで学園にいる気ですか?」
…早く私を思い出せ。嫌でも私を思い出せ。口から出てくるのは彼を傷つける言葉たち。一度口に出してしまえば止まることを知らない。
────
──────
……。
ある日のことだった。退屈の日々に光がさしたのは。それは季節外れの転校生。花園瑞希との出会いだった。
『さっきからその気持ち悪い笑顔やめろよ!!』
そう、作り物の笑顔なんて気持ち悪いだけ。
私が言われたかった言葉はそれだ。 あんな言葉じゃない。…何が素敵だ。そんなのありえない。きっと瑞希ならアイツを忘れさせてくれる。
瑞希に出会って何もかも吹っ切れた気がした。もうあなたなんてどうでもいい。いらないです。そう、ゴミ。ただのゴミだ。
「何であおいと一緒にゲームしちゃダメなんだよ!俺の友達なんだから別にいいだろ!」
瑞希が忘れさせてくれる。そう思っていたのにアイツの話ばかり。忘れるどころか話を聞くたび思い出して腹が立つ。
幼なじみである新條ゆうとべったりの次は瑞希とべったり。なぜ瑞希と一緒に行動?もしかして、直接私に会いに来れないから瑞希を利用してるんじゃ…?ふとそんな考えが浮かんだ。
『瑞希を利用して私たちに近づこうとしているんですよ!』
『なんだよそれっ!あおいは俺が好きなんだよ!!怒るぞ!!』
そう言ったら瑞希は激怒した。ゴミが瑞希のこと好き…?まさかそれはないだろう。また、ある時には祥が変なアイディアを出した。
『俺たちの誰かがあのキモオタを惚れさせるんだよ~!』
あのゴミを私たちの誰かが惚れさせる…?
『あ、あの祥…なぜ、私たちがあんな奴を惚れさせるのでしょうか?』
この時は本当に動揺した。でも心の中では絶対あのゴミを惚れさせることなんてできやしないと確信していた。
私は惚れさせる役なんて選ばれなかった。神影と祥がそれをやった。その予想通り、彼らは惚れさせるのを失敗した。当たり前だと思う。…私だって無理なのに。でも彼らが失敗して心のどこかで安心している自分がいる。
また変なことを考えてる。私は瑞希が一番なのです。あんなゴミなんて…別に興味ない。
でもその件があってから明らかに神影と祥のゴミに対する嫌な感じが無くなっている気がした。…どうして?
いつの間にか書記である煌までも汚いものを見るかのような目でアイツを見ていたのが今じゃそれすら無い。
私が知らないうちに生徒会の皆が少しずつ変わっている。あんなに、彼のことを嫌っていたのに。一体、何があったのか。なぜか焦る自分がいて、本当に嫌になる。…別にどうでもいい。私には瑞希がいる。あんな奴…あんな奴。
『どうでもいい』
と何回も頭の中を駆け巡る。まるでおまじないをかけるみたいに何回も。そうしないと私は…。
───
─────
『あおいに会いたいなー。…会ったらキスでもしてやろうかな』
『あおいのやつ!どこ行きやがったんだ!』
『あおい。可愛かったな。…ふふっ、俺のあおい』
瑞希はあのゴミが隣にいなくてもいつもゴミのことばかり。隣に私がいながらもお構い無く。
あおい、あおい、うるさい。どうして瑞希はアイツのことばかり。
「瑞希、どうしてあのゴミのことばかり気にしているんですか?」
もう我慢できなくて聞いてみた。
「ゴミ…?もしかしてあおいのことか?」
「はい」
「うーん。あおいは俺が隣にいないと何もできないからなぁー。だから俺が隣にいてやらないと可哀想だろ?俺ってば優しい!」
「だからって…いつも一緒にいなくても」
「それが聞けよ!あおいが俺のこと好き過ぎて離れたくないらしくてさ!全く可愛いよなー」
「……」
なにそれ。瑞希が言っていることなんて大体冗談だって知っている。ここは笑って話をかえればいい。笑顔なんて簡単に作れる。だけど、なぜ笑顔が作れない…?
笑顔なんて簡単に作れると思っていたのに冗談ってわかっているのにそれでも嫌だと思ってしまう。こんなの自分らしくないから何も考えたくない。もう矛盾ばかりする自分が嫌。
─────
───────
ある日突然、瑞希が姿を消した。すぐに探しまわるのが普通だけど、それをすることはなかった。このとき、自分の中でいろいろ頭の中を整理する時間ができた。
いつも瑞希からよくあのゴミの話を聞くはめになっていたから考えないで済んだ。そしたら気が楽になった気がした。
それから少し落ち着いたところで瑞希を探すのを始めた。探すといっても聞いてまわるだけで特に広く行動を起こすことはなかった。そして久しぶりに瑞希の姿を見て学園に戻ってきたのだと知った。
「瑞希、嬉しそうですね」
何かあったのでしょうか。
「あ、わかるか?実はあおいが俺のために人形くれたんだぞ!」
「えっ…」
プレゼントと嬉しそうに微笑んでひまわりのような人形にキス落とす瑞希。またアイツの話…。しかもプレゼントって…。また私の心の中に嫌なものが入ったきた。忘れていたかったのに。
「あおいって俺だけに随分優しいよなー。どんだけ俺のこと好きなんだよ」
本当嫌になる。
「私だって瑞希にだけ優しいと思いますが」
ケーキやお菓子、紅茶、ゲームだって瑞希が欲しいものたくさん与えている。
「あ、そうだったな!でもあおいって滅多にプレゼントくれないんだよ!それが珍しくてさ!」
「…そうですか」
瑞希は、たくさん与えている私より珍しくてさに惹かれるのですね。それにあのゴミ。ゴミの分際で瑞希にプレゼントするなんて…。しかもそんな安物の人形。
「…っ」
むかつく。何でプレゼントなんか…ッ。別に羨ましくない。一体、私はどこに嫉妬しているのかわからなくなった。
表情がいつもより嬉しそうな瑞希を横で見る。大事そうに人形を持ってずっと口の端が緩んでいてニヤニヤしている。さっきからノロケ話を聞かされている感覚になる。
「なぁ、貴之って言われて嬉しかったことあるか?」
急に珍しく瑞希がまともなことを話してきた。
「え、わ、私ですか…?」
…嬉しかった言葉。なぜか綺麗サッパリ忘れたはずのゴミの言葉。
「まあ、特にこれって言うのはありません。瑞希はあるのですか?」
そんな質問しなければよかったと後から思っても遅い。
「俺は、ひまわりのような人って言われたんだ!」
「えっ、」
その様子からしてすぐ察した。
その言葉を言ったのはあのゴミであることは間違いないだろう。
────
──────
……。
最近、瑞希の様子がおかしい。
『あおいが俺を避ける。何で?意味わかんねぇ…』
『目も合わせてくれない。俺の名前を呼ばない。話してくれない』
『俺のこと好きなくせに大好きなくせになんでだよ…ッ!!』
と、生徒会室の壁を蹴る。蹴った衝撃で壁には穴があいた。言うのもなんだが生徒会室は無駄にお金がかかっている。大抵のことでは壊れないのですが壁に穴があくくらい瑞希の力が強いことがわかる。それよりなぜかあのゴミが瑞希を避けているらしい。瑞希は今も狂ったようにあおいと連呼していている。これでは私の身が持たない。
…忠告。今まで直接会いに行くことはなかった。これが初めてのことだ。まともに一対一で話す機会なんてことなかった。
「あなたゴミの分際で何様ですか?…瑞希を無視しているそうですが」
「そ、それは…」
「瑞希といるとあなたの話ばかりで正直むかつきます」
そう言えば彼は黙る。なぜ急に避けたのか。そのせいで瑞希はこのゴミのこと考えるばかりで前より悪化している。
「…ぼ、僕が近くにいると苦しめちゃうから…っ、そ、その」
「だから近づかないようにしてると?」
「は、はい…」
そう言って小さくコクりと頷く。…苦しめる?近くにいたら?
「でももう遅いんですよ。あなたと瑞希が出会った時点で苦しめているのですから」
瑞希より私の方があなたと出会って何倍も苦しい思いをしている。何で私があなたごときに苦しめられなきゃいけないんですか。そんな忠告している際、途中から瑞希が来てゴミの額にキスを落とす始末。
「……ッ!」
無性にイラついた。自分がどこに怒りを向けているのか知りたくなかった。あんなゴミどうでもいいはずなのに…。葛藤する日々に自分自身おかしくなる。…考えたくないのに考えてしまう。それから何日か経って最悪な事態が起こった。毎年恒例のペアで協力し合う交流会。内容は鬼ごっこ。
今年は生徒会の中から私と神影が参加することになった。まさかのその私のペアの相手がアイツ。最悪です。その言葉しかなかった。なぜ私が瑞希とペアじゃないんですか。
よりよってこんな奴…。 瑞希のペアはというと神影だった。でも神影は瑞希とペアを組めているのにそんなに喜んでいなかった。
…やっぱり、おかしい。前までは瑞希に夢中だったくせに。無意識なのか神影の目線はずっとゴミの方を見ている。それに対してもイライラする。
「あおい!すぐ捕まえてやるからな!」
すると、とても嬉しそうに瑞希は『あおいを好き放題』と言いながら口を緩めた。
「瑞希。こんな奴放って置いてください」
「あ?ふざけるな!貴之!!俺があおいを放って置けるわけないだろ!」
「瑞希は優しいんですね…こんな奴とでも友達でいてくれるんですから」
「何を言ってるんだ!!もう俺たちは友達じゃないぞ!」
…え?友達じゃない?……ふふ、とうとう瑞希にまで嫌われましたか。少し驚いたが嬉しくなって笑みを浮かべた。
「そうでしたか。とうとう瑞希にまで見捨てられるとは」
そう言えば、すぐに瑞希は訂正した。
「ち、違うぞ!俺たちは…あ、あれだ。そ、…それ以上の関係だっつーの!」
瑞希は口を尖らせて頬を赤く染めた。
そ、それ以上の関係…?何を言って…脳裏に浮かぶのは二人は付き合ってる?はは、まさか。
…なにこの嫌な感じ。
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