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腹黒副会長
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しおりを挟むそして、そんな不安を抱いたままくじを引いていく。何やらボックスの中から引くみたいだった。
「…あおい、何番だった?」
先に引き終えた花園くんは僕にそう問う。
「え、えっと」
まだ見ていないからちょっと待ってねと言って紙を開く。
「ぼ、僕は46だったよ」
「えーーーーー!!!!嘘だぁぁぁ!!!!!!!」
くじの番号を伝えると花園くんは、僕の今引いたくじを奪い取り確認した後グシャグシャにして踏み潰した。
「あおいもう一回引け!」
「え、」
「いいからもう一回!!」
ほら、早くと言わんばかりに催促し僕の手を引いてボックスの前に持っていく。
すると、違うところからまた僕は誰かに手を掴まれた。
「それはダメだよ~瑞希。ルールはちゃんと守らないと」
ゆっくりした口調で現れたのは
「あ!祥!!おまえ!」
花園くんはあー!と大声を出す。か、会計さん…?
「何だよ!文句あんのか!!それよりあおいに手離せ!触れるな!!」
バシッと花園くんは会計さんの手を叩き、僕の手から離れた。
「うわ~、結構痛い。暴力反対~」
「邪魔するなよな!!」
「だーかーらー、今さっき引いてたでしょ。何でもう一回引く必要があるの~。不正?」
「そ、それはあおいが…紙を無くしたからだよ!!」
「いやいや~俺見てたから。そこに潰れてるのがそれでしょ」
花園くんの靴の下にグシャグシャになった紙があり、そこを指差した。
「こ、これは知らないぞ!!なっ、あおい!」
そう言ってそのグシャグシャ紙を蹴って僕の肩に手を回した。少し体勢が崩れる。
「え、…そ、その」
花園くんの目がうんと頷け、と訴えている。
ど、どうしよ…。嘘はいけないと思う反面、本当のこと言うと花園くんが怒られてしまうのが胸が痛い。どうすればいいのか分からず黙ることしかできなかった。
「ほら、困ってるじゃん~。俺も今回審判だからこーゆーの困るんだよね~」
「っうるさいぞ!」
「図星みたいだね~。不正はだめだからね~」
会計さんのその言葉に花園くんは僕の方を見て包み込むように抱き締めた。
「俺、あおいが誰かとペアになるとか耐えられない無理」
「は、花園くん…?」
「だ、だってもう親友同士じゃないし…あーもう想像しただけであおいとペアになる奴がむかつく!」
はっきりと親友同士じゃないと言われたけどそれでも僕とペアになろうとしてくれる花園くん。
「はいはい~、そういうのやめてねー」
会計さんが間に入って、花園くんと僕を引き離した。きっと会計さんは花園くんと仲良くしている僕にむかついて引き離したんだろう。
「で、何番だったの?」
直接、僕にそう聞いてきた会計さん。会計さんを見ると前に中野くんに言われたことを思い出した。
『─会計が易々となんの見返りもなくお前と仲良くする価値ないじゃん』
『─人間案外変わらないものなんだよ。あの人演技超うまい からね。あれ、なになにもしかしてその気になってた?はは、残念だね。あれ君を落とすのが目的だから』
突然、そのことを思い出して、会計さんと目を合わすことが怖くなり、ふいっと顔をそらしてしまった。その途端、バッと会計さんが目の色を変え、らしくないように焦った様子を見せた。
「えっ。ちょっと待って。なんで今そらしたの。本気で傷つく」
会計さんは僕の頬に手をあて、目を合わす形になった。
「ご、ごごめんなさい…!僕そんなつもりは」
傷つくという言葉を聞いて僕の態度のせいで…、と罪悪感を抱く。でもすぐに表情が柔らかくなった。
「そっか。それなら良かった~」
焦ったと安堵する会計さん。
「だから気安くあおいに触れるな!」
「はいはい、わかりましたー。番号教えてくれる?」
「え、えっと、46です…」
僕は正直にさっき引いたくじの番号を会計さんに告げた。隣ではものすごく花園くんに睨まれた。
「46っと。ってまあ、引いた時点で誰が何を引いたかわかるシステムになってるんだよね~」
「そ、そうなんですか」
だから横にカメラみたいなのがあったんだ。反則がないように徹底させれていてすごいと思った。
「明日、ペアは公表するからじゃあねん~」
会計さんは周りに気づかれないようにして手を振りどこかに行ってしまった。ということは、ペアは探さなくても明日教えてくれるみたいだから大丈夫ってことだよね…。生徒会とペアになった人だけ公表されてあとの一般生徒は自力で探さないもいけないと思っていたけどそれはどうやら違ったみたいだった。
「誰が何引いたかわかるぐらいだったら最初からあおいに番号聞くなよな!!」
花園くんは会計さんが去ったあとでも不満をこぼし、イライラしている様子だった。
「それにあおい!!正直に番号言うなよな!せっかく俺が誤魔化してやってたのに!もう俺とペアになれないぞ!全く世話が焼ける!」
「ご、ごめんね」
不正は悪いけど、花園くんの気遣いを裏切った。でも僕とペアになってもいいことなんて何もない。
「別に謝ったから許してやるけどな!」
「本当にごめんね…。は、花園くん、あ、明日の交流会頑張ろうね」
「はー!なに言ってるんだ!!頑張れる気がしないぞ!あおいが他の野郎と二人でいると思うと……あーもうイライラする!!!」
なるべく前向きの方向にもっていこうと思ったけどそれは逆効果だった。
─────
───
……
昔から足は遅くて、運動はだめだめ。その上頭も悪いし、嫌われ者。何をやってもうまくいかない。交流会は鬼ごっこ。しかもペアと協力する。僕はきっとまた人に迷惑をかけるだろう。明日になるなと願っても、時間は規則正しく進んでいく。決して抗えない。不安のまま次の日を迎えた。とうとう恐れていた交流会当日になってしまった。朝から体育館に集合して賑わっている。僕はなるべく目立たないよう隅っこの方にいき隠れるように腰をおろした。すると、すでに賑わっている体育館が更に盛り上がりを見せた。
「やっほ~。みんな盛り上がってる~?」
会計さんがそう言いながら生徒会メンバーと舞台に顔を出した瞬間一気に黄色い声は鳴り響く。とても迫力があった。
『うおぉおおおおおお!』とライブ会場みたいな雰囲気を醸し出す。
「今回は会長と副会長が鬼ごっこに参加するよ~。俺と書記の煌は今日は司会と審判やるからよろしくね~」
「よ、ろしく」
会計さんと書記さんはマイクを持ち会場を盛り上げる。 もうそろそろ始まるんだと心臓の鼓動がはやくなる。
「じゃ、まずは会長のあいさつだよ~!」
会長さんはマイクを握った。
「羽目を外すのはいいが俺様に迷惑はかけるな。とりあえず楽しめ。以上だ」
会長さんの声が体育館に響き渡ると『きゃぁあああああああ!』と、歓声が上がる。その反動で地震が起きたかのように揺れた錯覚がした。この盛り上がりに圧倒されて、のみ込まれていく。体が震え、緊張してきた…。隅っこで小さくなる。
「では、説明しま~す!ちなみにペアは後から公表して、鬼か逃げるのかその時わかるからね~」
会計さんはスラスラと説明していく。
「鬼は制限時間内に捕まえた者を一度だけ好きにできまーす!こんなおいしいルールないよね~。そして逃げる人たちは逃げ切れたら何かご褒美があるらしいよ~。あ、そうそう逃げる側はペアと手錠で繋がれて逃げるからね!」
会計さんは最後にウィンクをして、説明は以上だよ~と言った。に、逃げる側はペアと手錠…。それだったらもう僕、確実足手まといになる。やるとしたら鬼になりたい。だって、誰も捕まえずに過ごせることができるから…。
「くれぐれも反則とか無しだからね~。次、副会長よろしく~!」
「もし、反則などあった場合は、生徒会を敵に回すと思ってくれて結構です」
「だそうなので、皆守ってね~。じゃあお待ちかねの公表に移りたいと思いまーす」
その言葉に盛り上がりがピークになった。
公表…か。誰とペアになるのかな…。僕とペアになる人には本当に申し訳ない。すると、遠くの方から『おーい!!』と聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あおいー!!やっと見つけたぞ!」
花園くんが前から走ってきて体育座りしている僕の頭を抱き締める。
「こんな隅にいたのか!探したんだぞ!!」
「は、花園くん。う、うん…。ここが落ち着くから」
「そうなのか?でも俺に内緒でこんなところいるなよな!」
「ご、ごめんね。さ、探してくれてありがとう」
「別にお礼はいいぞ!こ、こんなの当然だろ」
鼻の下を指で擦って照れるしぐさをする花園くん。
その横で僕はこれから始まる公表に緊張し胃が痛くなってきていた。
──────
────────
……。
あれほど恐れていたペアの公表が終わった。
…う、そ。僕の手首に手錠がはめられている。逃げる側はペアと手錠をはめて逃げるルールとなっている。
嘘だと思いたい。
『嫌われ者のくせに』
『何であんな奴が…』
周囲の視線が痛いほど突き刺さる。
「それではペアにわかれてゲームの準備してね~。10分後に始まるから逃げる側は鬼に捕まられないように逃げることだよ~。では解散~」
会計さんの声が鳴り響く。
僕は恐る恐る隣を見た。
ビクッ
「っ!」
ギロッと鋭く冷たい目で睨まれた。最近、忠告を受けた相手でとても僕のことを嫌っている人。
「…最悪です」
副会長さんの最初の第一声はそれだった。
そう、僕のペア相手は副会長さんだった。まさか副会長さんとなんて…申し訳ない。
どうしよう…。
気まずい。
とても嫌そうな雰囲気が漂ってくる。そうだよね…僕となんだから。
「あおいー!お前貴之とペアなのか!?」
花園くんは、隣に会長さんを連れて来た。もしかして、花園くんのペアは会長さんなのかな…?二人は手錠をしていなかったため、鬼だということがわかった。
「瑞希!瑞希は…。神影とペアですか」
副会長さんはとても残念な顔をしていた。
「そうだ!鬼になったぞ!それと貴之!あおいに変なことするなよ!!」
「はっ、誰がこんな奴。興味ありません」
「おう!それなら安心だ!!…あおいとペアなんてむかつくけど」
花園くんは後半、小さな声で何か呟き笑顔が一瞬だけ消えた。
「なんで私と瑞希がペアじゃないんですか…。よりによってこんな奴と…死んでください」
「…っ」
今、いきなりそう小さい声で言われた。僕は何も言えなかった。聞き間違いでありたかったけど、もう目がそう訴えている。怖くて、副会長さんから視線をそらした先に会長さんと目が合った。ハッとなって僕は慌てて、視線を下に向ける。
「…チッ」
すると、会長さんに舌打ちされた。
び、びっくりした。会長さんと目が合うなんて…。でもすぐ目をそらして良かった。きっと僕と目が合って嫌だったのだろうから。
「あおい!すぐ捕まえてやるからな!」
花園くんはとても嬉しそうに微笑んであおいを好き放題と言いながら口を緩めた。
「瑞希。こんな奴放って置いてください」
「あ?ふざけるな!貴之!!俺があおいを放って置けるわけないだろ!」
「瑞希は優しいんですね…こんな奴とでも友達でいてくれるんですから」
「何を言ってるんだ!!もう俺たちは友達じゃないぞ!」
きっぱりと、花園くんにそう言われた。グサっときた。まるで胸にナイフが刺さったような感覚だ。副会長さんは目を丸くした後、笑みを浮かべた。
「そうでしたか。とうとう瑞希にまで見捨てられるとは」
「ち、違うぞ!俺たちは…あ、あれだ。そ、…それ以上の関係だっつーの!」
花園くんは口を尖らせて頬を赤く染めた。それ以上の関係…?頭の上にハテナマークが浮かぶ。
「それは、どういう意味だ」
すると、さっきまで口を閉ざしていた会長さんが口を開いた。
「え?ちょ、瑞希…今なんて」
副会長さんも目が点になりわからない様子で慌てていた。
「お前ら二度も言わすな!!」
花園くんは、二度も同じことは言わないと口をかたく閉じ、ばーかばーかと言って僕に近寄った。
「言っとくけどあおいを好きなようにしていいのは俺だけだぞ!!だから大人しく俺に捕まれ!そしたら一緒にデートしような!一度もしたことがないからこの機会に派手にやろうぜ!」
と、パーティーみたいな感じで言い俺ってば天才!と笑顔を輝かせた。隣では、副会長さんの眉がピクッと動いた。
「瑞希…騙されてます。前も言ったようにこのゴミは瑞希を利用しているんです。私たちに近づくために。…腹立たしいので視界に入らないでください」
最後、僕に向けて嫌悪のこもった目で冷たくあしらった。
─ドンッ!
大きな音がなる。花園くんが壁に勢いよく拳をいれたからだった。
「ふざけんなッ!利用ってなんだよ!むかつく!!あおいは俺が大好きなんだぞ!お前らなんか眼中にないくらいにな!何回も同じこと言わせるとかありえないぞ!」
「み、瑞希…?」
「俺のためにプレゼントあげたことあるし、俺の前だと顔を赤く染めて照れたり、俺のこと大好き過ぎて素直になれないところがあったり…とにかくあおいはめちゃくちゃ俺が大好きなんだよ!」
わかったか!と怒鳴り付け、『これ以上はもったいないから言わないぞ!』と慌てて口を押さえる花園くん。僕は一体、二人が話している内容の意味がわからず追い付けなかった。
とりあえずまた僕のせいだということだけが伝わってきた。なぜなら副会長さんが殺気をはなって僕を睨んでいるから…。
「瑞希に付きまとうなんて…あなたどんな神経してるんですか」
「え、…」
つ、付きまとう…。僕は別にそんなつもりはなかった。
「あなたが瑞希に執着してこちらは困ってるんです。何を企んでいるかわかりません」
「ぼ、僕…なにも企んで」
「言い訳など聞きたくありませんので黙ってください」
「…っ」
ただ仲良くなりたかった。でもそれも、もう友達ではなくなった今仲良くなんてできるはずがない。ちゃんと言葉にして伝えたいのにそれすら許されない。
『逃げる時間はあと5分だよ~。鬼の人は準備しといてね~』
会計さんがマイク越しにそう言った後、花園くんが僕の顔の目の前に顔出してにっこりと笑った。
「すぐ捕まえてやるから逃げるなよ!」
逃げても僕は足が遅いからすぐ捕まると思う。
「捕まえたら俺のこと、花園くんじゃなくて…そ、その…瑞希って呼んでほしい」
「え、?」
花園くんを…名前で?そんな恐れ多くて僕なんかが呼べない。
「他にもいろいろお願い事があるけどありすぎてやばいぞ!それと俺、足には自信があるからな!」
だから安心して俺に捕まれ!と親指を立てる花園くん。隣にいる副会長さんの機嫌がますます悪くなっていく。
「わっ、」
そう思ったら、急に副会長さんは黙って歩き出した。手錠でお互いの片腕が繋がれているため、僕は引っ張られる形になった。
「あ、あの…」
「話しかけないでください」
い、一体どこに行くんだろ…。鬼に捕まれないようにどこかに逃げるのかな…?そう疑問に思ったら花園くんが『絶対俺以外に捕まるんじゃないぞ!』と叫んでいた。
──
────
無言のまま、引っ張られること数分。結構遠くまで逃げてきたと思う。
「本当、鈍間ですね。何してるんですか?早く逃げますよ。あなたが瑞希に捕まったりでもして、瑞希とデートするなどと許しませんから全力で阻止します」
副会長さんが早く早くと進む足がはやくなり、僕はもう考えてる余裕なんかなく残りの体力と戦っていた。手錠さえなければ、副会長さんだけでもはやく逃げれたのに僕なんかとペアになってしまったせいで…。
「あー!朝霧様見つけたぞ!」
気を休めることなく、遠くから鬼になっただろう生徒の声が聞こえ、僕は焦りだす。もう鬼ごっこがスタートしてたんだと実感させられる。
走るのは苦手だから好きじゃない。でも、走らないで副会長さんにまで迷惑かけることはもっと好きじゃない。
「何してるんですか!早く逃げますよ!あなたルール聞いてましたか?鬼は捕まえたら好きに出来るんですよ」
「はぁ…っ、ごめんな…さいっ」
声を出すのも一苦労。
走ることで精一杯。
それに手錠が皮膚に触れて痛い。
「チッ。あなた自分が嫌われている自覚ありますか?捕まったら即死刑ですよ」
し、死刑…。確かに、僕は恨まれている。ただえさえ嫌われ者で皆から嫌われているのに鬼ごっこで生徒から人気のある生徒会の副会長さんとペアになってしまった。これはもう、捕まえられたら生きていける自信がない。嫌な汗が背中を伝うのが走っていても感じた。…捕まりたくない。副会長さんが言った死刑って言葉が僕の胸に重く突き刺さった。
「まぁ、あなたがどうなろうと知ったことではありませんが私が捕まりたくないのでちゃんと逃げてください!」
副会長さんはそう言ってまたスピードをあげた。これでも自分では全力疾走のつもりだった。こうなるんだったら少しでも走る練習をすればよかったと後悔する。
「…っ」
走れば走るほどさっきより手首が痛くなる。手錠で繋がってるから同じタイミングで腕を振らないと擦れるし、引っ張られる。 走ってるのも大変なのに痛みが加わると余計走るのが困難になる。ランニングとかのゆっくりしたテンポならまだ合わせられるかもしれないけど、今はそんな余裕どこにもない。とにかく走ることに集中する。痛みにたえながら走ってるそんな時、
─ぎゅっ
…え?
手錠で繋がられている手が温かさに包み込まれ、気づいた時には副会長さんに手を握られていた。
ど、うして…?
「はぁ…っ、ふ、く会長…さ、ん?」
突然の副会長さんの行動に驚いた。
「…ったく、あなたは遅いんですよ。本当は死ぬほど嫌ですけど。いいから気にせず走ってください」
副会長さんは走りにくさを感じたのか、どうして手を繋いだのかわからないけど手を握られたおかげで引っ張られても痛くないし手錠で手首の方が擦れないですんだ。
ぼ、僕なんか触るのも話すのも一緒にいるのも嫌なはずなのに…。と、握られた手を見て心の中でそう思った。
────
──────
……。
申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど副会長さんのおかげで逃げ切ることができ、崩れるように床に足がついた。
「はぁ…っはぁ」
息が乱れる。僕は力が抜けた。ちなみに今は空き教室で休憩中である。
「ちょっと勝手に座らないでください。手に響きます」
「ご、ごめんなさい…っ」
僕が腰をおろしたせいで副会長さんと手錠で繋がられている手を引き寄せてしまった。
「…まさか手を繋ぐはめになるとは。これが瑞希だったら最高だったんですけどね。こんな足手まといのゴミとペアになるなんて最悪以外ないです。それに手が汚ればい菌がつきました」
副会長さんはそう不満な声をもらし、ゴシゴシと、音が聞こえる勢いで手を拭いた。
「……っ」
僕は唇を噛みしめ、何も言えない。だって、副会長さんが言ってることは正しいから…。菌扱いされたのはすごく辛いけど仕方ないことだと思った。
「大体、何あれくらいで息あがってるんですか?足遅いし、迷惑かけるし、本当クズですね」
また、心に突き刺さる棘のある言葉。
「この際、聞きますけど瑞希に近づいたりして何が目的なんですか?」
「も、目的…っ?」
震える言葉。
花園くん…に近づく?
目的…?
どういう意味だろうと不思議に思った。
「はっ、とぼけるつもりですか。いいご身分ですね」
鼻で笑って、座っている僕を見下ろして睨んだ。僕はよく分からず、今にも副会長さんの手が出てきそうなので、怖くて顔をうつむけた。な、殴られるのかな…。歯を食い縛り、体を身構える。
「このまま黙って何も答えないという考えが丸見えです。……ねぇ、本当の目的は私なんでしょ」
副会長さんは屈んで顎を持ち上げ、うつむいている僕の顔をあげさせた。
副会長さんと目が合い、震える体。
目的が副会長さん…?僕には話の内容がよく分からなかった。
「あなたが瑞希に近づいた理由は生徒会が目的、そうでしょ?」
何を、言ってるの…?僕は理解していないまま、更に話は、進んでいく。
「忠告したのにも関わらず、まだ瑞希に執着してるってことはそれしか考えられません。利用するとか最低です」
「ふ、副会長さん…、言ってる意味が」
「わからないのですか?本当に馬鹿ですね。それともわからないフリをしてるんですか」
「…っ」
これ以上何も言えなかった。
だって、頭が悪いし…僕は馬鹿だから。
今、本当にわからないって言っても更に怒らすだけだと思って黙るしかなかった。
すると、副会長さんが思い出したかのように僕には問う。
「そういえば、瑞希とはもう友達ではないってことは本当ですか?」
副会長さんの声には明らかな怒りが込められていた。
「え、…あ」
その副会長さんの問いに僕はまた胸が苦しくなる。花園くんとは…もう友達ではない。わかっている。花園くん本人の口からもそう言っていた。
「どうなんですか?」
ビクッ
「…は、はいっ」
今にも消えそうな小さな声でそう答える。少しの間だけでもだめだめな僕なんかと友達になってくれて嬉しかった。花園くんは僕といるより他の人といるほうがきっといい。
「…チッ。じゃあ瑞希が言っていたそれ以上の関係って本当なんですね。あなた一体何なんですか」
「ふ、副会長さん…?」
手錠で繋がれていないもう一方の手で僕の腕を強く握りしめる。痛くて、歯を食い縛った。
「本当は生徒会に好意があるくせに…っ。瑞希を脅して」
声が怒りで震えてる。 更に握られている力が強くなった。生徒会に好意…?
ぼ、僕が花園くんを…脅す?
脅すってなに?もうわけがわからない…っ。
頭の中では整理がつかなく、そして色んな感情が混ざった。
「…っ」
涙が流れないよう堪えるが止めるすべがなく、とうとう僕は我慢できずに副会長さんの前で泣いてしまった。
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