嫌われ者の僕

みるきぃ

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無口ワンコ書記

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【煌Side】

俺としたことがつい笑ってしまった。なんで、こいつの前なんかで…と思った。別に怖いとか聞くつもりなんてなかった。ただ、俺のことどう思ってるか知りたかっただけで、そう考えてる俺はどうかしてるのか…?しかも、『優しい人』なんて初めて言われた。だから動揺した。



…なにこれ。


変な気持ちだ。




しかも、きちんと俺の言葉を理解していて上手く喋れてないのに指摘してこない。まあ、指摘できないのは怖いってのもあるかもしれないけど。それでも俺にとっては嬉しかった。そして謝ったり、驚いたりして面白かった。なぜ、こんなことで面白いと思えるなんてわからない。




「いじめられていて、俺のこと憎んでるんじゃないの?」


次に出てきた言葉は途切れなくスラスラと出てきた。自分自身驚いた。 一回も途切れず言えるなんて。


「に、憎んでないです…ただ僕が皆に嫌われやすい体質で…弱いし…頭悪くて…周りに迷惑かけてばかりだから…」



自分を卑下して、悲しそうな表情になり目線が下に向いたのがわかった。


っ。

自分で聞いといて返す言葉が見つからない。




「…ふ、ふぅん。学校やめたいとか思わなかったわけ?」




何でこうも俺は悪い言葉しか出てこないんだ。口から出る言葉は、と、そう考える俺に訳がわからなくなった。




 「わ、わかりません…。で、でも…」


「…でも?」




「ひ、一人だけ自分を分かってくれる人がいたからそれだけで十分で………も、もし本当に僕一人だけだったら逃げていたかもしれません…」




一人だけ。それは確実に俺じゃないということになぜか胸が痛くなった。なんだよ、これ。…違う。俺が好きなのは瑞希だ。勘違いするな。


こんな地味でダサいヤツ嫌いだ。今はもっと、瑞希のことを考えようとしたらあることを思い出した。気になっていたあれだ。瑞希が前に言っていたことを思い出す。




『───あおいは俺のこと大好き過ぎるから俺がいないとダメなんだ!なのに、あおいの奴探してもいねぇし!!全く彼氏は疲れるぜ!』
 



…本当に付き合ってるかどうかはわからない。しかも、大好きすぎるって何。何だか最初思っていたのと別の意味で付き合っていたら嫌だと思ってしまった。




…なんだこれ。






「お前、……瑞希と付き合ってんの」


そう切り出した。




「え?」



「だから、恋人なのかって聞いてる」



「こ、ここ恋び…っ!?ぼ、僕と花園くんが…?」



「そうだ」




「そ、そそそんなとんでもないです!!ぼ、僕なんかがこ、こ恋人なんてありえないですよっ」



慌てて驚いている様子だ。多分、急な質問に戸惑っているんだろう。じゃあ、もし今聞いたそれが本当だったらなぜ瑞希は嘘をついたんだ?



よくわからない。でもそれが聞けて安心した。




「別に。ちょっと確認したかっただけだから」






…そっか。なぜかホッとした気持ちになる。




そう安堵する自分がむかつく。


こんな奴どうでもいいのに。




「お、お前さ…俺のこと変な奴とか思ってただろ」



また俺は急にそんなことを口走っていた。




「え…?」
 

俺の質問がよく分かっていない様子だった。まあ、急にそう言ったら理解できないよな。

 


「だって俺、喋り方変だし」


「えっ!?」





「何またそんな驚いてんの」



「え、えっと…その」



「別に正直に言っても酷くいじめたりしない」







「い、いや!そ、そのそういうわけではなくて…し、質問の意味が分からないというか…」




「ふっ、何それ」





こいつの馬鹿さに俺は少し呆れた。いくらなんでも理解できるだろこれは。質問してあれだけどこいつが変な奴だと思った。



「まっ、今はなぜか普通に喋れるけど。…他のやつの前だと変な喋り方になってしまうからいつも気持ち悪がられる」



自分ではちゃんと話しているつもりが相手からしたら何を言ってるのかわからないみたいな感じで言われる。




「そ、そんなことないと思います…。書記さん人気ですし、そ、それに優しいので気持ち悪いとこないです。あ!ぼ、僕なんかが生意気にごめんなさいっ!」


喋りすぎたと言わんばかりに謝ってきた。





「別にいい。ただお前が馬鹿なことだけわかったから」



「え…っ」



そんな!と言いたげな様子でシュンとなった。それを見て自然と笑みが浮かぶ。なんか、こいつとなら落ち着いて話せる。今まで生きてきた中でこんなに普通に誰かと話せたことがあっただろうか?



それに、

優しい…とか気持ち悪くないとか



「そう言ってくれるのお前だけだな」




やっぱ、こいつ変なやつ。って改めて思った。





「違います。ぼ、僕だけじゃないです。み、皆さん思ってますから」



「っ!」


ふいに、言われたその一言で思わず顔を赤くしてしまった。


うわ、なにこれ。

何なのこいつ。




俺は今まで気づいていたのに気づかないふりをしていた。こいつや瑞希だけじゃなく、親衛隊だって俺の言葉を理解していた。家族だって、喋り方が変だって指摘されてはいたけどちゃんとわかってくれていた。



それを今気づかされた。

…こいつなんかに。





すぅっとその悩みが軽くなったような感じがして…それに加えてあのままの俺が褒められているみたいで少し嬉しかった。


俺がこいつにしてきたことは許されるものじゃない。いじめては酷い言葉をたくさん吐いた。学園一の嫌われものにした。


俺がこいつの立場だったらすごく苦しいと思った。


 
…俺、最低。

ちょっとこいつといるだけなのに自分らしくいられて心が温かくなる。



べ、別に…深い意味なんてない。ただそう思っただけ。ただ謝りたい。だけど、今さら都合が良すぎる。まさか、本の趣味が同じなんて知らなかったし今まで俺がしてきたことは最低なのにそんな俺に優しい人だなんて言うなんて本当おかしいやつだ。


謙虚で自分を卑下してしまうこいつのこと、もっと知りたいと思った。




「あ、あの書記さん」



俺があげた本をぎゅっと胸の前で抱き締めて俺を呼んだ。



…書記さんね。


「あのさ、その書記さんって言うのやめてくれる?」



普通に名前で呼んで欲しいと思った。こいつの口からそう呼ばれたい。



「え、えでも…せ、先輩ですし…ぼ、僕なんかが…よ、呼ぶなんてそんな失礼なことできませんっ」


恐れ多いです。と慌てて首を振りながら謝る。




「書記さんって呼ばれるの俺が嫌」




「ご、ごごめんなさい…っ」



「だから呼んでよ。煌って」


誰かに強引に自分の名前を呼んで欲しいと思ったなのは初めてかもしれない。





「と、とんでもないです」


「命令」


「えっ、」



「…ふっ、嘘だよ。でも苗字でもいいから俺の名前で呼んで欲しい」



なんか、これ以上せめると可哀想だと思った。





「い、いんですか?ぼ、僕なんかが呼んでも…」



「うん。今は井上でいいよ」




もう少し仲良くなったら絶対名前を呼ばせてもらうから。



「わ、わかりましたっ。…い、井上さん」



「うん。それでいいよ」



…やばい。

どうしよう。




自分で呼ばせたのに、とても嬉しい。





だから、俺もこいつのこと名前で呼びたい。

俺が名前で呼ぼうとした時、さっきからずっと俺たちの足元にいたラブが『ニャーニャー』と鳴き出した。




「ど、どうしたの?猫さん…」


「ニャー!」


すると、ラブはジャンプしてこいつの胸に飛び込んだ。





「ふふっ、ど、どうしたの?」


ペロペロと奴の頬を舐め出す。ラブのやつ…っ。




「こら、ラブ」


俺はすぐさまラブをこいつから引き離す。すると、ラブは珍しく邪魔されたと暴れだす。







ラブを地面に下ろして、ふと、目線がこいつの首筋に向いた。




…?



ラブが飛びついてきたせいでシャツが少し乱れ、よくよく見ると赤く少し腫れていてそこから見えたのは誰かの歯形がくっきりついていた。



あれって……キスマーク?

一瞬、ラブに噛まれたのかと疑ったがこれはどう見ても人のだ。



俺は、確かめるため近くで見ようと思って首筋に触れる。





「い、い井上さん……っ?」



突然、触られてビクッとさせた。



やっぱり、これ。



「ねぇ」



「は、はい…?」



「誰かにここ噛まれた?」



「…へ?」




何のことだかわかっていないようだったけど、あ!と反応をみせた。やっぱり、何か心当たりがあったのか。






「え、えっと…は、花園くんがさっき…そ、その僕に…おまじないをかけてくれました」




「…おまじない?」


キスマークが?しかも瑞希がこれをやった?




「よ、よくわからないですけど…ぼ、僕なんかを守るためのおまじないらしくて…、優しいですよね」




何言ってんだ…。こんなの優しさじゃない。

…ただの独占欲の塊だろ。










なぜか、嫌な気持ちになった。どうして瑞希がこんなにもこいつに執着するのかがわからない。…俺も前までだったらそう考えていただろう。でも、今ならわかる。こいつの隣にいると落ち着くしずっとそばにいて欲しいなとか考えてしまう。あんなにも大好きだった瑞希が今は…ったく、あーもう俺、一体何考えてんだ。自分の頭に整理がつかなくてワケがわからない状態になっている。






とりあえず、今はっきりわかったことは瑞希がこいつを好き過ぎるってことだ。ぎゅっ、と手に力を入れて拳を作る。このキスマークと執着ぶり。今まで何を見てきたんだ…。そして、俺の目は一体何を映していたんだ。歪んだ目で見ていたから本当のことなんて何も見えなかった。


『あおいは俺のこと大好き過ぎるから俺がいないとダメなんだ!』って言葉は瑞希が勝手に一方的に思っているだけじゃないのか?あぁ、頭が痛くなる。俺…もしかして。いやいや、考えすぎて頭が混乱しているだけ。絶対、俺に限ってそんなことは…ない。



「あ、れ?どうしたの?猫さん…」



俺がいろいろ頭の中で考えている時、さっき地面に下ろしたラブがシャーッと毛まで立てて威嚇をした。




「ラ、ラブどうした…?」


ラブの行動に不審に思ってラブが向いている所に目線を合わすと、






「……え…?」


み、瑞希…?そこにいたのは間違いなく瑞希だった。だけど、雰囲気はいつもと異なりすごい目付きで睨むようにこっち見て立っていた。

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