嫌われ者の僕

みるきぃ

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嫌われ者

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【あおいside】



「あ、あの…」


なぜか、腕を掴まれた。不良さんたちに頼まれ事をされているのに大丈夫かな。また怒られてしまう。



「お、お前の格好は風紀が乱れている。着いてこい」



「うわ、え、あ、あの!?」


このずぶ濡れな格好を指摘し、そのまま掴まれた状態で僕の腕を引いて歩き出した。 


い、一体…この人何者なんだろ…。どこかの空き教室で殴ったり蹴られたりしないよね…?



僕は不安に震えながら、連れられつつも管理棟へとたどり着き、ある所で足が止まった。



扉のプレートには『風紀室』と刻み込まれていた。

僕の腕を掴んでるこの人は、ほんの一握りの者が持つカードをカードスロットに差し込むと、重厚な扉がゆっくり開いた。


扉が開くと、そこには学校とは思えないほどの真っ赤な絨毯が占めていた。


ど、どうして僕が風紀室に…?それにしても、豪華な部屋。キョロキョロと周りを見渡す。


僕…絶対、場違いだよね…。地面に顔をうつむけながら立っていると、


「おい。これ着ろ」


上下揃ったジャージを渡された。僕は顔を上げる。


「で、でも…」


「いいから着ろ」



男の人の熱のこもった眼差しに、ぞくりと背筋が震える。どう言葉を返したらいいか戸惑う僕の表情を見て小さく笑った。



「急に悪かった。俺は風紀委員長の坂野冬馬。 そのままの格好だったら風邪引くだろ?」



「え…?」


風紀委員長さん…?だから、僕は風紀室に連れてこれたんだ。


それに、このジャージを着てって…この学園に来てゆうやウェイターさん以外の人に優しくされたの初めてだ。


でも受け取れない…。


「ぼ、僕なんかにこんなことしても良いことないです…」



ごめんなさいと言いながら、返す。僕は、嫌われ者だからきっと後悔する。



「だめだ。素直に着ろ。…あ、もしかして俺に着せられたいの?」



「えっ!?」



ニヤリと笑う委員長さん。


「しょうがねぇな…こっちこい」



「だだだ大丈夫です…自分で着ます」



「そりゃあ残念。そうか」


今日初めて会ったのに、優しい人だ。ちゃんと、お礼言わなきゃ。



「い、委員長さん!そ、その…ありがとうございます」


ペコっと頭を深く下げた。



「冬馬」


「え…?」


とうま…?



「委員長さんじゃなくて、冬馬って呼んでよ」



「え、そそそんな恐れ多いです…っ」



ぼ、僕なんかがそう呼べるほど偉くない。



「拒否権ないよ。呼ばないと俺が着替えさせるけど?」



「え、えっ」


それも恐れ多い。



「どうする?呼ぶの?呼ばないの?」


…っ。





「よ、よよ呼ばせていただきますです」


さすがに着替えは自分でやりたい。




「ふはっ。日本語おかしいよ」


委員長さん…いや、えっと冬馬さんは微笑んだ。


「じゃ、じゃああの…と冬馬さん」



噛んでしまった。名前を噛むなんて失礼すぎる。僕は、恥ずかしさと申し訳なさで顔が赤くなる。



「冬馬さん、か…。今はそれでいっか」


冬馬さんは、僕の頭を優しくよしよしと言いながら撫でた。



「じゃあ、有り難くこのジャージお借りします」



「うん。じゃあ、あそこの奥の部屋で着替えておいで」



「あ、ありがとうございます!」


僕は、夢を見てるんじゃないかと思った。素直に喜んでもいいよね…?



―――――――
―――――
―――


……。




あれから、ジャージに着替えてきちんとお礼をして風紀室を後にした。そして、教室に戻ると不良さんたちに遅いと怒られた。


そんなこんなで今日はいろいろ合った。


コンコン。

僕は2回ノックをして、寮のゆうの部屋に入る。



「た、ただいま~」


小さな声でそう言って、机に鞄を置いた。


「わっ」


冬馬さんに借りた服を洗濯しようと洗面所に行くと、そこにはゆうがいた。まだ帰ってきていないと思っていたからびっくりしてしまった。



「驚かせてごめんね。お帰りあおい」



「ただいま。大丈夫だよ」


僕はそう言って、濡れた制服をバレないように素早く、丸く包んでそのまま洗濯機の中に入れた。




「ん?ねぇ、あおい」



「ど、どうしたの?」



もしかして、制服すぐに入れたから怪しまれた…?もしそうだったら、後でやれば良かったと今更後悔する。



「その、今あおいが着てるジャージ誰の?」


「え、あっ…これのこと?」


良かった。制服は別に怪しんでないみたいだ。




「うん。サイズ合ってないみたいだし…あおいのジャージ、クローゼットの中に吊るされてるのみたから」



「えっと、実は今日花壇に水やりをしてた時、制服が濡れちゃって…困っていた僕に風紀委員長の冬馬さんっていう人が貸してくれたんだ…」



どうしよう。素直に話したいけど…不良さんに水をぶっかけられたとは言えない。




「…それで?」


「え?」



いつになく、ゆうの声や表情が冷たくなった。 今のゆう…?




「早くそれ脱いで」


「え、あっちょ、ゆう…?」



急なことで僕は戸惑う。構わずゆうに、ジャージの上を脱がされた。



「借りたんだから早く洗濯しなきゃだめでしょ」


柔らかい笑顔のゆう。



「あ、うん。そ、そうだよね!」


あ、れ?いつも通りのゆうに戻った。ちょっと、不機嫌に見えたけど気のせいか。


あ、そだ。早く洗って返さないと!僕は下も脱いで、ジャージを洗濯機の中に入れた。ゆうは多分汚しちゃまずいと思って言ってくれたんだ。


やっぱり、頼りになって優しいお兄ちゃんみたいな存在。僕にはもったいないくらい。そばにいるってことだけで感謝しきれない。



「…でも」



「…?」



「もう俺以外に頼っちゃだめだよ」



「え?」



 
『ふふっ、冗談だよ』と苦笑するゆうに自然と入れていた肩の力を抜いた。
 


「じゃあ、あおいはそのままお風呂に入っていいよ。着替えは持ってくるから」



「あ、うん。ありがとう…」


もしかして、他人に迷惑かけちゃだめだって言っているのかな?


ゆうって本当優しいな…。僕はゆうに一番迷惑かけているのにそれなのに本当優しい。そして、お湯を沸かし僕は鼻歌を歌いながらお風呂に入った。





―――――
―――――――
―――――――――

……。



それからしばらくしてソファに座り寛いでいると。



「そういえば、あおい。風紀委員長さんとはどうやって出会ったの?」


ゆうは、僕を膝の上にのせてながら今日あったことを聞いてきた。



「えっとね、濡れちゃったからトイレで眼鏡とか拭いていた時に会ったんだ。でも冬馬さん優しい人だったよ」


そう伝えればゆうは、はっ?と言いたそうな顔をした。



「ちょっと待って。…あおいもしかして眼鏡外したの?それに名前呼びって…いつの間にそんなに親しくなったの?でも今日初めて会ったんだよね?」



すごい質問攻めしてきた。できれば一個ずつ答えたいと言いたい。頭の悪い僕は、一度に覚えることが苦手だ。これだからだめ人間なんだ。

今、ゆうがした質問を1個くらいしか把握できなかった。



「う、うん。眼鏡は拭くために外したよ…?」


だ、だめだったのかな…。



「素顔を見せたってこと?」


僕はコクりと頷く。確かに、人に見せられないような不細工な顔をしているからゆうは僕に気遣って今は敢えて言っていないのかも。

眼鏡を外すんじゃなかったと後悔した。



「そうなのか…。じゃあ、何で名前呼びをしているの?」



ゆうは、残念というか不機嫌な顔をしていた。それを見て僕はもう二度とゆう以外の人の前ではこの眼鏡を外さないことを誓った。



「名前呼びは…その僕なんかが本当申し訳ないと思ったけど…冬馬さんがそう呼んでほしいと言われちゃって」



本当に僕なんかが名前を呼べるほど僕はいい人間じゃない。どうしよう…。今更、訂正するなんて言っても遅いよね。

僕は、シュンとなりゆうの胸に顔をおさめた。



「あおい?」


僕が急にそんな行動に出たからゆうの声は少し驚いていた。




「もう…僕、この眼鏡外さない。それと名前呼びはゆうだけにする」


僕のせいで、不快な思いをさせたくない。すると、ゆうは微笑んで僕の頭を撫でた。



「絶対そうした方がいいよ…」



「うん。あ、ゆうも…そのもし僕に名前呼びされるの嫌だったら言ってね…」



もしそうだったら、すっごく寂しい。辛いけど、ゆうは優しいからなかなか言えないのかもしれないし…。マイナスなことしか浮かんでこない。だって、今まであまり考えたことがなかったから、実はゆうも嫌がってたりしているのかなって…。

途端に不安が襲う。



でもそれをすぐにゆうの柔らかい笑顔で消え去った。




「何バカなこと言ってるの。嫌だなんて思ってないよ」


『全く、どうしたの?急に』とゆうは、笑顔を溢していた。優しくて、僕を受けとめてくれるような笑顔…。包み込んでくれるような笑顔。


その言葉、表情が嬉しくて、僕の視界は涙でぼやけてしまった。


こんなだめな僕のそばにいてくれて、困っている時には助けてくれて本当ありがとう…。



ゆうは、僕にとって憧れでもあり、大切な大切な存在。




 
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