つい勢いで後輩の童貞を奪っちゃうような女ですが、こんな私でも愛してくれるんですか?

春音優月

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【第二部】

86、確かめたいこと

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「それ聞いて安心したよ」
「うん……」
「気持ちの整理がつくまで時間がかかっちゃったけど、花音にはずっと謝りたいって思ってたんだ」
「謝るって、何を?」
 
 今までニコニコしていたのに急に神妙な面持ちになった恩田先輩に私も声をひそめる。
 
「付き合ってた時のこと。花音にあまり構ってあげられなかったし、一方的に別れ話しただろ?」
「それは……。私が恩田先輩を追いつめたからで……。謝られることじゃないよ」
「違うんだ。言い訳に聞こえるかもしれないけど、あの時親が離婚寸前でそれ関連で色々あってさ。就職のことや卒論や大学のことに加えて、家庭の問題まであって、花音のことまで気にしてあげられる余裕がなかったんだ」
「そうだったんだ……。ごめんね、そんな状況だったなんて全く思わなくて」
「それは俺が言わなかったからだよ。花音のせいじゃない」
 
 そう言われても、そんなに大変な状況だったのに、私の変な意地のせいで恩田先輩をさらに追いつめていたかと思うと、すごく申し訳ない気持ちになる。
 
「俺の方が三つも年上だから頼られたいって気持ちもあったし、花音に情けないとこ見せたくなかった。でもそれであんなことになるぐらいなら、花音に全部話せば良かったんだよな。
花音のことが好きなのに、花音といるとしんどくなって離れることにしたけど、でもそれは間違いだったんじゃないかってずっと後悔してたんだ。花音の話をもっと聞いてあげればよかった、もう少し違う接し方が出来たんじゃないかって何度も思ったよ」
 
 口元に笑みを浮かべながらもどこか苦しそうに話してくれた恩田先輩に胸が締め付けられる。
 
 恩田先輩も後悔してたんだね。
 恩田先輩は私のことを嫌いになって別れたんだって思ってたけど、そうじゃなかったんだ……。
 
「花音はやり直したいって言ってくれてたのに、ごめんな」
 
 テーブルの正面に座っている恩田先輩に頭を下げられ、フルフルと首を横に振る。
 
「短い間だったけど、花音と付き合えて楽しかった。花音のことがすごく好きだった」
「わたし……っ、私も大好きだった。幸せだったよ」
 
 胸が苦しくて言葉が出てこなかったけど、それだけは伝えたくてどうにか言葉を絞り出す。
 
 別れる直前の嫌な記憶や苦しい気持ちばかりが印象に残って、そればかりを思い出してたけど、ちゃんと恩田先輩も私を好きでいてくれたし、幸せだった時間もたしかにあったんだよね。
 
「だからさ、花音が今幸せだって聞いて安心したよ。俺は幸せにしてあげられなかったけど、花音のことはこれからもずっと大切に思ってるし、幸せになってほしい」
「……。本当はね、今の彼氏とあんまり上手くいってないんだ」
 
 恩田先輩の顔はすごく穏やかで、嘘をついたことが辛くなって、本当のことを打ち明ける。
 
「何で?」
「あの、これ聞いて誤解しないでほしいんだけど、私恩田先輩に彼女がいるって知らなかったから、だからあの……」
「うん、大丈夫だから言ってみて」
 
 どうやって話したらいいのか分からなくてしどろもどろになっていたけど、優しく促されて続きを口にする。
 
「今の彼氏のことは好きなんだけど、私恩田先輩のことが忘れられなくて、それで彼氏とも距離置くことになったの。今日はね、自分の気持ちを確かめようと思ってきたんだ」
「今も俺を好きかどうか?」
「……うん」
 
 探るような目で私を見た恩田先輩に頷きを返すと、恩田先輩は一瞬顎に手を置いて首を傾げてから、もう一度私の目を見つめる。
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