つい勢いで後輩の童貞を奪っちゃうような女ですが、こんな私でも愛してくれるんですか?

春音優月

文字の大きさ
83 / 96
【第二部】

83、確かめてきたら?

しおりを挟む
「変なこと聞くけど、一花は松尾先輩のことを思い出したりしない? 会いたくなったりとか」
「思い出すことはたまにあるけど、会いたくなったりはないかな。私は松尾先輩の嫌なとこもたくさん見てきたし、最後の方は言い争いばっかりだったからね。
のんはそうじゃないでしょ? 恩田先輩のことが嫌いになって別れたわけじゃないし、一番好きな時に別れちゃったから、余計に引きずってるのかも。恩田先輩は私から見ても良い彼氏だったし」
「そう、だよね。恩田先輩はあんなに良くしてくれたのに、私がもう少し大人だったら違ったのかなってずっと後悔してる」
「のんだけが悪かったわけじゃないよ。のんも悪いとこあったけど、恩田先輩だって悪いとこあったと思うし、タイミングが悪かったんだよ」
「お互いのことが大好きでも、タイミングが悪かったり、ちょっとした気の迷いで修復不可能になっちゃうんだよね。なんかもう、それなら恋なんて最初からしたくなかったって思っちゃう」
 
 磯川くんと彼女さんも、私と恩田先輩も、そして私と慧も。どれだけお互いのことが大好きで、ずっと一緒にいたいと思ってても、ちょっとしたことが原因で簡単にダメになって、修復不可能になってしまう。
 
 そんな不確かなものにすがって、メンタルボロボロになるくらいなら、恋なんてしたくなかった。
 
 ベッドにもたれかかって天井を見上げていたけど、ふと隣の一花のことが気になって一花を見る。
 
「ごめん、付き合いたての一花に言う事じゃなかったね。さっきの今で白々しいかもしれないけど、一花と彼氏さんのことはすっごく応援してるし、続いてほしいなって思ってる」
「分かってるから大丈夫」
「それなら良かった」
「のんはさ、今も恩田先輩と戻りたいって思ってるの?」
「……分からない。慧のことが大好きだったし、ずっと一緒にいたいと思ってた。その気持ちに嘘はないよ。
でもね、一回恩田先輩に会ったぐらいで簡単に動揺しちゃったのも事実。私も自分で自分の気持ちが分からないんだ……。私、まだ恩田先輩のことが好きなのかな。もう分からないよ……」
 
 右手の指輪を押さえながら一花の方をちらりと見ると、一花はどこか遠くの方を見ていた。
 
「一回恩田先輩に会って、確かめてきたら?」
「確かめるって何を?」
「慧が好きなのか、それともまだ恩田先輩のことが好きなのか」
 
 目を合わせた一花に言われたことに、心臓がドキリとする。本当はそうした方がいいんじゃないかってこの三週間ずっと考えてた。でもどうしても実行にうつす勇気が出なかったんだ。だって、もしそれで———。
 
「私はのんには慧の方が合ってると思ってるし、慧がどれだけのんのことを想ってるか知ってるから、慧の方が良いと思ってるけど。恩田先輩だって、慧と同じくらいいい人だし、のんが忘れられない気持ちも分かるよ」
「うん……」
「私は、のんが付き合ってた頃の恩田先輩の幻影に囚われてるんだと思ってたの。だから、前に進みなよって言ったし慧のことも応援してきた。でも、もしのんが今も恩田先輩のことを好きで、今の恩田先輩とやり直したいと思ってるなら、慧と別れてそっちに行った方がのんは幸せになれるのかも」
 
 付き合ってた頃の恩田先輩の幻影に囚われているのか、それとも本物の恩田先輩が今も好きなのか。
 
 一花に言われた言葉をのみこみ、頭の中でゆっくりと整理する。
 
「私は恩田先輩のことが好きだと思う?」
「それは私には分からないよ。のんにしか分からないことだから」
「そうだよね……。確かめた方がいいのかな」
「うん。辛いかもしれないけど、このままだと余計苦しいでしょ」
「恩田先輩も話したいって言ってくれたし、恩田先輩と話した方が良いのかなって私も思ってたんだ。でもね、やっぱり怖くて勇気が出ないの」
「怖い?」
 
 一花から聞き返され、うんと頷く。
 
「だって、もしそれでやっぱり恩田先輩が好きってなっちゃったら、私は慧のことを裏切ることになる。私のことをすごくすごく大切にしてくれたのにこんな形で傷つけるなんて、そんなのって酷すぎるよね」
 
 どっちみち慧とは修復不可能なのかもしれないけど、それでも距離を置いてた間にやっぱり元彼の方に戻りたいですって結論を出したとなると、確実に慧を傷つけることになる。
 
「もしそうなったら慧は可哀想だけど、それは仕方のないことだよ。恩田先輩を選んでも慧を選んでも、私はのんの味方だからね」
 
 いつもは私を全否定して慧の味方をする一花が迷いなく私の味方をしてくれて、涙が出そうになった。
 
 はたからみたら私は最低だと思うし、慧にはずいぶん酷いことをしてると思う。批判されるようなことしかしてない自覚はあるから、周りから批判されても仕方ないとは思ってるけど、親友の一花が離れていくことと慧を傷つけることだけが怖かった。
 
 どうなっても慧を傷つけることは避けられないかもしれないけど、一花だけはそばにいてくれる。先のことを考えると不安しかないけど、一花の存在がすごく心強い。
 
「ありがと、一花。私、恩田先輩に会ってくる。どうなるか分からないけど、そうしないといけない気がするから。だから、がんばってくるね」
 
 選べるような立場ではないと思うし、もし私がどちらか選んだとしても相手が受け入れてくれるとは限らない。恩田先輩もだけど、これだけ間空けちゃったら慧の気持ちも私から離れちゃってるかもしれないし……。
 
 拒絶されても自業自得だから仕方ないし、どちらかを自由に選べるなんて思ってないけど、ただ確かめたいんだ。恩田先輩と会って話したら、長い間ずっと抱えてきたモヤモヤの正体がはっきりするのかもしれない。
 
 慧と付き合って消えたと思ったけど、また復活したそれ。これは恩田先輩に対する恋心なのか、それともまた別のものなのか……。
 
 恩田先輩と会うのは正直怖いし、自分の気持ちに向き合うのも怖いけど、いい加減この気持ちの正体に私は向き合わなきゃいけないよね。
 
「うん、がんばれ。何かあったらすぐに電話して」
 
 心強い言葉をかけてくれた一花の肩に寄りかかるようにして、もたれかかる。
 
 大好きだよ、一花。一花がいてくれなかったら、たぶん私は今頃堕ちるとこまで堕ちてたと思う。
 
 一花に感謝してから、恩田先輩と、それから慧に送るメッセージの文面を頭の中で考えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

財閥御曹司は左遷された彼女を秘めた愛で取り戻す

花里 美佐
恋愛
榊原財閥に勤める香月菜々は日傘専務の秘書をしていた。 専務は御曹司の元上司。 その専務が社内政争に巻き込まれ退任。 菜々は同じ秘書の彼氏にもフラれてしまう。 居場所がなくなった彼女は退職を希望したが 支社への転勤(左遷)を命じられてしまう。 ところが、ようやく落ち着いた彼女の元に 海外にいたはずの御曹司が現れて?!

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

処理中です...