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【第二部】
55、不安にさせてしまってごめんなさい
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大学が始まって最初の金曜日。
午前中の授業の後に学食でお昼ご飯を済ませ、サークル棟のトイレで軽くメイクを直す。
胸の辺りまである髪の毛を整えてから、透明のピンク色のグロスを塗っていると、誰かがトイレの中に入ってきた。
鏡越しにチラリと見ると、明るめの茶髪をあごの辺りで揃えたボブヘアの可愛い女の子———みくちゃんと目が合う。
「こんにちは」
「こんにちは~」
ペコリと頭を下げるみくちゃんに軽く会釈を返してから、もう一度グロスを塗る。
「あの、」
「うん」
「花音先輩のこと不安にさせてしまったみたいで、ごめんなさい」
「え?」
「慧くんと付き合ってるんですよね? 私、全然知らなくて……。花音先輩に誤解されるからもう連絡してこないでって、慧くんに言われました」
「!?」
全く予想もしていなかったことをみくちゃんに言われ、グロスを唇からはみ出して塗ってしまう。ティッシュではみ出したグロスを拭き取ってから、鏡越しにみくちゃんを見ると、みくちゃんは申し訳なさそうに眉を下げていた。
何、え? 慧がそんなこと言ったの?
言うなって、言ったのに。何で早速言ってるのかなぁ~!
とりあえずグロスをメイクポーチにしまってから、身体の向きを変えてみくちゃんの方に向き直る。
「なんかごめんね、慧が変なこと言ったみたいで。全然連絡とってもらって大丈夫だよ。私は気にしないから」
笑顔を作ると、みくちゃんはすごい勢いで首を横に振った。
「いえっ! もう心配かけるようなことはしません!」
「う、うん。ありがとう?」
みくちゃんから食い気味で言われ、少し口元を引きつらせてしまう。ここまで言われると、私がすっごい嫉妬深くて怖い先輩みたいで逆に申し訳なくなるなぁ。たぶんみくちゃん、普通にいい子だと思うし。
「でも本当に花音先輩に心配おかけするようなことは何もないんですよ。私、他に好きな人がいるんです」
そういえば、慧もみくちゃんには他に好きな人がいるとかなんとか言ってたよね。あれ本当だったんだ。
「そうなんだ?」
「はい、一年生の雅史くんって分かりますか? ドラムやってる」
「あ~、うん分かるよ。え、まさかの雅史くんが好きなの? また難しそうなとこいくね」
雅史くんを思い浮かべて眉を寄せると、みくちゃんは「ですよね」と照れ笑いで頷く。
慧とは仲良いみたいだけど、雅史くんが女の子と話してるとこほとんどみたことないし、私も一言二言しか話したことない。だから慧に相談してたのかな。
「慧くんにはもう連絡しないです。だからというわけじゃないですが……。先輩さえ良かったら、たまに相談に乗ってもらえないですか?」
「え、と、私?」
「はい! 花音先輩可愛いしモテるし恋愛得意そうですし、良いアドバイスもらえそうかなって」
う~ん、恋愛得意ではないんだけどなぁ。
正直狙った男を落とせなかったことはないけど、でもそのあとすぐにフラれてばっかりだし、むしろ苦手なのかも。
素直に頷けなかったけど、キラキラと瞳を輝かせるみくちゃんを無下にも出来ず、愛想笑いを浮かべる。
「私も雅史くんとほとんど話したことないし、役に立てるか分からないけど、出来ることがあったら協力するよ。もしアレだったらダブルデートとかも」
「本当ですかぁ!?」
良いアドバイスは出来そうにないけど、仲を取り持ったりするのは好きな方だ。と、そこまで言いかけたところで、そういえばサークルの人には内緒で付き合ってたんだと思い出す。
「あと、ごめんね。私と慧が付き合ってるとこは内緒にしておいてもらえるかな?」
「あ、はい、分かりました」
内緒にしてと言ったら、みくちゃんは少し不思議そうな顔をしてたけど、それでもすぐに頷いてくれた。
「ところで、花音先輩たちはどっちからですか?」
どっちから?
最初に手を出したのは私の方だけど、付き合いたいって言ってきたのは慧の方。でも最終的には私から告白して付き合うことになったから、私からってことになるのかな?
「私からかなぁ」
また瞳を輝かせるみくちゃんの質問に少し迷ってしまったけど、とりあえずそう答えておく。
「そうなんですかぁ。ちょっと意外です。てっきり慧くんの方から拝み倒して付き合ってもらったのかと思ってました」
「拝み倒してって。慧って、私の話とかするの?」
悪びれもせずにそんなことをさらっと言うみくちゃんの顔をまじまじと見ると、みくちゃんはにこっと笑顔を浮かべる。
午前中の授業の後に学食でお昼ご飯を済ませ、サークル棟のトイレで軽くメイクを直す。
胸の辺りまである髪の毛を整えてから、透明のピンク色のグロスを塗っていると、誰かがトイレの中に入ってきた。
鏡越しにチラリと見ると、明るめの茶髪をあごの辺りで揃えたボブヘアの可愛い女の子———みくちゃんと目が合う。
「こんにちは」
「こんにちは~」
ペコリと頭を下げるみくちゃんに軽く会釈を返してから、もう一度グロスを塗る。
「あの、」
「うん」
「花音先輩のこと不安にさせてしまったみたいで、ごめんなさい」
「え?」
「慧くんと付き合ってるんですよね? 私、全然知らなくて……。花音先輩に誤解されるからもう連絡してこないでって、慧くんに言われました」
「!?」
全く予想もしていなかったことをみくちゃんに言われ、グロスを唇からはみ出して塗ってしまう。ティッシュではみ出したグロスを拭き取ってから、鏡越しにみくちゃんを見ると、みくちゃんは申し訳なさそうに眉を下げていた。
何、え? 慧がそんなこと言ったの?
言うなって、言ったのに。何で早速言ってるのかなぁ~!
とりあえずグロスをメイクポーチにしまってから、身体の向きを変えてみくちゃんの方に向き直る。
「なんかごめんね、慧が変なこと言ったみたいで。全然連絡とってもらって大丈夫だよ。私は気にしないから」
笑顔を作ると、みくちゃんはすごい勢いで首を横に振った。
「いえっ! もう心配かけるようなことはしません!」
「う、うん。ありがとう?」
みくちゃんから食い気味で言われ、少し口元を引きつらせてしまう。ここまで言われると、私がすっごい嫉妬深くて怖い先輩みたいで逆に申し訳なくなるなぁ。たぶんみくちゃん、普通にいい子だと思うし。
「でも本当に花音先輩に心配おかけするようなことは何もないんですよ。私、他に好きな人がいるんです」
そういえば、慧もみくちゃんには他に好きな人がいるとかなんとか言ってたよね。あれ本当だったんだ。
「そうなんだ?」
「はい、一年生の雅史くんって分かりますか? ドラムやってる」
「あ~、うん分かるよ。え、まさかの雅史くんが好きなの? また難しそうなとこいくね」
雅史くんを思い浮かべて眉を寄せると、みくちゃんは「ですよね」と照れ笑いで頷く。
慧とは仲良いみたいだけど、雅史くんが女の子と話してるとこほとんどみたことないし、私も一言二言しか話したことない。だから慧に相談してたのかな。
「慧くんにはもう連絡しないです。だからというわけじゃないですが……。先輩さえ良かったら、たまに相談に乗ってもらえないですか?」
「え、と、私?」
「はい! 花音先輩可愛いしモテるし恋愛得意そうですし、良いアドバイスもらえそうかなって」
う~ん、恋愛得意ではないんだけどなぁ。
正直狙った男を落とせなかったことはないけど、でもそのあとすぐにフラれてばっかりだし、むしろ苦手なのかも。
素直に頷けなかったけど、キラキラと瞳を輝かせるみくちゃんを無下にも出来ず、愛想笑いを浮かべる。
「私も雅史くんとほとんど話したことないし、役に立てるか分からないけど、出来ることがあったら協力するよ。もしアレだったらダブルデートとかも」
「本当ですかぁ!?」
良いアドバイスは出来そうにないけど、仲を取り持ったりするのは好きな方だ。と、そこまで言いかけたところで、そういえばサークルの人には内緒で付き合ってたんだと思い出す。
「あと、ごめんね。私と慧が付き合ってるとこは内緒にしておいてもらえるかな?」
「あ、はい、分かりました」
内緒にしてと言ったら、みくちゃんは少し不思議そうな顔をしてたけど、それでもすぐに頷いてくれた。
「ところで、花音先輩たちはどっちからですか?」
どっちから?
最初に手を出したのは私の方だけど、付き合いたいって言ってきたのは慧の方。でも最終的には私から告白して付き合うことになったから、私からってことになるのかな?
「私からかなぁ」
また瞳を輝かせるみくちゃんの質問に少し迷ってしまったけど、とりあえずそう答えておく。
「そうなんですかぁ。ちょっと意外です。てっきり慧くんの方から拝み倒して付き合ってもらったのかと思ってました」
「拝み倒してって。慧って、私の話とかするの?」
悪びれもせずにそんなことをさらっと言うみくちゃんの顔をまじまじと見ると、みくちゃんはにこっと笑顔を浮かべる。
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