53 / 96
【第二部】
53、上書きされる仕組みならいいのに
しおりを挟む
翌日、一限から授業があったので少し早めに行くと、教室にはまだほとんど人がいなかった。一番後ろの席に座っていた一花を見つけ、その隣に座る。一花金髪だし目立つから、すぐ見つけられて助かるよね。
「眠いの?」
あくびばっかりしていると、スマホをいじってた一花も見かねて話しかけてくる。
「昨日、というか今日?二時間しか寝てないんだ。もし寝てたら起こして」
「何してたの?」
「慧とずっとヤッてた」
「は? のんはともかく慧まで何してるの」
「相変わらず私の扱いひどいよね」
聞かれたから答えただけなのに、いきなり辛辣な一花に苦笑いを返す。
「なんかね、みくちゃんと慧が頻繁に連絡とってて。で、色々話してるうちにそういうことになったの」
「みくちゃんと慧が?」
横目でこちらを見た一花に頷いて、昨日あったことをざっくりと話すと、一花はうーんとうなってから首を傾げた。
「みくちゃんと慧でしょ? 何もないと思うよ? 人の彼氏に手出すような子じゃないでしょ」
「たぶんみくちゃんは私と慧が付き合ってること知らないと思う」
「あ~そっか。……ん?ねぇ待って。付き合ってること内緒にしたいって言い出したの、のんだよね? 慧はみんなに言いたいって言ってて、みくちゃんにも言っていいって言ったんだよね?」
一瞬納得しかけておいて眉をひそめた一花に、うんと頷く。
「それなら、本当に何もないんじゃない?
慧の方から付き合ってること内緒にしたいって言い出して、それで他の女の子とこそこそ連絡とってるなら、こいつ絶対やってんなって思うけどさ」
「私も本気で疑ってるわけじゃないけど、でもね~」
「何なの?」
訝しげな視線を送ってくる一花から目をそらし、小さく息をつく。
「何もないって分かってるけど、気になっちゃってダメなんだよね。
私、慧といるとどうしたらいいのか分からなくなる。他の女の子と話してると気になっちゃうし、本当は慧の彼女は私だって言いたい。
慧と一緒にいるとどうしようもなくなって苦しいのに、離れるとすぐに会いたくなっちゃうし、いつも一緒にいたいって思っちゃうの」
「それ、そのまま慧に伝えたらいいんじゃないの?」
「無理~。重いし、面倒な女って思われる」
またスマホをチェックしている一花にすがりつくと、一花はスマホを手に持ったままこちらを振り向く。
「そう? 嬉しいと思うけど」
「そうかもしれないけど……。そんなこと言ったら、私が慧のことすっごく好きみたいじゃん」
「好きなんじゃないの?」
「好きだけど。そこまで伝えていいのか、まだ確証が持てないの」
好きだと伝えることは出来ても、自分の心を全部曝け出すのは、私にとってキスよりもセックスよりもずっとハードルが高いこと。
よく分からないって顔でこちらを見てくる一花に身を寄せ、小声で囁く。
「それに、恩田先輩と付き合ってた時の気持ちと、今の慧に対する気持ちのどっちが大きいか分からないの」
「まだ未練あるの?」
「そうじゃないけど、私にとって恩田先輩は特別で、たぶんそれは一生変えられないと思う」
「のん、恩田先輩のこと大好きだったもんね」
「うん。今思うとバカみたいだけど、本気で恩田先輩と結婚したいって思ってたし、運命の人だって信じてた」
恩田先輩のことを思い出したら、別れた時のことや別れた後の記憶まで蘇ってきて、なんか気分悪くなってきた。ため息をつくと、一花はスマホをいじるのをやめて私の顔を見る。
「のんが恩田先輩のこと大好きだったのは知ってるけど、過去の気持ちと今の気持ちを比べる必要ある?」
「どういうこと?」
「慧に内緒で今でも恩田先輩と会ってるとかなら問題あるけど、そうじゃないでしょ?」
「誓って会ってない。連絡もとってないし」
「それならいいじゃん。何も悪いことしてないんだし、誰だって忘れられない過去の一つや二つあるよ。過去は過去、今は今じゃないの?」
真顔で言われて、ぐっと言葉に詰まる。
浮気してるわけじゃないし、たしかに悪いことをしてるわけじゃないかもしれない。いくら私が恩田先輩を忘れられなくても、先輩とヨリ戻せる可能性なんてゼロに近いし。
一花の言ってることは分かるけど、なんとなく気持ち的に罪悪感があるというか。
新しい恋をしたら、前の恋が上書きされる仕組みならいいのに。他の人は消せても、恩田先輩は私の心の一番深いところにいつまでも居座ってて、どうしたって消えてくれない。
慧のことが大好きなのに、いつまでも恩田先輩を忘れられない自分が嫌になる。
「そんなに簡単に割りきれるものでもないよ」
「まあね」
呟くようにそう言うと、一花はまたスマホをいじりながら返事をする。さっきからスマホばっかり見て、何なの?
「眠いの?」
あくびばっかりしていると、スマホをいじってた一花も見かねて話しかけてくる。
「昨日、というか今日?二時間しか寝てないんだ。もし寝てたら起こして」
「何してたの?」
「慧とずっとヤッてた」
「は? のんはともかく慧まで何してるの」
「相変わらず私の扱いひどいよね」
聞かれたから答えただけなのに、いきなり辛辣な一花に苦笑いを返す。
「なんかね、みくちゃんと慧が頻繁に連絡とってて。で、色々話してるうちにそういうことになったの」
「みくちゃんと慧が?」
横目でこちらを見た一花に頷いて、昨日あったことをざっくりと話すと、一花はうーんとうなってから首を傾げた。
「みくちゃんと慧でしょ? 何もないと思うよ? 人の彼氏に手出すような子じゃないでしょ」
「たぶんみくちゃんは私と慧が付き合ってること知らないと思う」
「あ~そっか。……ん?ねぇ待って。付き合ってること内緒にしたいって言い出したの、のんだよね? 慧はみんなに言いたいって言ってて、みくちゃんにも言っていいって言ったんだよね?」
一瞬納得しかけておいて眉をひそめた一花に、うんと頷く。
「それなら、本当に何もないんじゃない?
慧の方から付き合ってること内緒にしたいって言い出して、それで他の女の子とこそこそ連絡とってるなら、こいつ絶対やってんなって思うけどさ」
「私も本気で疑ってるわけじゃないけど、でもね~」
「何なの?」
訝しげな視線を送ってくる一花から目をそらし、小さく息をつく。
「何もないって分かってるけど、気になっちゃってダメなんだよね。
私、慧といるとどうしたらいいのか分からなくなる。他の女の子と話してると気になっちゃうし、本当は慧の彼女は私だって言いたい。
慧と一緒にいるとどうしようもなくなって苦しいのに、離れるとすぐに会いたくなっちゃうし、いつも一緒にいたいって思っちゃうの」
「それ、そのまま慧に伝えたらいいんじゃないの?」
「無理~。重いし、面倒な女って思われる」
またスマホをチェックしている一花にすがりつくと、一花はスマホを手に持ったままこちらを振り向く。
「そう? 嬉しいと思うけど」
「そうかもしれないけど……。そんなこと言ったら、私が慧のことすっごく好きみたいじゃん」
「好きなんじゃないの?」
「好きだけど。そこまで伝えていいのか、まだ確証が持てないの」
好きだと伝えることは出来ても、自分の心を全部曝け出すのは、私にとってキスよりもセックスよりもずっとハードルが高いこと。
よく分からないって顔でこちらを見てくる一花に身を寄せ、小声で囁く。
「それに、恩田先輩と付き合ってた時の気持ちと、今の慧に対する気持ちのどっちが大きいか分からないの」
「まだ未練あるの?」
「そうじゃないけど、私にとって恩田先輩は特別で、たぶんそれは一生変えられないと思う」
「のん、恩田先輩のこと大好きだったもんね」
「うん。今思うとバカみたいだけど、本気で恩田先輩と結婚したいって思ってたし、運命の人だって信じてた」
恩田先輩のことを思い出したら、別れた時のことや別れた後の記憶まで蘇ってきて、なんか気分悪くなってきた。ため息をつくと、一花はスマホをいじるのをやめて私の顔を見る。
「のんが恩田先輩のこと大好きだったのは知ってるけど、過去の気持ちと今の気持ちを比べる必要ある?」
「どういうこと?」
「慧に内緒で今でも恩田先輩と会ってるとかなら問題あるけど、そうじゃないでしょ?」
「誓って会ってない。連絡もとってないし」
「それならいいじゃん。何も悪いことしてないんだし、誰だって忘れられない過去の一つや二つあるよ。過去は過去、今は今じゃないの?」
真顔で言われて、ぐっと言葉に詰まる。
浮気してるわけじゃないし、たしかに悪いことをしてるわけじゃないかもしれない。いくら私が恩田先輩を忘れられなくても、先輩とヨリ戻せる可能性なんてゼロに近いし。
一花の言ってることは分かるけど、なんとなく気持ち的に罪悪感があるというか。
新しい恋をしたら、前の恋が上書きされる仕組みならいいのに。他の人は消せても、恩田先輩は私の心の一番深いところにいつまでも居座ってて、どうしたって消えてくれない。
慧のことが大好きなのに、いつまでも恩田先輩を忘れられない自分が嫌になる。
「そんなに簡単に割りきれるものでもないよ」
「まあね」
呟くようにそう言うと、一花はまたスマホをいじりながら返事をする。さっきからスマホばっかり見て、何なの?
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
禁断溺愛
流月るる
恋愛
親同士の結婚により、中学三年生の時に湯浅製薬の御曹司・巧と義兄妹になった真尋。新しい家族と一緒に暮らし始めた彼女は、義兄から独占欲を滲ませた態度を取られるようになる。そんな義兄の様子に、真尋の心は揺れ続けて月日は流れ――真尋は、就職を区切りに彼への想いを断ち切るため、義父との養子縁組を解消し、ひっそりと実家を出た。しかし、ほどなくして海外赴任から戻った巧に、その事実を知られてしまう。当然のごとく義兄は大激怒で真尋のマンションに押しかけ、「赤の他人になったのなら、もう遠慮する必要はないな」と、甘く淫らに懐柔してきて……? 切なくて心が甘く疼く大人のエターナル・ラブ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる