つい勢いで後輩の童貞を奪っちゃうような女ですが、こんな私でも愛してくれるんですか?

春音優月

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【第二部】

49、キスしてから帰りたい

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「同じようなことって?」
「花音先輩に男がいるのかとか、そういう」
「なるほど。そういうアレね」
「そろそろ誤魔化すのきつい。本当のこと言ったらダメなんですか」
 
 慧からまっすぐに見つめられ、いたたまれなくなって視線を逸らす。
 
 慧のことは大好き。
 まだ一ヶ月だけど、付き合いも順調。
 
 でも、まだ付き合いをオープンにする勇気が持てなかった。すぐ付き合ったり別れたりする軽い付き合いならみんなに知られても全く気にしなかったのに、慧とは真剣に付き合ってる分慎重になってるのかも。
 
 今は上手くいってるけど、ずっと続く保証なんてどこにもないし、ダメになった時のことをいつも考えてしまう。なるべく傷つかないように、お互いダメージが少ないように、早めに日常に戻れるように。
 
 考えすぎなのかもしれないけど、真剣な交際がダメになった時の傷みも、その時みんなからどういう目で見られるのかも私は知ってるから。
 
「慎重にいきたい?」
 
 黙り込んでいると、慧の方から答えを誘導され、こくりと頷く。
 
「ごめんね、慧」
「いいですよ。花音先輩がみんなに言っても良いと思うまで待ちます」
「ありがと」
 
 慧の背に手を回して抱きつくと、慧も私をぎゅっと抱きしめてくれる。
 
 しばらくぎゅーした後、慧はまた身体を離して私の顔を見る。
 
「けど本当のことを話してくれて良かった。ありがとうございます」
 
 なぜかお礼を言われちゃったけど、冷静に考えると私のワガママなんだけどね。慧はみんなに話したいって言ってくれてるんだから、みんなに話せば今回みたいなこともなかったし、全部丸く収まるわけだし。
 
「嫌われたかと思って焦った」
 
 曖昧な笑みを浮かべていると、慧は私の肩に頭を乗せてもたれかかってきた。
 
「好きだよ?」
 
 寄りかかってきた慧をヨシヨシしていると、さらに身体を寄せてきてぴったりとくっつかれる。
 
「花音先輩だけです。先輩が嫌なら、もう他の女子と話さない」
「何言ってるの、話してよ。さすがにそれは無理があるでしょ」
 
 本気なのか何なのか分からないけど、どう考えても無理な発言に少し笑ってしまうと、慧はいきなり身体を起こして私から距離をとった。
 
「花音先輩たくさん好きだって言ってくれるけど、すぐ別れるとか俺が他の女の子を好きになるとか言うじゃないですか。どうすれば信じてもらえるのか分からないです」
「別れるじゃなくて、別れるかもね。慧のこと信じてないわけじゃないよ? でもさぁ、それとこれとは別の問題じゃない?」
「別の問題ですか。俺には全然分からないです」
 
 そう呟いた慧はため息をついて、運転席のシートに身を預けた。
 
 分からないかぁ。
 慧を信じてることと、いつか別れるかもって思うことは全然違うことで別の問題なんだけどな。でもそれをどうやって説明したらいいのか、私にも分からないよ。
 
「ごめんね~慧、今私出来ないけど。代わりに口で出してあげよっか?」
 
 にっこり笑いながら慧のズボンを下ろす真似をすると、慧は慌てて私の手を掴む。
 
「やめろって。ここ道だからな。そんなことのために呼び出したわけじゃないから」
「だよね~。ごめん冗談。そろそろ帰る?」
 
 座席を元の位置に戻して、シートベルトをつけようとすると、ベルトをつける前に腕を掴まれた。
 
「帰る前に一つお願いしていいですか」
「ん? どした? やっぱり出してほしい? いいよ♡」
「違う。それ本気で面白くないから」
「ごめんってば。そんな嫌そうな顔しないでよ~。ね、お願いって何?」
 
 これ以上ふざけてると本気で怒られそうだったので、少し真面目に聞いてみると、思いの外真剣な目で見つめ返された。
 
「キスしてから帰りたい」
「キス? いいよ?」
 
 それくらいならわざわざお願いしなくても普通にしたらいいのに、とは思ったけど、律儀にお願いしてくる辺り慧らしいよね。
 
 そのまま目を瞑ると、すぐに柔らかい感触を唇に感じる。目を瞑ったまま感覚だけで手を伸ばし、慧の背中に手を回すと、慧のキスがさらに深くなった。
 
 重ねているだけだった唇を開き、口の中に舌をねじ込まれる。
 
「ん……っ」
 
 わずかに息を漏らすと、いったん唇を離してからもう一度それを重ねられる。
 
 やっぱり慧とキスするの大好きだなぁ。ちゅーしてぎゅーされるだけで幸せになれる。唇からそのまま慧の愛が伝わってきて、愛されてるって実感出来る。
 
 慧もそうなのかなぁ。
 口では上手く伝えられないから、コレで少しでも私の愛が伝わってるといいな。
 
 長いキスをした後でホテルに戻り、別々にロビーに入って自分たちの部屋に帰った。
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