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【第一部】

22、大切だからこそダメなんだよ

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 サークルが終わり、結局家で飲んだのは少しだけで、すぐにカラオケに行くことになった。
 
 コンビニや部室に寄っていったみんなよりも先に一花とカラオケに来て、歌う曲を探す。
 
「本当に慧と付き合ってないの?」
「ん~? うん」
「何で付き合わないの?」
 
 隣に座っている一花に話しかけられ、適当に返事をしていたけど、しつこく聞かれて一花の方を見る。
 
「友達でいたいから」
「友達ね。今までののんだったら、男と良い感じになったらソッコーで付き合ってたじゃん」
「うん、そだね」
「何で慧とは付き合わないのかなって。慧の何がダメなの?」
「慧がダメなわけじゃなくて、ダメなのは私。
慧だったらもっと良い子と付き合えるはずなのに、わざわざ私みたいなダメ女と付き合わなくてもいいよね」
「それって、慧と付き合わない理由にならないよね。慧が気にしないんなら別に良くない?」
 
 真剣なトーンで聞かれたから私も真面目に答えたけど、一花にまで慧と同じようなことを言われ、視線を泳がせる。
 
「本当は別の理由があるんじゃないの?」
「別の理由って?」
「ん~たとえば……」
「恩田先輩のことが原因だって言いたいの?」
 
 言い淀んだ一花に自分から切り込んでいくと、一花は気まずそうに目を伏せる。
 
「のん、まだ恩田先輩のこと———」
「もう無理だって分かってるよ」
 
 そう、そんなことはとっくに分かってる。だけど、———。一呼吸おいて、口を開く。
 
「ただ、戻れるものならあの日に戻ってやり直したいって今も思ってる。もしあの日に戻れたら、もう二度と間違えないのにって」
 
 ぽつりと呟くと、一花が私の手を上からぎゅっと握った。
 
「まだ好きなの?」
「どうだろ。でもさ、……。
恩田先輩と別れてからとにかく寂しくて、色々な人と付き合ったりえっちしたりしたけど、誰のことも本気で好きになれないんだよね。なんか恩田先輩以外はみんな一緒に見えて」
「みんな一緒って、慧も?」
「慧は、……」
 
 答えを探してみたけど、一花からの質問にどう答えたらいいのか分からなかった。
 
 当たり前だけど、慧は恩田先輩じゃない。
 私が求めてる人じゃない。
 それでも、慧は「他のみんな」と一緒ではない気がする。慧はちゃんと私を見てくれて、私のダメな部分を知っても一緒にいてくれる。 
 
 私だって慧が大切で、慧を失いたくないと思ってるよ。でもさ、だからこそ慧じゃダメなんだ。
 
「今のアンタ見てると、本気で心配。のんはさ、本当はそんなにいい加減な子じゃないはずでしょ。
慧と付き合ってくれたら、私も安心なんだけどな。のんには慧みたいにしっかりした人が合ってるよ」
「買い被りすぎだよ。私は根っからのクズだから」
「のん」
 
 おどけて茶化したみたけど、咎めるように名前を呼ばれ、いたたまれなくなって視線を逸らす。
 
「つい最近かな? 慧に告白されたんだよね」
「そうなの?」
「うん、告白?でもないかもだけど。俺と付き合いませんか、って」
「それ、告白だよ」
「ん~でも冗談とか言ってたし。好きだとも言われてないよ」
「のんが冗談にするからでしょ。慧はアンタのことが好きだと思うよ」
「……。慧って、こんな女が相手でも真面目に言ってくるんだよね。別にわざわざ付き合わなくても、キスでもえっちでも出来るのに」
「真面目にのんと付き合いたいからじゃないの?」
 
 分かってる。
 一花から真顔でじっと見つめられ、とっくにないはずの私の良心が痛む。
 
「そうかもね。でも私は慧と付き合うのは無理って言ったんだ。
もし慧と付き合って本気で好きになって、またダメになったら、今度こそ立ち直れない気がする」
 
 なんなんだろうね。真面目に来られれば来られるほど、余計に引いてしまう。
 
「そんなの付き合ってみなきゃ分かんないじゃん。慧とは上手くいくかもよ」
「そうかもしれないけど、慧と付き合っても振り回しちゃうだけだと思うし。やっぱり慧には、もっとちゃんとした子と付き合ってほしいかな」
「あのさ、それって———」
 
 その時ちょうどサークルの二年生が一斉にドアから入ってきて、そこで私と一花の会話は終わった。
 
 *
 
 それから一時間ほど過ぎた頃、誰かが一年も呼ぼうとか言い出し始めた。
 
「花音、慧に電話しなよ。慧と仲良いでしょ」
「え~この時間から来るかなぁ」
 
 友だちにのしかかられてスマホを見たけど、もう23時を過ぎてる。来ないとは思うけど、しつこく言ってくるし、一応形だけ電話しとこうかな。
 
 慧に電話をかけると、何回か呼び出し音が鳴った後に電話が繋がる。
 
「慧? 今何してた?」
『今? ちょうどバイト終わって帰るところですけど。どうかしたんですか?』
「おつかれ。今みんなでカラオケ来てるんだけど、慧もこない?」
『今からですか?』
「あ、疲れてるなら無理しなくても」
『行きます。どこですか?』
 
 いいよ、と言う前に食い気味にそう言われ、店の名前を伝えると電話が切れた。
 
「慧来るって」
 
 慧が来たのは、私が友だちにそう伝えたから十五分くらい経った頃。
 
「慧遅~い」
「これでも急いできたんですよ」
 
 ドアを開けて部屋の中に入るなり、誰かにウザ絡みされる慧の手を掴み、隣に座らせておく。
 
「お前がいないから花音が寂しがってたよ?」
「はあ」
 
 一言もそんなこと言ってないし、みんな悪ふざけしすぎ。近くにいた子にそんなことを言われ、面倒くさそうに聞き流している慧の身体にもたれかかる。
 
「そうそう、慧がいないとつまんないじゃん」
 
 ひとまず乗っかっておくと、少し離れたところから何か言いたそうにしている一花と目が合ったけど、苦笑いを返してから視線を逸らす。
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