つい勢いで後輩の童貞を奪っちゃうような女ですが、こんな私でも愛してくれるんですか?

春音優月

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【第一部】

16、キスする?

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「……あ」
「なに」
 
 いい感じで眠れそうだったけど、ふいにあることを思い出してしまった。
 
「藤田くんのファーストキス奪っちゃったかも」
 
 ひとりごとのようにつぶやくと、眉を寄せて怪訝な顔をした慧と目が合う。
 
「藤田くんが誰か知りませんけど、他の人もいたのにキスしたんですか」
「ゲームだよ。王様ゲーム」
「は?」
「王様ゲームにキスは付き物でしょ?」
「知りませんよ。ゲームなら、その人も気にしてないんじゃないんですか」
「そうかなぁ。気にしてないといいけど」
「童貞奪われるよりは気にしないんじゃないですか」
「あはは……。あれ、慧のファーストキスって」
「一応キスの経験はありますので、ご心配なく」
 
 ふと思い立って言葉を止めたけど、真顔で即答されたので少しホッとする。
 
「だよね、彼女いたもんね。さすがにファーストキスまで私だったら、申し訳なさ過ぎてどうしようかと思った」
 
 愛想笑いを浮かべると、やっぱり真顔でじっと見つめられ、反応に困ってしまう。
 
「いつもそういうことしてるんですか?」
「え?」
「ゲームでキス」
「あ~王様ゲームは初めてかな?
あんまり気乗りしなかったんだけど、みんな盛り上がってるし、彼氏もいないし、断れなくて」
「そこは断れよ」
 
 ピシリと正論を言われてしまい、えへと愛嬌を見せるけど、もちろん無視される。
 
「でもさ~流されちゃう時とか断れない時ってあるよね。慧もさ、初めては彼女が出来て自然とその時がどうのってあれだけ豪語してたのに、結局私に流されてえっちしたじゃん。
人のこと言えないよね」
 
 こんなこと言える立場じゃないんだけど、まだお酒が抜けていないせいか私の口は止まらない。一人でベラベラ喋っていると、いつのまにか慧は顔をしかめていた。
 
「先輩と一緒にしないでください。俺は誰とでもセックスしませんよ」
「わぁお。きっつ~い。先輩に対してもほんと容赦ないよね」
 
 て、このくらい言われても当たり前か。
 あれ、でも、じゃあ、何で……。
 
「じゃあさ~何で私としたの? 
私のこと好きだったわけじゃないでしょ?」
「それは……」
 
 気になったことを聞いてみると、意外にも慧は口ごもる。予想外な反応。
 
 そのあとも慧は何かをためらってるみたいだったけど、しばらくしてようやく口を開く。
 
「実は、花音先輩のこと前から気になってたんです」
「そうなの?」
「はい。だから本当は嬉しかったんですけど、ヤッた後の言動はマジでクズだなって思いました」
「あははっ。間違いない」
 
 妙にツボって吹き出すと、慧が呆れたような目で私を見ていた。
 
「先輩、一年の男の中でも人気あるんですよ。誰が可愛いって話になった時も、花音先輩の名前あげるやつが多かったし」
「ほんと? やったぁ、嬉し~。
見た目可愛くて胸も大きいけど、たぶん美人過ぎないのがいいんだよね。ちょっと押せば、簡単にヤレそうな感じ?」
 
 ピンクベージュに染め、ゆるくパーマをかけた胸の下辺りまである髪。メイクは、地味過ぎず派手過ぎないナチュラルメイク。服装もメイクと同様にほどよい可愛い系。モデル体型とまではいかないけど、平均身長でそこそこスタイルも良く、胸もEカップある。
 
 たぶんノリも良い方だと思うし、ちょうど狙い目なんだと思う。
 
「自分で言うなよ」
 
 ニコニコしながら語っていると、冷静にツッコまれちゃった。
 
「花音先輩がこんな人だとは思いませんでした」
「よく言われる。外見は可愛くておとなしそうなのに、中身はこんなんだもんね」
「だから自分で言うなって」
 
 うんうんと頷くと、慧はやっぱり呆れたような目で私を見ていた。呆れられるのを通り越して、もはや完全に軽蔑されてると思う。でもしょうがないよね、これが私だし。
 
「男にだらしないし、雑だし、片付け苦手だし、料理も下手だし。救いようのないダメ女。こんなんだから、付き合ってもすぐフラれるんだよね~」
「男にだらしないのはどうかと思いますけど、それ以外は別にいいんじゃないですか」
「さっきは思ってたのと違ってガッカリした~って言ったのに?」
「思ってたのと違ったとは言ったけど、ガッカリしたとは言ってないです。俺は……良いと思いますよ。そういうとこも花音先輩らしいし、可愛いんじゃないですか」
 
 てっきり分かってるなら直せって言われると思ったのに、予想外の発言。もう何言っても手遅れだと思われてるのかもしれないけど。でも、嘘でもちょっと嬉しい。少しだけ元気出た。
 
「ありがとう。でもね~私から男にだらしないの取ったら別人になっちゃうからなぁ。直せないかも♡」
「やっぱり救いようのない人ですね」
「あっは。ねぇ、慧」
「なに」
 
 慧の両頬に手を置くと、慧も私の手を上から握る。
 
「キスする?」
「は?」
「キスする?」
「いや……ちょっとおかしいんじゃないんですか」
「しないの?」
 
 慧の顔を覗き込み、黒い瞳をじっと見つめると、慧が息をのんだのが分かった。
 
「……します」
 
 少しずつ距離が近くなっていき、どちらともなく唇が重なった。
 
 唇が離れると、隣にいた慧が私の上に覆い被さる。
 
「慧」
「うん」
「キスして?」
 
 慧の下で彼の名前を呼ぶと、慧は私の顔の横に両手をつき、そのまま顔を近づけてくる。柔らかいものを押し当てられ、唇を薄く開くと、慧の舌が入り込んできた。ソレを軽く吸ってあげると、慧の手が私の頭を抱え込み、口づけがさらに深くなる。
 
 お酒飲んだ後でも、やっぱり慧のキスは気持ち悪くならないな。あったかくて、優しくて……。
 
 あ、ダメだ。ふわふわして気持ち良くて、本格的に眠くなってきた。もうむり、かも———。
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