26 / 30
5、元社長令嬢、人生の転機を迎える
二十六話 悪趣味な男
しおりを挟む
秋人と話をしてから一週間が過ぎたけど、秋人は相変わらず詳しいことを話そうとはしなかった。
ほとんど家にいないと思ったら、次の日は18時前に帰ってきて部屋で何かをやっていたり、また次の日は明け方に帰ってきたり。何をしているのかも全く話してくれないし、いつもにまして口数が少ないから、会話も全く弾まない。
問い詰めたところで、秋人の方が壁を作るからどうしようもないのよね。どうしたものかしら……。
休日の今日もいつも通りの時間に起きて、身だしなみを整えて、朝ごはんを食べてはいるけれど、焦げたトーストにもぐちゃぐちゃになった目玉焼きにも嫌味一つ言わず無言で食べている。
「ねえ、秋人、」
さすがにこの重い空気に耐えかねて秋人に話しかけようとしたその時、ちょうど玄関のインターホンがなった。……誰?
超高級マンションであるここは、エントランスには警備がいて、庶民はそう易々と入ることは出来ないし、マンションの住人が解錠しなければエントランスにさえ入ることができない。
宅配か知り合いにしても、まずはエントランスから呼び出しがあるはずだけど、いきなり玄関前に来るということは……。
このマンションの住人か、もしくは……。
突然の来訪者が誰かを考えているうちに、いつのまにか秋人が玄関のドアを少し開けていた。
「何の用だ」
秋人にしては珍しく苛立ったような言い方ね。玄関の様子をこっそり伺うと、秋人と対峙していた人は三十代前半くらいの男だった。
高級ブランドのスーツを着こなし、派手な柄物ネクタイをしめているけど、妙にそれが似合っている。服装もそうだけど、整った容姿と何よりその自信に満ち溢れたオーラで、すぐに彼もこちら側の、選ばれたセレブサイドの人間だと悟ったわ。
「相変わらずつれないな。せっかく兄さんがきてやったというのに、その態度はないだろう」
嘲笑するようにそう言った男はズカズカとリビングに入ってきて、我が物顔で勝手にソファーに座った。
兄さんってことは、この人は秋人の……?
クールな雰囲気の秋人とは全く雰囲気が違うけど、そう言われればどことなく似てるような気もする。
「どうも、初めまして。
彼女が例の社長令嬢? 結局結婚することにしたんだ?」
秋人の兄だという人をじっと見つめていると、彼はその視線を私に視線を向けてから、もう一度秋人の方を見る。
「そうだ」
秋人の兄にどう説明するべきか迷っていると、私が答える前に秋人が代わりに答えてしまった。そうだって……、たしかそうなんだけど。たった一言で済ませるって、いくら何でも省略し過ぎなんじゃない?
「ふーん......、おめでとう?
しかし、婚約早々お前も大変だな。次期社長の座を解任されることになって」
え? なにそれ、聞いてないわよ。
秋人の兄が楽しそうに告げたことに衝撃を受け、反射的に秋人の方を見てしまう。けれど、少し眉間にシワを寄せただけで、その顔はほぼいつも通りの鉄仮面。立ったまま腕を組み、ソファーに座る自分の兄を冷たい表情で見下ろしている。
「今は少し離れているだけだ。解任されたわけではない」
「へぇ、そうなんだ? 父さんは相当お前に失望したようだったけど。次期社長にはお前を考えてたけど、慎吾に会社を任せることも考えてると言ってたぞ」
「……慎吾に?」
「あーあ、今回はやらかしたな。まあ一から出直しだと思って、平社員からがんばれよ」
全然話についていけないけど、秋人の表情がどんどん曇ってきていることだけは分かる。
なに? 何なの? 何が起こってるの? 慎吾って誰よ? このお兄さんとやらは、いきなりきてなんなわけ? 自分の弟に嫌味を言いに来たの?
「君も大変だね。どう? 君さえ良かったら、秋人はやめて今からでも俺にしとく?
君のお父さんは、別に秋人じゃなくても俺か慎吾でも良かったはずだよ」
楽しそうな兄に比べて、秋人の方は終始厳しい表情を浮かべている。険悪な雰囲気の二人の顔を代わる代わる見ていると、秋人の兄はいきなりソファーから立ち上がり、私の腰に手を伸ばす。
やめてと振り払おうとしたけれど、私が自分で振り払う前に秋人がいち早くその手を振り払った。
「人の婚約者を惑わすのはやめてもらおうか。
相変わらず悪趣味だな」
いつも通り冷静な口調ではあるけれど、いつもよりも厳しい表情を浮かべた秋人に、秋人兄は嫌味ったらしく笑う。
「冗談だって、そんなに怒るなよ。
お前がどうしてるか見に来ただけだから、もう帰るわ。いつもすました顔してるお前のそんな顔が見れただけで収穫だったな」
「……本当に悪趣味だな」
言いたいことだけ言うと、秋人の兄はさっさと玄関から出て行ってしまった。後に残されたのは、気まずい雰囲気の秋人と私の二人のみ。
ほとんど家にいないと思ったら、次の日は18時前に帰ってきて部屋で何かをやっていたり、また次の日は明け方に帰ってきたり。何をしているのかも全く話してくれないし、いつもにまして口数が少ないから、会話も全く弾まない。
問い詰めたところで、秋人の方が壁を作るからどうしようもないのよね。どうしたものかしら……。
休日の今日もいつも通りの時間に起きて、身だしなみを整えて、朝ごはんを食べてはいるけれど、焦げたトーストにもぐちゃぐちゃになった目玉焼きにも嫌味一つ言わず無言で食べている。
「ねえ、秋人、」
さすがにこの重い空気に耐えかねて秋人に話しかけようとしたその時、ちょうど玄関のインターホンがなった。……誰?
超高級マンションであるここは、エントランスには警備がいて、庶民はそう易々と入ることは出来ないし、マンションの住人が解錠しなければエントランスにさえ入ることができない。
宅配か知り合いにしても、まずはエントランスから呼び出しがあるはずだけど、いきなり玄関前に来るということは……。
このマンションの住人か、もしくは……。
突然の来訪者が誰かを考えているうちに、いつのまにか秋人が玄関のドアを少し開けていた。
「何の用だ」
秋人にしては珍しく苛立ったような言い方ね。玄関の様子をこっそり伺うと、秋人と対峙していた人は三十代前半くらいの男だった。
高級ブランドのスーツを着こなし、派手な柄物ネクタイをしめているけど、妙にそれが似合っている。服装もそうだけど、整った容姿と何よりその自信に満ち溢れたオーラで、すぐに彼もこちら側の、選ばれたセレブサイドの人間だと悟ったわ。
「相変わらずつれないな。せっかく兄さんがきてやったというのに、その態度はないだろう」
嘲笑するようにそう言った男はズカズカとリビングに入ってきて、我が物顔で勝手にソファーに座った。
兄さんってことは、この人は秋人の……?
クールな雰囲気の秋人とは全く雰囲気が違うけど、そう言われればどことなく似てるような気もする。
「どうも、初めまして。
彼女が例の社長令嬢? 結局結婚することにしたんだ?」
秋人の兄だという人をじっと見つめていると、彼はその視線を私に視線を向けてから、もう一度秋人の方を見る。
「そうだ」
秋人の兄にどう説明するべきか迷っていると、私が答える前に秋人が代わりに答えてしまった。そうだって……、たしかそうなんだけど。たった一言で済ませるって、いくら何でも省略し過ぎなんじゃない?
「ふーん......、おめでとう?
しかし、婚約早々お前も大変だな。次期社長の座を解任されることになって」
え? なにそれ、聞いてないわよ。
秋人の兄が楽しそうに告げたことに衝撃を受け、反射的に秋人の方を見てしまう。けれど、少し眉間にシワを寄せただけで、その顔はほぼいつも通りの鉄仮面。立ったまま腕を組み、ソファーに座る自分の兄を冷たい表情で見下ろしている。
「今は少し離れているだけだ。解任されたわけではない」
「へぇ、そうなんだ? 父さんは相当お前に失望したようだったけど。次期社長にはお前を考えてたけど、慎吾に会社を任せることも考えてると言ってたぞ」
「……慎吾に?」
「あーあ、今回はやらかしたな。まあ一から出直しだと思って、平社員からがんばれよ」
全然話についていけないけど、秋人の表情がどんどん曇ってきていることだけは分かる。
なに? 何なの? 何が起こってるの? 慎吾って誰よ? このお兄さんとやらは、いきなりきてなんなわけ? 自分の弟に嫌味を言いに来たの?
「君も大変だね。どう? 君さえ良かったら、秋人はやめて今からでも俺にしとく?
君のお父さんは、別に秋人じゃなくても俺か慎吾でも良かったはずだよ」
楽しそうな兄に比べて、秋人の方は終始厳しい表情を浮かべている。険悪な雰囲気の二人の顔を代わる代わる見ていると、秋人の兄はいきなりソファーから立ち上がり、私の腰に手を伸ばす。
やめてと振り払おうとしたけれど、私が自分で振り払う前に秋人がいち早くその手を振り払った。
「人の婚約者を惑わすのはやめてもらおうか。
相変わらず悪趣味だな」
いつも通り冷静な口調ではあるけれど、いつもよりも厳しい表情を浮かべた秋人に、秋人兄は嫌味ったらしく笑う。
「冗談だって、そんなに怒るなよ。
お前がどうしてるか見に来ただけだから、もう帰るわ。いつもすました顔してるお前のそんな顔が見れただけで収穫だったな」
「……本当に悪趣味だな」
言いたいことだけ言うと、秋人の兄はさっさと玄関から出て行ってしまった。後に残されたのは、気まずい雰囲気の秋人と私の二人のみ。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~
けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。
私は密かに先生に「憧れ」ていた。
でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。
そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。
久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。
まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。
しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて…
ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆…
様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。
『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』
「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。
気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて…
ねえ、この出会いに何か意味はあるの?
本当に…「奇跡」なの?
それとも…
晴月グループ
LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長
晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳
×
LUNA BLUホテル東京ベイ
ウエディングプランナー
優木 里桜(ゆうき りお) 25歳
うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。
誘惑の延長線上、君を囲う。
桜井 響華
恋愛
私と貴方の間には
"恋"も"愛"も存在しない。
高校の同級生が上司となって
私の前に現れただけの話。
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
Иatural+ 企画開発部部長
日下部 郁弥(30)
×
転職したてのエリアマネージャー
佐藤 琴葉(30)
.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚+.。.:✽・゚
偶然にもバーカウンターで泥酔寸前の
貴方を見つけて…
高校時代の面影がない私は…
弱っていそうな貴方を誘惑した。
:
:
♡o。+..:*
:
「本当は大好きだった……」
───そんな気持ちを隠したままに
欲に溺れ、お互いの隙間を埋める。
【誘惑の延長線上、君を囲う。】
推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜
湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」
「はっ?」
突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。
しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。
モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!?
素性がバレる訳にはいかない。絶対に……
自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。
果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる