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2、元社長令嬢、就職する

七話 ありえない選択肢

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「そして、三つ目だが?」
 
「その前よ! 前!」
 
「ああ、私の妻となること?」
 
「そう! それよ! 何で私があなたの妻にならなきゃいけないの!?」
 
 聞き間違えだと思いたかったけど、残念ながらそうじゃなかったみたいね。こんなことを済ました顔で告げる九条秋人も何を考えてるか分かないけれど、それ以上に私と九条秋人が結婚する意味が分からない。どうしていきなりそんな話になるの?
 
 もしかして、私に一目惚れしたの?
 こんな美女をみれば欲しくなってもおかしくはないけど、それにしてもいきなりプロポーズだなんて急すぎない? 今まで私を口説いてきた男は星の数ほどいるけど、色々すっ飛ばして結婚の話を切り出した男はこの男が初めてよ。
 
「甘やかして育ててしまったせいでわがままな娘に育ってしまったが、私も人の親だ。やはり自分の娘には幸せになってほしい。本当なら、一人の社会人として真っ当に生きていってほしいが、今のあの子にはそれは難しいだろう。そこで、もしあの子がどうしようもなくなったときは、私の信頼する男の息子である秋人くんに娘を託したい。大変勝手ではあるが、どうか娘をよろしくお願いします、とこの手紙には書かれていた」
 
 しかし私が考えていた理由とは全く別の理由だったらしく、九条秋人は再び手紙に目をやりながら、淡々とそれを読み上げる。
 
「私が君を助ける義理なんて一切ないが、私の父は君の父親に若い頃多大な恩義を受けている。父は利己的で貪欲な人間だが、受けた恩はきっちり返す主義だ。そして私はまだ立場的に父に逆らえない。
従って、君の父に君を託された私は、君を雇用するか、もしくは私的パートナーとするしかないわけだ。性格は大いに問題アリだが、幸い君はどこに連れ歩いても恥ずかしくない外見だし育ちも悪くない。特にパートナーのいない私としては、別に君が配偶者でも問題はない」
 
 
 今まで通り、あくまで淡々と。まるで業務事項でも話すかのような口ぶりには心底呆れる、としか言いようがない。
 何なの? 自分の一生のパートナーを決めるって時なのに全然興味なさそうな口ぶり。これじゃ、本当にロボットじゃない。
 
「どちらの選択肢もお断りよ。私の価値が分からない会社に無理してまで雇ってもらわなくて結構」
 
「へぇ......。では、二つ目はどうして? 君にとっても悪くない条件だと思うけど?
少し話した上での私見だから間違っていたら申し訳ないが、君は恐ろしく利己的な人間だ。私と結婚すれば、今までと変わりなく何不自由ない生活ができる。君にとっては、メリットしかない話だ」
 
 毅然と九条秋人に言い返すと、彼は不思議そうな顔をする。情のカケラも感じられない淡々とした話し方、冷たい表情。やっぱりこの男は好きになれないわ。
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