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2、結婚してくださいと言われましても
EP16 どちらがシンデレラ?
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その翌日、シンデレラと共にお城に上がる準備をしている時だった。舞踏会の晩と同様に全く理解できないことを言われ、私はまたあんぐりと口を開けるはめになった。
「何を言っているんだ、お前は」
「ですから、殿下の妻になるのは私ではなく、お兄様ですよ」
「だが、私は殿下の護衛が、いやそもそもお前が自分がシンデレラだと名乗ったのではないか」
「あの場はああするしかなかったでしょう」
何でもないことのようにしれっとあり得ないことを告げるシンデレラには、もはやどこから突っ込めばいいのか分からない。
「お昼間はアンディお兄様として、エリオット殿下の護衛、夜はお姉……いえ“シンデレラ”として、エリオット殿下の妻。何も問題ございませんでしょう?」
問題大有りだ! そのようなこと身が持つはずがないし、いつかボロが出るに決まっている。
「お前は殿下の妻となりたいんじゃなかったのか?」
「いいえ、まさかそのようなこと。私には日本に恋人がいるのです。ですから最初からお兄様にシンデレラを代わってください、とお願いしているじゃないですか」
きっぱりとそう言ってのけたシンデレラの考えを私は肯定することも否定することも出来なかった。
我が国の女にとっては、身分の高い方に見初められることこそが最大の喜び。
王族の方の妻となるチャンスを逃してまで、恋人に心を捧げるシンデレラの気持ちは昨日までは全く理解できなかった。しかし、エリオット様に恋をしてしまった今となっては、その気持ちも分かるような気がしてしまう。
「だから、あのような面倒な芝居をうったのか?」
「ええ、アンディお兄様は、今までずっと男として生きてきた男装の騎士。王族の方のお望みとあらば、女性に戻ることもできなくはありませんが、お兄様は自らの立場を捨て、私こそが昨晩の娘でございます、とおっしゃることはできないでしょう?」
私よりも三つも年下で、まだ16の末妹に慈愛に満ちた眼差しで見つめられ、ひどくいたたまれない気持ちになった。私の全てを見透かされているようで、居心地の悪いことこの上ない。
母上や周囲からの期待。
男装の騎士として生きなければいけないという、自らへの戒め。
恋をしたからといって、いきなり全てから逃げられるほどその重圧は軽くはなかった。
「殿下の護衛としておそばに支え、夜はシンデレラとして妻となり愛されるのなら、世間体も気にならないでしょう?」
「だが、殿下に嘘をつくことになる。一生嘘をつき続けるのか?」
昼はアンディとして殿下の護衛、夜は妻としてシンデレラを演じる。どちらも私なのに、まるで二人の人物のように振る舞うだなんて許されることなのか?
「誰しも嘘のひとつやふたつ抱えて生きているものですよ。ほら、私も前世が日本であることをアンディお兄様以外には隠しているでしょう?」
「嘘の度合いが大きすぎる!」
権力争い、不倫、騙しあい......
この国で生きるものならば、少なからず誰しも嘘や隠し事はあるだろうが、それにしても、昼と夜で別人を演じるなんて段違いの隠し事だ。しかも、王族の方を出し抜くなどと許されることではない。
「それでは、私が殿下の妻としてのお役目を果たしてもよろしいのですか? お兄様は、エリオット殿下に恋していらっしゃるのでしょう?」
「……それは、」
なぜ私は何も言っていないのに、そんなことが分かるのだ。私の気持ちなど、お見通しだとでも言いたいのか?
やはりこの末妹は、魔女の類いか何かなのだろうか。
「お迎えがいらっしゃったみたいだよ。アンディ、それと、......はぁ、.......、全くどうしてお前なんかが、......」
シンデレラに自分の気持ちを言い当てられ押し黙っていると、母上が私たちを呼びにきて、そのまま話は打ち切られる。
昨晩も散々シンデレラにイヤミを言ったはずなのに、母上や妹たちはまだ言い足りなさそうにしていたが、さすがにお城からの従者の前ではみっともない真似はしてこなかった。
母上と妹たちが悔しそうに見守るなか、私とシンデレラは馬車に乗せられ、エリオット様のいらっしゃるお城へと向かう。
恋するお方にお会い出来ると手放しに喜べる状況ではないだけに気が重い。
それもこれも全て、内気なふりをして内心はしたたかで魔女のような末妹のせいだ。元凶をにらみつけると、腹立たしいことにシンデレラはにっこりと微笑みをみせた。
「さあ、そろそろ夕刻です。もうこうなってしまったら覚悟を決めてください、お兄様」
「なんのことだ」
にこりと微笑んだシンデレラに文句を言う前に、シンデレラは私を指差す。そしてその指を軽くふると、そっくりそのまま私とシンデレラの服が入れ替わる。それだけではなく、私の髪は美しく長い髪に変わり、シンデレラの髪はまるで私のような短髪になり容貌まで私と瓜二つに変化した。
「......っ、シンデレラ、お前は......」
どこまで自分勝手なんだ、そう続けようとしたが、結局その言葉を言ってやることはできなかった。いつのまにかお城についていたようで、降りるようにと、馬車の外から従者に促されていたから。
「さあ、シンデレラ様」
うやうやしく頭を下げた従者は、本物のシンデレラではなく私の手を取る。
私が戸惑っていると、シンデレラがこっそりと目配せをしてきた。
ああ、もう全く……、仕方ない。
私が「シンデレラ」になればいいのだろう。
王族の方を欺くことへの不安と畏れ。
愛する人に愛されたいという欲。
二つの相反する気持ちがせめぎあって頭がおかしくなりそうになりながらも、私は「シンデレラ」として馬車から降りた。
もう本当に、恋なんてしなければよかった。そうすれば、シンデレラにここまで振り回されることもなかったのだから……。
「何を言っているんだ、お前は」
「ですから、殿下の妻になるのは私ではなく、お兄様ですよ」
「だが、私は殿下の護衛が、いやそもそもお前が自分がシンデレラだと名乗ったのではないか」
「あの場はああするしかなかったでしょう」
何でもないことのようにしれっとあり得ないことを告げるシンデレラには、もはやどこから突っ込めばいいのか分からない。
「お昼間はアンディお兄様として、エリオット殿下の護衛、夜はお姉……いえ“シンデレラ”として、エリオット殿下の妻。何も問題ございませんでしょう?」
問題大有りだ! そのようなこと身が持つはずがないし、いつかボロが出るに決まっている。
「お前は殿下の妻となりたいんじゃなかったのか?」
「いいえ、まさかそのようなこと。私には日本に恋人がいるのです。ですから最初からお兄様にシンデレラを代わってください、とお願いしているじゃないですか」
きっぱりとそう言ってのけたシンデレラの考えを私は肯定することも否定することも出来なかった。
我が国の女にとっては、身分の高い方に見初められることこそが最大の喜び。
王族の方の妻となるチャンスを逃してまで、恋人に心を捧げるシンデレラの気持ちは昨日までは全く理解できなかった。しかし、エリオット様に恋をしてしまった今となっては、その気持ちも分かるような気がしてしまう。
「だから、あのような面倒な芝居をうったのか?」
「ええ、アンディお兄様は、今までずっと男として生きてきた男装の騎士。王族の方のお望みとあらば、女性に戻ることもできなくはありませんが、お兄様は自らの立場を捨て、私こそが昨晩の娘でございます、とおっしゃることはできないでしょう?」
私よりも三つも年下で、まだ16の末妹に慈愛に満ちた眼差しで見つめられ、ひどくいたたまれない気持ちになった。私の全てを見透かされているようで、居心地の悪いことこの上ない。
母上や周囲からの期待。
男装の騎士として生きなければいけないという、自らへの戒め。
恋をしたからといって、いきなり全てから逃げられるほどその重圧は軽くはなかった。
「殿下の護衛としておそばに支え、夜はシンデレラとして妻となり愛されるのなら、世間体も気にならないでしょう?」
「だが、殿下に嘘をつくことになる。一生嘘をつき続けるのか?」
昼はアンディとして殿下の護衛、夜は妻としてシンデレラを演じる。どちらも私なのに、まるで二人の人物のように振る舞うだなんて許されることなのか?
「誰しも嘘のひとつやふたつ抱えて生きているものですよ。ほら、私も前世が日本であることをアンディお兄様以外には隠しているでしょう?」
「嘘の度合いが大きすぎる!」
権力争い、不倫、騙しあい......
この国で生きるものならば、少なからず誰しも嘘や隠し事はあるだろうが、それにしても、昼と夜で別人を演じるなんて段違いの隠し事だ。しかも、王族の方を出し抜くなどと許されることではない。
「それでは、私が殿下の妻としてのお役目を果たしてもよろしいのですか? お兄様は、エリオット殿下に恋していらっしゃるのでしょう?」
「……それは、」
なぜ私は何も言っていないのに、そんなことが分かるのだ。私の気持ちなど、お見通しだとでも言いたいのか?
やはりこの末妹は、魔女の類いか何かなのだろうか。
「お迎えがいらっしゃったみたいだよ。アンディ、それと、......はぁ、.......、全くどうしてお前なんかが、......」
シンデレラに自分の気持ちを言い当てられ押し黙っていると、母上が私たちを呼びにきて、そのまま話は打ち切られる。
昨晩も散々シンデレラにイヤミを言ったはずなのに、母上や妹たちはまだ言い足りなさそうにしていたが、さすがにお城からの従者の前ではみっともない真似はしてこなかった。
母上と妹たちが悔しそうに見守るなか、私とシンデレラは馬車に乗せられ、エリオット様のいらっしゃるお城へと向かう。
恋するお方にお会い出来ると手放しに喜べる状況ではないだけに気が重い。
それもこれも全て、内気なふりをして内心はしたたかで魔女のような末妹のせいだ。元凶をにらみつけると、腹立たしいことにシンデレラはにっこりと微笑みをみせた。
「さあ、そろそろ夕刻です。もうこうなってしまったら覚悟を決めてください、お兄様」
「なんのことだ」
にこりと微笑んだシンデレラに文句を言う前に、シンデレラは私を指差す。そしてその指を軽くふると、そっくりそのまま私とシンデレラの服が入れ替わる。それだけではなく、私の髪は美しく長い髪に変わり、シンデレラの髪はまるで私のような短髪になり容貌まで私と瓜二つに変化した。
「......っ、シンデレラ、お前は......」
どこまで自分勝手なんだ、そう続けようとしたが、結局その言葉を言ってやることはできなかった。いつのまにかお城についていたようで、降りるようにと、馬車の外から従者に促されていたから。
「さあ、シンデレラ様」
うやうやしく頭を下げた従者は、本物のシンデレラではなく私の手を取る。
私が戸惑っていると、シンデレラがこっそりと目配せをしてきた。
ああ、もう全く……、仕方ない。
私が「シンデレラ」になればいいのだろう。
王族の方を欺くことへの不安と畏れ。
愛する人に愛されたいという欲。
二つの相反する気持ちがせめぎあって頭がおかしくなりそうになりながらも、私は「シンデレラ」として馬車から降りた。
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