シンデレラ代わってくださいと言われましても

春音優月

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2、結婚してくださいと言われましても

EP12 みんなシンデレラ

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「恐れながら、私めがシンデレラにございます」
 
 誰もが戸惑っていただろう空気を変えたのは、私の末妹であり本物のシンデレラの声だった。か細い声ではあったが、それでもその場には十分に聞こえる声に、私も思わず頭を上げる。
 
 汚れたボロの衣服に、顔立ちも分からないくらいにすすで汚れた顔。それらはいつもと同じではあったが、いつもとは違い、シンデレラは顔も隠れるほどに大きな頭巾をかぶり、扇子で口元を隠していた。
 
「殿下、汚い身なりではございますが、たしかにブロンドの髪にグリーンの瞳にございます。この娘では?」
「うーん……」
 
 従者の言葉にエリオット様は首をかしげ、困ったようにシンデレラをお見つめになっておられる。
 
 たしかにシンデレラは私と同じく金髪に緑色の瞳を持ってはいるが、顔立ちが明らかに違う。このように被り物をしたとして、ごまかしきれるわけがないだろう。
 
 一体シンデレラはどういうつもりなのだ?
 
「あさましい子だね。まさかお前のはずがないだろう。さっさとお下がり」
 
 母上や妹たちに下がるよう言われても、シンデレラは控えめにではあったが首を横に振り、がんとして下がらない。
 
 内気なシンデレラがここまでするとは驚きだが、しかしどう考えたとしてごまかせないだろう。
 
 成り行きを見守っていると、母上が一番目の妹に何かを耳打ちしているのが視界に入った。
 
「僭越ながら、私こそが殿下のおっしゃられるシンデレラでございます。昨晩は恥ずかしくて本名が名乗れず、末妹の名前であるシンデレラと名乗ったことを今思い出したのです。
私はご覧のようにブラウンヘアでございますが、昨晩は金色のつけ毛をつけていました。これこの通り、瞳の色もグリーンにございます」
 
 母上からの耳打ちに頷くとともに、驚いたことに妹は私こそがシンデレラであると名乗りを上げたのだ。
 
「いいえ、私こそがシンデレラにございます! 私の瞳はブルーにございますが、昨晩は瞳の色を変えることのできるアクセサリーをつけておりました!」
「私だって!」
  
 さらに驚いたことに、なんと他の妹たちまでもが負けじと名乗りを上げた。いくらエリオット様が王子様であらせられるとはいえ、なんとあさましい。
 
 瞳をぎらつかせる妹たちに、急に頭が痛くなってきたような気がして思わずこめかみを押さえてしまった。
 
「殿下、これはどういったことでしょうか? 昨晩お声をかけられた娘は一人のはずでは?」
「そのはずだけどね」
 
 その場にいた娘全員が名乗りをあげるという、ありえない事態。戸惑いの色を隠せないといった従者に、エリオット様は困ったような笑みをお浮かべになられている。まったく我が妹ながら恥ずかしい……。
 
「では殿下、こうなされてはいかがでしょうか? こちらのガラスの靴がぴたりと合った者が本物のシンデレラである、と。このような小さなサイズの靴が入る娘もそうそうおりますまい」  
 
 そう言って従者が荷物から取り出したものは、たしかに昨晩私が履いていたガラスの靴だった。
 
 昨晩私が階段で落とした靴に間違いないが、片方は魔法が解けた時に元の靴に戻ってしまったというのに、なぜもう片方は魔法が解けていないのだろうか。
 
 従者が掲げている片方だけのガラスの靴をマジマジと見てから、ちらりとシンデレラをみやると小さく目配せをされた。
 
 シンデレラ以外の妹たちはガラスの靴を見て戸惑っていたが、母上に背を押され、一番目の妹がまずは私がと前に出る。
 
「な、なにこれ、小さすぎるわ……、くっ……。しょ、少々お待ちください、今入れますから」
「もう結構」
 
 靴のサイズよりも明らかに大きな足を無理して押し込もうとしていたが、見かねた従者にそれを止められ、一番目の妹はガックリと肩を落とす。
 
 それを見て次は私にと意気込む二番目の妹に対し、三番目の妹だけが突然血相を変えて台所の方に走っていった。
 
 どうしたというのだ? 
 思いつめたような三番目の妹の表情がやけに気にかかり、私も後を追うことにした。
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