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2、結婚してくださいと言われましても
EP11 思いがけない再会
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夢のような夜を過ごした明くる日。
明日からまた騎士としての業務に戻るため、荷物を整理していた。こうしていると、まるで昨日のことは私の夢の中の出来事だったかのようだな。
シンデレラには人が多すぎて王子様のお顔を拝見することも叶わなかったと告げようと思っていたが、相変わらずせわしく家事にはげまされているため、あれから話さえもできていない。
「お、お兄さま!! アンディお兄様、大変にございます!」
「なんだ? 騒がしい」
未だ夢のような昨夜のことが忘れられず、上の空で荷物整理をしていると、二番目の妹が騒々しく部屋に入ってきた。
「そ、それが、家の外に高貴な身分の方が乗る高貴な馬車から高貴な方が」
何を言っているのかよく分からないが、今までにない妹の慌て様に手を止めて立ち上がる。
一体何が起こっているというのだ。尋常ではない妹の様子に、ひとまず外の様子を確認しようと、部屋を出て階段を下りる。
階段の先には、ペコペコと頭を下げる母上とその後ろでそわそわする妹たちがいた。妹たちと一緒にいらっしゃるお方はもしや……。
昨夜とは違い、肩や裾に金の装飾がついた美しいパールゴールドの衣装で正装なさってはいたが、確かに昨夜お会いした方のお姿を拝見し、その場で固まってしまった。
「お兄さま、あちらのお方はどなたなのでしょうか......?」
私の腕に腕を絡ませ、はしたなく明らかにそわそわする妹に言葉を返す余裕もなかった。きっと端から見たら落ち着いてみえるだろう私の方が、内心妹よりもよほど動揺していたに違いない。
なぜエリオット様がこのようなところに? もう二度とお会いすることはないと思っていたのに……。
「それで、そのぅ、大変失礼ではございますが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか……?」
「これは失礼致しました。名乗るのが遅くなり、大変申し訳ございません。私は、第三王子のエリオットと申します」
「ひ、……っ! お、おうじ、さま……? で、殿下であらせられましたか......!」
お側に控える従者を制してエリオット様がお名乗りすると、ついに母上は腰を抜かし、妹たちはますます色めきたった。
「この家に金の髪にグリーンの瞳の娘はいますか? 殿下がおっしゃられるには、シンデレラというお名前だそうですが」
「シンデレラならおりますが……」
エリオット様の代わりに用件を告げた従者に、母上が腰を抜かしながらも答える。
シンデレラ、か……。
シンデレラの名前が出た途端、エリオット様はこの私めをお探しにいらっしゃったのだと察し、一瞬心臓が止まりそうになったが、この姿では気づかれることもないだろうとすぐに思い直す。
「シンデレラにどのようなご用事で?」
「求婚に参りました。昨夜の舞踏会でお会いし、ひとめ拝見した瞬間にシンデレラ様を生涯の伴侶にしたいと思い至りました」
伴侶? 求婚? はっきりとそう告げたエリオット様だったが、何をおっしゃられてるのかすぐには理解できず、その言葉だけが頭をぐるぐると回る。
「恐れながら申し上げますが、人違いではいらっしゃいませんか……? シンデレラはとても殿下のようなお方に見初められるような美しい娘ではございません」
妹たちも私と同様に呆然としてたみたいだったが、いち早く反応したのはお母様だった。
「いえ、確かにこの家のお方のはずです。彼女の従者から伺いましたので」
従者……、あのネズミの従者か! あの忌々しいネズミめ、余計なことをしてくれる。
エリオット様の従者の言葉を聞き、もはやどこに行ったのかも分からないネズミにふつふつと怒りを募らせていると、ふいにエリオット様と目が合ってしまった。
「シンデレラ! 会いたかった」
まさかこの姿でお気づきになるはずがない。
そう、思っていたのに。
目が合った瞬間にエリオット様はあのいたずらっぽい笑みをお浮かべになられ、私の方にかけよられたのだ。
「その者はシンデレラではございません。ご覧の通り男装の騎士として国にお仕えする身でございます。舞踏会で殿下のお目に叶うことなどあろうはずもございません」
今の私は着古した男装衣装を身につけ、かみも短く傷んでいる。このような姿でも私にお気づきくださったエリオット様に胸の鼓動はおさまらず、すぐにでもそうでございます私が昨晩のシンデレラでございますと名乗りをあげたかった。
しかし、大変恐れながら……と、たいそう恐る恐るではあったが、はっきりとエリオット様のお言葉を否定された母上のお言葉に一瞬で頭が冷えていく。
「母の申し上げた通り、私はシンデレラではございません。私のような者にまでお声をかけて頂き、心より感謝申し上げます」
エリオット様の前でひざまずぎ、儀礼に従い頭を垂れる。
「え? でも、たしかに君は……」
「殿下、この者は騎士にございますよ。娘として舞踏会に来ることなど考えられません。シンデレラは他の娘ではございませんか?」
「シンデレラは確かにおりますが、うちのシンデレラは殿下のお目にかなうような娘では……」
エリオット様や従者の戸惑う声、同じく混乱している母上の声でその場がざわめく。妹たちもきっと混乱していることだろう。
エリオット様は、どのようなお顔をしていらっしゃるだろうか。気持ちを押し殺し、ただ私はひざまづき頭を下げ続けた。
明日からまた騎士としての業務に戻るため、荷物を整理していた。こうしていると、まるで昨日のことは私の夢の中の出来事だったかのようだな。
シンデレラには人が多すぎて王子様のお顔を拝見することも叶わなかったと告げようと思っていたが、相変わらずせわしく家事にはげまされているため、あれから話さえもできていない。
「お、お兄さま!! アンディお兄様、大変にございます!」
「なんだ? 騒がしい」
未だ夢のような昨夜のことが忘れられず、上の空で荷物整理をしていると、二番目の妹が騒々しく部屋に入ってきた。
「そ、それが、家の外に高貴な身分の方が乗る高貴な馬車から高貴な方が」
何を言っているのかよく分からないが、今までにない妹の慌て様に手を止めて立ち上がる。
一体何が起こっているというのだ。尋常ではない妹の様子に、ひとまず外の様子を確認しようと、部屋を出て階段を下りる。
階段の先には、ペコペコと頭を下げる母上とその後ろでそわそわする妹たちがいた。妹たちと一緒にいらっしゃるお方はもしや……。
昨夜とは違い、肩や裾に金の装飾がついた美しいパールゴールドの衣装で正装なさってはいたが、確かに昨夜お会いした方のお姿を拝見し、その場で固まってしまった。
「お兄さま、あちらのお方はどなたなのでしょうか......?」
私の腕に腕を絡ませ、はしたなく明らかにそわそわする妹に言葉を返す余裕もなかった。きっと端から見たら落ち着いてみえるだろう私の方が、内心妹よりもよほど動揺していたに違いない。
なぜエリオット様がこのようなところに? もう二度とお会いすることはないと思っていたのに……。
「それで、そのぅ、大変失礼ではございますが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか……?」
「これは失礼致しました。名乗るのが遅くなり、大変申し訳ございません。私は、第三王子のエリオットと申します」
「ひ、……っ! お、おうじ、さま……? で、殿下であらせられましたか......!」
お側に控える従者を制してエリオット様がお名乗りすると、ついに母上は腰を抜かし、妹たちはますます色めきたった。
「この家に金の髪にグリーンの瞳の娘はいますか? 殿下がおっしゃられるには、シンデレラというお名前だそうですが」
「シンデレラならおりますが……」
エリオット様の代わりに用件を告げた従者に、母上が腰を抜かしながらも答える。
シンデレラ、か……。
シンデレラの名前が出た途端、エリオット様はこの私めをお探しにいらっしゃったのだと察し、一瞬心臓が止まりそうになったが、この姿では気づかれることもないだろうとすぐに思い直す。
「シンデレラにどのようなご用事で?」
「求婚に参りました。昨夜の舞踏会でお会いし、ひとめ拝見した瞬間にシンデレラ様を生涯の伴侶にしたいと思い至りました」
伴侶? 求婚? はっきりとそう告げたエリオット様だったが、何をおっしゃられてるのかすぐには理解できず、その言葉だけが頭をぐるぐると回る。
「恐れながら申し上げますが、人違いではいらっしゃいませんか……? シンデレラはとても殿下のようなお方に見初められるような美しい娘ではございません」
妹たちも私と同様に呆然としてたみたいだったが、いち早く反応したのはお母様だった。
「いえ、確かにこの家のお方のはずです。彼女の従者から伺いましたので」
従者……、あのネズミの従者か! あの忌々しいネズミめ、余計なことをしてくれる。
エリオット様の従者の言葉を聞き、もはやどこに行ったのかも分からないネズミにふつふつと怒りを募らせていると、ふいにエリオット様と目が合ってしまった。
「シンデレラ! 会いたかった」
まさかこの姿でお気づきになるはずがない。
そう、思っていたのに。
目が合った瞬間にエリオット様はあのいたずらっぽい笑みをお浮かべになられ、私の方にかけよられたのだ。
「その者はシンデレラではございません。ご覧の通り男装の騎士として国にお仕えする身でございます。舞踏会で殿下のお目に叶うことなどあろうはずもございません」
今の私は着古した男装衣装を身につけ、かみも短く傷んでいる。このような姿でも私にお気づきくださったエリオット様に胸の鼓動はおさまらず、すぐにでもそうでございます私が昨晩のシンデレラでございますと名乗りをあげたかった。
しかし、大変恐れながら……と、たいそう恐る恐るではあったが、はっきりとエリオット様のお言葉を否定された母上のお言葉に一瞬で頭が冷えていく。
「母の申し上げた通り、私はシンデレラではございません。私のような者にまでお声をかけて頂き、心より感謝申し上げます」
エリオット様の前でひざまずぎ、儀礼に従い頭を垂れる。
「え? でも、たしかに君は……」
「殿下、この者は騎士にございますよ。娘として舞踏会に来ることなど考えられません。シンデレラは他の娘ではございませんか?」
「シンデレラは確かにおりますが、うちのシンデレラは殿下のお目にかなうような娘では……」
エリオット様や従者の戸惑う声、同じく混乱している母上の声でその場がざわめく。妹たちもきっと混乱していることだろう。
エリオット様は、どのようなお顔をしていらっしゃるだろうか。気持ちを押し殺し、ただ私はひざまづき頭を下げ続けた。
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