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1、シンデレラ代わってくださいと言われましても
EP9 夢から覚めたシンデレラ
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周りの声や視線も気にならないくらいエリオット様だけに夢中になっていたが、夢から覚める時は必ずやってくるものだ。
ちょうど音楽がしっとりとしたものから軽快なものへと変わった頃、よく聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ねえ、あの方……。よく見たらアンディお兄さまに似てらっしゃらない?」
「まさか、そんなはずないわ。お兄さまがあんな高価なドレスを持ってらっしゃるわけないし、きっとあの方はどこかの国のお姫様よ」
「そうよ、それにあの子は騎士として国に仕えている身。舞踏会に招かれ、美しく着飾るなんてありえないわ」
耳に入ってきた母上や妹たちの声に、ついに私は夢から醒めてしまった。
「シンデレラ?どうかした?」
固まってしまった私を心配そうにのぞきこむエリオット様に頭を下げる。
「申し訳ございませんが、私はそろそろ帰らなければなりません。夢のような時間をありがとうございました」
震える声でそう告げると、エリオット様の返事も聞かないうちに、その腕から抜け出す。
「え? まって!」
エリオット様がお止めになる声にも応えることができず、逃げるように走り出す。
何を勘違いしていたんだろう。
いくら美しいドレスで着飾っても、長く美しい髪を手にいれても、それは一夜限りの夢。
本当の私は、皆から憧れられるような美しいお姫様でもない。ましてや王子様から愛されるような高貴な身分の娘でもなく、ただの貧乏な騎士に過ぎないのだ。
ずっと夢の中にいられたら良かったのに。たった一夜の夢でも、エリオット様に本当の私を知られたくない。
妹たちや知り合いに正体を知られることよりも、エリオット様に正体を知られ失望される恐怖の方が上回り、その一心で私は広場から駆け出した。
ドレスの裾をたくしあげ、最初に上ってきた長い長い階段のところまで走る。
この階段を降りたら夢は終わり、現実の世界に戻らなければいけない。シンデレラからアンディに戻り、男装の騎士として生きていく。
本当はまだ夢から醒めたくない。しかし、もう戻らなきゃいけない。
「すごく足が早いんだね。驚いた」
名残惜しくなってしまったけど、一歩踏み出そうとしたとき、後ろから腕をつかまれた。
振り向くと予想通りというよりも期待通りの人物のお姿を見つけ、嬉しいような切ないような複雑な気持ちがこみ上げてきて胸がいっぱいになる。
「エリオット様……」
「何か嫌な気分にさせるようなことでもした?」
困ったような顔で私を見つめるエリオット様に必死で首を横にふる。
「いいえ、そんな、とんでもございません。ただ私は……」
なんと言えばいいんだろうか。エリオット様に誤解もさせたくないけれど、正体も知られたくない。
結局何も言えなくて、口ごもりうつむくと、不意に抱きしめられて心臓が止まりそうになる。
見た目よりもしっかりと筋肉のおつきになった大きな体、しなやかだけど力強い腕。ダンスをした時よりもさらにエリオット様をお近くに感じ、胸の高鳴りが止まらなくなる。
少し抱きしめる力が弱まり体が離されると、エリオット様と目が合う。綺麗なアクアマリンの瞳を見ていると、色んな気持ちがこみ上げてきて、ますます胸が苦しくなる。
目が合うだけで幸せで天にものぼる心地なのに、切なくて苦しい。こんな気持ち、今まで知らなかった。
初めてお会いしたのに、エリオット様のことをほぼ何も存じ上げないのに、ただ目が合うだけでどうしようもなく幸せで、胸が苦しくなる。
「また会える?君がどこの誰か知りたい」
「私には名乗るほどの身分はございません」
「身分なんてどうでもいいよ。君のことを知りたいだけなんだ」
「私は、……ただのシンデレラです」
第三王子様ということであれば王位継承権は低いだろうが、それでもエリオット様はいづれ国を担っていかなければならない方。他国の姫君か、美しい貴族の娘と結婚されるのだろう。
私のことを知りたいとおっしゃられても、お伝えできるはずもない。
もう二度と会えないなんてとても辛いが、ただの貧乏騎士が王子様に再びお会いしたいなんて叶うわけがないのだ。
美しいドレスと長い髪もない本当の私をお知りになったら、エリオット様だってきっと失望されるだろう。
優しくおみつめになるエリオット様にいたたまれなくなり、うつむく。視線が合わせられずにいると、そっと頬に手を置かれ顔を上げさせられる。
そして、そのままゆっくりとエリオット様のお顔がお近づきになり……
唇が重ねられた。
ちょうど音楽がしっとりとしたものから軽快なものへと変わった頃、よく聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ねえ、あの方……。よく見たらアンディお兄さまに似てらっしゃらない?」
「まさか、そんなはずないわ。お兄さまがあんな高価なドレスを持ってらっしゃるわけないし、きっとあの方はどこかの国のお姫様よ」
「そうよ、それにあの子は騎士として国に仕えている身。舞踏会に招かれ、美しく着飾るなんてありえないわ」
耳に入ってきた母上や妹たちの声に、ついに私は夢から醒めてしまった。
「シンデレラ?どうかした?」
固まってしまった私を心配そうにのぞきこむエリオット様に頭を下げる。
「申し訳ございませんが、私はそろそろ帰らなければなりません。夢のような時間をありがとうございました」
震える声でそう告げると、エリオット様の返事も聞かないうちに、その腕から抜け出す。
「え? まって!」
エリオット様がお止めになる声にも応えることができず、逃げるように走り出す。
何を勘違いしていたんだろう。
いくら美しいドレスで着飾っても、長く美しい髪を手にいれても、それは一夜限りの夢。
本当の私は、皆から憧れられるような美しいお姫様でもない。ましてや王子様から愛されるような高貴な身分の娘でもなく、ただの貧乏な騎士に過ぎないのだ。
ずっと夢の中にいられたら良かったのに。たった一夜の夢でも、エリオット様に本当の私を知られたくない。
妹たちや知り合いに正体を知られることよりも、エリオット様に正体を知られ失望される恐怖の方が上回り、その一心で私は広場から駆け出した。
ドレスの裾をたくしあげ、最初に上ってきた長い長い階段のところまで走る。
この階段を降りたら夢は終わり、現実の世界に戻らなければいけない。シンデレラからアンディに戻り、男装の騎士として生きていく。
本当はまだ夢から醒めたくない。しかし、もう戻らなきゃいけない。
「すごく足が早いんだね。驚いた」
名残惜しくなってしまったけど、一歩踏み出そうとしたとき、後ろから腕をつかまれた。
振り向くと予想通りというよりも期待通りの人物のお姿を見つけ、嬉しいような切ないような複雑な気持ちがこみ上げてきて胸がいっぱいになる。
「エリオット様……」
「何か嫌な気分にさせるようなことでもした?」
困ったような顔で私を見つめるエリオット様に必死で首を横にふる。
「いいえ、そんな、とんでもございません。ただ私は……」
なんと言えばいいんだろうか。エリオット様に誤解もさせたくないけれど、正体も知られたくない。
結局何も言えなくて、口ごもりうつむくと、不意に抱きしめられて心臓が止まりそうになる。
見た目よりもしっかりと筋肉のおつきになった大きな体、しなやかだけど力強い腕。ダンスをした時よりもさらにエリオット様をお近くに感じ、胸の高鳴りが止まらなくなる。
少し抱きしめる力が弱まり体が離されると、エリオット様と目が合う。綺麗なアクアマリンの瞳を見ていると、色んな気持ちがこみ上げてきて、ますます胸が苦しくなる。
目が合うだけで幸せで天にものぼる心地なのに、切なくて苦しい。こんな気持ち、今まで知らなかった。
初めてお会いしたのに、エリオット様のことをほぼ何も存じ上げないのに、ただ目が合うだけでどうしようもなく幸せで、胸が苦しくなる。
「また会える?君がどこの誰か知りたい」
「私には名乗るほどの身分はございません」
「身分なんてどうでもいいよ。君のことを知りたいだけなんだ」
「私は、……ただのシンデレラです」
第三王子様ということであれば王位継承権は低いだろうが、それでもエリオット様はいづれ国を担っていかなければならない方。他国の姫君か、美しい貴族の娘と結婚されるのだろう。
私のことを知りたいとおっしゃられても、お伝えできるはずもない。
もう二度と会えないなんてとても辛いが、ただの貧乏騎士が王子様に再びお会いしたいなんて叶うわけがないのだ。
美しいドレスと長い髪もない本当の私をお知りになったら、エリオット様だってきっと失望されるだろう。
優しくおみつめになるエリオット様にいたたまれなくなり、うつむく。視線が合わせられずにいると、そっと頬に手を置かれ顔を上げさせられる。
そして、そのままゆっくりとエリオット様のお顔がお近づきになり……
唇が重ねられた。
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