6 / 19
1、シンデレラ代わってくださいと言われましても
EP6 運命の出会い?
しおりを挟む
もっと庭園を良く見ようと、バルコニーの手すりに寄りかかった時だった。
バルコニーの内側まで伸びている大きな木がミシミシと揺れている。それも、明らかに風で揺れているような揺れ方ではない。
獣か何かか?それとも、もしや賊?
最悪の可能性を考え、とっさに剣をとろうと腰元に手を伸ばしたが、腰に手をやって剣など持っていないことにようやく気がつく。今持っているものは、繊細で美しいが何の役にも立たない扇子のみ。
仕方ないので武器もなしに身構えたが、よほど手慣れた賊なのだろうか。木を伝って登ってきている何者かは、素早い身のこなしで木からこちらのバルコニーへとのりうつってきた。
「うわっ! びっ、くりしたー……!」
木からバルコニーに伝ってきた何者かは、私と目が合うと同時に目を丸くして声を上げる。
獣にはどう見ても見えないし、賊でもなさそうだな。むしろこのお方は、高貴な身分の方ではないだろうか?
「まさかここに人がいるとは思わなかった。ごめんね。驚かせちゃったよね」
その方がお召しになっていたのは、ダークグリーンのジャケットにズボン、ロイヤルブルーのスカーフ。舞踏会用の正装ではないが、それでも一目見ただけでも高貴な身分の方だと分かった。
賊や獣の類いではなくてほっとしたが、なぜ高貴な身分の方が賊まがいの真似を? それも気になるが、それよりも……。
アクアマリンのように透き通った水色の瞳、柔らかそうな栗色の髪。いたずらっぽくほほえむそのお姿に目が離せなくなる。
「い、いえ。あの、恐れながら申し上げますが、葉が……」
そこまで身長が低いわけでもない私が見上げるくらいに背が高いそのお方の頭にひとつだけ葉っぱがついていた。あまり高貴な身分の方とお話する機会もないのでしどろもどろになりながらもお伝えすると、そのお方は大げさに頭をふりはじめる。
「え?どこ?とって?」
取れていませんと何度もお伝えするとしびれを切らしたのか、ずい、と目の前に頭を付き出されてしまった。
高貴な身分の方に直接触れるなんて、そのような失礼なことはとても出来ないと思ったが、このままの体勢でずっと待たせる方が失礼だろうか。
そう思い、恐る恐る髪に触れると、見た目以上にその方の髪は柔らかくて、なぜか上手く息が吸えなくなったかのように突然胸が苦しくなる。
なんだろうか。さっきから体が、胸の辺りがおかしいような気がする。私は何かの病気になってしまったのか?
原因不明な体の変化に戸惑っていると、ありがとうと笑いかけられて、ますます胸が詰まったように苦しくなる。
家にあるどの宝石よりも美しい透き通った瞳を持つこのお方の服装や顔立ちからは隠しきれない育ちの良さと上品さがにじみ出ているのに、いたずらっぽく笑うそのお顔はなぜか親しみやすさがあって、不思議なお方だ。
しかし、本当にどうして高貴なお方がバルコニーから現れたのだろうか? 舞踏会に行くつもりなら、正門から行くはずだが……。
「何で舞踏会に行かないでこんなとこから現れたのかって思ってる?」
考え込んでいると、まさに考えていたことを当てられてギクリとしてしまう。人の心を読む力でもお持ちなのだろうか?
「いえ、そのような……はい」
一瞬否定しようかと思ったが、その透き通った瞳に見つめられると全て見透かされているような気がして否定しても無駄な気がしてきた。素直に頷くと、くすりと笑われる。
「舞踏会も最初はおいしいもの食べられるし良いんだけど、毎日毎日だと飽きてくるんだよね。自慢話ばっかだし聞いててもつまらなくて。だからさ、こっそり抜け出しちゃった」
そういうものなのだろうか?
お城での舞踏会だなんて、私にとっては夢のまた夢だった。舞踏会に招かれるだけでとても光栄なことだけれど、上流階級の方にとってはそうでもないのだろうか。そういう、ものなのだろうか。
あっけらかんとお伝えされて、こっちがあっけにとられてしまったが、案外そういうものなのかもしれないな。
「抜け出したことがバレないようにこっそり戻ってきたら、人がいるから驚いたよ。ここにいたところを見ると、君も僕と同じ?」
「いえ、私は……」
途中まで言いかけたが、あわてて口をつぐむ。一体何を言うつもりだ、私は。
妹の頼みで王子様と結ばれるために舞踏会にきた、と?
まさかそんなことが言えるわけもないし、それに、このお方に私の正体を知られたくない。
本当の私は、美しい姫でも高貴な身分の娘でもなく、ただの貧乏騎士だと。なぜかこのお方にはそれを知られたくないのだ。どこのどなたかも存じ上げないのに、自分の正体を知られ幻滅されるのが怖い。
口を開きかけただけで何も言葉を発しないでいると、綺麗なアクアマリンの二つの目に不思議そうに見つめられる。
私の正体は知られたくないが、その目に見つめられると、なぜかここから離れたくない気持ちになるから不思議だ。
相反する気持ちと葛藤していると、お城の中の音楽がアップテンポのものからゆったりとしたものに変わっていく。
「せっかくなので、一曲踊っていただけませんか?」
「え?」
アクアマリンの瞳を持つそのお方は、固まったまま言葉を発さなくなった私をじっと見つめていたけれど、音楽が変わった途端に何か思いついたようにいたずらっぽく笑い、私に手を差し出す。
ダンスは貴族の嗜みではあるが、貧乏な家ではそんな余裕もなく、またそんな機会もなかった。お誘いに応じたところで、どうせ恥を晒すだけ。
それは分っていたが、アクアマリンの瞳に誘われるようにうなずき、気づいたら私はそのお手をとっていた。
バルコニーの内側まで伸びている大きな木がミシミシと揺れている。それも、明らかに風で揺れているような揺れ方ではない。
獣か何かか?それとも、もしや賊?
最悪の可能性を考え、とっさに剣をとろうと腰元に手を伸ばしたが、腰に手をやって剣など持っていないことにようやく気がつく。今持っているものは、繊細で美しいが何の役にも立たない扇子のみ。
仕方ないので武器もなしに身構えたが、よほど手慣れた賊なのだろうか。木を伝って登ってきている何者かは、素早い身のこなしで木からこちらのバルコニーへとのりうつってきた。
「うわっ! びっ、くりしたー……!」
木からバルコニーに伝ってきた何者かは、私と目が合うと同時に目を丸くして声を上げる。
獣にはどう見ても見えないし、賊でもなさそうだな。むしろこのお方は、高貴な身分の方ではないだろうか?
「まさかここに人がいるとは思わなかった。ごめんね。驚かせちゃったよね」
その方がお召しになっていたのは、ダークグリーンのジャケットにズボン、ロイヤルブルーのスカーフ。舞踏会用の正装ではないが、それでも一目見ただけでも高貴な身分の方だと分かった。
賊や獣の類いではなくてほっとしたが、なぜ高貴な身分の方が賊まがいの真似を? それも気になるが、それよりも……。
アクアマリンのように透き通った水色の瞳、柔らかそうな栗色の髪。いたずらっぽくほほえむそのお姿に目が離せなくなる。
「い、いえ。あの、恐れながら申し上げますが、葉が……」
そこまで身長が低いわけでもない私が見上げるくらいに背が高いそのお方の頭にひとつだけ葉っぱがついていた。あまり高貴な身分の方とお話する機会もないのでしどろもどろになりながらもお伝えすると、そのお方は大げさに頭をふりはじめる。
「え?どこ?とって?」
取れていませんと何度もお伝えするとしびれを切らしたのか、ずい、と目の前に頭を付き出されてしまった。
高貴な身分の方に直接触れるなんて、そのような失礼なことはとても出来ないと思ったが、このままの体勢でずっと待たせる方が失礼だろうか。
そう思い、恐る恐る髪に触れると、見た目以上にその方の髪は柔らかくて、なぜか上手く息が吸えなくなったかのように突然胸が苦しくなる。
なんだろうか。さっきから体が、胸の辺りがおかしいような気がする。私は何かの病気になってしまったのか?
原因不明な体の変化に戸惑っていると、ありがとうと笑いかけられて、ますます胸が詰まったように苦しくなる。
家にあるどの宝石よりも美しい透き通った瞳を持つこのお方の服装や顔立ちからは隠しきれない育ちの良さと上品さがにじみ出ているのに、いたずらっぽく笑うそのお顔はなぜか親しみやすさがあって、不思議なお方だ。
しかし、本当にどうして高貴なお方がバルコニーから現れたのだろうか? 舞踏会に行くつもりなら、正門から行くはずだが……。
「何で舞踏会に行かないでこんなとこから現れたのかって思ってる?」
考え込んでいると、まさに考えていたことを当てられてギクリとしてしまう。人の心を読む力でもお持ちなのだろうか?
「いえ、そのような……はい」
一瞬否定しようかと思ったが、その透き通った瞳に見つめられると全て見透かされているような気がして否定しても無駄な気がしてきた。素直に頷くと、くすりと笑われる。
「舞踏会も最初はおいしいもの食べられるし良いんだけど、毎日毎日だと飽きてくるんだよね。自慢話ばっかだし聞いててもつまらなくて。だからさ、こっそり抜け出しちゃった」
そういうものなのだろうか?
お城での舞踏会だなんて、私にとっては夢のまた夢だった。舞踏会に招かれるだけでとても光栄なことだけれど、上流階級の方にとってはそうでもないのだろうか。そういう、ものなのだろうか。
あっけらかんとお伝えされて、こっちがあっけにとられてしまったが、案外そういうものなのかもしれないな。
「抜け出したことがバレないようにこっそり戻ってきたら、人がいるから驚いたよ。ここにいたところを見ると、君も僕と同じ?」
「いえ、私は……」
途中まで言いかけたが、あわてて口をつぐむ。一体何を言うつもりだ、私は。
妹の頼みで王子様と結ばれるために舞踏会にきた、と?
まさかそんなことが言えるわけもないし、それに、このお方に私の正体を知られたくない。
本当の私は、美しい姫でも高貴な身分の娘でもなく、ただの貧乏騎士だと。なぜかこのお方にはそれを知られたくないのだ。どこのどなたかも存じ上げないのに、自分の正体を知られ幻滅されるのが怖い。
口を開きかけただけで何も言葉を発しないでいると、綺麗なアクアマリンの二つの目に不思議そうに見つめられる。
私の正体は知られたくないが、その目に見つめられると、なぜかここから離れたくない気持ちになるから不思議だ。
相反する気持ちと葛藤していると、お城の中の音楽がアップテンポのものからゆったりとしたものに変わっていく。
「せっかくなので、一曲踊っていただけませんか?」
「え?」
アクアマリンの瞳を持つそのお方は、固まったまま言葉を発さなくなった私をじっと見つめていたけれど、音楽が変わった途端に何か思いついたようにいたずらっぽく笑い、私に手を差し出す。
ダンスは貴族の嗜みではあるが、貧乏な家ではそんな余裕もなく、またそんな機会もなかった。お誘いに応じたところで、どうせ恥を晒すだけ。
それは分っていたが、アクアマリンの瞳に誘われるようにうなずき、気づいたら私はそのお手をとっていた。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる