シンデレラ代わってくださいと言われましても

春音優月

文字の大きさ
上 下
3 / 19
1、シンデレラ代わってくださいと言われましても

EP3 馬鹿馬鹿しい話

しおりを挟む
「運命の人などと馬鹿馬鹿しい。その運命の人が豊かな暮らしを保証してくれるのか? 恋がしたいのなら、結婚してからいくらでも恋人を作れるだろう」
 
 結婚相手以外の異性と交わる不義密通は、我が国では重罪だ。
 
 しかし、そんなことは建前だけで、実際には至るところに不倫・不貞がはびこっている。そんなことは、小さな子どもでさえ知っていることだ。
 
 結婚は、愛する人と結ばれるものではなく、自分の身分価値を高めるための手段でしかない。
 
 男は出世に有利となるような家柄の娘を望み、女は身分の高い方に見初められることを望む。
 
 そんな形での「結婚」に、愛なんてものがあるはずもなく、男も女も暗黙の了解でお互い浮気相手を作って、束の間のスリルを楽しむのだ。 
 
 道徳・真心なんて建前で、結婚生活の真実なんてそんなものだとシンデレラも知っているはずなのに、運命の人などと馬鹿馬鹿しい。
 
 そんなもののためにニホンとやらに帰ろうとし、私をけしかけるなんてどう考えても馬鹿げている。
 
「お兄様は、本当の恋をしたことがないからそんなことをおっしゃるのです。本当の恋は、この人のためなら全てを失ってもいいと思うくらいに身を焦がすような恋であり、それでいておだやかな愛に包まれる極上のものです」
「お前はそれを知っていると言うのか」
「はい。それこそ身分の差も年の差もどうでもよくなり、決して抗えないものなのです」
 
 シンデレラは確信を持ったように告げる。
 
 無知で愚かなほどに夢見がちなシンデレラを諭していたはずだったのに、哀れむような視線を向けられ、まるで私の方が間違っているかのように錯覚してしまう。
 
 私よりも三つも年下で、まだ16の末妹に哀れまれ、腹立たしい気持ちもある。しかし、それよりも、彼女の言葉に図星をさされたようでギクリとしてしまった。
 
 裏切り、出世欲に自己顕示欲ばかりの我が国でも、シンデレラの言うような本当の恋とやらがあるという話を聞いたことがある。
 
 それは、お互いの身分や生まれさえも関係なく抗うことのできないものであり、身を焦がすほどに激しい感情に支配され、後におだやかな愛情に包まれるという。
 
 まあ、そんなことは所詮空想事にしか過ぎないだろうが。もしも実在したとしても、男装の騎士として生きる私には関係こない話だ。
 
 私は男として女と結婚することはもちろんないが、女として結婚することもない。いかに身分の高い方でも国の定めで男装の騎士に手を出すことは許されない、と決まっている。それを覆すことができるのは、王族の方か、王族にごく近い身分の方だけ。
 
 だから、私は生涯誰とも恋をすることも結婚することもなく、騎士として国のために尽くすことが定められている。
 
 本当の恋などと私には関係ないが……。
 ただ、もしも本当の恋というものがあるならば、それはどんなものなのだろうか?
 
 特別な日のみに食すことができるケーキやパイのように甘いものだろうか? 
 それとも、砂糖を全く入れない飲み物のように苦く切ないものだろうか?
 
「どうかお願いでございますお兄様。この灰かぶりを少しでも哀れだと思われるなら、一度だけでもシンデレラとして舞踏会に行って頂けませんか?」
 
 本当の恋とやらについて考え込んでいると、シンデレラに再びすがるように訴えられる。
 
 そんなにニホンに残してきた恋人が恋しいのだろうか?
 
 その気持ちを理解してやることはできないが、血が繋がっていないとはいえ幼少の頃より共に育ってきた妹だ。
 
 その妹にここまで懇願されては、一度くらいはその望みを叶えてやりたいと思わなくもないが……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

処理中です...