王宮お抱えのエセ魔術師ですが、冷淡な第三王子様に溺愛されてたみたいです

春音優月

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「出来るわけないよね、そもそも魔術が使えないんだから」

 オーウェンさまは横目で私を見て、呆れたように言った。

「どうして、それを」

 ポロリと言葉が出てしまった自分の口を両手でおさえる。

「フェリシアの代わりに、僕が黒魔術で依頼を解決してたから」
「オーウェンさまが!?」

 びっくりして、つい声が大きくなってしまう。

 そういえば、なにかが変だとはずっと思っていた。
 オーウェンさまは時々どこかに消えたかと思えば、ふっと現れ、依頼で頼まれたものを持っている。パーティーに潜り込んだ私の姿が突然みなさまの視界から消えたこともあった。

「今までの不思議な現象は、全部オーウェンさまだったのですね。黒魔術も使われるなんて存じ上げなかったです」

 私はとんでもなく運が良くて、自分の機転と努力でピンチを潜り抜けてきたと思っていた。でも、そうじゃなかったんだ。私は今まで、知らないところでどれだけオーウェンさまに助けられてきたんだろう。

「黒魔法はともなく、黒魔術使いなんて不気味以外の何者でもないからね」

 だから言わなかった、とオーウェンさまは続ける。
 そして、私からわずかに距離をとった。普段はほとんど表情の変わらないオーウェンさまがどこか寂しそうに見える。

「オーウェンさま」

 オーウェンさまに一歩近づく。

「助けてくださって、ありがとうございます。今までも、先ほども」

 胸の前で腕を組んで、オーウェンさまを見上げる。感謝こそしても、不気味だなんて思うはずがない。

「オーウェンさまの黒魔法は、やっぱりすごいですね」
「初めて会った時もそう言ってくれたね」

 オーウェンさまがじっと私を見つめる。なんだかドキドキして、目を合わせられない。

「どうして私を助けてくださっていたのですか?」
「まだ分からない?」

 オーウェンさまからの熱い視線を感じる。もしかしてオーウェンさまは――いえ、さすがにそれは自惚れが過ぎるというものよね。まさかオーウェンさまが私を、だなんて。

 居心地が悪くなって、床とオーウェンさまを交互に見てしまう。

『あなたたちは愛し合っているのね』

 私たちの間に割って入るように、女性の声が窓の方から聞こえた。完全に彼女の存在を忘れていた。それより、ものすごく誤解されているような。

『私たちは身分違いだと引き裂かれたのに、どうしてあなたたちは一緒にいられるの』
「時代が違うんだ」

 私が何か言う前に、オーウェンさまがお答えになった。

「今は身分差があっても、昔ほどとやかく言われない」

 今も大抵は同じような身分の方同士で結ばれることが多いけれど、貴族と庶民の結婚だってそうめずらしくもない。けれど、私たちが生まれるよりも前は身分差に縛られ、好きな人と結婚出来ないことも多かったみたい。駆け落ちをしたり、なかには好きでもない人との結婚を苦に自死を選んでしまう人もいたとか。

 彼女も、身分違いの悲劇の恋をした一人だったのかな。

「うらやましいわ。私も今の時代に生まれたかった」
「そう思われるのなら、生まれ変わって、もう一度恋をされるのはいかがでしょう」

 私は窓の辺りにいるだろう女性を思い浮かべ、話しかける。過去世の記憶を持った人も時々いると聞くし、強い気持ちで望めば、きっと生まれ変われるはず。

「私にも出来るのかしら」
「出来ますよ。あなたは人を殺していない。今からだって、まだ遅くありません」

 笑顔を浮かべ、彼女を勇気づける。

「ありがとう。生まれ変わって、もう一度あの人と恋がしたいわ」

 あれ? 彼女の声が遠ざかっていっている?

「行ったね」

 しばらくして、オーウェンさまがポツリとつぶやかれた。

「どこにですか?」

 オーウェンさまの方に顔を向ける。オーウェンさまは目線を下げ、小さく首を横に振った。

「さあね。とにかくここからいなくなったのはたしかだ」
「どこに行かれたのでしょうか。もう一度好きな人と出会えたら良いですね」

 彼女の魂の行方を思い、窓の外を見つめる。

「やっぱり思った通りだったよ。フェリシアは立派な魔術師になったね」

 ふと見上げると、オーウェンさまが懐かしむような目で私をご覧になっていた。

 魔術も何も、私は何もしていない。先ほども、今までも、ほとんどオーウェンさまのお力だ。だけど、オーウェンさまは他の方に魔術を使えることを知られたくないのかもしれない。昔ほど迫害はされないとはいえ、今だってまだ偏見はあるのだから。

「エセ魔術師ですが」

 ありのままを答えたら、オーウェンさまがおかしそうにお笑いになった。

 たまにしか見られないオーウェンさまの心からの笑顔がやっぱり好きだと思う。私よりも一つ年下なのに、ずっとしっかりされていて。冷めているように見えて、本当はお優しい。オーウェンさまは憧れの対象で、好きなんて考えないようにしてた。でも私、きっと初めて会った時からオーウェンさまのことが――好き。

 そんなことを打ち明けられるわけもなく、オーウェンさまの横顔を見つめ、私は一人でドギマギしていた。
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