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オーウェンと手を繋いで村に戻ったら、銀色の鎧を着た人たちがたくさんいた。一、二……、たぶん十人以上はいそう。
誰? 騎士? どうしてこんなところに?
村の人たちに話しかけてるみたいだけど、何かあったのかな?
「どうしたんだろう」
「思ったより早かったな」
オーウェンはため息混じりにつぶやき、パッと私の手を離した。それから、鎧を着た人たちのところに歩いていく。
「オーウェン?」
オーウェンまでどうしちゃったの? 状況がよく分からず、オーウェンの後を追う。
しばらくして、騎士?の人たちの視線が一斉にオーウェンに集まった。
「オーウェン様!」
「王子殿下、よくご無事でいらっしゃいました」
鎧をつけた人たちがオーウェンに駆け寄り、彼を取り囲む。
え? え? 王子……殿下……?
うそ……。王子様みたいな子だとは思ったけど、本当に王子様だったの?
私、とんでもなく無礼な態度を取っちゃったかも……。
どうしよう。このあと、処刑されちゃうのかな。
一人でアワアワしている私のことなんて誰も気にしていないみたいで、他の人たちはオーウェンに質問を浴びせていた。
「三日も行方知れずとなり、陛下が心配なさっていました」
「別に僕がいなくなっても、誰も困らないでしょ」
「何をおっしゃるのですか」
騎士の人がとんでもないと言うけれど、オーウェン――さまはわずらわしそうに息をつく。家族が三日もいなくなったら私はすごく心配なのに、王族の人たちはそうじゃないのかな。それとも、オーウェンさまがそう思ってるだけなのかな。
「これまでどうされていたのですか?」
「気がついたら、洞窟にいたんだ」
「え……?」
転移魔法で来たんじゃないの?
不思議に思ってオーウェンさまに視線を向ける。そうしたら、オーウェンさまが目配せをした。黙ってろってことなのかな。
「そちらの方は?」
今まで私の存在を全く気にしていなかったらしい騎士の人の目が、初めて私を見る。
「この子は困っていた僕を助けてくれたんだ」
オーウェンさまは表情を変えず、さらりと言ってのける。
「おお、そうだったのですね!」
「王子殿下を救って頂き、ありがとうございます」
ただ村まで一緒に来ただけなのに、騎士の人たちから盛大に感謝されてしまう。救ったなんて、たいそうなことしてないよ。
オロオロしているうちに、騎士の人たちはどんどん盛り上がっていく。
「三日三晩各地を捜索しても見つからなかった王子殿下が一人の女の子に助けられるとは」
「殿下が洞窟に転移したのは、悪い黒魔術師の仕業じゃないか」
「だとしたら、殿下を救い出したこの子は白魔術の才能があるに違いない」
どうしてそうなるの?
私は、白魔術も黒魔術も一つも使えないのに。
「フェリシアを王宮に連れて行ったら?」
抑揚のない声でそう言ったのは、オーウェンさまだった。とっさにオーウェンさまを見る。
「フェリシアは良い白魔術師になると思う」
オーウェンさまは、表情ひとつ変えない。
本当にそう思ってるのかな。私のどの辺りに才能を感じてくれたんだろう。
「王子殿下の推薦も頂いたことだし、王宮に来ないか?」
「えっ、と……」
騎士に質問され、私は口ごもる。
王宮なんて、夢のまた夢。王子様お姫様は、私にとって物語の中だけに存在する人たち。
それなのに、いきなり王宮に来ないかって言われても困るよ。
そうこうしているうちに、いつのまにか村の人たちが周りにたくさん集まっていた。
どうしよう、すごく注目されちゃってる。
「ちょっと通してね」
家から出てきたお母さんが人をかきわけ、近づいてきた。
「フェリシア、何の騒ぎなの?」
「お母さん」
お母さんが心配そうに私を見つめる。
そのとき、私はお母さんがいつも昔を懐かしみ、嘆いていることを思い出した。
ティーパーティー、豪華で綺麗なドレス、王宮暮らし。私には夢物語だけど、お母さんお父さんにとっては現実で、戻りたくて仕方のない過去。
昔ほどとはいかなくても、もし私が立派な白魔術師になったら、きっとお母さんたちにも今より良い暮らしをさせてあげられる。
町の白魔術師でもそこそこお金持ちが多いという話だから、王宮お抱えの白魔術師はたくさんお金がもらえるはず。そうしたら、お母さんたちも喜んでくれるよね。
「お母さん、私、白魔術師になる」
「何を言ってるの」
私が魔術を使えないと知っているお母さんは、呆気に取られたような顔をしている。
「彼女には白魔術の才がある。僕が保証します」
オーウェンさまが冷めた笑みを浮かべる。
ずっとつまらなそうにしてるのに、ここまで私を推薦してくれるのはどうしてなんだろう。
オーウェンさまの買い被りじゃなく、本当に私に魔術の才があれば良いなぁ。でも私よりも魔術に長けていそうなのは、オーウェンさまに思えるんだけどな。
こうして、私は王宮に白魔術師として迎えられた。
魔術の才能が開花しますようにと祈り続けて、もう八年。結局何も目覚めないまま、私はエセ魔術師として奮闘していた。
私の才を見込んでくださったオーウェンさまは、どう思っていらっしゃるのだろう。気にはなりつつも、もちろん聞けない。
オーウェンさまの魔法の才能が伸びているのか、消滅してしまったのかは、分からなかった。オーウェンさまが私の前で魔法を使って見せてくださったのは、初めてお会いしたあの時の一度だけだったから。
誰? 騎士? どうしてこんなところに?
村の人たちに話しかけてるみたいだけど、何かあったのかな?
「どうしたんだろう」
「思ったより早かったな」
オーウェンはため息混じりにつぶやき、パッと私の手を離した。それから、鎧を着た人たちのところに歩いていく。
「オーウェン?」
オーウェンまでどうしちゃったの? 状況がよく分からず、オーウェンの後を追う。
しばらくして、騎士?の人たちの視線が一斉にオーウェンに集まった。
「オーウェン様!」
「王子殿下、よくご無事でいらっしゃいました」
鎧をつけた人たちがオーウェンに駆け寄り、彼を取り囲む。
え? え? 王子……殿下……?
うそ……。王子様みたいな子だとは思ったけど、本当に王子様だったの?
私、とんでもなく無礼な態度を取っちゃったかも……。
どうしよう。このあと、処刑されちゃうのかな。
一人でアワアワしている私のことなんて誰も気にしていないみたいで、他の人たちはオーウェンに質問を浴びせていた。
「三日も行方知れずとなり、陛下が心配なさっていました」
「別に僕がいなくなっても、誰も困らないでしょ」
「何をおっしゃるのですか」
騎士の人がとんでもないと言うけれど、オーウェン――さまはわずらわしそうに息をつく。家族が三日もいなくなったら私はすごく心配なのに、王族の人たちはそうじゃないのかな。それとも、オーウェンさまがそう思ってるだけなのかな。
「これまでどうされていたのですか?」
「気がついたら、洞窟にいたんだ」
「え……?」
転移魔法で来たんじゃないの?
不思議に思ってオーウェンさまに視線を向ける。そうしたら、オーウェンさまが目配せをした。黙ってろってことなのかな。
「そちらの方は?」
今まで私の存在を全く気にしていなかったらしい騎士の人の目が、初めて私を見る。
「この子は困っていた僕を助けてくれたんだ」
オーウェンさまは表情を変えず、さらりと言ってのける。
「おお、そうだったのですね!」
「王子殿下を救って頂き、ありがとうございます」
ただ村まで一緒に来ただけなのに、騎士の人たちから盛大に感謝されてしまう。救ったなんて、たいそうなことしてないよ。
オロオロしているうちに、騎士の人たちはどんどん盛り上がっていく。
「三日三晩各地を捜索しても見つからなかった王子殿下が一人の女の子に助けられるとは」
「殿下が洞窟に転移したのは、悪い黒魔術師の仕業じゃないか」
「だとしたら、殿下を救い出したこの子は白魔術の才能があるに違いない」
どうしてそうなるの?
私は、白魔術も黒魔術も一つも使えないのに。
「フェリシアを王宮に連れて行ったら?」
抑揚のない声でそう言ったのは、オーウェンさまだった。とっさにオーウェンさまを見る。
「フェリシアは良い白魔術師になると思う」
オーウェンさまは、表情ひとつ変えない。
本当にそう思ってるのかな。私のどの辺りに才能を感じてくれたんだろう。
「王子殿下の推薦も頂いたことだし、王宮に来ないか?」
「えっ、と……」
騎士に質問され、私は口ごもる。
王宮なんて、夢のまた夢。王子様お姫様は、私にとって物語の中だけに存在する人たち。
それなのに、いきなり王宮に来ないかって言われても困るよ。
そうこうしているうちに、いつのまにか村の人たちが周りにたくさん集まっていた。
どうしよう、すごく注目されちゃってる。
「ちょっと通してね」
家から出てきたお母さんが人をかきわけ、近づいてきた。
「フェリシア、何の騒ぎなの?」
「お母さん」
お母さんが心配そうに私を見つめる。
そのとき、私はお母さんがいつも昔を懐かしみ、嘆いていることを思い出した。
ティーパーティー、豪華で綺麗なドレス、王宮暮らし。私には夢物語だけど、お母さんお父さんにとっては現実で、戻りたくて仕方のない過去。
昔ほどとはいかなくても、もし私が立派な白魔術師になったら、きっとお母さんたちにも今より良い暮らしをさせてあげられる。
町の白魔術師でもそこそこお金持ちが多いという話だから、王宮お抱えの白魔術師はたくさんお金がもらえるはず。そうしたら、お母さんたちも喜んでくれるよね。
「お母さん、私、白魔術師になる」
「何を言ってるの」
私が魔術を使えないと知っているお母さんは、呆気に取られたような顔をしている。
「彼女には白魔術の才がある。僕が保証します」
オーウェンさまが冷めた笑みを浮かべる。
ずっとつまらなそうにしてるのに、ここまで私を推薦してくれるのはどうしてなんだろう。
オーウェンさまの買い被りじゃなく、本当に私に魔術の才があれば良いなぁ。でも私よりも魔術に長けていそうなのは、オーウェンさまに思えるんだけどな。
こうして、私は王宮に白魔術師として迎えられた。
魔術の才能が開花しますようにと祈り続けて、もう八年。結局何も目覚めないまま、私はエセ魔術師として奮闘していた。
私の才を見込んでくださったオーウェンさまは、どう思っていらっしゃるのだろう。気にはなりつつも、もちろん聞けない。
オーウェンさまの魔法の才能が伸びているのか、消滅してしまったのかは、分からなかった。オーウェンさまが私の前で魔法を使って見せてくださったのは、初めてお会いしたあの時の一度だけだったから。
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