王宮お抱えのエセ魔術師ですが、冷淡な第三王子様に溺愛されてたみたいです

春音優月

文字の大きさ
上 下
1 / 10

1-1 王宮お抱えのエセ魔術師やってます

しおりを挟む
 王宮の第一書庫から本を借り、大階段を登って自室に戻るところだった。

「フェリシア、ちょうどいいところに」

 二階にいらっしゃった宰相令嬢さまからお声をかけられる。たくさんのお召しものをお待ちの宰相令嬢さまは、今日は繊細な刺繍が施されたブルーのドレスをお召しになっていた。

「あなたに依頼があるの」

 宰相令嬢さまは目配せして、視線だけで私をお呼びになる。

「すぐに参ります」

 二冊の本を右脇に抱え、フカフカの赤絨毯じゅうたんが敷かれた階段を早足で駆け上がっていく。

 ゆるく編んで、両サイドに垂らしたピンク色の髪が胸元の辺りで揺れる。紫の紐で編み上げた七分袖の黒いドレスの上には、紫のリボンが結ばれたフード付きローブ。ややタレ目な瞳は、白魔術師に多いらしいアクアブルー。

 見た目だけなら、私は魔術師そのもの。実際に、私は王宮お抱えの白魔術師として雇って頂いている。

 そのおかげで、子どもの頃は小説で得た情報で空想するしかなかった場所に今の私は住んでいた。

 見上げるほど高い天井からは大きなシャンデリアがいくつかぶら下がっていて、金色で装飾された丸窓がぐるりと並んでいる。その下にはクリーム色の壁と柱があり、反対側に金の手すりがあった。

 もう八年も暮らしているからだいぶ慣れたけど、やっぱりいつ見ても豪華だよね。

「急に声をかけてごめんなさいね」

 手の届く距離まで近づくと、宰相令嬢様の手が私の肩にそっと置かれる。宰相令嬢様は女性の中では背が高めで、160センチの私よりも10センチほど目線が上だった。

「とんでもございません。いつでもご用命ください」

 私は小さく首を横に振り、ニコリと微笑む。

 いつどんな時でも、王宮のみなさまのお困りごとを解決するのが、王宮魔術師である私の役目。ご依頼を拒否する権利はあっても、断る気なんて全くなかった。

「愛猫のミーシャがね、昨日からいなくなってしまったの。探してくれないかしら」

 宰相令嬢さまは頬に手を当て、ため息をつかれた。
 ミーシャさまといえば、宰相令嬢さまがとても大切にされていらっしゃる白猫さま。さぞご心配されていることでしょう。

 白魔術師とはいっても、平和なこの国では戦いの場に駆り出された前例は、ここ数百年の間一度もないらしい。

 今の王宮お抱え魔術師の主な仕事は、みなさまの相談役。恋占いから猫探しまで、ありとあらゆるお悩みが白魔術師の私に持ち込まれていた。私にお声をかけてくださるなら、どんなご依頼だって全力でこなすつもり。

「おまかせくださいませ。行方を占ってみます」
「ありがとう、フェリシア! あなたって、何ていい人なの」

 宰相令嬢さまが私の両手をぎゅっと掴まれる。良心がわずかに痛んだけど、どうにか笑顔を保つ。

「見つかったら、すぐにお連れします」
「お願いね」

 もう一度頷いて、私はその場から失礼させて頂く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

従者は永遠(とわ)の誓いを立てる

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
グレイス=アフレイドは男爵家の一人娘で、もうすぐ十六歳。 傍にはいつも、小さい頃から仕えてくれていた、フレン=グリーティアという従者がいた。 グレイスは数年前から彼にほんのり恋心を覚えていた。 ある日グレイスは父から、伯爵家の次男・ダージル=オーランジュという人物と婚約を結ぶのだと告げられる。 突然の結婚の話にグレイスは戸惑い悩むが、フレンが「ひとつだけ変わらないことがある」「わたくしはいつでもお嬢様のお傍に」と誓ってくれる。 グレイスの心は恋心と婚約の間で揺れ動いて……。 【第三回 ビーズログ小説大賞】一次選考通過作品 エブリスタにて特集掲載

【完結】死の4番隊隊長の花嫁候補に選ばれました~鈍感女は溺愛になかなか気付かない~

白井ライス
恋愛
時は血で血を洗う戦乱の世の中。 国の戦闘部隊“黒炎の龍”に入隊が叶わなかった主人公アイリーン・シュバイツァー。 幼馴染みで喧嘩仲間でもあったショーン・マクレイリーがかの有名な特効部隊でもある4番隊隊長に就任したことを知る。 いよいよ、隣国との戦争が間近に迫ったある日、アイリーンはショーンから決闘を申し込まれる。 これは脳筋女と恋に不器用な魔術師が結ばれるお話。

腹黒宰相との白い結婚

恋愛
大嫌いな腹黒宰相ロイドと結婚する羽目になったランメリアは、条件をつきつけた――これは白い結婚であること。代わりに側妻を娶るも愛人を作るも好きにすればいい。そう決めたはずだったのだが、なぜか、周囲が全力で溝を埋めてくる。

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

どうやら貴方の隣は私の場所でなくなってしまったようなので、夜逃げします

皇 翼
恋愛
侯爵令嬢という何でも買ってもらえてどんな教育でも施してもらえる恵まれた立場、王太子という立場に恥じない、童話の王子様のように顔の整った婚約者。そして自分自身は最高の教育を施され、侯爵令嬢としてどこに出されても恥ずかしくない教養を身につけていて、顔が綺麗な両親に似たのだろう容姿は綺麗な方だと思う。 完璧……そう、完璧だと思っていた。自身の婚約者が、中庭で公爵令嬢とキスをしているのを見てしまうまでは――。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

「あなたの好きなひとを盗るつもりなんてなかった。どうか許して」と親友に謝られたけど、その男性は私の好きなひとではありません。まあいっか。

石河 翠
恋愛
真面目が取り柄のハリエットには、同い年の従姉妹エミリーがいる。母親同士の仲が悪く、二人は何かにつけ比較されてきた。 ある日招待されたお茶会にて、ハリエットは突然エミリーから謝られる。なんとエミリーは、ハリエットの好きなひとを盗ってしまったのだという。エミリーの母親は、ハリエットを出し抜けてご機嫌の様子。 ところが、紹介された男性はハリエットの好きなひととは全くの別人。しかもエミリーは勘違いしているわけではないらしい。そこでハリエットは伯母の誤解を解かないまま、エミリーの結婚式への出席を希望し……。 母親の束縛から逃れて初恋を叶えるしたたかなヒロインと恋人を溺愛する腹黒ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:23852097)をお借りしております。

処理中です...