9 / 29
9話 カミングアウト
しおりを挟む「おはよう」
「あ、圭佑。おはよう!」
張本人の渡辺くんがようやく教室に入ってくると、一気に教室の中にピリッとした緊張感が走る。
渡辺くんはいつも一緒にいる子たちに声をかけたけど、前田くん以外誰も返事を返さない。
「なに? どうかしたの?」
「それがさ、こいつらがお前がゲイだとか意味不明なこと言ってるんだよ。違うよな?」
前田くんがゲイという単語を発した瞬間、渡辺くんが息をのむのが分かった。
男子も女子も完全によそよそしい空気で、渡辺くんと仲の良かった男子たちでさえも彼と目を合わせようとしない。
うう……、もうこの空気に耐えられないよ……。
人のことなのに、この場にいるだけでつらくなってくる。
渡辺くんはしばらく黙りこんでいたけど、男子たちの顔をちらっと見たあとに、観念したようにゆっくりと口を開く。
「……違わないよ。俺はゲイだ」
そんなに大きい声ではなかったけど、はっきりとした口調でそれを言った渡辺くんは堂々としていて、私の目にはとてもとてもまぶしく見えた。
こんな風に堂々と認められるなんてすごいな……。
渡辺くんのカミングアウトで教室の中は一瞬シーンとなったけど、すぐにざわざわし始める。
「マジかよ……」
「やっぱりそうだったんだな」
「今まで俺らを騙してたってこと?」
「そういう目で見てたってことだろ?
ナイわー」
「ちょっと、やめなよ……っ」
教室の中からたくさんの声と視線が渡辺くんに向けられて、なぜか関係のない私の心臓がバクバクしてきた。
悪意、偏見、憎悪、同情。
みんなのたくさんの感情を向けられ、渡辺くんは唇をぎゅっと噛みしめる。
「……俺だって。俺だって……っ、好きで同性愛者に生まれたわけじゃない!」
渡辺くんは悲痛な声で叫ぶようにそう言って、そのまま教室から飛び出していってしまった。
あ……、いっちゃった……。
誰も、追わないのかな……。
ちらりと渡辺くんと一番仲がいい前田くんを見てみたけど、とても追いかける様子もない。
渡辺くんが教室を出ていってからみんなが色んなことを言い出したけど、前田くんは何も言わずに椅子に座って頭を抱え込んでしまっている。
「あいつこれから学校どうするのかなー」
「こんなことあったらフツーこれねーよな」
「こっちとしてもきてほしくないし」
そんな……、学校もきちゃいけないの?
そんなにいけないことなの?
人を殺したわけでも、誰かを襲ったわけでもないのに、そんなにいけないことなの?
普通と違うのは、そんなにいけないことなの?
「今まで普通の顔で俺らに混じってたなんてコエーよな」
「正直騙された気分だわ」
普通の顔でみんなに混じってたって……。
ひとつみんなと違うことがあるだけで、そんな風に言われなきゃいけないの?
もう、聞きたくないよ……。
まるで自分に言われているような言葉の数々を聞いていられなくて耳をふさぐ。それどころかこの空気にももう耐えられなくて、勢いで教室を飛び出してしまった。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
【完結】貴方の望み通りに・・・
kana
恋愛
どんなに貴方を望んでも
どんなに貴方を見つめても
どんなに貴方を思っても
だから、
もう貴方を望まない
もう貴方を見つめない
もう貴方のことは忘れる
さようなら
僕とメロス
廃墟文藝部
ライト文芸
「昔、僕の友達に、メロスにそっくりの男がいた。本名は、あえて語らないでおこう。この平成の世に生まれた彼は、時代にそぐわない理想論と正義を語り、その言葉に負けない行動力と志を持ち合わせていた。そこからついたあだ名がメロス。しかしその名は、単なるあだ名ではなく、まさしく彼そのものを表す名前であった」
二年前にこの世を去った僕の親友メロス。
死んだはずの彼から手紙が届いたところから物語は始まる。
手紙の差出人をつきとめるために、僕は、二年前……メロスと共にやっていた映像団体の仲間たちと再会する。料理人の麻子。写真家の悠香。作曲家の樹。そして画家で、当時メロスと交際していた少女、絆。
奇数章で現在、偶数章で過去の話が並行して描かれる全九章の長編小説。
さて、どうしてメロスは死んだのか?
ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました
宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。
ーーそれではお幸せに。
以前書いていたお話です。
投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと…
十話完結で既に書き終えてます。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
式神審判
Kazumi
ライト文芸
主人公とそのパートナーの成長をお楽しみください!
二人で強くなっていくためになにを目指しどんな試練があるのかも見どころです!
投稿は不定期になってしまいますが少ない内容で話が進んでテンポよく見れると思います。
文章がおかしかったりすることもたた多々あります...(-_-;)
自分だったらこんなストーリを楽しめる!をスタンスにして投稿します!
思い出を売った女
志波 連
ライト文芸
結婚して三年、あれほど愛していると言っていた夫の浮気を知った裕子。
それでもいつかは戻って来ることを信じて耐えることを決意するも、浮気相手からの執拗な嫌がらせに心が折れてしまい、離婚届を置いて姿を消した。
浮気を後悔した孝志は裕子を探すが、痕跡さえ見つけられない。
浮気相手が妊娠し、子供のために再婚したが上手くいくはずもなかった。
全てに疲弊した孝志は故郷に戻る。
ある日、子供を連れて出掛けた海辺の公園でかつての妻に再会する。
あの頃のように明るい笑顔を浮かべる裕子に、孝志は二度目の一目惚れをした。
R15は保険です
他サイトでも公開しています
表紙は写真ACより引用しました
【完結】この悲しみも。……きっといつかは消える
Mimi
恋愛
「愛している」と言ってくれた夫スチュワートが亡くなった。
ふたりの愛の結晶だと、周囲からも待ち望まれていた妊娠4ヶ月目の子供も失った。
夫と子供を喪い、実家に戻る予定だったミルドレッドに告げられたのは、夫の異母弟との婚姻。
夫の異母弟レナードには平民の恋人サリーも居て、ふたりは結婚する予定だった。
愛し合うふたりを不幸にしてまで、両家の縁は繋がなければならないの?
国の事業に絡んだ政略結婚だから?
早々に切り替えが出来ないミルドレッドに王都から幼い女児を連れた女性ローラが訪ねてくる。
『王都でスチュワート様のお世話になっていたんです』
『この子はあのひとの娘です』
自分と結婚する前に、夫には子供が居た……
王家主導の事業に絡んだ婚姻だったけれど、夫とは政略以上の関係を結べていたはずだった。
個人の幸せよりも家の繁栄が優先される貴族同士の婚姻で、ミルドレッドが選択した結末は……
*****
ヒロイン的には恋愛パートは亡くなった夫との回想が主で、新たな恋愛要素は少なめです。
⚠️ ヒロインの周囲に同性愛者がいます。
具体的なシーンはありませんが、人物設定しています。
自衛をお願いいたします。
8万字を越えてしまい、長編に変更致しました。
他サイトでも公開中です
どうぞご勝手になさってくださいまし
志波 連
恋愛
政略結婚とはいえ12歳の時から婚約関係にあるローレンティア王国皇太子アマデウスと、ルルーシア・メリディアン侯爵令嬢の仲はいたって上手くいっていた。
辛い教育にもよく耐え、あまり学園にも通学できないルルーシアだったが、幼馴染で親友の侯爵令嬢アリア・ロックスの励まされながら、なんとか最終学年を迎えた。
やっと皇太子妃教育にも目途が立ち、学園に通えるようになったある日、婚約者であるアマデウス皇太子とフロレンシア伯爵家の次女であるサマンサが恋仲であるという噂を耳にする。
アリアに付き添ってもらい、学園の裏庭に向かったルルーシアは二人が仲よくベンチに腰掛け、肩を寄せ合って一冊の本を仲よく見ている姿を目撃する。
風が運んできた「じゃあ今夜、いつものところで」という二人の会話にショックを受けたルルーシアは、早退して父親に訴えた。
しかし元々が政略結婚であるため、婚約の取り消しはできないという言葉に絶望する。
ルルーシアの邸を訪れた皇太子はサマンサを側妃として迎えると告げた。
ショックを受けたルルーシアだったが、家のために耐えることを決意し、皇太子妃となることを受け入れる。
ルルーシアだけを愛しているが、友人であるサマンサを助けたいアマデウスと、アマデウスに愛されていないと思い込んでいるルルーシアは盛大にすれ違っていく。
果たして不器用な二人に幸せな未来は訪れるのだろうか……
他サイトでも公開しています。
R15は保険です。
表紙は写真ACより転載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる