魔王の娘としては大変不本意ではございますが、勇者と結婚することになりました。

春音優月

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30、しもべだから

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 結婚式があった日の晩、参列者も帰宅し、城内も見張りや早急な仕事がある者以外は全て寝静まった頃。花婿衣装から普段の王族衣装に着替えたアデルは、専用の執務室でまだ書類の山と向き合っている。
 
 時計の針が二時を過ぎたのを確認した少し後のこと、寝間着を着たミアが執務室の中に入ってきた。
 
「寝ないのか」
 
 書類の山に向き合っているアデルにミアが声をかけると、アデルもようやく机から顔を上げる。
 
「ミア、まだ起きてたんだ。子どもたちはもう寝たの?」
「ああ、とうに寝た。リリスが添い寝をしておる」
「そうなんだ。ミアも早めに休んだら? 今日は疲れてるでしょ」
「それは私の台詞だ。忙しいのは分かるが、今日ぐらいは早めに休んだらどうだ」
 
 ミアと書類を交互に見ながら、手を止めないアデルにミアはため息をついた。
 
「うん。あとこれだけやったら休むよ」
 
 そう言ったアデルが指差した先は大量の書類で、軽く一時間はかかりそうな作業量であることが見てとれる。
 
「逸る気持ちは分かる。魔界との融和路線は一定の理解が得られたとはいえ、魔界や各国との対話、反対派の弾圧……やるべきことは山積みだ。だが、そんなことではいつか身体を壊すぞ」
 
 口調こそきついものだったが、ミアのそれは心から夫の身を案じている妻そのものだった。
 
 形式的な主権者は現国王であるものの、年齢や体力的な問題もあり、近年実務の大半はいずれ王位を継ぐアデルに任されている。国内の政治や外交に加え、ミアが城に来てからは魔界関連の仕事も増えた。
 ミアも外交を担うことはあったが、身籠っていたり、産後の肥立ちが優れなかったりと体調が悪い時期も多く、実質ほとんどの業務はアデルが担っている。
 
「日中はなるべく私や子どもたちと過ごし、その分私たちが寝てから仕事をしておるのを私が知らぬとでも思ったのか? 家族を大切にしてくれるのはありがたいが、それではお前はいつ休むのだ」
 
 アデルが無理をしてまで仕事をこなすのも、全てミアと子どもたちのためだ。
 表面上は王家に忠誠を誓ってはいても、魔族であるミアやその子らを内心良く思っていない者は多い。アデルが次の国王である責務を果たさなければ、「魔族なんかを娶ったから……」とミアたちが悪く思われてしまうだろう。
 
 そういった状況を防ぐため、アデルはこれまで必要以上に仕事に励んできた。
 
 ミアもアデルの気持ちを知っていたため、あまり強くは言わなかったが、結婚式が終わり一段落つけば、アデルも仕事の量を減らすだろうとミアは思っていた。というよりも、減らしてもいいはずだ。
 
 それなのに、この有様は一体どういうことだろう。結婚式の日まで仕事をしているアデルを見て、ミアもきつく言わずにはいられなかった。
 
 ミアの言葉にアデルは申し訳なさそうな顔をしたあと、口元に笑みを浮かべる。
 
「じゃあ、ミアが下着を脱いでこの机の上に乗って足を広げてくれたら、今日は休もうかな」
「……」
 
 突然とんでもないことを言い出したアデルにミアは絶句してしまう。
 ミアが身籠るまでは毎日のように交わっていたが、産まれてからは多忙であることに小さな子がいることも相まり、めっきり回数も減ってしまったのである。もちろん全くしていない訳ではないが、それでもまさか執務室で下着を脱げと言われるとはミアにとって想定外の出来事であった。
 
 アデルも冗談のつもりだったのか、まあ無理だろうなと机に視線を戻したが、しばらくして衣擦れの音がしてそちらを振り向く。すると、頬を染めたミアの足元には彼女の下着が落ちていた。
 
「まさか本当にしてくれるとは思わなかった」
「お前から言い出したのだろう」
 
 とぼけたような態度をとるアデルにミアは少しムッとしつつも、一歩アデルに近づく。そして、くるぶしまである寝間着の裾をたくし上げ、ゆっくりとそれを持ち上げていく。
 
「お前の望みなら、聞かないわけにはいかない。私は子どもたちの母で王配でもあるが、お前の妻であり、……しもべなのだから」
 
 顔を真っ赤にしながらも、何も履いていない下半身を自ら露出させたミアの姿にアデルまでもがわずかに顔を赤くした。
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