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23、あなたの代わりはたくさんいる

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「なんなんですか、あなた方は!」
「まさか、お前たちが仕組んだのか……?」
 
 ミアを見下ろす神父たちにリリスはシャー!としっぽと毛を逆立て、ミアは力を振り絞って彼らを睨みつける。
 
「ええ、ええ、そうでございますよ。全て私たちのしたことでございます。どうでございますか? 息を吸うだけでもお辛いのではございませんか。ミアさまのお召し物に少々細工を施させて頂きました」
 
 ニコニコと笑みを浮かべながらとんでもないことを暴露する神父に弱みを見せまいとミアは気丈に振る舞うが、正直なところ神父の言った通りどんどん魔力が吸い取られ、意識を保つことで精一杯だった。
 
「なぜこのようなことをする。やはり王子が魔族の私と結婚することに反対だからか?」
「ええ、そうでございますよ。魔界と人間界の友好? とんでもございません。魔の者が堂々と人間界で暮らすようになれば、我々が活動しににくなりますからね。人間界で暮らす魔の者は、これまで通り身を隠して生きていけば良いのですよ」
「何を言って……。そうか……、魔力の高いものや人間界で密かに暮らしている魔族を誘拐しているのは貴様らだな」
 
 ベラベラと喋る神父の話をミアは黙って聞いていたが、やがて真実だと思われることに気がつくとギリリと唇を噛み締める。
 
「おっしゃる通りでございます。神のご加護のある教会には、国の捜査の手も及びませんからね」
「まあ! なんと……!」
 
 あっさりと犯行を認めた神父にリリスは驚き、口に手を当てる。神父の口ぶりだと、ここにいる者だけで犯行に及んでいるわけではなく、おそらく他にも協力者はいるのだろう。
 
「人々の信仰心を利用し犯行に及ぶとは、見下げ果てる。卑劣で下衆な人間らしい」
「それはどうですかな? 魔族も人間もそう大して変わらないのでは?」
「欲に動かされることはあっても、私たち魔族は人間のようにコソコソかぎ回ったり、偽装するような卑劣なことはせぬわ! 貴様らと一緒にするな!」
 
 ミアが声を張り上げると、神父は鼻で笑い、神官たちも口を抑えて笑いをかみ殺した。
 
「何がおかしい!」
「いえね、目の前にあなた様の同胞がいるというのに、まだお気づきになられないのかと思いまして」
「一体何を……」
 
 声を震わせて笑いをこらえる神父にミアは訳が分からないといった顔をしたが、カチューシャを外したメイドの頭からにょきっとツノが生えてきたのを見て息をのんだ。
 
「お前は、……魔族だったのか……? なぜこのような者たちに協力しておる! この者たちは、我らの同胞である魔族を誘拐しておるのだぞ」
「簡単な話でございます。お金でございますわ」
「金だと? そんなもののために魔族であるプライドを捨て、人間にこびへつらったあげく、同胞を傷つけたのか!」
 
 メイドは怒りに震えるミアを見下ろし、ふうとやけに色っぽくため息をつく。
 
「お姫様としてお生まれになったミアさまには分かりませんわ。
人間界で生まれた魔族は、二通りの生き方しか出来ません。魔族だということを隠して日陰で生きていくか、搾取する側に回り甘い汁を吸うか。もちろん私めは後者にございます」
 
 にっこりと笑いかけられ、ミアは唇を噛み締めて拳を床に打ちつけた。
 
「だからといって、何の罪もない同胞を傷つけることは許されることではない!」
 
 目の前のメイドも、きっと姫として生まれたミアには計り知れないくらいの苦労をしてきたのだろう。だが、どんな事情があったにせよ何の罪もない同胞を傷つけることはミアにとっては許し難いことであったし、魔族であることに誇りを持っているミアにとっては、このような卑劣な者が魔族であることがどうしても許せなかった。
 
「ミアさまにお許しを頂かなくても結構ですわ。どうせミアさまも明日の今頃には、自我を失われ、ただの魔力を供給する塊になっていらっしゃるのですから」
「魔力を供給する塊、だと……?」
 
 聞き逃せない発言をしたメイドにミアが眉を寄せると、メイドの話を引き継ぐかのように神父が口を開く。
 
「ええ。物好きな貴族に性奴隷として売りつけるのも悪くありませんが、ミアさまほどの魔力の持ち主は魔力を供給する塊になって頂いた方がよろしいですから。魔力は人間界では不足しがちなので、高く売れるんですよ」
「自我を奪い、魔力を供給する塊にして、魔力を売る? まさか……、これまで誘拐した者たちも同じ目に遭わせたのか!?」
 
 ミアの言葉に頷く者はいなかったが、口元に余裕たっぷりな笑みを浮かべている彼らを見ると、誰が見ても彼らの悪行が分かるというもの。
 
「なんて方たちですの! 許せませんわね、ミアさま」
 
 リリスが毛を逆立てると、ミアもこくりと頷き、目の前の神父たちを睨みつける。
 
「許せなくとも、もうあなたには私たちを倒す力は残されていませんよ。現に立ち上がることさえ出来ていないではありませんか。恐るるべき大魔王の娘たるお方が情けないことでございますねぇ、ミアさま?」
 
 嫌味たっぷりの笑みを浮かべながら、神父はミアの近くまで歩いていく。そしてミアの顎を掴み、無理矢理視線を合わせた。その瞬間ミアが神父の顔にツバを吐きかけたが、すぐに神父はミアの顔を殴りつけた。
 
「きゃああああ!! ミアさま!」
 
 体力と魔力が底尽きていたミアは神父から殴られた衝撃でズザアアと飛ばされ、リリスが絶叫しながらミアに駆け寄る。
 
「さあ、どうされますかミアさま。絶体絶命でございますねぇ。
言っておきますが、誰も助けにはきませんよ。城の者は式の準備で忙しいですし、アデルさまには少々お眠りになって頂いております。ミアさまを拐う上での最大の障害はアデルさまでございますが、さすがに我々といえど一国の王子であるアデルさまに手出しは出来ませんからね。
何、魔界の姫である貴方様が消えても大したことではございませんよ。魔族との結婚を反対される方も多いことでございますし、一月か二月後にはどこかの国の姫君とご結婚なさっていらっしゃるのではございませんか?
あなたの代わりはたくさんいるのですよ、ミアさま」
 
 神父は起き上がれないでいるミアを挑発するようにあざ笑いながら、楽しそうに話し続けている。
 
「ミアさまの代わりなんていません! アデルさまはミアさまを山よりも海よりも深く愛していらっしゃいます! 他の方々がお許しになっても、アデルさまがこのような所業をお許しになるはずありませんわ」
 
 ミアを守るように立っていたリリスはシャー!と大きく背を丸め、神父の足元に思いきり噛みつく。神父が舌打ちして足を振り払うと、リリスは神官たちの方に吹っ飛ばされる。
 
「ニャッ!!」
 
 悲鳴を上げたリリスの首根っこを掴んだ神官はそのままリリスを持ち上げ、床に叩きつけた。
 
「ニャウ!!!」
「やめろ!! リリスに乱暴するな!」
 
 神官はさらにリリスを踏みつけようとしたが、ミアが声を張り上げたことでピタリと足を止める。
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