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21、結婚式当日の朝
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夜が明け、結婚式当日の朝。
ミアとリリスは、部屋のドアをノックする音で目を覚ました。
「ミアさま、おやすみでしたら申し訳ございません。お召し替えのご準備をお手伝いに参りました」
「そうだったな……。今行く」
何度か聞いたことのあるメイドの声にミアはベッドから体を起こし、ドアを開けてやる。すると、ドアの前にいたメイドがうやうやしく頭を下げた。
「おはようございます、ミアさま。大変お手数ですが、ご結婚の儀の準備のため、別室にご移動をお願いいたします」
「承知した」
ミアとリリスはメイドの後をついて城の廊下を歩き、城に併設された教会の奥の部屋に入る。花嫁の控え室というわりには広いその部屋には、純白の花嫁衣装が吊るされていた。
ハートカットの胸元にはレースがあしらわれ、プリンセスラインに広がったスカート部分はレースが幾十にも重なっていて、腰の部分には大きなバックリボンがついている。まさに前から見ても後ろから見ても完璧に可愛いドレスに、ミアも思わず息をのむ。
メイドに着せられ、ミアが花嫁衣装に身を通すと、それはあつらえたようにミアにぴったりだった。さらに大きな花をツノの部分につけてそれを隠し、その上から花嫁のヴェールをかけると、それはそれは愛らしい花嫁が完成する。
「ミアさま~、とってもお美しいです~」
全身が映る鏡の前でミアは惚けたように自身の姿を見つめ、リリスはそんなミアを見て目を潤ませた。
「それではミアさま、私は他の準備があるため失礼いたします。式が始まるまで、もう少々お待ちくださいませ」
メイドはミアに頭を下げ、静かにドアから出て行く。ミアはそばにあった椅子に腰かけ、小さくため息をつく。
「いよいよ結婚式でございますね、ミアさま」
「そうだな」
「アデルさまも今頃お召し替えされていらっしゃるのでしょうか」
「そうだな」
何を話しかけても心あらずといった感じのミアに、リリスは困ったように眉を下げる。
「アデルさまは、昨夜はいらっしゃいませんでしたね」
「そうだな。ついに私に愛想をつかしたのやもしれぬな」
今まで何を言ってもぼんやりとしていたミアが少しだけ寂しそうな表情をしたのをリリスは見逃さなかった。
「そんなことはございません! アデルさまは、ミアさまを深く愛していらっしゃいます!」
「リリス、私は間違っていたのだろうか」
「はい?」
ぽつりとなにかをつぶやいたミアの声は、あまりにも小さかった。聞き取れなかったリリスがもう一度聞き返すと、ミアは不安を隠すかのようにドレスのスカート部分をきゅっと握りしめる。
「私ももう小さな子ではない。アデルと同じく国を背負ってきた者として、多少はアデルの気持ちも分かるつもりだ。しかし、……」
「しかし?」
「私は、魔族であることに誇りを持っている。
魔族の証であるツノを疎まれ、隠さねばならぬのであれば。本当の私が受け入れられないのであれば、結婚などしたくない」
「アデルさまは、ミアさまが魔族であることを疎まれてなどおりません。ミアさまを守るために仕方なく、」
「分かっておる! 頭では分かっておるのだが、感情が追いつかぬのだ……」
声を荒げたミアにリリスはビクリとしたが、何かをこらえるようにドレスを握りしめるミアを見てハッとした。
「ミアさま……。アデルさまを、愛していらっしゃるのですね……」
ミアはドレスを握りしめたまま、リリスの言葉にこくりと頷いた。
「リリス。一人の女である前に、私は魔族の姫として生まれ育ってきた者。感情よりも優先すべきものがあることは分かっておる。課せられた役目は果たすから、心配するな」
「いいえっ! ミアさまは分かってなどおりません!」
「り、リリス?」
突然大きな声を出したリリスにミアは目を丸くし、彼女の顔を見る。
「アデルさまは強大な国の王となり、いづれは人間界全土を統べられるお方。そして、ミアさまは王配となり、アデルさまと共に人間界を治められるお方。私情をご優先なさることなど許されるはずもありません」
「……。その通りだ」
「ですが! アデルさまはまだ王の座にはついていらっしゃらず、ミアさまともご結婚前なのでございます。今日は、今日だけは、私情をご優先なさっても許されるはずです」
「リリス……」
「アデルさまにお気持ちを伝えに参りましょう、ミアさま。お二人のお気持ちがすれ違ったままご結婚なさるなんて、悲しすぎます……」
リリスの必死の説得のかいがあり、頑なだったミアの心が動かされたようだ。ミアはゆっくりと頷き、椅子から立ち上がった。
ミアとリリスは、部屋のドアをノックする音で目を覚ました。
「ミアさま、おやすみでしたら申し訳ございません。お召し替えのご準備をお手伝いに参りました」
「そうだったな……。今行く」
何度か聞いたことのあるメイドの声にミアはベッドから体を起こし、ドアを開けてやる。すると、ドアの前にいたメイドがうやうやしく頭を下げた。
「おはようございます、ミアさま。大変お手数ですが、ご結婚の儀の準備のため、別室にご移動をお願いいたします」
「承知した」
ミアとリリスはメイドの後をついて城の廊下を歩き、城に併設された教会の奥の部屋に入る。花嫁の控え室というわりには広いその部屋には、純白の花嫁衣装が吊るされていた。
ハートカットの胸元にはレースがあしらわれ、プリンセスラインに広がったスカート部分はレースが幾十にも重なっていて、腰の部分には大きなバックリボンがついている。まさに前から見ても後ろから見ても完璧に可愛いドレスに、ミアも思わず息をのむ。
メイドに着せられ、ミアが花嫁衣装に身を通すと、それはあつらえたようにミアにぴったりだった。さらに大きな花をツノの部分につけてそれを隠し、その上から花嫁のヴェールをかけると、それはそれは愛らしい花嫁が完成する。
「ミアさま~、とってもお美しいです~」
全身が映る鏡の前でミアは惚けたように自身の姿を見つめ、リリスはそんなミアを見て目を潤ませた。
「それではミアさま、私は他の準備があるため失礼いたします。式が始まるまで、もう少々お待ちくださいませ」
メイドはミアに頭を下げ、静かにドアから出て行く。ミアはそばにあった椅子に腰かけ、小さくため息をつく。
「いよいよ結婚式でございますね、ミアさま」
「そうだな」
「アデルさまも今頃お召し替えされていらっしゃるのでしょうか」
「そうだな」
何を話しかけても心あらずといった感じのミアに、リリスは困ったように眉を下げる。
「アデルさまは、昨夜はいらっしゃいませんでしたね」
「そうだな。ついに私に愛想をつかしたのやもしれぬな」
今まで何を言ってもぼんやりとしていたミアが少しだけ寂しそうな表情をしたのをリリスは見逃さなかった。
「そんなことはございません! アデルさまは、ミアさまを深く愛していらっしゃいます!」
「リリス、私は間違っていたのだろうか」
「はい?」
ぽつりとなにかをつぶやいたミアの声は、あまりにも小さかった。聞き取れなかったリリスがもう一度聞き返すと、ミアは不安を隠すかのようにドレスのスカート部分をきゅっと握りしめる。
「私ももう小さな子ではない。アデルと同じく国を背負ってきた者として、多少はアデルの気持ちも分かるつもりだ。しかし、……」
「しかし?」
「私は、魔族であることに誇りを持っている。
魔族の証であるツノを疎まれ、隠さねばならぬのであれば。本当の私が受け入れられないのであれば、結婚などしたくない」
「アデルさまは、ミアさまが魔族であることを疎まれてなどおりません。ミアさまを守るために仕方なく、」
「分かっておる! 頭では分かっておるのだが、感情が追いつかぬのだ……」
声を荒げたミアにリリスはビクリとしたが、何かをこらえるようにドレスを握りしめるミアを見てハッとした。
「ミアさま……。アデルさまを、愛していらっしゃるのですね……」
ミアはドレスを握りしめたまま、リリスの言葉にこくりと頷いた。
「リリス。一人の女である前に、私は魔族の姫として生まれ育ってきた者。感情よりも優先すべきものがあることは分かっておる。課せられた役目は果たすから、心配するな」
「いいえっ! ミアさまは分かってなどおりません!」
「り、リリス?」
突然大きな声を出したリリスにミアは目を丸くし、彼女の顔を見る。
「アデルさまは強大な国の王となり、いづれは人間界全土を統べられるお方。そして、ミアさまは王配となり、アデルさまと共に人間界を治められるお方。私情をご優先なさることなど許されるはずもありません」
「……。その通りだ」
「ですが! アデルさまはまだ王の座にはついていらっしゃらず、ミアさまともご結婚前なのでございます。今日は、今日だけは、私情をご優先なさっても許されるはずです」
「リリス……」
「アデルさまにお気持ちを伝えに参りましょう、ミアさま。お二人のお気持ちがすれ違ったままご結婚なさるなんて、悲しすぎます……」
リリスの必死の説得のかいがあり、頑なだったミアの心が動かされたようだ。ミアはゆっくりと頷き、椅子から立ち上がった。
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