上 下
21 / 31

21、結婚式当日の朝

しおりを挟む
 夜が明け、結婚式当日の朝。
 ミアとリリスは、部屋のドアをノックする音で目を覚ました。
 
「ミアさま、おやすみでしたら申し訳ございません。お召し替えのご準備をお手伝いに参りました」
「そうだったな……。今行く」
 
 何度か聞いたことのあるメイドの声にミアはベッドから体を起こし、ドアを開けてやる。すると、ドアの前にいたメイドがうやうやしく頭を下げた。
 
「おはようございます、ミアさま。大変お手数ですが、ご結婚の儀の準備のため、別室にご移動をお願いいたします」
「承知した」
 
 ミアとリリスはメイドの後をついて城の廊下を歩き、城に併設された教会の奥の部屋に入る。花嫁の控え室というわりには広いその部屋には、純白の花嫁衣装が吊るされていた。
 
 ハートカットの胸元にはレースがあしらわれ、プリンセスラインに広がったスカート部分はレースが幾十にも重なっていて、腰の部分には大きなバックリボンがついている。まさに前から見ても後ろから見ても完璧に可愛いドレスに、ミアも思わず息をのむ。
 
 メイドに着せられ、ミアが花嫁衣装に身を通すと、それはあつらえたようにミアにぴったりだった。さらに大きな花をツノの部分につけてそれを隠し、その上から花嫁のヴェールをかけると、それはそれは愛らしい花嫁が完成する。
 
「ミアさま~、とってもお美しいです~」
 
 全身が映る鏡の前でミアは惚けたように自身の姿を見つめ、リリスはそんなミアを見て目を潤ませた。
 
「それではミアさま、私は他の準備があるため失礼いたします。式が始まるまで、もう少々お待ちくださいませ」
 
 メイドはミアに頭を下げ、静かにドアから出て行く。ミアはそばにあった椅子に腰かけ、小さくため息をつく。
 
「いよいよ結婚式でございますね、ミアさま」
「そうだな」
「アデルさまも今頃お召し替えされていらっしゃるのでしょうか」
「そうだな」
 
 何を話しかけても心あらずといった感じのミアに、リリスは困ったように眉を下げる。
 
「アデルさまは、昨夜はいらっしゃいませんでしたね」
「そうだな。ついに私に愛想をつかしたのやもしれぬな」
 
 今まで何を言ってもぼんやりとしていたミアが少しだけ寂しそうな表情をしたのをリリスは見逃さなかった。
 
「そんなことはございません! アデルさまは、ミアさまを深く愛していらっしゃいます!」
「リリス、私は間違っていたのだろうか」
「はい?」
 
 ぽつりとなにかをつぶやいたミアの声は、あまりにも小さかった。聞き取れなかったリリスがもう一度聞き返すと、ミアは不安を隠すかのようにドレスのスカート部分をきゅっと握りしめる。
 
「私ももう小さな子ではない。アデルと同じく国を背負ってきた者として、多少はアデルの気持ちも分かるつもりだ。しかし、……」
「しかし?」
「私は、魔族であることに誇りを持っている。
魔族の証であるツノを疎まれ、隠さねばならぬのであれば。本当の私が受け入れられないのであれば、結婚などしたくない」
「アデルさまは、ミアさまが魔族であることを疎まれてなどおりません。ミアさまを守るために仕方なく、」
「分かっておる! 頭では分かっておるのだが、感情が追いつかぬのだ……」
 
 声を荒げたミアにリリスはビクリとしたが、何かをこらえるようにドレスを握りしめるミアを見てハッとした。
 
「ミアさま……。アデルさまを、愛していらっしゃるのですね……」
 
 ミアはドレスを握りしめたまま、リリスの言葉にこくりと頷いた。
 
「リリス。一人の女である前に、私は魔族の姫として生まれ育ってきた者。感情よりも優先すべきものがあることは分かっておる。課せられた役目は果たすから、心配するな」
「いいえっ! ミアさまは分かってなどおりません!」
「り、リリス?」
 
 突然大きな声を出したリリスにミアは目を丸くし、彼女の顔を見る。
 
「アデルさまは強大な国の王となり、いづれは人間界全土を統べられるお方。そして、ミアさまは王配となり、アデルさまと共に人間界を治められるお方。私情をご優先なさることなど許されるはずもありません」
「……。その通りだ」
「ですが! アデルさまはまだ王の座にはついていらっしゃらず、ミアさまともご結婚前なのでございます。今日は、今日だけは、私情をご優先なさっても許されるはずです」
「リリス……」
「アデルさまにお気持ちを伝えに参りましょう、ミアさま。お二人のお気持ちがすれ違ったままご結婚なさるなんて、悲しすぎます……」
 
 リリスの必死の説得のかいがあり、頑なだったミアの心が動かされたようだ。ミアはゆっくりと頷き、椅子から立ち上がった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

姉の夫の愛人になったら、溺愛監禁されました。

月夜野繭
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、憧れの騎士エルネストから求婚される。しかし、年長者から嫁がなければならないという古いしきたりのため、花嫁に選ばれたのは姉のミレーナだった。 病弱な姉が結婚や出産に耐えられるとは思えない。姉のことが大好きだったリリアーナは、自分の想いを押し殺して、後継ぎを生むために姉の身代わりとしてエルネストの愛人になるが……。

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

騎士団専属医という美味しいポジションを利用して健康診断をすると嘘をつき、悪戯しようと呼び出した団長にあっという間に逆襲された私の言い訳。

待鳥園子
恋愛
自分にとって、とても美味しい仕事である騎士団専属医になった騎士好きの女医が、皆の憧れ騎士の中の騎士といっても過言ではない美形騎士団長の身体を好き放題したいと嘘をついたら逆襲されて食べられちゃった話。 ※他サイトにも掲載あります。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...